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第323話 大冒険の顛末

「当初の予定は3泊4日の薬草採取の護衛だったはずだが。お前、出かけてからどのくらい経過したと思う?」


 オーウェンが厳しい表情で聞いてきた。その隣ではリサがグスグスとべそをかき始めた。


「えっと…2週間くらい…」

「そうだ、良くわかっているじゃねえか。目的地も分からんし、途中で連絡もよこさねえ。オレたちがどれだけ心配したと思っているんだ。この…、大バカ野郎! リサはここ数日、ずうっと泣きっぱなしだったんだぞ!」


「ご、ごめんなさい…」

「あの…、あたしが悪いんです! ユウキちゃんに無理言って、ヴェルゼン山にアルラウネの花を探しに行こうって無理にお願いしたんです」


 リリアンナがすかさずフォローを入れる。ヴェルゼン山と聞いてオーウェンたちは、そんな場所まで行っていたのかと驚いた。


「ヴェルゼン山か…。そんな遠くまで行ってきたのか」

「はい、ヴァルター様。そこに行く過程で色々ありまして…」


 ユウキとリリアンナは、ヴェルゼン山へ行く過程の様々な出来事を掻い摘んで話して聞かせた。オーガの里での精霊少女の病気治療、廃村での怪物退治、アルラウネとの出会いとゴブリン退治…。


「ふむ…。確かリリアンナさんは病気で苦しむ人たちを助けたくて、安くてよく効く薬開発のため、アルラウネの花を求めたとユウキ君から聞いたが…」

「は、はい、宰相閣下」

「で、アルラウネの花は手に入れられたのかね?」


「ヴィルヘルム様、オーウェンさん。そのことですが、まずはこの子たちに会ってください。話はそれからでいいですか」


 ユウキはそう言うと、荷馬車の最後部の幌を上げて2人の女の子を降ろした。最初に降りてきたのは13~14歳位の女の子。少しくせっ毛気味の美しい金髪。白い肌に整った顔立ちをしており、耳がエルフのように三角形をしているのが特徴の少女。もう1人は先に降りた女の子より少し背が高く、赤銅色をした肌をし、背中まで伸ばした美しい銀髪をリボンでまとめた超絶美少女だった。


「この子はポポ。パノティア島の奥地、精霊の里出身の精霊族の女の子です」

「ポポと言うです」


「そして、この子はナズナちゃん。オーガの里出身で、リリアンナの弟子のアレク君に一目惚れして付いてきたアグレッシブな女の子です」

「ナズナと言います。角はないけど、オーグリスです」


 精霊族とオーグリスの女の子の登場にその場の全員が目を見張る。特にイレーネは目をキラキラさせてポポを見ている。しかし、真に驚くのはこれからだった。


 ユウキは荷馬車の中に合図を送ると、3体の魔物が降りてきた。その姿にヴィルヘルムやヴァルター、オーウェンまで度肝を抜かれ、固まってしまった。現れたのは植物系魔物の中でも最上位に位置し、滅多に人目に触れることがない、いわばおとぎ話の中でしか出てこないような魔物のアルラウネだった。その事実に流石のヴィルヘルムも驚愕した。最初にユウキの話を聞いた時には、本気でアルラウネに遭遇するとは思っていなかったのだ。ましてや花を手に入れるなどとは…。しかし、そのアルラウネが目の前にいる。しかも3体も。


「ユ、ユウキ君…。これは…、一体どういう…」

「ユウキ、オレは夢を見ているのか?」


 ヴィルヘルムとオーウェンが信じられないといったように聞いてきたが、ユウキは本物のアルラウネであることを告げ、3姉妹を紹介した。


「アルラウネのアルフィーネ、ルピナス、メリーベルです」

『初めまして、宰相殿。アルフィーネです』


「ヴィルヘルム様、オーウェンさん。経過を詳しく話します。その上でお願いしたいことがあります。ですから、場所を替えませんか? 出来ればアルフィーネたちに負担がかからない場所がいいんですけど」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ユウキの提案を受け、一行は中庭のオープンテラスに移動した。中庭といってもかなりの広さがあり、四季折々の草花や果樹等が植えられていて、専門の庭師によって手入れが行き届いている。今は晩夏から初秋にかけての色鮮やかな花がたくさん咲いていた。アルフィーネ姉妹は中庭の緑に触れて落ち着いたのか、中庭を渡るそよ風に当たって、気持ちよさそうにしている。


「では、詳しい話を聞かせてもらおうか」


 テーブル席に着くと、イレーネがリサに手伝ってもらい、全員に紅茶を淹れ、お菓子が入った大皿を置いた。ポポとナズナが甘いお菓子を食べて笑顔になったのを見て、ヴィルヘルムが詳しい話を聞かせるよう、切り出してきた。


「はい、その前に…」


 ユウキは、ギルドから指名されたリリアンナの薬草採取護衛の依頼を受け、アルラウネの花を探しに行くところまでは出発前に話していたとおりだが、目的地がヴェルゼン山であった事について言及しなかったのは大変申し訳なかったと、全員に謝罪した。


「その事はもういい。今後気をつけろ。本題に入れ」

「ごめんなさい、オーウェンさん。なぜ、こんなに期間がかかった事についてですが…」


 ユウキは酷い熱病に侵されたポポを助けるため、オーガの里に向かったところから特効薬のキナキナの木探し、魔人との遭遇と戦闘、ヴェルゼン山麓の集落は廃村だったこと。そこに現れた村人と思われる屍人や名もなき怪物との戦闘、ヴェルゼン山の花畑でのアルフィーネとの出会いと彼女らの生存を脅かすゴブリンの討伐について、時折、リリアンナのフォローを受けつつ、できるだけ詳しく時系列的に話した。


 ただの薬草探しと思っていたオーウェンとリサは、思いもかけない大冒険の話に言葉も出ず、只々驚くだけだった。特に、オーガの里で保護されていたポポがマラリヤという聞いたこともない熱病に罹患していたこと、特効薬の原料であるキナキナの木の皮を採取中に「魔人」と遭遇し、戦闘になった事を聞いたヴィルヘルムは難しい顔をして考え込んでいる。


「魔人…。ユウキ君と戦った敵は本当に自らを魔人と言ったのかね?」

「はい。彼は自分をヘルゲストと名乗っていました」

「ヘルゲスト…」

「ヴィルヘルム様?」

「いや、何でもない」


「あと、わたしたちがお世話になった里のオーガたちは、本当に心優しい方たちでした。そして彼らは人との交流を望んでいました。今回の件でリリアンナの知識と技術を見て、その思いを強くしたようです。長老さんは税も収めるので、帝国の庇護下に入る事は出来ないかと話していました。ナズナちゃんはその里の出身です。彼女を見れば危険な存在でないことが分かると思います。わたしは彼らの希望を叶えてあげたい」


「ふむ…。とても興味深い話だな。その件は宰相府で引き取って検討してみよう。大丈夫、悪いようにはしないつもりだ」

「はい! お願いします!!」


「オレは廃村の話が気になるな。名もなき怪物ってなんだ?」

「それはですね、何と言いますか…。とても不気味なヤツでして、アース君が言うには古代魔法文明が生み出した生物兵器じゃないかと…」


 ユウキがその姿形と、不浄の体液で生物を腐らせ、驚異の再生力で死なせず、屍人化させるという話をすると、その場の全員が恐怖と悍ましさに背筋を凍り付かせるのであった。それが、山間の集落の人々を屍人化させた原因であり、一層恐怖を増長させるのであった。


「何故、こんなに時間が掛かったは、大体わかった」

「うむ…。それでユウキ君、彼女たちをどうするつもりなのだ?」


 ヴィルヘルムがアルフィーネ姉妹を見て、これからのことを聞いてきた。ユウキはいよいよ来たかと、心を落ち着かせる。上手くいけばリリアンナの夢も叶い、帝国の人々…、いや、この大陸の人々の病気で苦しむ人々が薬を入手しやすくなる。結果、愛する人を失い悲しむ人が減るかもしれない。対価とは言え、リリアンナの想いに答えるため、ここまで来たアルフィーネ姉妹の気持ちも大切にしなければならない。ユウキは自分の考えを言葉にした…。


「聞いてください。全ての病気を癒すといわれるエリクサー。その原料となるアルラウネの花ですが、それを採取するためには、アルラウネの命を奪うことになる。心優しい彼女たちを殺してまで花びらを得るなんて、とてもそんなむごいことはことは出来ません」


「でも、アルラウネには特殊な能力があって、草木や花々の生命力を活性化させ、生長を促進させるとともに、有効成分を高める能力があり、また、アルラウネの種から咲く花には本体の花びらと同じ生命の力を有するのだそうです」


「そこで、ヴィルヘルム様にお願いがあります。ヴィルヘルム様の領地で人里離れ、水が豊富で緑豊かな場所はないでしょうか? そこに薬草農園を作ってルピナスとメリーベルに管理させたいのです。そうすれば、薬効高い薬草を安定的に入手できますし、アルラウネの花も入手できると思うんです」


「ふむ…。だが、管理はどうするのだ?」

「それは大丈夫です。農園の管理はリリアンナとアレク君、ナズナちゃんに行ってもらいます」


「え! あたしが!?」

「うん。リリアンナにとって悪くない話だと思うよ。不自由なく薬草を入手できるし、創薬の研究もできる。どう?」

「ポポも良い話だと思うのです。リリアンナの薬は副作用が強すぎて話にならないのです。じっくり研究して良い薬を作ってもらいたいのです。魔力回復薬を飲んでおなかを壊したユウキの凄まじい下痢便排泄音と放屁の轟音は、今でも耳の奥に残っているです」


「ユウキ…君の、排泄音…。オナラ…」

 ヴァルターは心の中で抱いていた美少女の幻想がガラガラと崩れるような気がした。


「ポ、ポポ! 何てこと言うのよ!」

「事実です。ポポは正直者なのです」


「ポポだって、リリアンナ特製の熱さましを飲んだら、噴水のようにおしっこが止まらなくなって、カグヤさんが必死におまるを交換してたんだからね!」

「そ、それは知らなかったのです。猛烈に恥ずかしい…、なのです」


「一体、どうやったらそんな強烈な副作用が出るのだ?」

「逆に興味がでるな…」


 真っ赤になって俯くユウキともじもじしながら身を捩らせるポポを見ながら、ヴィルヘルムとオーウェンがこそこそと話す。だが、ユウキの話は真面目に考えると、とても魅力的だとヴィルヘルムは思った。様々な症状に対応した薬を、大衆薬として求めやすい価格で普及させ、国民の健康を守ろうと考えるフリードリヒ皇帝の考えにも合致するし、何より自身もそうしたいと考えている。アルラウネの力を得られれば実現も可能だろう。創薬ギルドのように、金儲けのために独占してよいものではないのだ。


「ユウキ君、以前君を案内したあの別荘地はどうだろう。あそこは自然豊かで湖もあり、水も豊富だ。そこに農園を作るとともに、建物を創薬研究所として改修して使用すればいい。リリアンナさんにはそこの所長に就任してもらおう。創薬研究所は宰相府直属の施設とし、給料も払う。必要な人員も提供しよう。それと帝国軍から警備兵も派遣させよう。どうかな? これなら、ルピナスとメリーベルを人目から避けることもできると思うが」


「あの別荘地ですか。確かにあそこはいいと思います。どうリリアンナ。いい話だと思うけど…。リリアンナ?」

「あた、あた、あたしが創薬研究所の所長…。夢じゃないよね…。う、うれしい。思う存分創薬の研究ができて、毎月お給料ももらえる…。もう生きるために雑草を集めなくてもいいんだ。小銭を拾うために地面を這いつくばらなくてもいいんだ。ダンゴ虫を集めなくても済むんだ! やったー! 宰相様、ぜひお願いします。あたし、精一杯頑張ります! うれしー、アレク、ナズナちゃん。やったよー!」


 嬉しさでぴょんぴょん飛び跳ねるリリアンナを見て、ユウキも嬉しくなった。そのユウキにリサが近づいてきて、きゅっと抱きしめる。


「ユウキさん、あんまり無茶してはだめですよ。本気で心配したんですからね」

「はい…。ごめんなさい、リサさん」


 一通りの説明と今後のことが決まり、ユウキがリリアンナとアレク、ナズナを連れてアルラウネ姉妹の元に行き、ポポがイレーネとリサに捕まって色々と質問されている。そこから少し離れた場所でヴィルヘルムがオーウェンにそっと耳打ちした。


「オーウェン殿、魔人のことだが…」

「ああ、俺の子飼いに腕利きのスカウトがいる。そいつに探らせよう」

「頼む。私からの個人的な依頼にしてもらいたい」


 オーウェンは頷くと、リサに声をかけてギルドに戻っていった。ヴィルヘルムは次いでヴァルター呼ぶと、オーガの里に向かい、実態の調査と里を村に昇格させ、自治を認めて帝国の庇護下に置くよう指示した。


 ヴィルヘルムとヴァルターが具体的な内容について、話をしているとユウキがやってきて黄金色をした粘度の高い液体が入った2本の瓶を渡してきた。


「ユウキ君、これは?」

「はい、アルラウネの糖蜜です。とても甘くて滋養があるんだそうですよ。とても貴重なものだそうです。ヴィルヘルム様のはアルフィーネから、ヴァルター様のはルピナスからで、お2人へのお礼だそうです」

「ほう。それは嬉しいな」


「アルラウネの糖蜜はですね、おっぱいの先から出るんですよ。男の人ってこういうの好きでしょ。にやにや…」


 ピクッと反応した2人に、イレーネの冷たい視線が突き刺さった。

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