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第293話 神殿遺跡(廃坑探索⑧)

「埋まってる…」


 誰かがボソッと呟いた。目の前には巨大な岩石が幾重にも重なっていた。ただそれだけの風景。古代都市「アースガルド」は崩落した岩盤の下に埋もれてしまっていた。この神殿が残ったのは奇跡的と言うしかない。


『数百年前にこの地を襲った地震のせいかも知れない。恐らく地震動で都市の天井岩盤が崩落したのだ』


「ちょっとガッカリだけど、仕方ないよね。折角だし、神殿内部を探検してみない?」


 ユウキが全員を見回して元気を出そうと言う。落胆の表情を隠せなかったフォルトゥーナたちも気を取り直し、神殿探索をする事に賛成するのであった。再度扉のあった部屋を見回すと、下に降りる階段を見つけた。


「ここは上から2番目。この階は小部屋がいくつかあるね」

「よし、この階は俺たちが調べてみる。ユウキの姉御は下に行ってくれ」


 アレンはそう言って烈火の剣メンバーで手分けして部屋を調べ始めた。この階はアレンたちに任せ、上から3番目の階に下りる。この階は廊下を挟んで扉が2つ。ここはフォルトゥーナとセラフィーナ、ラピスに調査をお願いした。


「いいわよ~。まっかせて」


 残ったユウキとレオンハルトはさらに下に続く階段を下りた。ここから下に向かう階段はない。どうやらここが最下層、1階の様だ。階段から続く廊下を歩くと大きな扉があった。取っ手を持ったレオンハルトが力いっぱい押すと、ギギィイイ~と軋み音を立てて開いた。中は広い空間となっており。真ん中の壁際に台座に乗せられた女性の像が立っている。2人は像の場所まで歩いて行った。


「エリス様の像だ…。凄く精巧な像。まるで生きてるみたい…」

「ユウキちゃん、下に文字が刻まれたプレートがあるぞ」


 レオンハルトが台座に張られた金属プレートを見つけた。プレートは横1m、縦0.5mの銀板で、細かい文字がびっしりと刻まれている。


(何が書いてあるんだろう。バルコムおじさんに教えてもらった古代文字とも違うようだし、読めないな。外して持って行けるかな)


「レオンハルトさん。このプレート外して持って行こう。お願いできる?」

「おう、任せろ」


 レオンハルトはハルバードの槍の部分を使い、プレートを傷つけないように台座を削り始めた。その間に、ユウキは部屋の中を見て回る。扉から一番奥の場所まで進んだ時、それを見つけた。


「こ…、これは…」


 ユウキが見つけたのは3体のミイラ。壁を掘られて作られた長方形の龕に胡坐をかいた座位の形で並んでいる。ユウキが手を伸ばして確認すると、既に成仏しているようで魂の残滓は感じられない。


「この人たち、ずっとエリス様の像を見守っていたのかな…。ん? これ…」


 真ん中のミイラの手前に1冊の冊子がガラスケースに納めてある。長い年月に晒された事によって大分傷んでいるが、形は保っている。手に取って開いてみると、文字は消えていないようだ。眺めてみると何となく日記のように見える。きっと、様々な出来事や想いが記されているのだろうか。最後のその瞬間まで…。


「貰って行きますね」


 そう言って日記をマジックポーチにしまって、手を合わせる。


「おーい、ユウキちゃん。ちょっと来てくれー!」

「あ、はーい!」


 レオンハルトに呼ばれ、合わせていた手を下ろして女神像の元へ行くユウキ。ふと、振り返ると、ユウキを見つめていたミイラの口元が笑っているように見えた。


「レオンハルトさん。どうしたの?」

「ああ、このプレート。もう少しで外れそうなんだが、1人では厳しくてな。手伝ってくんねえか」

「ん、わかった」


 レオンハルトがハルバードの槍の部分をプレートと台座を削って作った隙間に突き刺して、柄をグイッと引っ張る。ユウキもレオンハルトの前で柄に手を掛けて力いっぱい引っ張った。


「うにゃにゃ~~っ!」

「うおおおおおーー!」


 ユウキもレオンハルトも顔を真っ赤にして力いっぱい柄を引っ張る。やがて、ミシミシッ、バキッと凄い音を立ててプレートが外れ床に落ちた。しかし、急に力が解放された反動で、2人とも後方に吹っ飛んでしまった。ユウキはぺたんと尻もちをついてしまったが…、


「うあっ…痛たたた…」

「うぷぷぷ、むぐぐ…。ゆ、ゆーき…ちゃん。く、苦し…」


「えっ…、ひゃあああああ! えっち! レオンハルトのえっちぃいいーー!」


 なんと、床に仰向けに倒れたレオンハルトの顔の上に座り込んでいたのだ。慌てて立ち上がって涙目になりながらスカートを押さえてレオンハルトを睨む。


「う~~~っ」

「ゴメンゴメン、不可抗力だって。でも、柔らかかったなー。最っ高の感触だったぜ!」


「もう、バカバカバカ! やっぱりレオンハルトさんのエッチは変わってないよ!」

「はははは、もう許してくれよ。それより、あのプレート収容してくれないか」

「うん…。もう恥ずかしいなー」


 ユウキがプレートを持ち上げようとしたが、重くて持ち上がらない。仕方なく、腰からマジックポーチを外してプレートの側まで持って行って収容した。そして、女神像の前で、祈りを捧げる。その時、女神像から「ビービービー」という警報音と音声が聞こえた。


「な、何…? 何が起こったの」


『記録プレートの離脱を確認。記録プレート消去システム作動。神殿破壊モードに移行します。神殿破壊モード作動を確認。自爆装置作動しました。カウントダウン開始。神殿崩壊まで90秒。89、88、87…』


 カウントダウンを始めた音声とともに、神殿が大きく振動を始め、立っていられないほどだ。レオンハルトがユウキの手を取って階段に向かって走り出した。


「マズイッ! ユウキちゃん逃げるぞ!」

「う、うん!」


 振動は益々激しくなり、天井から細かい破片が降りて来る。その中をユウキとレオンハルトが階段を駆け上がる。


「ユウキちゃん! 何があったの!?」

「説明は後、早く逃げるの! セラフィも早く!」

『62、61、60…』


 フォルトゥーナたちと合流したユウキは階段を駆け上がる。さらに上階に不安そうな顔をしたアレンたちが揃っていた。


「ユウキの姉御、なんだこの音と揺れは。それにこの声は…」

「早く逃げて! この神殿は崩壊するよ!」

『41、40、39、38…』


 全員で階段を駆け上がり、最上階の祭壇がある部屋まで来た。入った時は何の変哲もなかった祭壇だったが、台座から何かの機械がせり上がり、赤い光がいくつも点滅していて、その脇に数字が表示されている。数字は1秒ごとに減っていて、ユウキが見た時には20まで下がっていた。


(時間が無い! 私の転移魔法じゃ、こんな大勢は連れて行けない。なんとか走って逃げないと!)


「とにかく走って! 神殿から出来るだけ離れて!」


 全員、何とか最初にあけた穴に到達し、神殿外に出て洞窟を走る。息が苦しくなるが、立ち止まったら生き埋めになり、死が待っている。


『6、5、4…』


 神殿から死のカウントダウンが聞こえる。少しでも遠くに離れるために走らなければならない。


『1、ゼロ!』


 その瞬間、「ズドドドドォオン!」という大きな爆発音とともに、建物や岩盤が崩落する音が響いてきた。ユウキたちが振り返ると、物凄い土煙が迫って来ると同時に洞窟の岩盤も崩落し始めたのが見えた。


「は、走れ!」


 レオンハルトとアレンが同時に叫ぶ! 全員来た道を全力で出口に向かって走り始めた。後方からは岩盤の崩落音が「ゴゴゴ…」と迫って来る。


「きゃあ!」

「ラピスッ!」


 悲鳴とともにラピスが転んでしまった。慌ててユウキが駆け寄って立たせる。


「大丈夫!? 走れる?」 

「う、うん大丈ぶ…。あっ、いたっ…」


 見ると膝から出血している。治癒魔法をかける時間がないと判断したユウキは、ラピスを背負って走り出した。レオンハルトやフォルトゥーナたちは大分先まで逃げて行った。岩盤の崩落音が間近に迫る。ユウキは防壁魔法を背後に放ち、時間を稼ぐ。しかし、かえって走る速度は遅くなり、たいして距離は稼げない。


「はあ、はあ、はあ…。ぐっ、はあ、はあ」

「ユウキ、逃げて…。わたくしを置いて逃げて。このままじゃ2人とも助からないわ」

「そんな事できない。はあ、はあ…。わたしは友人を…、わたしが大切に思う人を見捨てるなんてことは出来ないし、絶対にしない! ラピス、諦めないで。必ず逃げ切るの!」


「う、うん。ありがとう。ユウキ…。(でも、洞窟の崩落に追い付かれそう。このままじゃ…。そうだ、アイスシールドの重ねがけ!)」


 ラピスは後ろに向かって、氷の防壁魔法アイスシールドを魔力の続く限り作り出し、崩落から2人を守る。しかし、一時的に崩落を遅らせることは出来ても止めることは出来ない。ついにユウキとラピスの頭上も崩れ始めた。目の前に地下川が流れる広場に繋がる出口が見え、フォルトゥーナたちが次々と河川敷に降りている。


「もう少しだ! ラピス、もう少しで助かるよ!」


 残りの体力を振り絞って全力で走るユウキ。目の前に岩がバラバラと落ち、背後からラピスの防壁魔法を突破した崩落が迫って来る。だが、岩に押し潰される前に何とか出口に辿り着くことに成功した。しかし、フォルトゥーナが魔法で作った河川敷に降りる階段は狭く、ラピスを背負っている状態では駆け抜けることが出来ない。ユウキは思い切って崖の縁に足をかけてジャンプした! ユウキが飛んだ直後、洞窟は完全に崩落した岩盤で埋まり、物凄い土煙が吹き出して来た。


「うわあああっ!」

「きゃあああっ!」


 空中でユウキとラピスが分離し落下する。先に降りていたレオンハルトとアレンが「やべえ!」と言いながら2人の下に走り込み、地面に叩きつけられる寸前にキャッチする体勢を取った。


「おっととと…」


 アレンの広げた腕の中にラピスがスポンと収まる。一方…。


「ぐおっ! ぬをををを…っ」


 ずしんと重量感のある衝撃と痛みがレオンハルトの腕にかかる。足を蟹股に開き、顔を上に向けて落とさないよう、必死に耐える。


「ひ、ひどい…。わたし、そんなに重くないよぅ。ぐすん…」

「ユウキちゃんは、おっぱいが大きい分、重量がありそうだもんねぇ~」


 フォルトゥーナがレオンハルトから降ろされて、めそめそするユウキをからかうが、事態はそんなまったり感を許さなかった。広間の天井の岩盤がビシッビシッ鋭い音を立ててとひび割れて今にも崩落が始まりそうになる。その様子を見て全員青ざめた。


「に、逃げろ!」

「でも、川の流れが急で渡れないよ!」


 レイブンやミルズがひび割れを見て恐怖に駆られ、全員が渡河しようと川の側まで行くが、レイラが川の流れが急で対岸に渡ることは出来ないと叫ぶ。


「フォルティ! 貴女の土魔法で防壁を!」

「無理、崩落岩盤の重量には耐えられないわ!」


 万事休す! 誰もがそう思った時、アース君がユウキに声をかけた。


『ユウキ、我を呼び出せ。我が出たら全員飛び乗るのだ』


 ユウキは言われた通り、胸元のペンデレートに触れてアース君を呼び出す。巨大なアース君で空間は一杯に埋まるが、全員それに驚く余裕はない。頭の触角を足掛かりにして背に乗り上がる。アース君は全員が乗ったのを感知すると空間移動魔法を唱えた。


『ディメンション・タイド!』


 アース君の魔法の発動と同時に天井が崩落した。

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