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第314話 ポポの決心

 ポポが目覚めて3日が経った。その間1日3回欠かさず薬を飲んで、すっかり体調は元通りになり、食欲も出て普通に動けるようになった。ポポが元気になった事でリリアンナとアレクはオーガたちにすっかり感謝され、ユウキもサクヤたちと仲良くなった。


 リリアンナが言うにはオーガの里周辺は様々な薬草の宝庫であったらしく、アレクと一緒にせっせと採集に勤しんでいて、アレクと仲良くなったテッサを始めとする子供たちも遊び感覚で手伝っていて微笑ましい。また、キニーネを始めとして、風邪や腹痛、傷薬などいくつかの薬を調合して寄付し、アモスやガンツに大いに喜ばれた。その際、ユウキはリリアンナの薬にはとんでもない副作用があるからと注意することも忘れなかった。


 そろそろ当初の目的のため出発しようかとリリアンナと話していたユウキは、ある事を告げた。


「リリアンナ。わたしとの契約だけど、当初の1週間は過ぎたよ。どうする? 延長するなら1日当たり銀貨2枚いただくよ」

「うぐ…。まだ目的地にも行ってないし、アルラウネは何としても見つけたい…。里で集めた薬草を帝都で売ればなんとかなるか…」


「え…、延長します。目的達成までしくよろ…」

「ハーイ、契約成立だね。まいどー」


 方針が決まった事で早速明日発つ事に決め、世話になっているアモスとガンツにその事を告げると、非常に残念がってくれた。


『まあ、あんた方も旅の途中で我々のお願いを聞いてくれたんだ。本当ならいつまでも逗留してもらいたいが、そうもいかんだろうて』

『オヤジ殿、今夜はパーッと送別会するか!』

『おお、いいのう。皆の衆に声をかけて盛大にやろうぞ』

『そうとなれば…。おい! サクヤ、サクヤはいるかぁー!』


 ドタタタとガンツは慌ただしく出かけて行った。ユウキとリリアンナも準備をするため、席を立った時、柱の陰からポポがじっとユウキを見ているのに気づいた。


「あれ、ポポどうしたの?」

「……………」


 ユウキが声をかけるとポポはパタパタと走り去ってしまった。その後も建物の陰から覗いていたり、子供たちと遊んでいても、ユウキが通りかかるとじっと見て来たりするので、気になってしょうがない。


(気になるなあ、もう)


 ポポが子供たちの遊びの輪から離れて里外れの大きなオレンジの木の下に移動し、幹に背中を預けて何か考え込んでいる。ポポが1人になったのを見ていたユウキは、アモスの家の裏側からオレンジの木に隠れながら、足音を殺してこっそりと近づいて行った。そして、ポポに気付かれず、彼女が寄りかかっている木に到着すると…。


「わーっ!」

「ふぎゃああああ!」


 急に背後から脅かされてビックリしたポポは、大きな悲鳴を上げてぴょんと飛び上がり、地面にべたんと座り落ちて、脅かした相手を涙目で見る。


「あははっ、ビックリした? ごめんねぇ」

「はうあうあう…。心臓が止まるかと思ったです。酷いです。グス…」


「ゴメンゴメン、だってさ、ポポがとーっても物憂げな顔をしていたから、ちょっとびっくりさせてやろうと思ってね」

「む~、性格悪いです…」


 むくれたポポがダンマリになったので、ユウキはマジックポーチからシートを取り出して広げ、そこに座るよう指さした。ポポが靴を脱いでのそのそとシートの上に上がり、体育座りをする。ユウキは、鉄の槍を出してオレンジの実を何個か切り取った。

 取ったオレンジをハンカチで綺麗に拭いて、ミスリルダガーで皮を剥き、半分こにして1つをポポに差し出す。


「美味しそうだよ。食べてみよう」

「おっ、甘くて美味しい」


 ポポもオレンジを食べる。甘くて美味しかったのか、パッと目を輝かせてあっという間に全部食べた。ユウキはもう1個皮を剥いて、今度は丸ごとポポにあげた。オレンジを美味しそうに食べるポポを見ながら、ユウキは何故自分を追いかけるのか聞いてみた。


「ねえ、今日ずーっと、わたしのこと追っかけていたようだけど、何か話があっての事なの? どうしたら胸が大きくなるか…とかかな? それとも可愛いの秘訣とか?」


「違うです…。ポポのちっぱいも可愛いですし、無駄におっきいのもどうかと思うです」

「あっそう」


「あの…、あのですね。ユウキたちは明日には出発するのですよね」

「うん、そうだけど」


「お、お願いがあるです! ポポも連れてってほしいです。ユウキについて行きたいです。お願いしますです!」

「と、突然言われても困るよ。何か理由があるの? 理由聞かせて」


「理由ですか…。理由は特にない…です」

「え?」


「パノティア島って知ってますか?」

「うん。何でも帝国管理の小さな港町があるだけで、全体が深い森に覆われた大きな島でしょう。奥地には精霊が棲むと言われ、入った者は生きて出られないという…」


「半分当たって、半分間違いです」

「どういう事?」


「パノティア島の奥にはポポたち精霊族が住む村があるです。精霊族は自然と共存し、精霊の加護を受け、その力を行使して生きる人々。全ての存在、事象に宿る精霊様の愛を受けて森を守る守り人なのです。なので、自然を利用し、時には破壊する人族とは決して相容れない種族なのです。島の奥に足を踏み入れた人族は、ポポたち精霊族が精霊様の力で惑わせ、出られないようにしているです」


「……………」


「精霊族は、生涯森から出る事を許されません。でも、ある日、ポポは森で惑わされ、倒れていた人族の男の人を見つけました。その人は死ぬ前にポポにこの手帳を渡したです」


 ポポはショートパンツのポケットから1冊の手帳を出してユウキに渡した。パラパラと開いてみると手書きの旅行記のようであった。


「男の人は死ぬ前に、自分が旅をした場所を記した旅行記で、まだ未完成だと言いましたです。よかったら、その続きを書き記してくれとも…」

「ポポは、人族の文字はわかりません。でも、この冊子を見ていると凄く心が掻き毟られる感じがして、外の世界を見てみたいと思うようになったです。でも、じい様やばあ様は人族の世界は恐ろしい場所だと言って、里から出るのを許してくれません」

「だから、ポポは1人で精霊族の里を抜け出しました。里にいただけでは分からない「世界」というものを見たかったから…」


「どうやってパノティア島からラミディア大陸に来たの?」


「ガルーダに乗せてもらいましたです」

「ガルーダ?」


「はい。精霊の里の周辺に住む大きな鳥です。ポポの10人分は大きいです。ガルーダにお願いして海を越えました。でも、海を越えた所で真っ赤っかの髪をした女の子が突然「ひゃっはー」とか言いながら襲い掛かって来て、ガルーダ、殺されちゃったです。ガルーダが最後の力でポポを山の中に降ろしてくれて、何とかここまで歩いて来たところで、この里の人たちに助けてもらいました」


(ラデュレーにやられたのか…。そう言えば、アイツらの死体もなかったな…)


「事情はわかった。ポポが精霊の里で聞いた通り、人の世界は美しい事もあれば残酷な事も、辛いこともある。命のやり取りも多い。それでも世界を旅したいの? 少なくてもこのオーガの里にいれば、幸せに暮らせるよ」


「ここの人たちはポポに優しくしてくれます。でも、ポポは世界を見たい。旅をしたいです。ユウキは自分の居場所を探すため旅をしているのでしょう。ユウキには闇の精霊が付いています。精霊が教えてくれたです。お願いします。ポポを連れてってください」


「闇の精霊。そんなものがわたしに…」


 ポポがユウキの手を握って、精一杯懇願してくる。ユウキの旅は決して楽しい事ばかりじゃない。辛く悲しい出来事も多い。ポポに耐えられるかどうか…。迷うユウキにエドモンズ三世とアース君が声をかけて来た。


『ユウキよ、連れて行け。ポポたんはお前の旅の心強い味方となる。そんな気がする』

『主。我からもお願いする。ポポたんは我が守る』


(ポポたんって…)


「わかった。ポポ、わたしと旅しよう。何があっても全力で守ってあげる」

「ホントですか。嬉しいです!」

「でも、アモスさんやサクヤさん、里のみんなにはポポからキチンと話すんだよ。それが出来なきゃ連れて行けない」


「わかった…です」


(精霊族の少女、ポポか。また変わった子が仲間になったね。皇帝陛下やヴィルヘルム様が喜びそうだなあ。ま、なるようになるか…)


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 夕方になり、送別会の準備が出来たとリリアンナとアレク、ユウキの3人は里の広場に設置された篝火の前まで連れて来られ、豪華なシートにアモスやガンツたちと一緒に座らされた。見るとポポもテッサたち子供グループと一緒に座っている。


『さあさあ、いっぱい食べてね』


 サクヤを始めとする里の女性たちがたくさん料理や飲み物を運んできた。ユウキたちの前に丸焼きにされた鹿がドドンと置かれ、ビビってしまう。


『ガハハハッ! その鹿は昼間オレたちが捕まえて来たんだぜ!』

 ガンツとサン、ハンが力こぶを作って自慢気に笑う。


『さあ! この里に来て下さった薬師様御一行への感謝の宴じゃあ! 皆の衆、大いに楽しもうぞ!』

『ウオオオオー! ウオオオオー!』


「さっすが、オーガは迫力があるねっ! あたしたちもご馳走になろうよ…って、もう食べてるし。ユウキちゃんは食い意地がはってるなあ」


 時間が経つほどに宴は最高潮に近付いて行く。オーガの男たちは酒を呷るように飲んでボルテージを上げ、リリアンナはカグヤや里の女性たちと女子トークに花を咲かせている。その様子を見て、人間もオーグリスも女ってのはあんま変わんないなと思うユウキだった。一方、弟子のアレクは女の子に囲まれ「行かないでー」と泣かれていて、困っていたが表情はまんざらでもない。特に一番の美少女オーグリスの肩を抱いて優しく何かを囁いている。


(アレクは大きくなったら絶対にスケコマシになるね。しかし、あのオーグリスの子凄い美人だなー。帝都に来たらモテるよ。あれは)


『ユウキちゃん。楽しんでる?』

「サクヤさん。はい! みんな楽しい人ばかりだし、料理は美味しいし、最高です。いいですよね、この雰囲気。人とオーガが仲良く楽しむ…。こんな素敵なことないです」


『ホントねー。これは義父の方針なの。もう人と魔物が憎しみ合う時代ではないと。共存の道を模索していこうって。でも、その考え、私は好きだな』

「わたしもです。その思想がもっと広がればいいな…(ロディニアの魔物戦争のような悲劇はもうたくさんだしね)」


『そう言えば、ガンツはどうやってリリアンナさんに話を付けたの。聞いても話してくれなくて。教えてくれる?』


 ニヤリと悪い笑顔を浮かべたユウキは、ガンツが「キングオーガ」と名乗り、街道で人々から薬を奪おうとしていた事。そこに通りがかったリリアンナとユウキにキングの神髄と言って自分のビッグなイチモツを見せびらかして来たことを話した。話を聞いていたサクヤの表情が険しくなる。

 ユウキに股間を蹴られ、気絶させたお詫びと病気の女の子の話を聞いて助けたいと思って、里まで来たという理由も話したが、年頃の女の子にイチモツを自慢げに披露したというハレンチ行為に頭に血が上ったサクヤの耳には入らない。


『ガンツ! ガンツはどこ! ぶっ殺してやる!』

『おー、サクヤ。酒が足りねえぞ。持ってきてくれー』


 サクヤは酒瓶を持ってふらふら近づいて来たガンツの顔をアイアンクローでがっしりと掴み、ギリギリと締め上げる。


『イデ! イデデ! なんだどうした。ぐわああ、顔面が壊れる!』

『ガンツ…。アンタ、ユウキちゃんとリリアンナさんに腰のモノを見せつけたんだって?』

『ゲッ…。なぜそれを…イデデデ』

『ちょっと来な!』

『イヤだ、助けてくれ! ぐわあああ…! ぎゃああああ!』


(さすがオーグリス。凄いパワーだ。ゴメンねガンツ…いや、キングオーガ。あなたの事、忘れない)


『ユウキさん』


 ガンツの冥福を祈るユウキに声をかけて来たのはアモスだった。アモスはポポを助けてくれたことやリリアンナが里にたくさんの薬を置いてくれたことに感謝していると話して来た。その上で相談があるという。


「相談?」

『ああ。この里と人の里との交流を図れんものかのう…。リリアンナさんの創薬を見て、やはり人族の技術は素晴らしい。我々も多くを学べれば、オーガと言えど人との共存が図れるのではないかと思ってな…』


「そうですね…。わたし、実は帝国宰相様の家に御厄介になっているんです。リリアンナの依頼が終わったら宰相様に相談してみます。宰相様は人と他の種族を差別しない素晴らしいお方です。きっと何か案を出してくれると思います」


『おお! よろしくお願いしますぞ。ユウキさん』

「はい! わたし、この里が凄く気に入りました。絶対に幸せになってほしいです」



 夜も大分更け、料理も酒もなくなった頃、ポポが篝火の前に立った。全員何事かとポポを見る。


「みんな、ポポに優しくしてくれてありがとうです。ポポはこの里が大好きです。この里に住むみんながとっても大好きです。でも、ポポはお別れを言わなければなりません」


 ざわ…ざわ…と里の者たちが騒ぎ出す。ポポはユウキに話した内容と同じ話をした。ユウキに付いてこの世界を旅して回りたいと、世界とは何かを知りたいと全員の目を見て話すのだった。


「ポポはみなさんに受けた恩は絶対に忘れません。ポポの故郷はここです。必ず帰って来ると約束しますです。だから、旅に出る事を許してほしいです」


 ポポが語り終えた後、誰も何も言わずシンとなった。遠くでガンツの悲鳴が聞こえるだけだ。そんな中、アモスがゴホンと咳払いをすると、ポポを見てにっこりと笑った。


『何故、精霊族の子がこんな場所に来たかと思ったが、そんな大きな夢を持っていたとは知らなんだわ。可愛い子には旅をさせよというではないか皆の衆。ここは笑って見送ってやろうではないか』


「おじいさん。ありがとうです。グス…」


 嬉しさで泣くポポの周りに大勢のオーガが集まって来て、頭を撫でたり肩を抱いたりして別れを惜しむ。その様子を見て、人もオーガも通じ合えるものを持っていると思うユウキであった。ただ、時折遠くから聞こえるガンツの悲鳴が徐々に弱々しくなっていくのが気になった。

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