第32話 ユウキとララ
結局ユウキは10日ほど学園を休んだ。その間、マヤがユウキを世話してくれたおかげで、事件の後、落ち込んでいた気持ちもすっかり持ち直し、いつもの明るいユウキに戻った。
そして、久しぶりに登校する日、身支度を整えたユウキは、ダスティンとマヤに「行ってきます」とあいさつし、学園に向かった。
「ララに迷惑かけたこと謝らなくちゃ、嫌われたのは当たり前だよね。ボクのせいで怖い思いさせてしまったし、でも、また仲良くできればいいな…」
ユウキは歩きながら、ララと以前のように仲良くできるのだろうかと考えていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ねえ、今日こそユウキちゃん来るかな」
カロリーナが心配そうにユーリカに話しかけた。
「そうですねえ、大分体調は戻ったと先生が言ってましたから、そろそろ登校すると思いますけど…。ララさんはご存じですか」
「ううん。わかんない…」
カロリーナとユーリカが心配そうにララを見つめる。ララは数日前から学園に来ていたが、あれだけユウキと仲良しだったのに、一言もユウキの話をしなくなっていた。
(ララ、ユウキ目的の事件に巻き込まれて怖い想いをしたって聞いたけど…)
カロリーナとユーリカは顔を見合わせ、ため息をついた。ララはうつむきながら小さな声で話始めた。
「私ね、ユウキに酷いこと言っちゃった。助けてもらったのに「ユウキのせいでこうなった。怖い思いをした。大嫌い!もう近づかないで!」って。ユウキが悪いわけじゃないのに、命がけで助けてもらったのに…」
「その時、ユウキね、一言「ごめんなさい」って、悲しそうな顔して言ったの…。ユウキが悪い訳じゃないのに…」
重い空気になり、教室が静まり返った。流石のヘラクリッドもこの雰囲気は茶化すことができない。そこに教室の扉が開いてユウキが教室に入ってきた。
「みんな、おはよう。ずっと休んじゃってごめんなさい」
クラスの皆が一斉にユウキを見るが、誰も一言も発しない。静まり返っている教室にユウキは戸惑う。
(な、なに? どうしたの? 何なのこの雰囲気…)
「ユウキッ! うわ~ん、ユウキ~、わ~ん」
異様な雰囲気にユウキが固まっていると、ララが泣きながら抱き着いてきた。
「ユウキっ、ごめんなさい。私、私ね…、うわ~ん。ごめんなさいいいい。助けてもらったのにぃ、酷いこと言ってごめんなさい。ユウキの事大好きなのにぃ、酷いこと言ってごめんなさいいいい。うわああああん、うぇ~~ん」
「ラ、ララ。どうしたの」
「ララさんね、ユウキさんに酷いこと言ったって、ずっと落ち込んでいたんですよ」
ユーリカが、ふふふと笑いながら説明する。
「ララ、もういいよ。ほら、顔が涙でぐちゃぐちゃだよ。はい、拭いてあげる」
「あ、ありがとう。ぐすっ、ユウキの制服汚しちゃった…。」
「大丈夫だよ、すぐ乾くから。ボクもララに謝らなくちゃ。ボクのせいで怖い想いをさせてゴメンね」
「ううん、ユウキは悪くないよ。謝らないで、お願いよ」
「うん、わかった。もう言わない。だから、また仲良くしてくれる?」
「うん、私たち、ずっと友達だよ!」
ユウキとララが元通りになったことで、教室の中にほっとした空気が流れる。教室の外から様子を見ていたバルバネスが、よしよしと頷いて中に入ってきた。
「よし、授業を始めるぞ。ユウキ、大丈夫のようだな。授業の遅れを取り戻せよ」
昼休み、食堂にユウキとララ、フィーア、カロリーナ、ユーリカにアルとヘラクリッドがテーブルを囲んでお昼を食べていた。
「アルとヘラクリッドくん。あの時は助けに来てくれて本当にありがとう。お礼が遅れてゴメンね」
「ああ」
「なに、友人のピンチに駆けつけるのは当たり前の事!」
「ふふ、ありがとう」
「ねえ、ユウキは寮を出されたそうだけど、今どこに住んでるの?」
「前にアルに教えてもらった武器屋のオヤジさんのとこ」
「えっ! あそこか? あのドワーフオヤジが人の面倒見るなんて、ホントかよ」
「アル、あのオヤジさん、とてもいい人だよ。本当にボクに良くしてくれるの」
「意外だ…。もしかして、若い女が好きなのか?」
「酷い! ボク怒るよ、もう」
話題は尽きることがなく、ユウキは久しぶりに友人達と楽しいひと時を過ごし、とても幸せだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
久しぶりに登校した日の夜。お風呂から上ったユウキは、マヤに髪を梳かしてもらっていた。
(ララと仲直りできたし、本当によかった。でも誰がボクを狙ったんだろう…。そうだ!おじさんに今までの出来事を話しておこう)
ユウキは例の指輪を取り出してバルコムを呼び出して、今まで体験してきた事を話し始めた。
友達がたくさんできたこと、入学式や学園生活のこと、自分を狙った事件に大切な友人を巻き込んだこと、今は寮を出てドワーフのダスティンが経営する武器屋にマヤと一緒にお世話になっていることなど話題は尽きる事がない。
話し終えたユウキは疲れがどっと出たのか、パタリとベッドに倒れ込み、眠ってしまった。マヤは優しく微笑み、可愛らしい寝息をたてて眠るユウキに、そっと毛布を掛けてあげるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お帰り、お兄ちゃん!」
「ただいまリース。大人しくしてたかい。お父さんとお母さんは?」
「まだお仕事」
「そうか、ご飯の用意をするから、少し待ってて」
「うん…、うっ…。ゴホッ、ゲホッゲホッ…」
「大丈夫か!背中をさすってあげるよ」
「く、く苦しいよ…。お兄ちゃん」
(発作が頻繁になってきた。薬を、もっと良い薬を手に入れなければ…。そのためには、金が必要だ。金のためなら嫌な奴にだって…。でも、僕は本当にそれでいいのか? 汚い金で手に入れた薬でリースは喜ぶのか?)
リースの背中をさすりながら、フレッドは迷っていた。