第34話 それぞれの思惑
野外実習の発表があった日の午後、ユウキ、ララ、カロリーナ、ユーリカにフィーアを加えた5人がダスティンの武器屋に来ていた。ごついオヤジの武器屋に女子学生が5人。場違い感が半端ない。
「どうしたんだ一体。ここは女学生が使うようなもんは置いてないぞ」
「オヤジさん、実はボクたち来週から2泊3日でアルカ山と言うところで野外実習があるの。山歩きや咄嗟戦闘に必要な装備を準備しなければいけないんだけど、アドバイスが欲しくて」
「お願い!」と女の子たちから懇願されると、ダスティンも断れない。
「う、うむ。わかった。まずは靴だな。滑りにくく土を噛み、防水性の高いのがよい。普通には売っていないから特注になる。皆の分を作ってやろう」
「それから、これだ。これは必ず必要だ」
と取り出したのは、柄の長さが50cmくらいのハンドアックスと先端に向かって幅広になり、刃が内側に湾曲して付いている鉈だ。刃渡りは40cmほど。
「これは山刀と言ってな、山歩きに邪魔になる枝を払うにもよいし、武器にもなる」
「後は、1人1人話を聞きながら、装備を見てやる」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
マルムトは部屋の中で一人考え込んでいる。先ほど、マルムトに忠誠を誓う使用人から①マクシミリアン王子が野外実習グループの同伴者に選ばれること。②最近、アルカ山で魔物の目撃が増加していること。などの情報が報告されたのだ。
「これは思ったより早い段階でチャンスが来たな」
「ヤツが同伴するグループの奴等には悪いが、ゴブリンに遭遇して戦闘になれば面白い。結果、死んでくれれば最高だが、ヤツは臆病者だから、戦闘指揮などできるはずもない。生き残ったとしても信用を失い、周りのヤツを見る目も変わるだろう。その時、自分の無能さを思い知るさ。自分の無能さをな! ハハハ」
「俺はそうだな…、同じグループの中から味方になりそうな人間を探すとするか。何しろ俺は目的達成のために味方を増やす必要がある」
薄暗い部屋で一人呟くと、アルカ山周辺の地図を取り出し、作戦を練るのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フォンス伯爵家の1室にクレスケンともう一人、フレッドがいた。
「憲兵隊の奴等め。やってくれおって!くそっ!」
「おい、何かいい手はないか。考えろ! 金が欲しいんだろ!」
「…………」
「…あんたはなんで、そんなにユウキさんに執着するんだ?」
「ハッ! 知れたこと。いい女が欲しくなるのは男としての性ではないか! あの女はいい。あの顔を快楽で歪むのを見たくはないか。徹底的に調教したとき、あの女はどんな顔で啼くのか、それを考えるだけで、最高な気分になるではないか!」
フレッドはユウキの笑顔を思い浮かべた。
(リースのためなら僕は何でもすると誓った。しかし、こんな男の歪んだ欲望にユウキさんを差し出してもいいのか?)
フレッドは妹リースとユウキを重ね合わせ、目の前で喚く男から目を逸らすしかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
男たちの思惑が交錯する中、野外実習の日がやってきた。
「ねえ、あれ見て」
「凄い格好だね」
「ダサくない?」
生徒たちが好奇な視線で集合場所に現れた女子生徒を見ていた。視線の先はダスティンが準備してくれた装備を身に着けたユウキたちだった。
「ほう、お前たち、中々だな」
ユウキたちに気づいたバルバネス先生が声をかけてきた。
「動きやすい皮の鎧に山道に適した靴、防水性も高そうだ。皮のリュックにハンドアックス、山刀か。うむ、いいぞ。何より長袖長ズボンは山歩きには最適だ。山をよく知っているな」
「先生に誉めてもらったけど、私たち、端から見ると山賊みたいだよね」
カロリーナが自嘲気味に言い、ララとユーリカが頷く。
「私は好きですよ。いつもと違って、何か楽しいです!」
フィーアは今日も平常運転だ。とても侯爵令嬢とは思えない格好を楽しんでいる。
「よし、お前たち各グループごとに並べ、グループの指導生徒を紹介するぞ」
学年主任の先生からグループを指導する先輩の紹介が始まった。
「ねえユウキ、私たちのグループは誰だろうね」
「うん、優しい人がいいな。あっ、発表されるよ」
「第10グループは、3年生はアンジェリカ。2年生はマクシミリアン!」




