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第332話 悪役令嬢、魔物討伐訓練に挑む①

 アンジェリカの訓練に例外規定を適用してユウキとポポが同行する件については、学園長の承認が得られた。その際、学園長はアンジェリカにいつか必ず機運が好転する時が来る。それまで頑張るようにと言ってくれたとのことだった。


 それから数日が経ち、いよいよ魔物討伐訓練が行われる日になった。場所はオルディス郊外の古代魔法文明の遺跡。ダンジョン化してゴブリンや他の魔物の生息が確認されている場所だ。生徒はここに潜り、一体でも多く討伐するのが試験だ。生徒個人の能力や連携戦闘の向上だけでなく、魔物の繁殖も防ぐというメリットもある。


 遺跡の入口に集合した生徒たち。全員皮や鉄製の鎧を身に着け、剣やバトルアックス、魔術師の杖を装備し、お互いの装備を見てはワイワイと楽しそうに話をしている。その中でひときわ輝くグループがあった。ジュリアス殿下率いるグループだった。

 いかにも高級品らしい蒼く輝くハーフプレートと豪華な意匠を施されたロングソードを装備したイケメン、ジュリアス殿下。友人の2人も金持ち伯爵家の子弟ということで、赤や金色のキラキラ輝く鎧と剣を装備している。この3人の傍に白いブラウスにひらひらのフリルスカート。薄い皮のエプロンと髪にオレンジの紐リボンを付けたクラリスが立っていた。この4人に戦士の男子と魔術師の女子が1名ずつ。

 見た目も性格も強さも100点のジュリアス殿下に女の子たちがきゃあきゃあと騒ぎ立てる。ジュリアス殿下たちから少し離れた場所でその様子を見ているアンジェリカ、ユウキ、ポポの3人組。


 アンジェリカは下ろしていた髪をアップにして髪留めで前髪を止め、豪華な赤色のノースリーブのロングバトルドレスに魔法石で防御力を高めたハーフマント。腰回りの帯ベルトにダガーを装備した出で立ち。ユウキは定番となった上下黒の魔法使いスタイルに魔法剣、黒の編み上げロングブーツと真っ赤なリボン。黒のブラウスからチラリとのぞく大きなお胸の谷間が色っぽい。

 ポポは、胸下までの半袖ブラックブラウスと金色に輝く腰ベルト。裾に白のレースのひらひらが付いた黒のプリーツスカート、ショートブーツという姿。ブラウス、ベルト、スカートには防御力を高める魔法石が装着されている。武器はミスリルの短剣。


(こりゃ金貨3枚する訳だわ…。でも、似合っててめちゃ可愛い)


 全員が揃ったところで、先生が前に進み出て注意事項の説明を始めた。それによると遺跡は地下7階まであるが、討伐訓練では地下3階の神殿跡までとし、行った証拠に神殿周囲に落ちている魔鉱石を拾ってくること。地図は渡さないので、各自マッピングしながら進むこと。倒した魔物の種類と頭数を記録紙に記入してくること。ウソを書いてもすぐばれること等が説明された。


「では討伐訓練を始める。最初に行く者はいるか?」

「はい!」


 真っ先に手を挙げたのはアンジェリカだった。周囲の生徒たちが、ざわ…ざわざわ…と騒めき、ジュリアスは少し驚いた顔をしたが、当の本人は表情を変えずに手を上げ続ける。


「アンジェリカか…。よし、いいだろう。遺跡に入りなさい」

 先生の許可が出たので、ユウキとポポに合図すると中に入っていった。3人の姿が闇の中に消えると、他の生徒たちが悪口を言い始める。


「なに、あれ。いいカッコでもして殿下にアピールでもしようとしているのかしら」

「くくっ。みっとも無いわね。追い詰められて焦ってるってか」

「バカみたい。大怪我して尻尾巻いて出てくるのがオチよ」

「でも、アンジェリカと一緒に入ったの、冒険者でしょ。仲間がいないから特例で認められたって」

「ぷぷっ、乳とケツだけの女とフルフラットのガキよ。あれが冒険者だったら娼館の女や小学生でも出来るわ」

「そりゃそうだ。あははは!」


「僕たちも行くか。いいかい、クラリス」

「はい。だ、大丈夫…です」

「怖いかい。じゃあ、僕と手をつなごう」


 ジュリアスの号令に全員が頷き、遺跡の中に入って行く。クラリスは1番先に入ったアンジェリカを考えると、何か不安になるのを抑えられなかった。


(あの負け犬、何を考えてるのかしら。それにあの冒険者の女たち、強力な力を感じた。油断は出来ないわね…。でも私は負けない。絶対に幸せを掴むんだから)


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 遺跡はかなり古びているものの、通路幅は広く、何らかの魔術的技法によるものか、天井が薄く光っていて、歩くのには不自由ない程度の明るさがある。先頭で遺跡に入ったユウキたちはある程度進んだところで一旦停止した。


「ここで道が3つに分かれているね。地図はないからマッピングするしかないんだけど、ここで役立つのが探索系少女のポポたんでーす! ハイ、探索よろしくー!」

「くっそウゼェのです…。土の精霊さんによると、左右は行き止まり。真ん中が奥に続く道のようです。ただし、右の行き止まりには隠された小部屋があって宝箱があるです。おまけに魔物も…」


「ポポは凄いな。精霊の声が聞こえるのか…。さすが探索族少女」

「違うのです。精霊族なのです」


「よし、右に行ってみよう」


 3人は頷きあうと右に曲がった。一本道を少し進むと突き当りにとなったが、3人で古びた壁を調べると、下の目立たない場所に周囲と形が違う1枚の石壁を見つけた。ユウキが押してみると「ガタン」と壁の中で音がして人一人が通り抜けられる程度の入口が開いた。


 最初にユウキが中に入る。すると天井から何かがドサッと落ちてきた。見ると巨大なヒルのバケモノ。吸い付かれたらあっという間に血が吸われて、干からびてしまうだろう。

 巨大ヒルが体を伸ばして襲ってきたが、ユウキは体を低くして躱すと魔法剣を一閃させて体を輪切りにした。真っ二つになったヒルはしばらくヌメヌメと動いていたが、切り口から血と内臓が漏れ出るに至って、動かなくなった。


「キモイなあ…。わたし、虫や軟体動物って嫌いなんだよね」

「ユウキ、お見事なのです」

「さすがAクラス冒険者だね」


 褒められて有頂天になっているユウキをさておいて、ポポは宝箱を見つけると短剣を使って器用に箱を開けた。中を覗くと金で装飾された腕輪が1個入っていた。


「これは…妖しげな力を感じる。なになに、「エロスティック・マジックブレイザー」だって…。ナニコレ? 名前からしてヤバそうだね」


「土の精霊さんによると、その人の魔法力を数倍に高めるそうですが、同時に、エロスパワーも数倍になるそうです。ユウキにピッタリのアイテムなのです」


「何でや! エロスはもう充分です。まあ、一応貰っていこうかな。そうだ!」

 ユウキは手に入れた腕輪をマジックポーチに入れた後、以前地下神殿で見つけた腕輪を取り出すとアンジェリカに渡した。


「ユウキ、これは?」

「この腕輪は以前の冒険で見つけた、装着者の魔力を大きく向上させるアイテムだよ。アンジェにあげる。副作用はないから安心して」

「いいのか?」

「うん、魔法を使うアンジェには心強い武器になるよ」

「ありがとう。家族以外の人から何か貰うなんて、何年ぶりだろう…」

「不憫なのです…」


 魔獣討伐シートにヒルの事を書き込んだ後、再び探索を開始するために元の三叉路まで戻り、真ん中の通路を進み始める。幸い、後続組はまだここまで来てはいないようだ。隠し通路から魔物が急に飛び出されても困るので、慎重に周囲を警戒しながら進む。途中、魔鉱石が転がっている場所があったので、拾えるだけ拾ってマジックポーチに収容した。


「これで剣を作ってもらうです」

「売ってもいいお金になるよ」

「ホントですか。アンジェ!」


 ほくほく顔でくるくる回りながら進むポポが、ピタッと停止してユウキたちを止める。


「この先に下に降りる階段があるですが、手前の小部屋に魔物が潜んでいます。土の精霊さんが教えてくれたです」

「ポポ、魔物の種類は?」

「ゴブリンなのです。数は10」

「ゴブリン…ね。女の匂いを嗅ぎつけたって訳か。相変わらず下衆な魔物だね」

「ユウキ、戦うのか?」

「当然。ここで一気に数を稼ぐよ。わたし、絶対にゴブリンだけは許せないの」

「そうか。なら、私も戦う。少しでも殿下の負担を軽くしたい」

「ふふ、アンジェは可愛いね」

「なっ! からかうな。い、いくぞ」

「はいはい」


 3人は壁際に沿って足音を忍ばせて進む。目的の小部屋の前で、アンジェリカが先頭になった。ポポが扉の取手を持って思いっきり引き開けると同時に、アンジェリカが入口に立って攻撃魔法を放った。


「アイスバレット!」


 氷のつぶてが中に潜んでいたゴブリンを撃ち抜き、汚い声で悲鳴が上がる。その隙にユウキが部屋の中に飛び込んで、残った数体の胴と首を魔法剣で薙ぎ払った。


「よっしゃ! 一丁上がり~。ポポ、この部屋には何かある?」

「残念ながら、お宝は無いようなのです」

「凄い腕輪だ…。私の魔法がこれほどまでの威力を出すとは…。これならいけるぞ。よし、下に進もう」


 アンジェリカの言葉にユウキとポポが頷き、3人は他の生徒たちに先行して下に降りて行った。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ジュリアス殿下率いるグループは1階の三叉路までやってきた。ここまで魔物の襲撃もなく順調に進んでいる。どの方角に進もうか思案していると、右側の通路から別のグループがやってきた。しかし、その顔は青ざめ、引き攣っている。


「どうした? 何かあったのか?」

「で、殿下。いや…何もなかったんですが…、その…」


「実は、この先は行き止まりだったんですが、突き当りの小部屋を覘いたらドでかいヒルのバケモノが真っ二つになって死んでいて、グロくて…。おええ…っぷ」


「ヒルのバケモノ?」

(まさか、あの女たちが倒したというの…?)


「殿下、アルベルト様、ジュリアン様。先に進みませんか」


 クラリスがジュリアスの袖をきゅっと掴んで、上目づかいで言う。その破壊力にジュリアスたちは一瞬魅了にかかったようにポーっとなるが、直ぐに視線を戻して意識を保つ。


「そ、そうだな。だが、どの道を進めばよいのか…」

「それは…。恐らくこの道です」

 クラリスが真ん中の通路を指さす。


「わかるのか? クラリス」

「はい…。何となくですが…。左は突き当たっているように感じます」

「よし! 道は決まった。進むぞ」


 真ん中の道を選択し、進み始めたジュリアス殿下率いるグループや、後からやってきて合流した他のグループ。クラリスの指示通り通路は奥まで続いており、下に降りる階段が見えてきた。


「さすがクラリス」

「探索能力も備えるなんて、素晴らしいです」

(褒められた…。嬉しい)


 階段に近づいたはいいが、手前の開け放しになった小部屋から生臭い血の匂いが漂っているのを感じた。ジュリアスやクラリスたちがそっと近づいて見ると、部屋の中には10体のゴブリンの死体。半数は体中に穴を開けられ、半数は胴と首が両断されている。その凄惨さに生徒の中には壁際に嘔吐するものが続出した。


「我々より先行しているのはアンジェリカのグループだけだったな。つまり、先ほど聞いたヒルのバケモノやこのゴブリンは彼女らがやったと言うことか…?」

「それにしても、凄まじいですね。我々でもここまで出来るでしょうか」

「うむ…」


(ゴブリンに抵抗した跡がない。一瞬で屠られたんだわ。アンジェリカじゃこんな真似はできない。きっとあの乳女だ…。あんな伏兵が現れるなんて予想外…)


 ジュリアス殿下たちは衝撃的な光景にしばらくの間、立ち竦むのだった。

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