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第324話 新たな目的地へ

 リリアンナとルピナス、メリーベルが別荘地へ旅立ったのを見届け、依頼を終わらせたユウキは、ギルドで報酬を受け取った後、1週間ほどクライス家のお屋敷で休養していた。部屋の窓から景色を見ると、街路樹の葉がほんのり色づき始め、暑さも和らいで旅をするには良い気候となっている。このため、当初の予定どおり次の目的地であるスバルーバル連合諸王国に向かう事を考えていた。

 休養期間中、すっかりイレーネの着せ替え人形と化していたポポも可哀想になってきたし、エドモンズ三世を始めとした3体の心強い友もいる。夕食の時にその旨をヴィルヘルムに話したら、快く了解してくれた。ただ、スバルーバルへ向かうついでに、オーガの里にヴァルターと国務省の職員を案内してほしいと頼まれたので了解した。


 黙って話を聞いていたイレーネがユウキに優しく話しかけてきた。


「ユウキさん、あなたの家はここです。必ずここに帰ってきてくださいね。私もフォルトゥーナもあなたの帰りを待っています。もちろん、エヴァリーナさんもヴァルターさんも同じ思いですよ。もうあなたは私たちの家族ですからね」


「はい! ありがとうございますイレーネ様!」


「ポポちゃんも、ユウキさんの言うことをよく聞いてね」

「大丈夫です。しっかりユウキの面倒を見てやるです」


「そういえば、エヴァとフォルトゥーナ様はウルに入ったんですか?」

「ああ、無事入国出来たと言ってきたよ。ただ、義母上はゼノビア到着後、輸送隊と戻ってくるか、エヴァの任務を助けるか迷っているみたいだ」

「そうなんですか…。結局エヴァとも会えなかったな。ちょっと寂しいな」


「なに、ユウキ君とエヴァは強い絆で結ばれた親友同士。必ず会えるさ。ただ、ユウキ君はウルには近づかないでほしい。あそこは今主戦派と穏健派で内乱寸前だ。エヴァには穏健派に近づき、情勢を探る任務を与えている。非常に重要な任務なんだ。今はエヴァに任務に集中させたい」


 ヴァルターが真剣な顔でユウキに旅の目的地としてウルを避けるよう、お願いしてきた。このことは図らずも、ユウキの身を危険から遠ざける事になった。この段階では帝国はウルが邪龍だけでなく、暗黒の魔女を手に入れようと画策していることは掴んでいなかったからだ。


「わかりました。残念ですけど仕方ないですね。エヴァの任務が終わったら思いっきり遊ぶとします」

「悪いな。そうしてくれるとありがたい」


 翌日、冒険者ギルドでオーウェンとリサに、近々旅立つことを報告すると以外にも2人は賛成してくれた。


「そろそろ、そう言って来るんじゃねえかと思っていたところだ。驚きゃしねえよ。ユウキ、以前俺が言った事覚えてるか」

「えっと、各地で見聞した情報を上げろ…でしたっけ」

「そうだ。どんな些細な事でもいい。手紙にして知らせろ。これはギルドからの依頼とする。いいな」

「はい。りょーかいです!」


「ユウキさん。リリアンナさんたちと使った馬車、引き続きお貸ししますので使ってください」

「いいんですかリサさん。助かります」

「ただし、条件が2つあります」

「条件?」

「はい。一つは必ず返しに来ること。もう一つは、いい男がいたら情報提供することです」

「もう、リサさんはブレないですね。でも、分かりました。その条件、必ず守ります」


 ユウキは2人としっかり握手をし、再会を約束してギルド長室から出て行った。見送ったオーウェンはリサを近くに呼び寄せると、以前与えた指示事項について聞いてきたが、リサはまだ進展がない事を報告する。


「引き続き、烈火の剣の連中に探らせろ。それと、レブの奴には別任務だ。「魔人」の存在について調べさせろ」

「魔人、ですか。分かりました。直ぐにレブさんに連絡を取ります」


 リサが退室した後、オーウェンは窓辺に立って外を眺める。するとユウキが馬車で通りに出てきたのが見えた。


「ユウキ、いい旅をしろよ。お前に害をなそうとする奴ぁ、オレが必ずぶっ潰してやるからな。お前はお前の幸せを見つけるんだ。いいな…」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ここがオーガの里か…」


 旅立ちのついでにヴァルターと国務省及び内務省の職員を案内してきたユウキとポポ。馬車の姿を見つけたオーガたちは里の入り口に大勢集まってきた。長老のアモスを始め、ガンツやサクヤ、カグヤといった見知った顔も見える。

 ユウキとポポがアモスたちの元に行き、以前話のあった人との交流について、帝国の偉い方と話をしたところ、里の調査と帝国の庇護下に入る事の是非について、意向を確認したいとのことだったので、宰相府の代表と国の役人を連れてきたと説明した。


「ヴァルター様、本当にオーガたちの村ですわね。しかも、私たちに対して敵意は感じられません。むしろ歓迎しているような感じです」

 国務省国民管理課主任主査の女性がヴァルターに話しかけてきた。


「そうだな。ユウキ君によると、遭難した精霊族の少女を優しく迎え入れたとの話だし、彼らは我々と交流を持ちたがっているとのことだ。魔物である彼らと交流が図られれば、これは画期的な出来事だぞ。帝国の歴史上初めてのことだからな」

「そうですね。そして、世界に対しても帝国は平和国家としてのアピールができますし、リーダーとしての地位を盤石なものにできる」

「そういうことだ。おっ、来たぞ」


 ヴァルターたちが見ていると、ユウキとポポに連れられてアモスとガンツ、サクヤが歩いてきた。ユウキが3人を紹介するとアモスが代表して歓迎の意を表した。


『帝国の方々、この辺鄙な場所までよくぞ来てくださった。ワシらは貴殿たちを歓迎しまずぞ。今日はお疲れでしょう、詳しい話は明日することにして、歓迎会を開催したいと思いますじゃ』

『皆さん、どうぞこちらに…。ほら、アンタ、皆様の荷物をお持ちして!』

『お、おう』


「うーむ、奥さんの尻に敷かれるのは人もオーガも変わんないな」

 国務省職員の呟きに、ガンツは少々バツが悪そうな表情をし、『あいつは気が強くてなあ…』とぼやき、職員たちを笑わせるのであった。


 到着した日の夕方、里の中庭を会場として盛大に歓迎会が催された。サクヤやカグヤといった女たちの心づくしの料理と男たちが狩ってきた鹿の丸焼きを食べ、地酒を飲んで酔っぱらう。子供たちは篝火の周りで歌って踊り、場を楽しませる。ヴァルターもガンツと意気投合し、ぐびぐび酒を飲んで、肩を叩き合って大笑いしている。


『なんだぁ、あんたも女で苦労してんのか!』

「そうなんだ。ちょっとユウキ君と遊んだだけなのに、色々噂を立てられ、振り回され、挙句に職場の女子たちに総スカンされ…。オレが一体何したっていうんだよ!!」

『わーははは! 飲め飲め、飲んで忘れちまえ!』


『あの…、これいかがですか? 私が作ったものなんですけど…』

「ありがとうございます。えーと…」

『カグヤといいます。この子は娘のテッサです』

「私は国務省の職員で、エルザといいます。料理、いただきますね。んっ! 美味しい!」


 美味しいと言われて優し気な笑顔を浮かべて照れるカグヤを見て、エルザは今まで自分が抱いていた魔物とは一線を画すこの里のオーガたちに興味を抱くとともに、もしかしたら人の世界に溶け込むことも可能なのではと思うのであった。


 歓迎会の喧噪から少し離れた場所で、子供たちと歓声を上げて走り回っているポポを眺めていたユウキのもとにアモスとサクヤが料理と酒を持ってやってきた。


「長老さん」

『ユウキ殿。約束を守ってくれてありがとう。人との交流はワシらの宿願だったのじゃ。これでやっと願いが叶う』


「これからが大変ですよ。何せ人とオーガの交流は初めてのこと。様々な困難が待ち受けているかもしれません。でも、ヴァルター様ならこの里の良さを守りながら、少しづつ人との交流に慣れていくような施策をとってくれると思います。なんせ、この里は帝国ナンバー2の実力者、宰相ヴィルヘルム様直接の管理下に置かれますからね」


『困難は覚悟の上よ。でも見てユウキさん。あなたが案内してきた方たちと里の者たち、とても楽しそうだわ。これなら何とかいけるんじゃないかしら。それにしても…、ガンツのやつ、調子に乗って、もう』


「あはは…」


 夜更けになっても、山間の小さな里に響き渡る楽しそうな歓声はいつまでも尽きることはなかった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 翌日、オーガの里に残るヴァルターたちと別れ、ユウキとポポは帝国の南方街道をゆっくりとスバルーバル方向に進んでいた。


(昨晩は楽しかったなあ…。ふふ、ポポったら寝ちゃってる)


 里で開催された歓迎会で目一杯はしゃいだポポは、疲れが残っているのか荷台に毛布を敷いて横になっていた。


(長老様と話した後に、ガンツさんから逃げてきたヴァルター様と2人でお酒飲んでいっぱいお話ししちゃったな。ホント楽しかった。ヴァルター様ともしばらくお別れ…。少し…、ううん、かなり寂しいな…。旅先でお手紙書こうっと)


 進むにつれ、街道脇に広がっていた麦畑や野菜畑に変わり、広大な牧草地になって、所々に牛が群れを成していて、のんびりと牧草を食べている。どこまでも広がる青い空は高く、うろこ雲が広がり、秋の空の様相を呈している。頬を撫でる風も爽やかで、とても気持ちいい。


 オーガの里を出発して数時間。太陽も天頂に差し掛かり、お腹も空いてきた。ユウキはどこか休憩できる場所がないかとあたりを見回すと、街道から少し離れた場所に小さな川が流れていて、川辺りに休憩できそうな場所を見つけた。ユウキはポポに声をかけて起こし、少し休憩することを伝えた。


 馬を止めて水と塩を与えた後、マジックポーチからシートを取り出して広げて座り、パンと果物のジャムで昼食を摂る。その後、加熱の魔道具で沸かしたお湯でお茶を淹れた。周囲は静かで、聞こえるのは小川を流れる水の音と、何種類かの鳥の声。とても落ち着く時間だ。


「ユウキ、スバルーバルまで、あと、どの位なのです?」

 ポポがお茶をフーフーしながら聞いてきた。


「地図を見ると国境までもうすぐだよ。一体どんな国なんだろうね。楽しみだよ」


 1時間ほど休憩してユウキは馬車を出発させた。ポポと楽しくおしゃべりしながら流れゆく景色を見ていると、帝国軍の国境警備隊の駐屯地と旅人向けの宿屋が見えてきた。そして、その向こうに大きな国境の門が姿を現した。いよいよ新たな国に足を踏み入れる。ユウキは期待に胸を膨らませるのであった。

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