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第291話 アースロプレウラ(廃坑探索⑥)

 暗い洞窟の中を1人歩くユウキ。幸い、軟体性の怪物やカマドウマに遭遇することなく歩みを進めるが、全然終わりが見えない洞窟に不安感ばかりが募る。


「どこまで続くのかな…。あ、松明が終わりそう。交換しなくちゃ」

 マジックポーチから松明を取り出して、先の松明から火を移す。


(最後の1本…。これが消えたら、わたしもここで終わりになるのかな…。ううん、弱気になっちゃダメ。絶対に希望は捨てない)


 不安な気持ちを押し殺し、ゆっくり慎重に進む。最後の松明に火を灯してから30分経つ。後20~30分しか持たないだろう。しかし、洞窟はさらに奥に続いている。さすがのユウキも心細くなり、目元に涙が浮かんでくる。疲労もピークに達してきて、直ぐにでも休みたい気持ちになる。それでも足を止めず、前に進む。


 松明が残り僅かとなった時、突き当りに行き当たった。


「うそ…、行き止まり?」


 ユウキの目の前には三葉状の金属質鎧板が繋ぎ合わさったような物が、高さ3mほどもある円形を形づくって鎮座していて、前に進むことが出来ない。仕方なく周りを見ると、奥に祭壇のような建造物が見える。


 松明を持って近づくと、祭壇の両側に魔術的な灯りがともり、周囲が薄ぼんやりとした明るさに包まれた。それと同時に松明が燃え尽きて消えた。


「なに? わたしに反応して光ったの? 暗闇にならなくて助かったけど…、一体ここは何なの?」


 祭壇は洞窟の壁を石窟のように掘削した場所に設置してあって一段3m程の高さの5段の階層構造をしており、頂上部に約10m四方の神殿が見える。また、地面から中央部に頂上に続く急な階段が配置してある。

 最下段の階層の大きさは30m四方の正方形で神殿が設置されている最上段は15m四方の大きさがある。そして、各階層の隅に魔術的な灯りをともす照明具が設置されている。


「凄い構造物だ。地下深くにこんなものがあるなんて…。調べる必要があると思うけど、今はダメ。疲れちゃった…。お腹すいたし、眠い…休みたい」


 川に流され、どこかもわからない洞窟を長時間歩き続けて疲労の極致に達していたユウキはふらふらと金属質の鎧板の側まで来ると、マジックポーチからシートと毛布を取り出して、鎧板の側にシートを引くと鎧板に寄りかかり、非常用に取っておいたクッキーを食べ、僅かに残った水筒の水を飲んで毛布に包まって眠ってしまった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 深い眠りの中、ユウキは夢を見ていた。


「悪魔だ! この娘は悪魔だ! 死人を生き返らせる力を持った悪魔だ! 悪魔でなければその力を持った異端者だ!!」


(違う…。悪魔なんかじゃない…)


「ボクはバケモノみたいなもんだよ。魔法の力で男から女になったバケモノ。それがユウキなの。バケモノだから、戦いを呼び込むの? 大切な人を危険にさらすの? だれも助けられないの?」


(違う…。バケモノなんかじゃない…)


「任期が終わって、戻ってきたら君に伝えたいことがある。必ず迎えに来るよ」


(どうして…、どうして迎えに来てくれなかったの…。待っていたのに…)


「お前は魔女だ! お前のせいでこの国は滅茶苦茶だ! この国から出て行け!」

「死んだ息子を返せ!」

「妻を返せ! 娘を返せ! 汚らわしい魔女、お前なんか死んでしまえ!」


(違う! わたしは何もしていないよ。魔女なんかじゃない!)


「さあ、ご裁断は下された! この国に仇成した魔女は死刑と決まった! 只今より、魔女の首を刎ね、死刑を執行する!」


(止めて…殺さないで。わたし魔女じゃない。誰か助けて…、誰か…)


「どうして…、どうしてみんなわたしを虐めるの…。やめて…お願い…」


『………………』


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「グスッ…、グスン…」

『………………』


「う…ん。あ、あれ、わたし眠ってしまったんだ…。イヤな夢、見ちゃったな…。どうして今頃あんな夢を…。忘れたいわたしの記憶…」


 ユウキは涙が流れていたことに気付き、マジックポーチからタオルを出して拭きながら、暗澹たる気持ちになった。なぜ、あんな夢を見たのだろうか…。考えても答えは出ない。気持ちを切り替えて、改めて周りを見るが、特に変わった様子もなく、祭壇の灯りが薄ぼんやりと周囲を照らしているだけだ。物音も何もない静寂な世界。あまりの静けさにユウキは恐怖を覚える。


 毛布に包まり、祭壇を何の気なしに見ていると、突然、頭の中に何かの声が響いてきた。


『娘よ…』

「えっ、だ、誰…」


『我の声が聞こえるか…』

「き、聞こえる。誰なの」


 立ち上がって周囲を見回すが、声の主は見えない。と言うよりも動く者すら確認できない。ユウキは魔法剣を抜いて身構える。しかし、物音ひとつしない静寂が広がっているだけだ。


「何者!? 姿を見せなさい!」


『我はアースロプレウラ。魔法文明世界で魔法生物として生み出され、文明の記憶者としてあの神殿とともに封印され、長い時間…思い出すのも困難な長い時間、この地に存在続けていた…』


「アースロプレウラ…。聞いたことない」


『この地に人が来たのは何千年ぶりか…。娘よ、お前の波動によって我は目覚めた。その際、お前の記憶を見させてもらった…。お前には夢として現れた心象の数々を…』


「……………」


『暗黒の魔女…。悲しき運命さだめを背負った娘よ…、しかし、お前はこの世界に変革をもたらす宿命を背負っている。お前の進む道は破壊か平和か…、何を成す?』


「わたしを魔女と呼ばないで。わたしはユウキ。ユウキ・タカシナという名前がある。それにわたしはこの世界をどうこうするつもりはない。探すべきは自分の居場所、自分の幸せ。暗黒の魔女はもう死んだの。わたしは自分の生きる道を探す旅をする。わたしに命を託してくれた人たちの想いを背負って…。それに、もう、あんな悲しい思いはしたくない」


『………。ユウキ、お前は何故ここに来た。ここは封印の地。人の知る場所ではない』

「好きで来たんじゃないわ。坑道内の地下川に落ちて、流されて辿り着いた場所からずっと歩いて来たの。出口を探して…。ねえ、ここはどこなの? あの神殿みたいなのは何?」


『ここはアースガルドの神聖墓地。あの神殿には聖姫フレイヤが眠っている。フレイヤは魔法文明が失われたとき目覚め、再び魔法技術によって世界を導く神として君臨し、その際は我を眷属として従える予定であった』


「そ…、壮大だね。ちょっとスケールが大きすぎて着いて行けない」


『ユウキよ、頼みがある』

「な、なに…」


『我をお前の旅に一緒に連れて行ってはくれないか』

「え…、ええ~。姿も見えないアース君を~。なんで? フレイヤはどうするの」


『フレイヤはもう目覚めない。我を従えることは永久にない。我は永遠に目覚めぬ姫を守り続けるだけの存在に成り下がっている。しかし、ここにユウキ、お前が来た。数千年ぶりに見る人間。しかも、異世界からの来訪者。我はお前に希望を見出した。自分の存在を受け入れてくれるのではないかと、我に新たな世界を見せてくれるのではないかとな。それに、我はずっとお前の側にいるぞ』


「え!?」


『お前は、ここに到着した時から、我に背を預けていた』


 ユウキは恐る恐る後ろを振り向く、そこには銀色に光る金属質の鎧板が連なっているのが見えるだけ。


「ま、まさかね…。まさか、コレ!?」


 数歩後ろに下がったユウキが見ていると、ズズズ…と鎧板が動き出し、ズシンと半回転して半円形の長大な体が姿を現す。地面に接地している部分から多数の歩脚が現れ、ズイっとユウキの前に向いた頭部にはユウキの身長ほどもある一対の触角が伸びていて、目はない。ユウキが驚いたのはその大きさで、全長は約50m、全高は約3m、全幅は約5mはあるだろう。


「ぎゃあああっ! ヤ、ヤスデのお化けだぁ!!」

『お化けではない。我はアースロプレウラ。魔法文明が作りし魔法生物だ』


「ひえええ…、怖いよ。無理だよ、こんなに大きくちゃ連れて行けないよ」

『ユウキ、神殿の奥にフレイヤが我を眷属にするための魔道具「真理のペンデレート」があるはずだ。それを使えば我をその中に収容する事ができる』


『それに、いくつかの宝もあるはずだ。全てお前に差し上げよう。いい取引だと思うが…。それに、何より我の知識はお前の旅に役に立つ。どうだ?』


「いや、どうだと言われても…」

『我は外に出る方法を知っているぞ』


「おっけー! 直ぐ神殿に行くね!」

『切り替えの早い奴だな』


 アースロプレウラが触角でユウキをくるんと掴むと、そのまま前躯を持ち上げ、神殿最上部の祭壇の入り口に降ろした。


「ひええ~、ビックリしたぁ~。一言いってよ、もう…」


 人ひとり入れる程度の狭い入り口から中に入ると、壁に仕掛けられた照明具がポウッと灯って室内が明るくなった。祭壇の中央部には石棺があり、横からいくつか管が出て床に繋がっている。奥を見ると金属でできた扉がある。


 石棺は長さ2m位で長方形をしている。ユウキは蓋に手をかけてみた。石棺かと思ったが、よく見ると銀灰色の光沢を持った金属で出来ていて、冷んやりとした感触が伝わって来る。蓋の部分を押し開けようとしてみたがビクともしない。


「ロディニアでも帝国でもここまで精巧な金属加工品は見たことない。元の世界…日本に匹敵する技術かも。でも、どうやって開けるのかな?」


 ユウキはあちこち見ていると、奥側に小さなレバーがあった。試しに押し下げてみると「ガタン」と音がして、プシューと中から空気の抜ける音とともに、蓋がスライドして石棺が開いた。


「確かに目覚めることはないね…」


 中には完全にミイラ化した人間の死体があった。長い金髪、褐色に変化し、水分が抜けた肌。僅かに残る胸の膨らみと股間の形状から、辛うじて女性であることがわかる。

 体の腕と足に何本もの管が繋がれていて、内部の壁に設置されている何らかの装置に接続されている。装置には管毎に小さなランプが付いていて、その全てが赤く点滅をしていた。


「何だろう…? さっきのアース君の話しぶりだと、この子、フレイヤはある程度時間が経ったら目覚める予定になっていたけど、装置の故障で死んじゃったって事かな? 赤の点滅はエラーの知らせなのかな…。何で眠らせられたか分かんないけど、可哀そうだな。でも、何て安らかな顔…」


 石棺のレバーを元に戻してふたを閉め、手を合わせて遠い昔に眠らされ、命を落とした少女の冥福を祈ったユウキは、祭壇奥の金属扉の前に来た。扉には取っ手などはなく、押したり引いたりしても動かない。周りを見ると、少し離れた壁にレバーがあった。


「これかな…?」


 レバーを引き下げると「ガコン」と音がして扉が両開きになる。中は3段式の棚になっていた。ユウキは真ん中の棚を引き出すと、金の鎖が付いた白銀の台座に深蒼色をした美しい宝石を埋め込んだペンダントがスチール製の入れ物に納められている。


「何て美しい宝石なの。これが「真理のペンデレート」なのかな…」


 次に上の棚を引き出してみた。現れたのは鞘と並べ置かれた一振りの剣。白銀色に輝く片刃の刀身、日輪の衣装が施された大きめの鍔、エメラルドグリーンの宝石が埋め込まれた柄の美しい形状をしている。ユウキは剣の側に金属プレートが置いてあるのに気付き、手に取って読んでみる。


「えっと、古代文字で書かれてるね…。なに、し…しん…「振動波コアブレード」。魔力を通すことによって、刀身から超高周波を発し、何者をも切り裂く…って、ナニコレ!? いきなりSFチックだよ! でも、凄くカッコイイ…。乙女心が揺さぶられちゃう」


「一番下は何かな…?」


 一番下の棚を引き出して見る。納められていたのは、複雑な文様が刻まれた金のブレスレット。リングの4ヶ所にプリンセスカットされた真紅の宝石が埋め込まれている。


「わあ、凄くキレイ…。これは「オーラパワー・マジックライズ・リング」って、名付けた人、中二病か何かなの!? 説明文によると、装着者の魔法威力を大幅に上昇させる効果がある…か。大地の杖と同じような物かな」


「いずれにしても、アース君が持って行っていいって言うんだ。貰って行こう。振動波コアブレードは使ってみようっと。にしし…、こういうの大好き!」


 ユウキはペンデレートを首にかけ、左腕に腕輪を装着して魔法剣をポーチに収容し、新たに手に入れた剣を帯剣した。そして、もう一度フレイヤに手を合わせると、祭壇の入り口に戻る。外ではアースロウプレアが神殿に体を預けて待っていた。祭壇から出たユウキの目の前に金属質のヤスデの巨大な頭があって、基本的に虫が嫌いなユウキはビビってしまう。でも、勇気を出して祭壇の中であった事を話す。


「フレイヤさんに会ったよ。安らかな顔して眠ってた」

『フレイヤは常人より強大な魔力を持っていたがゆえに、魔法文明の未来を託されたのだ。しかし、睡眠装置の方が長い年月に耐えられなかったのだ。そうか、フレイヤの顔は安らかだったか…。そうか…』


「アース君…」


『では、約束通りここから出るとしよう。我に乗るがいい』


「ひえ…、う、うん…わかった」

「あ、その前に教えて。この洞窟で魔法を使おうとしたら全然発動しなかったの。でも、自分自身に掛けた治癒魔法は使えたんだよ。何でなの?」


『この洞窟のある種の鉱脈に含まれる鉱石には、魔力を無効化する効果があるのだ。よって、外向きに発動する魔力が無効化されたのであろう』


「なるほど…。だから内向きの治癒魔法は使えたのね。(以前、ゲラドに着けられた封印の首輪も、このような鉱石から作られたんだな)」


 ユウキは納得すると、言われた通りアースロウプレアの頭に乗る。アースロプレウラはゆっくりと体を動かして、自分が鎮座していた場所に向かう。多数の足が動くザワザワとした音が背筋にゾクっとくるが我慢する。ユウキが先を見ると、目の前は白い岩壁となっていて、出入り口があるようには見えない。


「アース君、どうするの?」

『まあ、見ておれ』


『ディメンション・タイド!!』

「きゃあああああっ!」


 アースロプレウラが呪文を唱えると、壁の中央部が歪んで渦を形成した。その渦に迷わず突入する。ユウキは大きな悲鳴を上げた。

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