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第337話 激闘!ぬるぬるバトル①

「ふむ、ぬるぬるバトルは2日間に亘って行われるみたいだね。1日目がシングルマッチ、2日目がタッグマッチ。表彰式はまとめて2日目に行われるって書いてる」

「会場を見てきましたですが、観客のほとんどが目を血走らせた男の人で怖かったです」

『なにか、ドキドキしますね』


「一体誰がこんなイベント考えたんだろうね…」

「見ろ、貴賓席にリューベックの領主と息子のレビン伯がいるぞ。少し緊張するな…。む、そろそろ時間か。じゃあみんな、逝ってくる!」

「頑張ってねぇ~」

『なんか、言葉間違ってませんでしたか?』


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 リューベック市の上空にパンパンと花火が打ち上がって、国を挙げての秋の大祭「収穫祭」が始まった。大通りには多くの屋台や出店が並び、大道芸人や路上で音楽を奏でるもの。即興のステージでトークショーなどが行われ、多くの市民や観光客で賑わっている。その中でも特に異様な雰囲気を醸し出しているのは、祭りのメインイベントの一つ「美少女ぬるぬるバトル」が開催される中央広場だ。豪華賞品を手にしようと虎視眈々と狙う美少女たちがエロス全開の水着姿で力の限りに戦うのである。


 ぬるぬるバトル。床面にたっぷりと特殊ローションが入れられた10m四方のリングを舞台に肉弾戦を繰り広げる女の戦い。武器と魔法の使用は禁止、お互いの体を武器として勝敗を競う。リングの周りは異様な熱気に包まれ、男たちから「早く始めろ!」との声が飛ぶ。


 司会台に1人の男性が出てきた。彼は小指を立てて魔道マイクを手にすると、高らかに宣言した!


「ただいまからぁー、リューベック杯争奪、美少女ぬるぬるバトルを開催しまーす!」

『ウォオオオオ!!』


 ギャラリーの男たちが吠える。


「今回のシングルバトルの参加者は優勝賞品に目が眩んだ強欲な天使たち16名だーッ! トーナメントで優勝を競うぞー!」


『ウォオオオオ!!』


 ギャラリーの男たちが再び吠える。有料の特別席を購入し、観覧するため着座したユウキとポポとアルフィーネ。異様な熱気に早くも気後れしていた。


「見てよ、あの異常な熱気…。スクルドの大陸最強戦士決定戦を思い出すよ。あの時もわたしの体を見て、目を血走らせた男たちが騒いでたっけ…」

「さり気無く自慢するところがユウキなのです」

『レビン伯も手を振って応援してますね』


 司会によるルール説明が始まった。人数が多いため、1回戦と2回戦はA、B2つのリングに分けて行い、準決勝と決勝をAリングで行うとのこと。試合時間は5分、決着が着かない時は3分の延長あり。リングの床に倒れ、起き上がれないまま10秒経過すると負けになる。自分で負けを宣言するか、場外に落ちた場合も同様。また、試合途中でリングコスチューム(水着)が脱げた場合は脱げた側が試合放棄しない限りは続行するとのこと。


「最低だね…。よくこの国の教育関係者が文句言わないよ」

「教育委員会の敵がいったい何を言ってるのやらです」


「さあ試合を開始します! 最初の美戦士の入場だぁああ!!」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「アンジェは初っ端からか…」

『あ、出てきましたよ』


 Bリングの司会が小指を上げて魔道マイクを持ち、高らかと選手入場をコールする。


「赤コーナー、魔道学園1年生、青い果実から漂うエロスが男心を刺激する! シャリー選手ぅううう!」


「わあ、可愛いワンピース水着だね」

「膨らみかけのバストと成長途上のヒップを優しく包む、色とりどりの花柄をあしらった可愛らしい水着ですか…。男心をどうしたら掴むことができるか、計算された衣装なのです。案外、あざとい女なのです」

『そうなのかな? 違うと思いますけど…』

『ホッホッホ、ポポたんは同年代の子で自分よりスタイルがいい女子を見ると、嫉妬心スイッチが入って、妬み女に変身するのじゃよ」


「急に出てくるな、このお邪魔虫は! なのです」

『ククク…、好きな相手に対する相変わらずの冷たい態度…。愉悦愉悦…』

「この野郎…なのです」


「続いて青コーナー、狂気のボンテージコスに身を包む、流浪の女魔術師アンジェリカ選手ぅうううー!」


 美しい金髪をアップにし、右手を高く挙げて堂々と入場してきたアンジェリカ。会場の喧騒が一層激しくなる。そして、その姿にユウキたちは唖然とした。


「凄いコスチュームだね。エッチだ…」

「ボンテージスタイルですか…。ブラックレザーの女王様スタイル。腰上のブラックベルトにガーターベルト。Dカップの美乳に締まったウェスト、大きめで形のよいお尻。色っぽ過ぎてギャラリーの目が怖いです」


『アルフィーネもあれ真似ようかな』

「やめなさい。しかし、アンジェは色々と吹っ切れたようだね」

「吹っ切れすぎなのです」


「両者リングへ!」


 審判がアンジェリカとシェリーにリングに上がるように促した。2人はロープをくぐってリング内側に入った。


「うわ! す…すべるぅ~」


 ローションで摩擦係数が0に近くなった床に足を取られ、コーナーにしがみつくシャリー。するずると両足が開いて行き、体が前後に持っていかれ不安定に揺れる。そんな対戦相手を余裕をもって見つめるアンジェリカ。コーナーを背にして両腕をロープに掛けて体を安定させる。貴族としてあらゆるダンスを叩きこまれたため、バランスを取る所作に長けているのだ。


「ふん。相手にとって不足あり。この勝負貰ったようなものね」


「アンジェは余裕だね~」

「さて、悪役令嬢のお手並み拝見なのです」

『アンジェリカさん、頑張ってー!』


 審判が説明する注意事項に頷くアンジェリカとシェリー。ちなみに審判はリング外で判定を行う。審判の合図でゴングが「カーン!」と鳴り、熱き女たちの戦いが始まった。男たちの歓声に交じってシェリーの同級生らしい女の子たちの声援も聞こえる。


「試合開始!」

「うう…、くっ。足が滑って…動けないよ」


 シェリーがリング中央に進もうとするが、滑って転びそうになり、中々コーナーロープから手を離せない。それを見たアンジェリカはチャンスとばかりにコーナーから飛び出した!


「行くぞ、ダサ水着の少女よ! ぎゃん!!」


 勢いよく飛び出したアンジェリカだったが、豪快に足を滑らせてマットに大の字に倒れ込んだ。飛び散るローションがアンジェリカの体をぬるぬるにする。何とかロープを掴んで立ち上がったものの…、


「きゃいん!」


 1歩踏み出した途端、再びローションに足を取られて大股を開きながら背中から倒れ、可愛い悲鳴を上げた。一方、豪快にすっころんだ美少女に男たちの笑い声が響き渡る。全身ローションだらけになったアンジェリカは早くも涙目になった。


「これは厄介だね…。明日の試合は工夫が必要だわ」

「あ、シェリーが動いたです!」


 全身ぬるぬる塗れになって身動きが取れなくなったアンジェリカに、ロープを伝わりながらシェリーが近づいていく。


「よ、よし…背後をとったわ! えいっ!」


 起き上がろうと四つん這いになって藻掻いていたアンジェリカ。ボンテージブラの先から滴るローションが超絶にイヤらしい。そこに背後からシェリーが飛び掛かってきて、腰を両手で掴み、お尻の後ろで膝立ち状態になった。意識せず出来上がったエロっぽいポーズに会場の男達が歓声を上げ、貴賓席のリューベック公親子も盛んに拍手を送っている。


「い、いやぁん。くすぐったいよぉ」


 腰を撫でるヌルっとした刺激に思わず女の子っぽい声を上げてしまったアンジェリカ。


「うっわ!」

「悪役令嬢があんな声を上げるなんて。明日のユウキやアルフィーネは一体どうなるのでしょうか…。会場が恐慌状態に陥るのが目に浮かぶようなのです」

『アンジェリカさんの声で、一気に会場が静まり返りましたね…』


 顔を真っ赤にして歯を食いしばり、シャリーの攻撃に耐え、反撃の機会を伺うアンジェリカ。涙目のまま対戦相手を見ると相手もどう攻めたらよいか苦労しているようで、攻撃(?)の手が緩んでいる。


「あっ!?」


 ぬるぬるが効きすぎて、シェリーがズルっと滑り、背中に覆いかぶさってきた。このチャンスにアンジェリカは体を半回転させて仰向けになり、両足でシェリーをカニ挟みにして抱きしめた。女の子同士が肌を密着させて組み合う姿に会場のボルテージは最高潮に達する。


「こ、これは…、今までの人生の中で最高にエッチすぎる…」


 ユウキがどう思おうが試合は続く。アンジェリカはシェリーの攻撃の隙をついて脇の下を捉えた。「ひゃああああんん!」とカワイイ悲鳴が上がる。アンジェリカは思いっきり体を振って回転させ、体を入れ替えて相手に覆いかぶさった。


「ヤダ…。あの恰好、イヤらしいッ!」


 アンジェリカが取った姿勢にユウキは色々と想像して真っ赤になる。しかし、戦っている2人は体勢など気にしていられない。アンジェリカはシェリーの手首を持って大の字に押さえる。


「よし! 両肩をマットに押さえた。審判!!」


 アンジェリカの声に審判がリングの外からカウントを開始した。シェリーが「むぐぐ…」と体を捩らせて逃げようと暴れる。


(うう…、ローションで滑って力が入らない。カウントはまだ終わらないのか…?)


「…ツー、ワン、ゼロ! 勝者、アンジェリカ選手!」


 審判の声にアンジェリカは込めていた力が抜けて、べちゃんとマットに倒れ伏した。ハアハアと顔を真っ赤にして荒く息を吐く。対戦相手のシェリーは敗戦に悔し涙を流している。2人の熱い戦いに観客は大きな拍手を送った。


 リングロープに手をかけて立上がったアンジェリカは、真っ赤な顔のまま、右手の人差し指を立てて高々と上げ、勝利のポーズを取る。どエロいボンテージファッションの美少女の勝利宣言は壮麗で美しい。


「やったねアンジェ! 1回戦突破だよ」

「本当に色々と吹っ切れたようなのです。伯爵令嬢の威厳はなく、ただのエロ女になり下がったのです」

『でも、アンジェリカさん格好いいのです』

「マネしないでください。なのです」


「ユウキ! ポポ! やったぞ!」


 ローションで全身ぬるぬるになりながらも、ニコニコ笑顔で特別席のユウキたちに手を振るアンジェリカ。リングから降りるため、足を動かした…が。


「きゃいん!!」


 ぬるぬるに足を取られて盛大に滑って転び、マットに頭をしたたかに打ち付けたのであった。

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