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第310話 大冒険の予感

 リリアンナの家を訪れた翌日、ユウキは馬車を受け取るために朝早くから冒険者ギルドに来ていた。ギルドではリサが馬車の準備を整えて待っていてくれた。


「助かりますリサさん。無理を聞いてくれてありがとうございます」

「いえいえ、このお礼はイイ男を紹介していただければOKです」


 リサと話をしながら待っていると「おーい」と声がして、依頼主の2人がやって来た。リリアンナは胸元をグレーのリボンで結んだ膝下まである黒のロングドレスにエンジ色のマントに皮のブーツ。青色の魔法石が埋め込まれた木製の杖を手にしている。アレクは白のブラウスにサスペンダー付きの青の長ズボンを穿き靴は革製。背には大きなリュックを背負っている。


「来たね。準備は出来てるよ」

「ユウキちゃん、よろしくね! ああ、やっと大金持ちへの第1歩を踏み出せるのね。感動だわ。何としてもアルラウネを見つけたいわ」

「ユウキさん。よろしくお願いします」


「目的地まで距離があるし、連絡馬車もないからギルドから馬車を借りたの。幌付きだから直射日光も雨も避けられるよ。さあ、早速出発するから乗って」

「おおー、さっすがユウキちゃんね」


 リリアンナが荷台に乗り込み、アレクからリュックを受け取って邪魔にならないよう奥に置き、アレクの手を取って荷台に乗せる。それを見てユウキもつばの広い麦わら帽子を被って御者台に乗り込んだ。


「ユウキさん、気を付けて行って来て下さいね。任務の成功をお祈りします」

「リサさん。行ってきまーす!」


 リサに手を振って馬に合図を送り、トコトコと早朝の人気のない通りを南門に向けて馬車を走らせた。

 南門を警備する兵士に挨拶して街道を南に進む。街道は整備されていて走りやすい。日が高くなるに従ってすれ違う馬車や旅人の姿が目立ってきた。また、街道脇に広がる畑ではたくさんの農民が作業をしており、森で狩りをすると思われる狩人の姿も見える。


 次々広がる風景に初めて帝都の外に出たというアレクは大はしゃぎだ。リリアンナもあれこれと目に入った物を教えている。その姿は仲の良い姉弟みたいで微笑ましい。


(ホント、仲いいな)


「そろそろお日様が天頂近いね。お腹が空いたし昼食休憩にしようよ。馬も休ませたいしね」


 ユウキは街道脇の小川の辺に馬を止め、河原で石を積んで簡易かまどを作ると寸動鍋を置いて清浄な水を入れ、乾燥野菜と干し肉、ミルクを使ってシチューを作り始めた。その間リリアンナとアレクは馬に水を飲ませて塩を与えると、小川の水で体にブラシをかけ始めた。

 周囲を見ると、ユウキたちと同じように休憩をとっているグループが何組かある。中には冒険者らしい武装した集団もいた。


「出来たよー」


 シートを広げて車座に座り、出来上がったシチューにパンを浸けて皆で食べる。こうやって仲間と食事するのはピクニックみたいで楽しいとユウキはいつも思っている。ふと、リリアンナを見ると涙を流しながらシチューをお代わりしていた。何でも中身が雑草じゃないスープ系の食事は3週間ぶりなんだという。その哀れさにユウキは思わず涙した。


「これからの行程はどうするの?」

「目的地のヴェルゼン山の麓の村まであと半日程かな。夕方には到着したいね。今夜はその村の宿に泊まることにしよう。翌日は村で情報収集後、麓から上に向かって捜索する感じかな」

「わかった。ユウキちゃんにお任せするわ」


 食事を終え、鍋を片付けて出発しようと馬を荷台に括り付けていると、周囲が騒がしくなってきたのに気づいた。見ると、街道に大勢の人が集まって南の方を見てざわざわしている。


「なんだろう? なんか騒がしいね。待ってて、わたし聞いて来る」


 ユウキが一番近いグループに駆け寄り、何事があったのか尋ねてみた。このグループは冒険者のパーティのようだ。


「あの…、何かあったんですか?」

「ああ、この先でキングオーガが通せんぼしているんだそうだ」


「キングオーガ? なんですかそれ? 聞いたことない魔物ですね」

「さあ…。見た目は普通のオーガらしいが。これから行ってみようと思ってるんだ」

「はあ…」


 リリアンナとアレクに今聞いた事を話すが、とにかく早くに南へ向かいたい3人は荷馬車の準備をして乗り込むと、街道に集まった人々と街道脇に止めてある馬車や荷車を避けながら進み始めた。河原から300mほど南に移動すると確かに誰かが通せんぼしている。よく見るとオーガのようだ。ユウキとリリアンナは相手を見て「?」となる。


「普通のオーガだよね」

「ユウキちゃんもそう見える? キングって何だろうね」


 どうも冒険者たちとオーガたちが揉めている様だ。見ると塞いでいるのは街道の中央で両サイドは空いている。ユウキはさりげなく、且つ目立たないように、そろ~っと馬車を移動させる。お馬さんも何かを察して呼吸音を抑える。


(そーっと、そーっと…)


 ギャーギャー揉めているオーガと冒険者を横目にすり抜けようとするユウキ御一行。もう少しで抜けられると思ったが甘かった。オーガの1体が馬車に気付き、ユウキを見る。ユウキもまたオーガを見てにっこりと笑顔を返したが…、


『アニキ! あれ見て下さい。あれ!』

『ぬお! 何だお前、勝手に通るんじゃねえ!』


 オーガがわらわらとユウキたちの馬車の前に立ち塞がった。


「あー、もう。もう少しだったのに…」

「あたしたち南へ行かなきゃなんですよ。通して下さいませんかね」


『おお、このキングオーガ様が求める品を渡したら通してやる』

「キングオーガ…。オーガの進化種なの? 聞いたことないけど。見た目はただのオーガだよね」


『ほう、乳デカ娘よ。オレ様が何故キングの名を冠するか知りたいと言うか…』

「わたしの美巨乳をただの乳デカって言うか。魔物のくせに失礼な奴だね。それに別に知りたくない」


「ユウキちゃん、何気に自分のおっぱいを自慢してる」


『そうかそうか。聞きたいか』

「人の話を聞きなさいよ」


『何故オレ様がキングと呼ばれるか。それは…』

『それは!』

 手下のオーガが相槌を打つ。ユウキとリリアンナ、冒険者たちはゴクリと唾を飲み込む。


『オレ様の股間に直立する巨大なイチモツがオーガの中で一番デカイからなのだっ!』

『うおおおー! キング! キング! キングちんぽっこ!!』


 ガクーッと全身の力が抜けるユウキたち。キングオーガはユウキとリリアンナの目の前で腰巻を外し、全裸になった。ぐいっとそそり立つイチモツは自慢するだけあって流石にデカい。


「ぎゃああ! 見せるな、バカ! キモイ」


 ユウキとリリアンナは巨大なイチモツに恐怖した。アレクはパチパチと拍手し、冒険者の男たちはがっくりと肩を落として「負けた…」と呟いている。


 調子に乗ったキングはユウキに向かってイチモツをグイッと突き出した。グロテスクなモノを見せられ、恥ずかしさと怒りで頭に来たユウキは下から思いっきり金袋を狙って蹴り上げた。完全に油断していたキングの金袋に強烈なキックがまともに命中する。


 ぐしゃっとイヤな音と共に「ぐぎょお!」と変な声を上げて硬直したキング。飛び出しそうになるほど目玉を剥いて股間を抑え、地面に倒れて悶絶し始め、泡を吹いて気絶してしまった。手下のオーガはそんなキングを見て右往左往している。

 この間に冒険者や旅行者、馬車で移動をしていた商人などは、悶絶するキングオーガを横目で見ながら移動を開始した。


 夕方になって空が赤く染まる頃、玉の打撃から回復したキングが目を覚ました。手下が体を支えて抱き起す。


『オ、オレは一体…』

『アニキ、大丈夫っすか』

『ここは…』

『街道脇の小川の河川敷っす。気絶したアニキを運んできたっす』


「ゴメンねチンポキング。急に見せられてビックリしちゃって。ホント、ゴメンね」

『お、お前は乳デカ女…』


「お、気づいた? はい、これ飲んで。痛みと腫れに効くポーションよ。あたしの手作りだけど効果は抜群だよ」


 リリアンナがリュックサックから1本のポーションを手渡した。まじまじとポーションを見るキング。蓋を開けてグイッと飲んでみた。爽やかな味がして飲みやすい。


『う、うめえ…。こんな薬初めて飲んだ…。それに、痛みも和らいできたような…』

「にしし…。あたしの薬、凄いでしょう」


「みなさん。夕食が出来ましたよ。こちらに来て下さい」


 アレクが夕飯が出来たと知らせて来た。全員ぞろぞろとたき火の周りに集まると、アレクがお椀にシチューを掬って渡し始めた。お椀がいきわたるのを確認して全員で食べ始める。アレクが作ったシチューはとても美味しい。全員2杯、3杯とお代わりし、あっという間に寸動鍋は空になった。


 アレクは手下のオーガたちに手伝ってもらって、川に寸動鍋やお椀を洗いに行った。火の周りにはユウキとリリアンナ、そしてキングの3人になった。


「ねえ、なんであんな事してたの? 一歩間違えば冒険者たちと戦闘になって、下手すりゃ殺されてたよ」

『………………』


「そう言えば、何か手に入れたいって言ってたわね」

『…ああ。薬が欲しかったんだ』


「薬?」

『そうだ。オレたちの里に住む精霊族の子が病気なんだ。だから薬が欲しかったんだ』


 キングが語るには、しばらく前に南の山中にあるオーガの里に1人の少女が迷い込んで来た。名前はポポ。自分の事を精霊族と言っていた。その子は大分弱っていたが里の長老たちの世話で元気を取り戻すことが出来た。女の子は明るい笑顔と素直な優しい気持ちを持った子で、直ぐに里の大人や子供たちと仲良くなり、里の雰囲気が明るくなった。それに、その子が来てから里の作物の育ちが良くなり、実もたくさん付くようになった。里の者たちは天から授かった奇跡の子として大切に扱ったとのことだった。


『しかし、ある日、急にその子が苦しみながら倒れてしまってな。薬草を飲ませても、神に祈っても全然良くならねえんだ。オーガの里じゃ人のお医者は来てくれねえし、ポポは弱って行くし、我慢できなくなって人族から薬を分けてもらおうとあそこで立ちんぼしてたんだよ…。でも結局ダメだった…。くそっ! ポポ…、済まねえ…』


「ユウキちゃん…。あのさ」

「わたしは雇われの身。依頼主に従うよ」

「ん、ありがっと」


「ねえ、ちんちんキング。あたし、これでも薬師なんだ。よかったら里に案内してくんない? 助けられるかどうかわかんないけど、ポポちゃんを見させて?」

『ほ、本当か!? ポポを見てくれるのか? 頼む、ポポを助けてくれ!』


 キングがリリアンナの手を握ってお願いする。その目には涙が浮かんでいる。この光景を見てユウキは不思議に思った。ロディニアではオーガは人間にとって危険な魔物で敵対するのが当たり前だった。しかし、このラミディアではユピトの例といい、話が通じて分かり合える…。何故なんだろうか。答えは出て来ないが、人と魔物が分かり合える日が来る可能性もあるんじゃないかと思ってしまうのであった。


 洗い物から帰って来たアレクと手下のオーガに里に行くことを話すと3人とも同意してくれた。食事道具などの片づけを終えると明日に備え休むことにした。見張りはオーガたちが交代で行ってくれるというので任せ、ユウキたち3人は荷車に乗り込み、敷布と毛布を出してアレクを真ん中に、川の字となって眠ることにした。


(リリアンナの薬が効かなかった場合、エロモンの出番があるかもしれない。その時は頼むよ)


『おおう、任せとけ。久しぶりに思春期少女に会える予感…。ゾクゾクするのう』


 うつらうつらして来たユウキは、ポポとはどんな子なんだろうと思うと同時に、リリアンナから受けた依頼は長丁場になりそうだなと考えていた。

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