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第333話 悪役令嬢、魔物討伐訓練に挑む②

「よし、2階も危なげなく突破したね。ポポ、ここまでの成果は?」

「ゴブリン38体、ホブゴブリン3体、巨大ナメクジ2匹、巨大アリ約20匹を討伐したです。得られた成果品は、鉄のナイフ、スーパーマイクロビキニと極小貝殻水着の2点セット、幼児プレイ用大人おむつとマジカル哺乳瓶のセットなのです」


「マトモなのが鉄のナイフだけって、どんだけなのよ」

「だが、マイクロビキニを手に入れた時、ユウキ嬉しそうだったぞ」

「ユウキは真性のエロ女。エロに悦びを感じるド変態なのです。教育委員会の敵なのです」

「違うもん! 可愛いのが好きなだけだもん!」


「はいはい。なのです」

「流されたぁー」


「ぷっ、くくく…。あははは! 本当にお前たちは面白いな」

「面白い…。ここでも言われる面白い女のレッテル。そんなつもりは全くないのに…」

「ユウキこそ、自称純情乙女の清純派巨乳美少女という設定が霧散霧消しているのですよ。ざまぁなのです」

「ポポが可愛くねぇ~」


 ユウキとポポ。アンジェリカは2人の掛け合いに思わず笑ってしまう。そして、自分の心情を慮って接してくれるユウキと出会ったことで、誰からも相手にされず、半ば諦めかけていた討伐訓練にも参加できた事は今でも信じられない。後はジュリアス殿下の目が覚めてくれればと思う。殿下には相応しい女性というものがある。それはクラリスではない。だから、この訓練の中でチャンスを見て彼女と決着をつけたい。そして、叶うなら殿下が自分に目を向けてくれれば…。アンジェリカはそう思うのであった。


「おーい、アンジェー、行くよー」

「早く来ないと、ユウキがアンジェのお弁当食べちゃうですよー」

「人の分まで食わんわ!」

「今行く。待っててくれ」


 自然に笑顔になるアンジェリカ。急いで2人のもとに向かうのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 3階に到着したアンジェリカ、ユウキ、ポポは通路をマッピングしながら慎重に進む。遺跡に潜る前に先生が話してくれた事前情報によると、1、2階と違って、3階以降は魔物の強さが段違いになるらしい。3階に降りて2時間以上経過し、少し疲労を覚えたところで、広いホールのような場所に出た。休憩できないかと周囲を伺っていると、奥のほうから「ギャアギャア」と耳障りな声が聞こえてきた。

 視界に入った声の正体はオークだった。30体ほどが群れを成し、背後にはハイオークの姿も見える。ユウキとアンジェリカは戦闘態勢に入り、ポポは安全な場所まで下がる。


「アンジェの魔法で先制しよう。ヤツラが混乱したら、わたしが飛び込む。後は臨機応変に対応して。いい?」


 アンジェリカが頷く。緊張しているのか、顔がやや青ざめている。ユウキは群れを十分引き付けると、合図を出した。


「アンジェ!」

「アイスバレット!」


 オーラパワー・マジックライズ・リングの魔力向上効果で威力を増した氷の礫がオークの群れに襲い掛かり、胴体を貫き、顔面を容赦なく潰して行く。射出が止まった後、生き残ったのはハイオーク含め10体程度まで減っていた。

 オークが混乱から立ち直る前に、今度は白銀の剣を構えた美少女が飛び込んで来た。オークたちは迎撃することも敵わず、何が何だかわからないうちに首を刎ねられ、胴を両断されて倒されていった。


 ハイオークはあっという間に配下のオークを倒されて頭に血が上る。「ウォオオオン!」と雄叫びを上げると、剣を持った少女に突き進み、両手持ちの戦斧「バルディッシュ」を叩きつけた。しかし、少女は体を素早く動かして一撃を避けると、剣を一閃させて両腕を斬り飛ばした。腕を失ったハイオークは痛みで吠える。そして次の瞬間、ゴトンという衝撃とともに、自分の体を見上げていることに気づいたが、間もなく意識は暗転した。


「さすがはエロボディバーサーカー。その名に恥じない狂人的な戦い振りなのです。男が近寄らないのもわかる気がします。です」

「じゃかましいわ!」

「2人とも見ろ、神殿の入口だ」


 アンジェリカの声に2人が振り返ると、高さ3mはある巨大な両開きの扉が見えた。3人は扉に近づいて手をかけ、力いっぱい押すと「ギギ~ッ」と軋み音を立てて扉が開いた。


 神殿の中は豪華な装飾を施された柱が何本も立ち、荘厳な雰囲気が漂ってくる。3人は中に足を踏み入れると直ぐに、中央祭壇と思われる場所に1体の巨大な像が立っているのに気付いた。


「大きな剣を持った男の人の像?」

「戦神ローガスだ」

「ローガス?」

「ああ、この地域で昔から広く信仰されている神だ。ローガス様に加護を受けた者は、戦を勝利に導く力を得るとされる。この国の守護神でもある」

「へー。(今度エリス様にあったら聞いてみよっと)」


 アンジェリカとユウキがローガス像を見ながら話をしていると、魔鉱石を拾い終えたとポポが言ってきたので、戻ろうかと像に背を向けたその時。背後から「ズシン!」と床に大きな振動を感じた。


「なに!?」


 振り向くとローガス像の背後から太い棍棒を持った一つ目の巨大な魔物が現れ、ユウキたちに向かって歩いて来る。さらに今度は「バタン!」と扉が閉まる音が聞こえた。


「扉が開かないのです!」


「…なら、ヤツを倒さなきゃ出られないって事だね」

「でもどうする。あれはキュクロプスだ。ゴブリンとは訳が違うぞ」


「ポポ!」

「キュクロプスは1体だけなのです」

「なら話は簡単! アンジェ、氷魔法でヤツの足元をガッチガチに凍らせて動けなくして。後はわたしが剣でぶった斬る!」


「強引な戦法だな。作戦でも何でもない…。だが、わかった!」

「アイスバレット!」


 アンジェリカがキュクロプスの足元に向かって氷の礫を放った。大量の氷が床とキュクロプスの足を覆っていき、動きを阻害する。アンジェリカは何度もアイスバレットを唱え、ついには膝下から床までを氷で覆いつくし、動きを止めた。キュクロプスは雄叫びを上げながら、上半身を捩って何とか脱出しようと藻掻くが、氷はびくともしない。そこに背後からユウキが接近し、膝上辺りを魔法剣で薙ぎ払った。


 両足を切断されたキュクロプスは悲鳴を上げながら、「ズシン!」と地響きを立て、うつぶせに倒れた。腕の力だけで何とか上半身を起こし、周囲を見ると白銀に輝く剣を振りかぶった人間の女が見えた。それがキュクロプスが見た最後の光景だった。


「討伐終了っと」

 キュクロプスの首を斬り落としたユウキが、アンジェリカとポポにぐっと親指を立てて見せる。


「ユウキは今後、首狩り族とでも名乗るがいいです」

「何でよ! 変な二つ名増やさないで」

「しかし、ユウキは強いな。その歳でAクラスは伊達ではないって事か…」


「尻相撲も強いとの話なのです」

「尻相撲? ほう、それは聞き捨てならんな。私も尻相撲には自信がある」

「アンジェも少し変なのです。ちなみにユウキには尻相撲の女傑という二つ名もあるです。尻だけならSクラスです」

「バカポッポ! 何でバラすのよ。恥ずかしいでしょ、その二つ名」 

「…プッ、あはははは! 何なんだお前たちは。あはははは!」


 アンジェリカは可笑しくて笑い出してしまった。同年代の子と会話をして笑うのは何年ぶりだろうか。ずっと同学年の生徒からは無視され、上級生や下級生からも避けられて孤独だった。さらに、愛する男性は見向きもしてくれず、別の女に心が向いた。その光景を見るたびに心が痛んだ。しかし、今は違う。ユウキとポポは自分に偏見を持たず、身の上話に心から同情してくれ、友人として接してくれる。アンジェリカは、心に絡まっていた茨が少しずつ解れていくのを感じていた。


 ユウキが魔法でキュクロプスの死体を灰になるまで燃やし、処分を完了するとアンジェリカが「終わったな」と呟いた。確かに討伐訓練は終了したが、肝心のクラリスの件が片付いていない。ユウキはある秘策をもって事に当たろうとしていた。そのために、ある人物の協力を得ようとしている。そう、世界の女性の敵、思春期少女と巨乳をこよなく愛する超弩級ド変態アンデッドの協力を。


「まだ終わってないよ。アンジェとジュリアス殿下、クラリスの関係に決着をつける件が残ってる」


「そうだな。私にとって何よりも大切な戦いが残っていた。しかし、どうやって決着をつけるのだ?」

「任せて。わたしに秘策がある」

「超絶に不安なのです。絶対に碌でもない策だと確信します。ポポの小さな心臓がドッキドキしてるです」


「ポポは毎回一言多いね。さすがのわたしも怒りました。お仕置きが必要だね」

「何故なのです! ポポは本当の事を言っただけなのです。やめ…、やめてぇー」


 ユウキは逃げようとするポポの肩をがっしとつかむと、自分の肩の上に仰向けに乗せ、あごと腿を持ち、自分の首を支点として背中を弓なりに反らせた。


「マーガレット様直伝。秘乳技、オーバーヘッド・バックブリーカー!」

「ぎゃあああああ!!」


 広い神殿遺跡に精霊少女の絶叫が響き渡った。肩から下ろされたポポは体中を襲う痛みによって、床に這いつくばり、ピクピクと身悶えている。


「だ、大丈夫なのか…?」

「大丈夫大丈夫。ポポは頑丈だから。さて、秘策の実行には協力者が必要なの。今呼び出すね。ただ、ビックリしないでね」

「協力者? 呼び出す?」


「それ、出てこいド変態アンデッド!!」


 ユウキは黒真珠のイヤリングに触れて魔力を通すと、広間の一角に黒い霧の渦が巻き起こり、やがてそれがひとつになって漆黒の球体になった。その中から頭に王冠を被り、豪華な王者の青で染められたチュニック、艶やかな模様が刺繍された緋色のマントを着け、大きな碧玉で装飾された王杖を持った、全身骸骨のアンデッドがズイっと現れ出た。圧倒的なまでの存在感、強大な魔力の波動。アンジェリカは驚きのあまり唖然として立ち竦む。


『フフフ…、フハハハハハ、ワーッハハハハハ! 我こそは死霊の帝王、最強にして最恐のアンデッド。世界中の思春期少女を愛し、巨乳美少女を愛でる冥府の王者「ワイトキング」エドモンズ…。アベル・イシューカ・エドモンズ三世。ワハハハハハ! ユウキよ、わかっておろうな? エドモンズだからな儂は。さあ、秘密を暴かれたい思春期女子はどこにおるのじゃ~!』


「やかましい! 前置きが長い。文字がもったいない」

『おっふ!』


 高笑いするエドモンズ三世の後頭部を、ユウキがベシンと叩いた衝撃で前のめりになり、床に転がるポポの顔と急接近するエドモンズ三世。


『うほ! 可愛いポポたんではないか。ムフフ…久しぶりじゃのう、や・ら・な・い・か」

「何をやろうというのです。このドスケベキモ骸骨野郎…なのです」

『クフフ…。久々のツンデレ娘の罵詈雑言…。ゾクッと来るわ。愉悦愉悦…。後はデレるの待つばかり…』

「どこまでポジティブなのですか。この骨野郎は」


「ユ、ユウキ…。これは一体…」

「びっくりした? コイツはエロチンポ三世。わたしの従魔…というより眷属と言ったほうがいいかな。早い話がわたしの仲間。大丈夫だよ、怖くないから」


『エロチンポではない、エドモンズじゃ。若い女子がチンポなどと言って、恥ずかしいと思わんのか全く…。ふむ、お主がアンジェリカか。ユウキが大分気にかけておった様じゃが…』


 エドモンズ三世がアンジェエリカに近づき、じっと顔を見つめてくる。アンジェリカは初めて見るアンデッドの姿に恐怖に身が竦み、体を動かすことが出来ず、引き攣った笑いを浮かべ、ちびりそうになるおしっこを我慢するので精一杯。


『ふむ、アンジェリカ・フェル・メイヤー。17歳処女。身長159cm、体重54kg。スリーサイズは上から84、62、88。案外悪くないボディサイズじゃ。尻がでかくて安産型じゃの。子供をポコポコ生むタイプじゃ。意外とエッチな事にも興味があるのお主。このスケベ娘め、思春期真っ盛りじゃ。ただ、男運が悪いのう。ユウキといい勝負じゃな』

『お主、見た目は気が強くて意地悪そうに見えるから外見で損をするタイプじゃな。本当は根は優しくて寂しがりやなのにな。子供の頃買ってもらったぬいぐるみを抱かないと夜眠れないとか…。お子ちゃまか? プークスクス。代わりに儂を抱いて寝るがよい。思春期少女に抱かれる…。儂、死んでもいい!』


「世の中、アンデッドを抱いて寝る子がいたらドン引きだよ」

「お前はもう死んでいる…。のです」


『アンジェリカ、ジュリアスは…。まあいいか、ユウキの秘策でわかるじゃろうて…』

「エロモン…。だね、ここでアンジェリカの気持ちに決着をつけよう。わたしの作戦を話すよ、皆集まってくれる?」


 ユウキの元にポポとエドモンズ三世が集まってきた。しかし、アンジェリカは微動だにしない。ユウキはもう一度アンジェリカに集まるよう。声をかけるが、やはり反応がない。ポポがアンジェの顔の前で手をひらひらさせる。


「ユウキ、アンジェ、立ったまま気絶してるです」

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