第35話 野営訓練開始
王都を朝に出発し、夕方にアルカ山の麓の村に到着した。
「よし、到着したな。今夜はこの村の広場で野営する。これも訓練の一環だ、広場の井戸を使う許可は取っている。火には気をつけろ。トイレは村の共同トイレを使え、ではグループごとに訓練開始!」
学年主任の掛け声で、各グループはめいめいに場所を取り、男子はテント、女子は夕飯の準備を始めた。
「ねえユウキ、ユウキの料理の腕前はどうなの?」
「自慢じゃありませんが、全く自信がありません! いや~、他クラスの女子の皆さんが料理上手で助かったよ。カロリーナは?」
「私も全然ダメ♪」
「どうしようもありませんね、この2人は…。女の子なのですから、少しはお料理が出来るようにならないといけませんよ」
「は~い」
「何だか、言い方がお母さんみたいね」
フィーアが呆れたように言ってきた。意外なのはお嬢様のフィーアも料理が得意らしく、グループの女子と楽しそうに料理している。
「いや~、ユウキも苦手なものがあるって安心したわ。巨乳美少女が料理上手だったら、無敵すぎて太刀打ちできないもんね」
「もう、ボクっておっぱいしか無いみたいじゃないのさ」
「それだけデカいおっぱいがあれば十分勝ち組でしょうが! 羨ましすぎる」
「ララはペタン子代表だけど、料理が上手だし、彼がいるリア充だし、私はもう負けている!」
「ユーリカはどうなの? ボクよりおっぱい大きいよ」
「ユーリカ、あの反則デカ乳女め。いつもこれ見よがしに乳を見せつけおって…。神よ! あなたは何故に巨乳と貧乳の2つをお創りになり給うたのか! 神様、ユーリカのおっぱいを萎びた干しイカのように垂れさせてください! お願いします!」
「もう、単におっぱいに恨みを持っているようにしか聞こえないよ」
「プッ、クククククッ、アハハハハハ!」
「あなた達ねえ、何の話をしてるのよ。女の子が大きな声でおっぱい連呼して…」
「ゲッ、マクシミリアン様とアンジェリカ先輩」
そこには、腹を抱えて笑うマクシミリアンと呆れたような顔をして立っているアンジェリカがいた。
「す、スミマセン」
「お、王子様に笑われてしまった…」
二人は、恥ずかしさで顔を真っ赤にして俯くのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
調理時間が終わり、グループ全員はめいめいに夕食を取り始めた。皆と少し離れた所に一人座って食事していたユウキの隣にマクシミリアンが腰かけてきた。
「やあ、隣いいかい」
「えっ!? マクシミリアン様。は、はいどうぞ」
「さっきは面白かったよ。君たちいつもあんな話をしてるのかい。女の子同士の会話って凄いんだね」
「し、してませんから!(は、恥ずかしい~。カロリーナめ~)」
しばらく他愛もない話をしていたら、急にマクシミリアンが黙り込んだ。
「…(何だろう)」
ユウキは隣に座っているマクシミリアンの顔をそっとのぞき込む。
「ユウキくんだったね。君、スラムのゴロツキを何人も倒したんだってね。学園長から聞いたよ、強いんだな」
マクシミリアンがボソッと話してきた。
「あの事ですか? あの時は友人を助けなきゃって思って無我夢中だっただけです」
「凄いな。友人とはいえ、他人のために命を懸けられるなんて…」
「そんな…。ただ、大切な人を失いたくなかっただけです」
「大切なものを守るため、か。難しいな…。そういう状況になった時、私にそんな勇気が出せるだろうか…」
「できると思います。マクシミリアン様、勉強も運動も優れている優等生と聞いてます。それに、人望も厚くて誰からも慕われているじゃないですか、ボク憧れます」
「…私はそんな人間ではないよ。でもありがとう。君は優しいんだね」
「い、いえっ! そんなことあります! じゃなくて、ありません!」
ユウキは急に褒められたことで、テンパると同時に顔が火照ってしまい、マクシミリアンに見られないように俯いた。
楽しそうに話す二人を遠目に眺めるフィーアとカロリーナ。
「カロリーナさん、アレどう思います?」
「何ですかね、今にも落ちそうな目をしてますよ。恋する少女の目ですね、アレは」
「ここはどうすべきでしょうか。私は断固阻止すべきと考えます」
「ですね。リア充はララとアルでお腹いっぱいです。私にお任せください。侯爵家の期待は裏切りません。一瞬であの雰囲気を破壊して見せましょう。私は天才です」
「頼みましたよ、リア充に明日を生きる資格はありません」
「ハッ! では……」
「ユウキーッ、エッチなパンツが見えてるよー!」
「えっ、ヤダ!?」
カロリーナの叫びにユウキはビックリして立ち上がった瞬間、足がもつれてマクシミリアンの上に倒れ込んでしまった。
「く、苦しい…。む、胸が、顔に…。でもすごく柔らかい…」
「わああああっ! ご、ごめんなさいい」
「カロリーナさん、流石です。褒めて差し上げます」
「ハッ! ありがたき幸せ」
フィーアとカロリーナは満足そうに顔を見合わせるのであった。