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第322話 アルフィーネの提案

「リリアンナ、アレク、ナズナちゃん。全て終わったよ。後は花を分けて貰えれば依頼も達成だね」

「ユウキちゃん、お帰り。そしてご苦労様。じゃあ、アルフィーネちゃん、約束通り花びらを分けてくれないかな」


 リリアンナたちの元に戻ったユウキは全ての任務が終了したことを報告し、リリアンナもそれを受け入れて依頼達成の意を表した。そして、ゴブリン退治の対価として花びらを分けてくれるようお願いした。しかし、アルフィーネの表情が曇り、少し様子がおかしい。


「ん? どうしたの?」

『花びらを分けることは…、できません…』


「どうして? 約束が違うじゃない」

『アルラウネの花びらは、生存に必要な魔力の根源なんです。1枚でも失うとわたしたちは死んでしまう…』


「じゃあ、さっきは何故、対価として承諾したの? わたしたちを騙したの?」

「花びらを貰えないって…。苦労してここまで来たのに…」

「師匠…」


 リリアンナとアレクはがっくりと肩を落とす。ユウキは2人の落胆した顔を見て、可哀想になった。人々のため、もっと安く薬を手に入れられるようにアルラウネの花を求めようとしたリリアンナ。金持ちになりたい、貧乏暮らしから抜け出したいという欲望もありはしたが、根底には人々の役に立ちたい、病気で苦しむ人や薬が手に入れられず、大切な人を失い、悲しむ人を減らしたいという想いがあった。その想いに共感したからこそ、ユウキも依頼を引き受けたのだ。リサから塩漬け依頼を押し付けられたという面もあるが…。ユウキはリリアンナの願いを叶えるため、アルフィーネに対価を求める。


「アルフィーネ、申し訳ないけど対価はいただくよ。他にリリアンナに提供できる物はないの?」


『その事ですが、リリアンナ様の薬草作りにわたしの妹たちを協力させます』

「え? どゆこと?」


 アルフィーネが言うには、アルラウネはもともと草木や花々の生命力を活性化させ、生長を促進させるとともに、有効成分を高める能力があるのだという。また、アルラウネの種から咲く花には本体の花びらと同じ生命の力を有するとのこと。ここのお花畑も元はアルラウネが増やしていったもので、この花を取り込む(食べる)ことによってアルラウネはその能力を最大に発揮できるのだという。


『ただ、このお花は蜜が豊富に含まれてまして、花を取り込むと蜜が、その…む、胸の先から溢れ出てきちゃうんです。しかも、蜜は動物にとって、とても甘くて美味しいものらしく、常に狙われてしまって…』


「うむむ…。エッチだ…」

「でも、いいの? リリアンナに協力させるっていうことは、帝都に行くって事だよ。それに、このお花畑や森はどうするの?」


『協力させるのはこの2人です。後の姉妹たちは引き続きこの一帯を守ります』

『さ、妹たち、こちらに来て挨拶を』


 10体ほど集まっていたアルラウネの中から2体がユウキたちの元にやって来た。2体ともアルフィーネによく似た巨乳美人で、何となくナズナとポポが羨ましそうに、胸に視線を向けている。そんなポポにエドモンズ三世がそっと声をかけた。


『ポポたんのおっぱいは永遠の微乳系じゃ。それ以上はいくら願っても大きくならん。でも、それもまたよし。ポポたんには貧乳がよく似合う。世の中にはボーイッシュなボディを好むマニアック系の輩も多いでな。儂は思春期巨乳美少女が大好きじゃがな』

「この、クソ骸骨が! いっぺん、死んでみるかなのです」

『わっはっは。もう死んどるわい』


 騒ぐポポとエドモンズ三世、それを呆れたように見るアース君を他所に、アルフィーネの妹たちが自己紹介してきた。


『ルピナスよ。ゴブリンを倒してくれてありがとう。精一杯協力するわ』

『メリーベルです。よろしく…』


 ルピナスは癖のある髪をショートにまとめ、メリーベルは長い髪を三つ編みにして体の前に垂らしている。2体とも艶やかな色違いの花の髪飾りを着け、よく似合っている。


「でも、ルピナスちゃんとメリーベルちゃんを帝都に連れてったら、大騒ぎになっちゃうね。どうしようか…。オーガの里に移住してもよいけど、資材が手に入りにくくなっちゃうな…。ユウキちゃん、いいアイデアない?」


 リリアンナが困ったようにユウキに尋ねる。ユウキは少し思案すると「大丈夫、任せて」と言い、ぐっと力こぶを作ってみせるのであった。


「おっと、そういえば、ルピナスとメリーベルは帝都に来て、他の姉妹はこの一帯を守護するんだよね。アルフィーネはどうするの?」


 思い出したようにユウキが聞いてくる。アルフィーネはユウキの目をじっと見て、思いがけないことをお願いしてきた。


『ユウキは旅をしているそうですね。自分の居場所を探す旅を。エロスケベさんから聞きました』


『エロモンだったり、エロスケベと言われたり…。儂の名前はエドモンズだと言うに』

「でも、その通りなのです」

『ポポたんのいじめっ子!』

「キモイです」


「う、うん。そうだけど…」

『その旅に、わたしも同行させてください。ユウキの従魔になりたいです』

「ええ~、な、なんでそうなるの。理由はあるの?」 


『理由は…。ポポたんと同じです』

「ついに、アルフィーネもポポたん呼びですか…」


『わたしたちはこのヴェルゼン山の森しか知らない。でも、世界は広いと聞きます。その広い世界をわたしは見てみたい。こんなことを言うと姉妹たちに呆れられるのですが、やっぱり、その想いは捨てられなくて…。それに、わたしもエロスケベさんやアース君と一緒にユウキさんの旅を手助けし、幸せになったところを見届けたい。それがゴブリンから助けていただいた、わたしのお礼…。対価です』


『ユウキ、アルフィーネなら大丈夫だ。我と一緒にペンデレートに入ってもらえばいい。あのペンデレートはそれだけの能力がある』

「アース君…。わかった。アルフィーネ、これからよろしくね」


『はい! ありがとう、ユウキさん』

「ユウキでいいよ。これからはわたしたち、お友達だからね!」

『お友達…ですか。なんて心に響く言葉なのでしょう』


(この大陸は不思議だな。ロディニアの魔物は人間を酷く憎み、敵対していたけど、ラミディアでは敵対している魔物もいるど、話が通じ、人と同じような想いを持つ魔物もいる。何故なのかな? 古代文明が関係しているのかな…。いつか、その秘密が分かればいいけど…)


 感動した面持ちで姉妹たちと話すアルフィーネを見て、ユウキは不思議に感じる同時に、人や魔物が共存できる世界というものを見てみたいとも思うのであった。


(ただ、ゴブリンだけは絶対に許さないけどね)


「さあ、帝都に向けてしゅっぱーつ!」

「おー!!」


 リリアンナが元気よく掛け声をかけ、全員で気勢を上げる。そして、見送るアルラウネたちに別れを告げて、山を降りるのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ヴェルゼン山を下山し、途中荷馬車を回収してアルフィーネたちを載せ、一度オーガの里に向かった。そこで休養がてら1泊させてもらう。オーガの長老やサクヤ、何故か顔をぼこぼこに腫らしたガンツたちはアルフィーネたちを見て非常に驚いたが、直ぐに打ち解けると、歓迎の宴会を開いてくれた。


 翌日、里のオーガたちに手伝ってもらい、荷馬車の幌を改修して外から見えないように覆った。作業が終わり、改めて里のみんなにお礼を言って帝都に向けて出発したユウキたちは、アルフィーネたちに人の世界のことを色々と話して聞かせ、途中、一晩野宿して街道を北に進む。幌の隙間から街道を覗いたルピナスとメリーベルは、行きかう人や獣人、エルフやドワーフ等の亜人が多いのに驚いている。


「この程度で驚いていたら、帝都を見たらショック死しちゃうよ。にひひ…」


 リリアンナが帝都の大きさを多少誇張しながら話すが、森や花畑しか見たことないアルラウネたちは想像することすら困難なようで、きょとんとして話を聞くのだった。ついでにナズナもきょとんとしている。


 半日ほど馬車を走らせると、街道脇の風景が広大な畑作地帯から街路樹が並び住宅地が並ぶ風景に変化してきた。また、主街道から枝分かれして各地に向かう市道も増え、帝都の中心街と郊外を結ぶ循環馬車が多く走っている。さらにしばらく進むと巨大な帝都の南門が見えてきた。門では大勢の人が出入りしている。

 ユウキは馬車を門に向けて進めると、門脇の警備員詰所から帝国内務省憲兵隊の係官が出てきて馬車を止めた。


「あの、何か…」


 ユウキが何事かと聞くと、係官は素性を確認したいと言う。ユウキと一緒に御者台に座っていたポポが不安そうにしている。荷台に隠れているリリアンナたちやアルフィーネ姉妹が緊張しているのが感じられる。ここは、冷静に対処しないと返って怪しまれると思ったユウキは、胸元から冒険者登録証を出して係官に見せた。


「名前はユウキ・タカシナで間違いないね」

「そうです。間違いありません」


「実は、君が受けた依頼が終了する予定の日を過ぎても帰ってこないと、宰相閣下から憲兵隊に話があってね、捜索…というほどでもないが、冒険者姿をした女性に確認を行っていたんだよ」

「え…。そうだったんですか(しまった~。やっぱり怒ってるかもぉ~)」


「それと、西部ギルドの「荒鷲」でも騒ぎになってるようだぞ。君、どんだけ大物なんだい。それはそうと、君が戻ってきたら、まっすぐ閣下のお屋敷に来るようにとの事だ。直ぐ行ったほうがいい。宰相閣下にはこちらから連絡しておく」


「わ、わかりました。あの、申し訳ないですけど、西部ギルドのマスターにも連絡してもらえませんか? 宰相閣下のお屋敷に来てくれるよう話してほしいんです」

「了解だ。しかし、あまり人に心配を掛けるもんじゃないぞ。君みたいな美人さんは、特にな」


 係官はそう言うと詰所に戻って行った。ユウキはリリアンナにこのまま宰相様の邸宅に向かうことを話す。


「ウソでしょ。あたしたちみたいな平民中の平民が行っていい場所じゃないし、口さえ聞きいて良い人じゃないよ。緊張しておしっこ漏らしちゃうかも…」

「リリアンナは、膀胱が緩すぎるのです」

「師匠はもう少し威厳を持ったほうがいいですね。あと、漏らしたパンツは自分で洗濯してくださいよ。僕はイヤですからね」

「えっ、師匠ってパンツをアレク君に洗わせているんですか。ヤダ、最低です! アレク君が洗っていいのは私のパンツだけです。私のパンツをアレク君がクンカクンカする…。ああ、幸せ…」

「ナズナの性癖も最悪なのです。アレクの将来が心配なのです」


「うう、子供たちが厳しい…。特にポポたん…」

「あはは、宰相様の邸宅に行くのは好都合だよ。帝都でのルピナスとメリーベルの処遇に宰相様の力を借りようと思っていたから。実はリリアンナの事も宰相様に話したら興味を持たれたみたいでね、会っておいて損はないよ」


「!? ユ、ユウキちゃんって、いったい何者なの。貴族様?」

「違うよ。宰相様のご令嬢とお友達なの。それで懇意にしてもらっているんだ」

「そうなんだ。ビックリしたよ」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 帝都の大通りをゆっくりと馬車を進める。幌の隙間から覗き見る高層建築、華やかな商店街と行き交う大勢の人々。リリアンナが言った通りアルフィーネ姉妹とナズナは圧倒されて言葉を失っていた。

 ユウキは馬車を高級住宅街のほうに向ける。貴族の屋敷が立ち並ぶ住宅街は閑静な雰囲気で、広い道路脇の緑豊かな街路樹や公園、お屋敷の工夫を凝らした庭園に花々が美しく咲いている。


『ここは緑が多くて、落ち着きます』

「よかった。さあ、もう間もなくだよ」


 綺麗な石壁の塀に設けられた豪華な門の前に馬車を止め、警備兵に名前を告げると門が開けられた。ユウキは馬車を中に入れて大きなお屋敷の玄関の前に止めた。

 玄関の前には宰相ヴィルヘルムを始め、ヴァルターとイレーネ親子のほか、オーウェンとリサが怒気を孕んだ笑顔で待ち構えていたのであった。


「えっと、ただいま…です」

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