第342話 神々との戦い②
「ユウキはだらしがないのです。ここはポポが頑張らなくては…、なのです」
リングの整備が終わり、審判が出てきて第2試合の開始を告げ、選手の名をコールする。
「第2試合、自分の存在意義を見失った放浪少女! ツンデレロリッ子ポポー! 対するは絶対無敵の美貌の持ち主、足りないのはバストだけ! 超絶美少女フレイヤー!」
「何なんですか、あの審判は…」
「失礼しちゃうわね。私の唯一気にしている部分なのに。後で神罰を与えるからね」
2人の美少女戦士がリングに上がる。起伏の乏しいフラットボディに紺のスクール水着を着たロリッ子少女の登場に会場の真性ロリコンどもが声援を送る。方や長く美しい銀髪をツインテールにし、ライムイエローのワンピース水着に身を包んだ超絶美少女の登場に、ちょっぴり生意気な小悪魔系女子好みの性癖を持つ者たちから熱い声援が送られる。
なお、フレイヤのささやかな胸が、体ピッタリのワンピース水着に悩まし気な小丘を描き、これはこれで色っぽく、青少年の視線を釘付けにし、フレイヤコールが沸き起こる。
「その余裕も、これで終りなのです。何ですか、少々胸が出ているからって…。くそ生意気なのです」
「あらら、ヤキモチかしら~。お胸がないと辛いわよね~。男の子みたいで」
「むぎぎ…」
審判が腕を上げて合図をし、試合開始のゴングが鳴った。同時に両者が飛び出す!
「地獄に叩き落とすのです! ふぎゃん!」
「バカめ、返り討ちにしてやるわ! きゃあっ!」
飛び出した瞬間、両者ずるっと足を滑らせてバタンと仰向けにマットに倒れた。その余りの滑稽さに会場は爆笑の渦に包まれる。両者同時に起き上がり、組み付こうと1歩踏み出した瞬間、再びローションに足を取られて大股を開きながら仰向けに倒れ、したたかに後頭部を打ち付ける。
「ふぎゃっ! いててて…、なのです」
「ぐはあっ! 痛ったあ~」
「わはははは! 何やってるのだポポは」
『滑稽じゃのう…。しかし、あの2人はユウキやエリスと違って、動きが可愛らしいのう』
腹を抱えて笑うアンジェリカの隣で、ほっこり気分で見守るエドモンズ三世。しかし、当の本人たちは必死だった。お互いカエルのように手足を動かして、ぬるぬるローションの海を搔き分けて匍匐前進し、お互いの肩を掴む…と、ここまでは良かったが、腹這い状態で相手を掴んでも後が続かない。
「ち、力が入らない…どうすれば良いですか」
「どりゃあ! 美少女半回転捻り!」
「あわあっ!」
フレイヤが強引に体を捻ってポポを仰向けにする。そのまま、シャカシャカとゴキブリ歩きで体の上に覆いかぶさりフォールの体勢に入る。美少女同士のエロい姿に会場も大いに盛り上がり、スタンディングオベーションの嵐が巻き起こる。
「や、やだ。ポポちゃんの顔が間近に…」
「フレイヤ、あまり顔を近づけるとキ…キスしちゃいそうなのです」
「で、でも…。ええい、チャンスだったけど仕方ない!」
これはマズイと2人は離れ、なんとか立ち上がって身構え、お互い相手の出方を伺う。最初に動いたのはポポ。リングの端に向かって走り、体を捻ってロープに背中を預けて、反動で加速をつけて飛び上がった。
「フェアリー・キィーック!」
弾道ジャンプの頂点から落下の勢いをつけて、フレイヤの上体目掛けて飛び蹴りを放った。
「何の! 美少女上体逸らしっ!」
フレイヤは持ち味の体の柔らかさを生かし、思いっきり体を逸らした。その瞬間、ポポの体がフレイヤのギリギリ上を飛び去って行く。
再びマットに倒れるポポ。ローションのお陰でダメージは抑えられたが、大きく体勢を崩してしまった。そこに今度はフレイヤの攻撃が襲い掛かる。フレイヤは両手をマットについて倒立の姿勢を取ると腕の力で体を回転させて蹴り技を放つが、上体を起こしたポポも顔の前で両肘を立ててガードする。
「やぁっ! ウルトラ美少女回転キック!」
「なんの、精霊ガード! なのです」
バシーンと足と腕がぶつかる景気のいい音がしたが、そこは極軽量級の美少女たち。威力も何もない。八方ふさがりになり、間合いを取って暫し睨みあう2人。しかし、時間は無常に過ぎていく。ポポとフレイヤは最後の攻撃に出た!
「もう時間がありません。ここは勝負に出るとき…なのです!」
「来るわね。なら、こっちも必殺技を放つ時がきたと言うこと!」
フレイヤとポポが1歩飛びのいた。二人は小さく足を前後に開いて踏ん張り、お互い左手を相手に向かって伸ばし、グーにした右手を右わき腹にくっつけて構えた。ポポとフレイヤから立ち昇るオーラ(蒸発したローションの蒸気ともいう)に会場も緊張感に包まれてシーンと静まり変える。
二人の体からローションの雫が落ち、ぴちょんと水音を立てた。その瞬間、二人が同時に動いた!
「星をも砕くこの拳。よく味わうがいいです! ギャラクシアン・マグナム!!」(ポポ)
「我が闘気よ。生意気なまな板娘を打ち砕け! グランドクルス!!」(フレイヤ)
お互いの必殺ブロウが閃光を放って交錯する。ポポの右ストレートがフレイヤに直撃する寸前、彼女はストレートの外側から右フックを被せてきた!
「ク、クロスカウンター!」(アンジェ)
「沈め、へちゃむくれ!」(フレイヤ)
「負けるかぁーなのです」(ポポ)
美少女同士が繰り出す技とは思えない大技にアンジェリカは驚愕する。だが、このままでは相打ち必死だ。誰もなダブルノックダウンを想像した。しかし、事は簡単には終わらない。ポポはカウンターのパンチを跳ねあげて、さらにカウンターを打ち込んだ。
『ダブルクロスカウンターじゃと!?』(エド)
「ローションの海に沈ものはお前なのです!」(ポポ)
「ひゃっはー♡」(フレイヤ)
フレイヤはダブルクロスにさらにカウンターを合わせてきた。必殺のトリプルクロスカウンターが炸裂する。同時に無数の星々と一緒に崩壊する銀河と神々しい光を放つ巨大な十字架が激突する。幻想的なビジョンに観客席はどよめいた。
『ト、トリプルクロスカウンター!』(エド)
「なに、この背景。なんのイメージ? これ、ぬるぬるバトルよね」(アンジェ)
ポポのテンプルにフレイヤの鋭いフックが直撃し、フレイヤの顔面にポポの渾身の右ストレートがめり込んだ。
「ひ、ひでぇぶ」(ポポ)
「あ…あべしっ」(フレイヤ)
ポポは白目を剥いて仰向けに、フレイヤは鼻血を吹き出してうつ伏せに倒れ、「バシャン!」とローション飛沫を上げて轟沈した。既に可憐なロリッ子美少女という面影は影も形もない。ピクリとも動かない二人に向かって審判がカウントを取る。
「スリー、ツー、ワン、ゼロ! ダブルノックダウンによりドロー!」
タンカに載せられて退場して行く美少女に観客席から健闘を称える拍手が送られる。
「いや、何というか…、可愛らしくも激しい戦いだったな。ぬるぬるバトルっていうのを忘れてしまったよ。エドもそう思わない?」
『余は不満足じゃ! バトルは良かったがエロスが足りぬ! 熟れる前の青い果実同士がくんずほぐれつエッチな行為に走り、性感帯を刺激されて悶えるポポたんを見たかったのにぃーッ!!』
「エド…。私は戦いの感想を聞いているのだが?」
『じゃが、これで2戦2引き分けか。次が大将戦。今度の対戦は巨乳美女同士。どんなエロスが展開されるか、期待が高まるのう。楽しみじゃて』
「私の話、聞いてる?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
再びリングの整備が終わり、審判が出てきて第3試合の開始を告げ、選手の名をコールする。前2試合が両者同時ダウンによる引き分けに終わっているため、会場の観客の期待も「今度こそ」と否が応にも高まるのだった。
「最終試合、はっちゃけ美女のアルフィーネ対やる気のない美女アクア!」
最初にアルフィーネがリングに上がり、コーナーポストに背を預け、ロープに腕をかけて対戦相手の登場を待つ。その姿は堂々としており、風格だけなら王者そのもの。一方、しずしずとリングに上がって来たのは対戦相手の水の女神アクア。たまたま通りかかった所を無理やりエリスに捕まって連れてこられた不幸の女神。
「何でわたしが…」何度嘆こうが戦いからは逃れられない。多くの男性観客に水着姿を見られるのも恥ずかしい。
審判が腕を上げて合図をし、試合開始のゴングが鳴った。女神対魔物。優勝が懸かった最後の戦いが今始まった!
両者同時にリングの中央に進みガッシとお互いの両肩を掴んだ。アクアはアルフィーネを見てはたと気づいた。
「もうヤケだわ…。あら、貴女…、人間…じゃないですね」
『はい! アルフィーネはアルラウネです!』
「えーっ! アルラウネって、あのアルラウネ!? 戦いが苦手な魔物が何でこんなところでバトルしてるの!」
『はい! アルフィーネたちアルラウネはご主人様に助けていただきました。ご主人様はとてもお優しい方。私はご主人様にご恩を返したい。だから従魔になったんです。それに主人様は、世の中を見て廻りたいという私の思いも叶えてくださった。だからこの勝負、負ける訳にはいかないんです! たとえ相手が神様でも!!』
「貴女、わたしの正体を…」
『勿論です。気で分かりました。あなたは水の女神、アクマ様!』
「アクアです!」
名前を間違えられ、ちょっと怒ったアクアが腕に力を込めるが、もともと数合わせの非力な女神。アルフィーネはびくともしない。逆に腕を取られ、くるんと体を半回転させられる。ニコッと笑ったアルフィーネがアクアに背中を向けると、思いっきり美尻を突き出してアクアの尻に叩きつけた!
「きゃあっ!」
バチンと尻肉がぶつかる音がしてアクアがよろけ、両腕を回してバランスを取ろうとするが、今度はずるっと足を滑らせて四つん這いになる。
「ほう、アルフィーネが使った技は「尻押し出し」か…。尻相撲の伝統伎だな」
『アンジェリカ、お主、尻相撲を存じているのか?』
「尻相撲はアレシア公国貴族の女子として生まれたからには、最低限学ばなければならぬものだからな」
『お主のいたところは、変てこな国じゃのう』
アルフィーネは四つん這いになったアクアの頭を両膝で挟み、おへその辺りを抱えて持ち上げ、逆さま状態にすると後ろに倒れこむような姿勢をとった。
『えーい! パイルドライバー・スケキヨスペシャル!』
思いもかけない大技の展開に会場もどよめく。アルフィーネのお尻が落ち、誰もが「決まった!」と思った…が、体は大きいがもともと植物で軽量のアルラウネ。アクアの体重を支えきれず、ぬるぬるに足を滑らせ、アクアを抱いたまま、ずるっと背中からマットに倒れてカエルを踏みつぶしたような悲鳴を上げた。
『ぐええっ!』
「あうう…、助かったわ」
アルフィーネがクッションになってダメージを受けずに済んだアクアが反撃に出た。アルフィーネの手を取って立たせると、リングロープに向かって投げ飛ばした。
『きゃん!』可愛い悲鳴を上げてロープにぶつかり、伸びきったロープの反発力でリングに戻されるアルフィーネを、ラリアットの体勢で待ち受けるアクア。見事胸元にラリアットが命中し、ぱちーん!と乾いた音が会場に響き渡った。
会場にいる誰もが勝負あった!と思った…が、アルフィーネは倒れない。大きな目をパチクリさせて立っている。ざわ…ざわざわ…ざわ。会場が騒めく中、アルフィーネが言った。
『全然痛くない…』
そう、アクアもまた、アルフィーネに負けず劣らずの非力なお淑やか系女子だったのだ。守ってあげたくなる系の代表みたいな美少女にぬるぬるバトルをさせる方が間違っている。顔から血の気が引いたアクアを見て、アルフィーネがニヤリと笑みを浮かべる。
『これで勝つる! ポポたん見ててください。アルフィーネ得意のヒップアタックで勝負を決めます!』
だが、ポポは控室に運ばれていて、アルフィーネの活躍を見ていない。
アルフィーネの大きな美尻を向けられ、あわあわと慌て動揺するアクア。神様の威厳も何もない。こんな場所に無理やり連れてきたエリスへの恨み節が口に出る。しかし、ここで突っ立っていても何も変わらない。アクアは覚悟を決めたのか「ふんす!」と両手を握りしめ、アルフィーネに背を向けて、これまた形の良いお尻を突き出した!
「おお! ここで「女尻相撲」で決着をつけるか。胸熱だな!」
『美人女子同士の肉弾戦ときたか…。揺れる巨乳も素晴らしいのじゃ!』
観覧席のアンジェリカとエドモンズ三世も興奮を隠せない。美尻同士がぶつかり合い「ぱぱーん!」と景気のいい尻音が会場に響き渡る。アルフィーネがちらっと審判を見ると時計を確認している。残り時間はもう少ない。
『えいっ! ヒップ・プレッシャー!』
「はうん! アクア・スプラッシュ!」
アルフィーネとアクアがお互いのお尻を当てたまま、相手の体勢を崩そうと身を捩るが、ローションでぬるぬるの摩擦係数0のお尻が擦れあい、微妙な部分に当たったりして段々変な気持ちになってくる。
「あ…ああ~ん」
『ひゃうん』
両者からちょっとエッチな声が飛び、会場に詰めかけた観客は大満足。大きな声援を送りながら、更なるエロい展開を期待するのだった。
「はひゃっ!」
ワンピース水着のアルフィーネと違ってアクアの水着はエロティックなビキニ。パンパンと尻をぶつけ合う内に紐の結び目が緩み、はらりとリングに落ちそうになる。その瞬間を見逃すまいと会場の漢たちが全員が席から身を乗り出して目を皿のように見開いた!「
「きゃあっ! やだぁあっ!!」
アクアは大事な部分を守るため両手でパンツを抑えた。それによって体の力が抜けてしまう。おまけに慌てた拍子にぬるぬるに足を取られ、ズルッと足を滑らせてステーンと尻もちをついて全身ローションまみれになってしまった。それでもパンツを死守したのは女神としての矜持がそうさせたのか。しかし、お淑やかで恥ずかしがり屋のアクアの羞恥心は限界を超えてしまった。
「ふ…、ふ…、ふぇえええええん! もうイヤァ~!!」
アクアは余りの恥ずかしさに泣き出し、脱兎のごとくリングから飛び降りて控室に向かって走り出した。途中、通路でステーンと転ぶという、お約束も忘れないのは流石だった。通路の奥に消えたアクアの後姿を見送る観客たち。その視線の先は通路の入口に落ちている1枚のビキニパンツに向けられていた。
『ふむ…、あのお約束連対率の高さ。アクアはユウキとどこか通じるものがあるのう』
「ちょっと可愛そうだったかも。水着が脱げる展開には私も耐えらないよ」
『大丈夫じゃ。アンジェはNTR属性で、エロ属性じゃないからの』
「嬉しくない属性だな…」
アクアが泣きながら去って1人残されたアルフィーネ。そこに、今の騒ぎにも動揺しない冷静沈着な審判が歩み寄り、手を取って高々と掲げた。
「勝者、アルフィーネ! 1勝2引き分けでユウキチームの優勝!!」
『え…え…。や、やったー! アルフィーネ勝ちましたぁ! ご主人様、ポポたん、見てくれましたかぁー』
誰も見ていなかった。
その後、アルフィーネは1人寂しく表彰式に臨み、リューベック公からお褒めの言葉と優勝賞金を、レビン伯から賞品の魔鉱石の短剣「黎明と暁光」を受け取った。
その際、レビン伯から愛妾にならないかと持ちかけられ、アルフィーネは笑顔のままグーパンチで殴り飛ばし、観客から喝采を浴びたのだった。




