第348話 遺跡の秘密
翌日、ユウキたちは朝食を摂って防寒も考慮して装備を整えると、馬の世話と拠点の管理をアンゼリッテに任せ、エドモンズ三世を護衛に連れて遺跡探索に出発した。
拠点とした広間の一角に半ば崩れた出入口があり、身を屈めて潜ると長い廊下になっていた。その先は真っ暗で床も相当に荒れている。ポポが光の精霊を呼び出すと、ポウッと小さな光の玉が現れ、周囲を明るく照らした。
「ポポってホントに精霊族だったんだね」
「ユウキはポポを何だと思っているのです」
『ツンツンデレデレ系スーパー貧乳少女』
「貴様は話に入ってくるな! なのです」
「ほらー、ふざけてないで、行くぞ」
アンジェリカに叱られ、前進を始めた一行。先頭はユウキとエドモンズ三世。次にポポ、最後尾がアンジェリカの並びで進む。気配は感じないが、魔物が巣食っている可能性も捨てきれないので慎重に進む。
数十mほど進むとロビーらしき場所に出た。奥に続く廊下といくつかの扉、下の階へ向かう階段。ユウキは少し悩んだ末、便宜上1階としたこの場所から探索を始めることとした。
奥に続く廊下は途中で天井部が崩壊して完全に埋まっており、崩壊した場所に近い扉は瓦礫に半ば埋もれ、開くことは不可能であった。しかし、ロビー(と呼ぶことにした)に近い扉を引っ張るとギ…ギ…と軋み音を出しながら僅かに動いた。ユウキとアンジェリカが取っ手を持って力いっぱい引く。全力を出し切った所で扉が開いた。「やった!」その瞬間…、
「プーーッ!」
と扉でもユウキとアンジェリカの口でもない場所から乾いたラッパ音が響いた。扉を引くのを止めた2人が無言でお互いを指さす。
『ウワーッハハハハハ! こりゃ傑作じゃわい。力を入れすぎて放屁をしおったか。いやいや、なんとも可愛らしい音だったのう』
「わ、わたしじゃないもん! アンジェのオナラだもん」
「私でもない! ユウキだ。ユウキの屁っぴり虫!」
「お互いになすりつけはよくないのです。背の低いポポはしっかりと聞きました。放屁は2人同時だったのです。しかも、両者かなりの臭さです。卵が腐ったような腐敗臭が鼻の奥に残っているのです」
ユウキとアンジェリカは顔を見合わせ、真っ赤になって俯く。
『ブワーッハハハハ! ハーッハハハハ! さすがユウキ。シモのネタには困らんなぁ。ヴァルターの小僧にいい土産話が出来たわい』
「や、止めてよね! 絶対に言っちゃだめだからね。もし言ったらマーガレット様に泣きつくからね!」
『マ、マーガレット…。ぜ、絶対に言わぬ。ブルブル…』
「と、とりあえず、扉は開いたようだぞ。中に入ってみよう」
恥ずかしさを誤魔化したアンジェリカが先頭になって室内に入り、ユウキ、ポポ、エドモンズ三世と続く。光の精霊に照らされた室内は机と椅子が無秩序に置かれ、中には転倒しているものもある。また、壁の書棚を見ると風化してボロボロになった紙切れが大量に積まれていた。
「ううーん、ここは事務室っぽいね。とりあえず何かないか手分けして探してみよう」
ユウキの言葉に、全員で机や書棚を調べ始めた。がたがたと机の引き出しを開けたり、脇机を蹴とばして引き出しを無理やり引っ張り出すが、めぼしいものは無く、得体のしれない小虫がわらわら出てきたりして悲鳴を上げる方が多かった。
(何もないか…。ん?)
探索を諦めかけたユウキは鍵付き金庫1台を見つけた。早速開けようとしたが、しっかり鍵が掛っていて開きそうもない。
『何か見つけたのか?』
「うん、金庫をね。でも、鍵が掛ってて開きそうもないんだ」
金庫の周りにみんな集まってきた。机や脇机は全部見たが鍵らしきものは見当たらなかったという。きっと長い年月の間にどこかに逸散してしまったのだろう。しばらく考えたユウキは帯剣していた振動波コアブレードを抜いて魔力を通す。高周波振動が与えられたブレードを本体と扉の間に突き刺し、そのまま鍵の部分まで引き下ろした。
「よっしゃ!」
『相変わらず乱暴じゃのう』
「いいじゃない。開けるよ」
金庫の扉を開けると、そこに入っていたのは風化しないよう厳重に封印された包みと、一辺40cm四方で、表面がギザギザした銀色の金属板。よく見ると、ギザギザした模様は細かい文字がびっしり刻まれたものだった。
「何だろう、何かの記録かな。金属板の文字は…、ううん…読めないな」
『その包みを開けると中がダメになる可能性がある。金属板共々そのままマジックポーチに入れて、ヴィルヘルムの所に持っていくがよいぞ』
「だね。もうここには何もないようだし、次の階に行こうか」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
地下1階は完全に崩落した瓦礫で埋まり、探索不能だったが、2階はある程度部屋が残っていて調べることができた、しかし、殆どの部屋はガラクタの山で、調査しても埃だらけになるのが関の山だった。
「この部屋が最後だね」
「そうだな、何か面白い物でもあればいいけど」
「ユウキとアンジェ以上に面白いものは無いと思うのです」
『「プーーッ」クスクス!』
「やめんか!」2人の叫びがハモる。
ぷんすかしながらユウキとアンジェリカが扉を開けると、そこは小さな前室になっていて奥に魔道機械的な扉があった。
「むむ…どうやって開けるのかな」
「不思議だな。この扉だけ全く痛んでいない。取り付けられたばかりのようにピカピカだ」
「ユウキ、扉の脇に何かあるです」
ポポの指し示した場所を見ると、小さなコンソールボックスが取り付けられていた。開いてみると0から9までのボタンと表示部があって、赤く点滅している。
「ふむ…、数字の組み合わせで開ける仕組みなのかも知れんな」
アンジェリカとポポが「ふーむ」と唸りながらボックスを見ていると、ユウキがいきなり振動波コアブレードをボックスに突き刺して破壊した。目の前に急に剣が現れた事で、アンジェリカとポポは思わず悲鳴を上げた。
「きゃああああっ! び、びっくりしたぁ~」
「ひゃあああ! 何するですか、このデカ乳牛女はぁ!」
「ごめんごめん、面倒くさかったから…。でもほら」
ユウキが破壊したコンソールボックスはぶすぶすと煙を吐くと、ピピッと音を出し、次の瞬間、扉がシューッと音を立てて開いた。
今だ驚いた顔をしている2人に向かってニヤッと笑ったユウキがエドモンズ三世を連れて中に入る。部屋は5m四方の空間になっており、真ん中のテーブル状の台が設置され、その上に3つの長方形の箱がガラスの覆いの中に納められていた。
「ケースの上にラベルが張ってあるね…。この古代文字は読めるよ。えっと…「試作品」って書いてる」
「試作品…。それだけか?」
「うん、何だろうね。開けてみるよ。エロモン手伝って」
ユウキとエドモンズ三世がガラスの覆いを持ち上げて脇に置き、1つ目の箱に手をかけた。封印をミスリルダガーで切り、上箱を持ち上げると中から出てきたのは…、
「滅茶苦茶エッチな下着だな。これじゃ乳首とアソコしか隠れないぞ。誰が着るんだ?」
「えーとね、超絶ランジェリービキニアーマー「アブノーマル・ラブリィ・メイル(試作品)」だって。悩殺攻撃力100、物理防御力0、羞恥心向上度数100…。何よ悩殺攻撃力って。防具の体をなしてないじゃん、コレ」
「確かにこれを着たら男は一発で悩殺されるな…。私もこういうのを着てジュリアス殿下を悩殺すれば良かったな…。今更だが」
「じゃあ、これはアンジェにあげる。好きな人が出来たら着て」
「あ、ああ…。ありがとう」
「ユウキ、こっちも見てほしいのです」
ポポが2つ目の箱を開封したので、全員で中を見ると長さ1m位の未知の金属で作られた弓。矢は無く真ん中に蒼く輝く魔法石が埋め込まれた筒状の発射口らしきものがある。
「えーと、「魔道弓インドーラ(超試作品)」引き手の魔力を攻撃力に変えて打ち出す…か。打ち出す魔法の矢は使用者の属性と魔力に依存するみたいだね」
「攻撃魔法が使えない魔術師にいいかも。貰っていこう」
「超試作品っていうのが、凄く気になるのです」
「最後の1箱だな」
アンジェリカが上箱を開けると厚いノートが1冊だけ置いてあった。ユウキが手に取って開いてみると、中は様々な書き込みをされたビキニを着せた幼女や若い女性の立ち絵が全ページ続いていた。
「な、ナニコレ…。ビキニアーマーの設計図? え、エッチだ…」
「恐ろしいほどのこだわりを感じるな。女の子の絵も可愛くて趣味全開って感じだ。幼女のはにかんだ笑顔が、書き手の狂気を感じさせるぞ」
「作者からエロ骸骨と同じ匂いがするのです」
「せっかくだから、これも貰っていこう(ヴァルター様へのお土産にしようっと)」
「そういえば、エロ骸骨が大人しいのです」
3人が部屋の中を見回すと、部屋の壁に埋め込まれた書棚の前で冊子に目を通して考え込んでいるエドモンズ三世に気づいた。ユウキが近づき声を掛けると、いつもと違う雰囲気に戸惑う。
「どうしたのエロモン。なにかあった?」
『ユウキ…。ここはとんでもない研究をしていたみたいじゃぞ』
「とんでもない研究? エッチな防具は見つけたけど…」
『それは研究者の趣味じゃろうが。ここの主な研究テーマは「生物兵器」じゃ』




