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第327話 エヴァリーナの目的

 エヴァリーナたちがゼノビアに到着した翌日、タニアの実家に泊めてもらったエヴァリーナたちは、朝食を終えて応接間に集まっていた。別宿に泊まっていたペタン子3人組とハインツやルゥルゥも来ている。アレフとの会談を前に事前の打合せをしていたが、突然ミュラーが椅子から立ち上がった。


「エヴァ、オレはここまでだ!」

「どうしたんですの急に…」


「オレは一晩考えた。そしてある結論に至った。その結論とは、オレはやはりユウキちゃんを嫁にするということ。よって、おれはユウキちゃんの下に行き、この熱い気持ちを伝えることにした。そういう訳でルゥルゥ、オレはお前の気持ちには答えられん。男としてここはけじめをつけなければならない!」


「え、酷いよミュラー、あたいはミュラーのこと好きなのに! どうしてあたいじゃダメなの!?」

「オレはルゥルゥのことは嫌いではない。しかし、嫁にはできん! なぜなら、オレはユウキちゃんただ一人を愛する男。絶対不可侵のあの美巨乳をモノにしなければならん! そう、おれはユウキちゃんへの愛に殉ずると昨夜、空の星々に誓ったのだ!」

「ルゥルゥ、お前のような美人なら、きっとオレみたいな男前の恋人ができる。断言する。よって、この広い空の下から応援しているぞ!」


「そういう訳だ。リューリィはこのままエヴァの手助けをしてくれ。じゃ!」

「じゃって…、帝国に戻るんですの?」

「ああ。一旦帝都に戻り、ユウキちゃんの消息を探す。という訳で、じゃ!!」


 腕をしゅたん! と上げてミュラーはバタバタと出て行った。「じゃ! じゃないでしょう」とリューリィが後を追う。突然の騒動にレオンハルトとフォルトゥーナは心の中で「そうきたか。極端すぎるだろ」と思ったのであった。


「で、ミュラーに振られたルゥルゥさんはどうします。もう、ここにいる理由はないと思いますが」

「ひ、酷い…。酷いよそんな言い方…。うう、うわあああああん!!」

「あっ、ルゥルゥさん」


 エヴァリーナのきっつい一言で、ルゥルゥの涙腺が大崩壊し、大声をあげて泣きながら部屋を飛び出して行った。その様子に同情したペタン子3人組はエヴァリーナを見てひそひそと話す。


「ちょっと、今のエヴァリーナ様酷くない? 物凄くイヤな感じだったね」

「傷心の女の子に追撃を放つとは。さすが冷酷無比の悪役令嬢…」

「ルゥルゥ、可哀想…。あの言い方はないよ」


「あわ、あわあわあわ…。み、皆さん、少しの間ここで休んでてくださーい!」

 思ってもみないソフィたちからの非難の言葉に、エヴァリーナは大慌て。椅子から立ち上がると急いでルゥルゥの後を追った。


「プププ…。結局は悪役に徹しきれないのよね~。わが娘は」

「いい娘じゃねえか。ユウキちゃんの友だけあるぜ」


 フォルトーナとレオンハルトは、バタバタとルゥルゥを追いかけて行ったエヴァリーナを見ながら、笑いあうのだった。


「待って、待ってルゥルゥさん!」

「うわぁあああん! 来るな、バカァ…。どうせ振られてザマァとか思ってるんでしょう。うぐぅ…ひっく。うう、初恋だったのにぃ~。うわあああ…」

「先ほどは酷いこと言ってごめんなさい。あなたを傷つけるようなことを言って、本当にごめんなさい。私が悪かったです。だから、泣き止んで。お願い!」


「うう…。お前なんて嫌いだよ…。ふぇええ…」

「ごめんなさい、ごめんなさい。あの、せっかく仲間になったんだし、私のお手伝いをしていただけませんか? ね、お願いします」


 えぐえぐ泣きながら、小さく頷いたルゥルゥの肩を抱いて応接室に戻ったエヴァリーナ。仲間の冷たい視線に晒され、心が折れそうになるも、先ほどのミュラーの行動を思い出し、デリカシーのない断り方に無性に腹が立ってきた。


(ミュラーのバカ! 女の子はデリケートなんですのよ。断り方にもデリカシーが必要でしょうに。ルゥルゥさんが可哀想じゃありませんか。バカバカ、ユウキさんに振られてしまえ! バカミュラー!)


「ほら! ルゥルゥさんに謝りなさい!」

「ぐわっ!」


 続いて応接室に戻ってきたのは、ギチギチに縛られたミュラー。リューリィにドンと押され、無様に床に転がった。


「リューリィさん、あの、これは…」

「ミュラー様のあんまりな行動に、ボクも腹が立ちましたので、ルゥルゥさんに謝罪させようと連れ戻したんです。女の子に対して、あの公開処刑はさすがにやりすぎです。断るにしてもやり方ってものがあるでしょう。ユウキさんがこれを知ったら、魔法で消し炭にされますよ」


「ミュラー…」

「ルゥルゥ、スマン。ユウキちゃんの事でテンパってしまった。確かにあの断り方はまずかった。許してくれ」


「いいよ。謝ってくれれば…。ミュラー」

「なんだ?」

「その…、ユウキって子のこと、本気で好きなんだね」

「ああ、好きだ。オレの嫁は彼女しかいない」

「そっか…。じゃあ仕方ないな。あたい、諦める。その子と上手くいけばいいね」

「ありがとう、ルゥルゥ…」


「ルゥルゥさん…(なんていい子なんでしょう。それなのに私ったら…。エヴァのバカ)」


「ねえ、どう思う? ユウキちゃんと上手くいくと思う? 私は振られるに銀貨1枚」

「ティラの鉛筆コロコロ占いでは、成功確率1%以下と出た。相手にされないに銀貨1枚」

「フランは成功に銀貨1枚。ヴィルヘルム様の財布を盗むより難しそうだけど、ここは敢えて超大穴に賭ける」

「フランちゃん、穴師だね」

「まっ! ティラったら、女の子に穴だなんて…。エッチ」


「うるせえぞ、貧乳シスターズ!」


 結局、ミュラーは任務の途中放棄が許されず、エヴァリーナから提示されたユウキの使用済みパンツ増量の誘惑に負けて、引き続きウルの任務に同行することになった。フォルトゥーナから、「世界の危機を救えばユウキちゃんも見直してくれるかもよ」との囁きも大きかった。


「もう、朝から疲れましたわ…」(エヴァリーナ)

「同感だぜ…」(レオンハルト)


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 朝の騒動が尾を引いている最中、応接室にアレフとタニアが入ってきた。微妙な雰囲気に首をかしげる。


「何かあったのですか?」

「え、えっと、何でもないですわ。あはは…」

「あの、彼は大丈夫なのですか?」

「ええ、こいつは縛られるのが大好きなんですの。気にしないで下さい」

「てめぇ、エヴァ。覚えてろよ!」

「と、とりあえず席に着きましょうか」


 応接テーブルの上座にエヴァリーナとフォルトゥーナ、リューリィが座り、その下にミュラーが転がされている。下座にアレフとタニアが座り、タニアの隣にハインツ、レオンハルトとフォルトゥーナは、ソフィたちペタン子3人組はエヴァリーナの後ろに椅子を並べて座った。ルゥルゥ、エマ、レイラは別室で待機してもらっている。メイドがコーヒーを配り始め、全員に行き渡った頃合いを見て、アレフが口を開いた。


「それで、私にお聞きしたいことがあるとの事でしたが」

「はい、まず、改めて自己紹介いたします。私、帝国宰相ヴィルヘルム・クライスの娘、エヴァリーナ・フレイヤ・クライスと申します。ウルには非公式で来なければならなかったため、このような形で参った次第です」


「て、帝国宰相のお嬢様! あなた様が! し、証拠はあるのですか?」

「これです」


 エヴァリーナは胸元からネックレスを取り出し、クライス家の紋章が入った飾りを見せた。アレフも帝国との取引上、何度かその紋章を見たことがあるので、本物と確信する。


「確かに、本物のようです。して、帝国宰相のお姫様が何故、非公式でウルに参ったのですか?」


「はい。現在、ウルでは武断派による、世界の運命をも左右しかねない、恐ろしい陰謀が密かに行われているとの情報を帝国では掴みました。私の任務は武断派と対立している穏健派と接触し、その陰謀の全容を掴み、帝国へもたらすこと。可能なら陰謀を阻止するか、遅延させること。そのためにウルに潜入した次第です」


 予想もしなかったエヴァリーナの話にアレフもタニアも驚いた。


「た、確かにウルでは武断派と穏健派が対立していると聞いております。ただ、それはどこの国でも起こりうる政治闘争の類ではないのですか?」


「ハッキリ申せば、武断派は伝承の話である邪龍復活を画策し、帝国…、いや全世界に戦争を企てているとか…。もしそうなれば、世界の終わりです」


「まさか…。そんな夢物語みたいな話など信じられませんね。この世界は平和です。獣人も亜人も人も、争うことなく共存し、異種族間で婚姻を結ぶ者もいる。そのような世の中で、あえて何故戦争を起こそうというのです。しかも、邪龍とは…。にわかに信じられない話です」

「そうでしょうか…。アレフ様ほどの大商人なら政治家とも近いと存じます。何かご存じなのでは…」


 暫しの間沈黙が続く。アレフは腕組みをして目を瞑り、タニアは不安そうな表情をして父とエヴァリーナを見比べる。


「して、何故私にそのような話を?」

「アレフ様の伝手で、穏健派と繋ぎをとっていただきたいのです」

「穏健派と…。もし私が繋がっているのが武断派だったらどうするのです?」


「その時は、無理にでもアレフ様から情報を聞き出し、武断派一派をふん捕まえて壊滅させるだけですわ。私の仲間はそれだけの実力がある者たちばかりですので。その前に私たちの目的を知ったアレフ様ご一家を帝国送りにいたしますわ。うふふ」


「無茶苦茶ですね…」


「分かりました。ウルには5つの大商会があります。エヴァリーナ様は運がいい。私は穏健派を支持しております。世の平和こそ商売に必要だと思っていますのでね」


「武断派に属している商会のほうが多いのは何故ですか?」

「主に武器や戦時物資を取り扱うからです。彼らは戦乱こそ商売のチャンスと捉え、密かに物資や資金提供を行っているとの噂があります」


「死の商人っていうヤツですね」

 リューリィがボソッという。


「エヴァリーナ様には、あるお方にお引き合わせいたしたいと存じます。今日はこのまま屋敷で待機なさってください。連絡が付きましたらお知らせします。それと、タニアもエヴァリーナ様に協力させましょう。いいね、タニア」

「はいお父様。ハインツ様、私頑張りますね!」

「タニアさん。僕は君を危険な目に遭わせたくない。しかし、義父上の命令なら従わざるを得ない。だから僕は誓おう、どんな事があっても君を守ると!」


「ハインツ様…」

「タニアさん…」


(あーはいはいっと。勝手に守ってろっての)


 ペタン子3人組がシレーッとした視線で2人を見る。しかし、既に意識が別世界に飛んでいる2人は、そんな視線にも気づかない。アレフは微妙な表情で2人を見ると、「それでは…」と言って応接室を出て行った。


「はぁ~、疲れたですわ…」

「うふふ、中々の交渉だったわよ。さり気無く脅しを入れるところなんて最高よぉ~」

「もう、お母さまったら…」


 エヴァリーナは窓辺に立つと、外を眺めながら、これからの任務に重要な位置づけとなる、穏健派のメンバーを想像し、思いを馳せるのであった。


(さて、どんなお方に合わせてくださるのかしら…)

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