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第290話 魔界の怪物(廃坑探索⑤)

 行方不明になったユウキの事を心配しつつ、廃坑道を探索するフォルトゥーナたち。地下川のあった広場から既に1時間は経過し、2km程は進んだと思われた。今の所、鉱脈に沿って広く掘った場所はあったものの、深い分岐道も魔物の棲み処らしいものもなく、何の変哲もない坑道跡が延々と続いている。ただ、坑道は平坦ではなく、緩やかな下りになっており、進むにつれて洞内温度が徐々に高くなっているように感じる。


「う~ん…。一体どこまで続いているのかしら」

「それにしても少し熱くなってきましたね。ラピス、お水頂戴」

「あ、俺たちにも出してくれ」


 暑いので直ぐに喉が渇く。ラピスは貴重な魔力を水を造り出すために使っていた。しかし、魔力も無限ではない。いざと言うときのために温存しておく必要がある。


「いいけど、魔力も厳しいから少しは我慢してよね」

「もぅ、分かってますって。ラピスの癖に慎重ね」

「ホントかしら? あと、ラピスの癖にってどういう事!?」


 先頭を行くレオンハルトは焦りを隠せない。ユウキの事が心配で自然と歩みが早くなる。続くフォルトゥーナやエドモンズ三世も同様だ。


「くそ、ユウキちゃん…。無事でいてくれよ…」

「大丈夫よ。レオンハルト君、きっと無事で会えるわ。信じましょう」

「あ、ああ…。そうだな」


(ユウキよ、無事でいるんじゃぞ。きっと儂が見つけてやるからの…)



 さらに進むと、少し広めのホールみたいな場所に出た。エマが追加のトーチを唱えて周囲を明るく照らす。どうやらここが坑道の終着点の様で、掘削用具や運搬具などがいくつも打ち捨てられている。しかし、中は特に変わった様子はない。


「何もないな…。レブ、何か感じるか?」


 アレンが仲間のスカウトに聞いてみるが、レブは「いや…」といって周りを見回しているたが、ハッと気が付いたように、壁が崩れてガレ場となった場所に近付き、調べ始めると、全員の方を向いて言った。


「ここから風が吹いて来る。この奥に道が続いている様だ」

「何、ホントか!? よし、フォルティ姉さん、頼む!」

「まっかせなさい!」


 フォルトゥーナは元気よく返事をすると、サッと足元に転がっている古びたツルハシを拾うと「どっせーい!」とガレ場の岩屑に叩きつけた。


「あ…あの、フォルティの姉さん。何してるんで…?」

「何って、岩屑を退けるのよぉ。でないと、この先がどうなってるか、分からないでしょ」


 フォルトゥーナ姉さんの回答に、お願いした当のアレンは、困惑顔を浮かべて意図したことは違うと話す。


「いやいやいや、予想外過ぎるぞ、フォルティの姉さん。俺は魔法で岩屑を退けて貰いたくてお願いしたんだが…」

「あらあ~、そうだったの? でもね、この先何があるか分からないから魔力は温存したいのよね~」


「確かに…」

「そうね、わたくしも水の出し過ぎで魔力が厳しくなってきたわ」

 セラフィーナとラピスが頷きながら同意する。


「だ・か・らぁ、ここは全員で穴掘りよ! ほら、男たち頑張って!!」


 フォルトゥーナの穴掘り命令に、全員がハイハイと言ってホールに捨て置かれているツルハシやスコップを拾い、空気の流れを感じる場所を中心に岩屑を除け出した。

 薄暗い洞窟内にザックザックと岩屑を掘る音と女の子たちの「ダメ~」「疲れた~」といった泣き言が響く。男たちは暑さで上半身裸になりながら、岩屑を掘り出し、荷車で運び出す。飛び散る汗がトーチの光に反射してキラキラと輝く。


 せっせと掘削作業をしていたレオンハルトが「ふう…」と一息つくと、すかさずレイラがタオルを、エマが水を差しだす。それを見てレイブンとミルズが「おいおい、俺たちにはねぇのかよ」と冷やかすと、 ラピスが2人の顔に人差し指を向けて、魔法で水をピューっと掛けた。


「どう、涼しくなった?」

「ありがとよ、嬢ちゃん。だが、全然嬉しくねぇな…」


 ガレ場を掘り出してどのくらい時間が経ったろうか、全員体力を使い果たし、ヘロヘロになった頃、アレンとレオンハルトが同時に打ち込んだツルハシの先が「ボスッ」と音を立てて向こう側に突き抜けた。急に力が抜けたアレンがコケそうになる。


「おわっと!」

「大丈夫か、アレン」


 レオンハルトがアレンの腕を掴んでコケるのを防ぐ。穴からはひんやりとした空気が流れて来き、火照った身体に気持ちいい。


「終わりが見えたな」

「ああ、奥に続いているようだ。もう少し掘ってみよう」


 突き抜けた穴をショベルを使って大きく広げていくと、さらに奥に続く通路が見つかった。しかも、人為的に掘られた坑道ではなく自然にできたもののようだ。


「自然にできた洞窟ね。貰った地図にも記載がないわ。未発見の洞窟か…。行ってみるしかないわねぇ。みんな、いい?」

「ああ、フォルティ姉さんの言う通りだ。ここまで来たら行くしかねえぜ」


 アレンの言葉に全員が頷く。すると、スススとエドモンズ三世が前に出てきた。


『ここからは儂が先行しよう。何が起こるか分からないでの』

「よろしくね。エドモンズさんの後ろは私とレオンハルト君ね。後は適当に着いて来て」


 洞窟は高さはあるが、幅は2人が並んで歩けるくらいしかなく、どうしても縦長になってしまう。ただ、坑道のような地熱による熱気はなく、前方より冷たい空気の流れが感じられ、奥に何かあるのではないかと予感させる。

 また、洞窟の壁には石英や方解石の厚い鉱脈が走っており、一部はバラ色をした鉱石からなる鉱脈もあり、トーチの光に輝いて美しい。フォルトゥーナは地図にマッピングしながら、鉱脈の位置と厚さ、色の種類なども書き込んでいく。


 途中、全長1mもあるハサミムシが何体か襲ってきたが、エドモンズ三世の魔法で全て排除した。


『なんじゃコレは? 見たことない魔物じゃのう。じゃが、儂の敵ではない。ワハハハハ』

「エドモンズさんは見た目も性格も最悪ですけど、強さは一流ですよねー」


『セラフィーナは一言多いぞ。愛する思春期少女から悪口言われたら、泣くぞ、儂』

「キモイ」

『………』


 心にダメージを負ったエドモンズ三世を先頭に歩き続けて1時間。幸いにも魔物は出て来ない。しかし、穴掘りした上に歩き通しで全員に疲労の色が濃い。特に体力に劣る女性陣は限界に近づいていた。


「エ、エドモンズさん…。少し休みましょう…」

「賛成。流石にきついです」

「腰が痛ぇ」


『…見よ。壁だ』


 エドモンズ三世が指さした先には、今まで通って来た自然の洞窟から四角く加工された石材が積み上げられて作られた壁が先を塞いでいる。


「行き止まりか? しかし、この壁は一体なんだ…? 地下深くにこんな人工物があるなんて、見たことも聞いたこともないぞ」

「そうねぇ…。入り口らしきものもないし、困ったわね。この先どうしましょうか」


 レオンハルトやアレン、フォルトゥーナが壁を見ながら思案をしている脇でラピスとセラフィーナが壁をぺたぺた触りながら調べている。


「特に、仕掛けみたいなのはなさそうですね。ただの壁の様です」

『では話は簡単じゃ。壁を壊せばよい』


「乱暴だな。だが、いい考えだ」

「じゃあ、私がやりますね。えい、暴風魔法トルネードランス!」


 セラフィーナが放った強力な竜巻の槍が壁に当たると、風の圧力でビシ!とヒビが入り、バガン!と大きな音がして人ひとり通り抜け出来る程度の穴が開いた。


『よくやったぞ、セラフィーナ。どれ、儂が入って確認してみるとしよう』

 穴からエドモンズ三世が様子を見に中に入った。


『ふむ、ここは通路の様じゃ。皆の衆、入って来るがよい』

 その声に全員が中に入り、周りを見回した。


「何かこう…奥から、不思議な波動を感じるわね」

『ふむ…。これは、アルムダートのダンジョンで感じたものと似ているな。何か強力な魔物が出るやもしれぬ。気を付けるに越した事はないのう』


「進んでみるか…。それしかねえからな」


 フォルトゥーナとエドモンズ三世が不安を口にするが、前に進むしかない。一行は慎重に進み始めた。通路は何らかの魔術的技法が施されているのか、うっすらと明るく、進むには不自由はない。


 通路を20mほど進むと観音開き式の扉があった。押してみると軋み音を立てながら開いた。一行は危険が無いか注意しながら中に入る。

 中は1辺約20mの正方形をした広い部屋で、天井までの高さも7mはあるホールになっていた。それに今入って来た入り口以外に扉が無い。何より全員の目を引いたのは、真ん中に1.5m程の高さの台の上に浮遊している直径1mほどの玉で、白く明るく輝いている。レブとエマが玉を調べようと近づこうとしたが、フォルトゥーナがサッと手を出して2人を止める。


「待って! あの玉…何か危険なものを感じるわ」

『アルムダートのダンジョンで見たコアとそっくりじゃの。ここは古代遺跡かダンジョンの可能性が高さそうじゃ。ん…と言うことは…、いかん! あれは魔物を呼び出すぞ!!』


 エドモンズ三世が声を上げたその時、空いていた扉が「ガタン!」と音がして閉じると同時にコアの色が禍々しい紫色に変化し、コアの周囲に魔力の渦が形成される。


「みんな、下がれ!」

 レオンハルトが叫び、エドモンズ三世を除いた全員が壁際まで下がる。


 魔力の渦はみるみる濃くなって、その中から2体の異形の魔物が現れた。1体は獅子の体に真っ赤な毛、老人男性の顔をして鋭い牙をもった怪物「マンティコア」、もう一体は上半身は美しい人間の女性で、下半身はドラゴンの姿をした魔物「デルピュネ」。2体はゆっくりと体を動かし、フォルトゥーナたちを睥睨する。


「なんだありゃ。見たことねえぞ、あんなバケモノ…」

「こ…怖い。やだ、何あれ…、あんな怪物見たことないよ」


 百戦錬磨のレオンハルトが体を硬直させ、エマとレイラが恐怖に身を竦ませる。その他のメンバーも同様に現れた魔物を見ているしかできない。


「ヤバいわね…。あれはマンティコアとデルピュネに違いないわ」

「姉さん、知っているのか」


 聞いてきたアレンに、フォルトゥーナは、古代遺跡から発掘された書物で、異形の魔物はこの世界とは別次元に存在する魔界に生きる生物である事。魔界はイシュトアール世界とは分断されており、通常では現れないが、古代文明が作り出した次元転送装置(ダンジョンコアの一種)によって呼び出すことが可能と記載されていると読んだことがあると話して聞かせた。


「その装置とやらがアレか…」

『侵入者に対する防衛装置なのかも知れぬな』


『くっくっく…、あはははは! お話は終わりかえ。折角この世界に現れたんだ。人間を喰らい尽くしてやるわえ。人間…、何千年ぶりかのう、じっくり味わって喰わなければ』

『デルピュネ、メスはワシが貰うぞ。お主はオスでよかろう』


『オーホホホ! オスの精をたっぷりと絞り、味わい尽くす…いい。いいぞえ~』

『サディストめ…。人間ども、大人しくワシらの餌となれ!!』


 マンティコアがパーティ目掛けて突っ込んで来る。その前にエドモンズ三世が立ちふさがり、全員に指示を出す。


『そうは行かぬ! 全員武器を取れ、男はマンティコア、女はデルピュネを叩くのじゃ!』

『バイオ・クラッシュ!』


 エドモンズ三世は自身の最強魔法バイオ・クラッシュで先制したが、杖の宝玉が光った瞬間、マンティコアの前に不可視の防御壁が現れ、波紋のように波打ち、魔法を相殺した。


『ぐはははは! ワシに魔法は無効だ! うぬ、女はデルピュネに向かわせたか。骸骨の癖に生意気な奴め』


『儂は骸骨ではない! 偉大なる死霊の王「ワイトキング」エドモンズ三世じゃ! 異形の魔物よ、我が仲間に手で出しはさせぬ! ここで死ね。ダークランス!』


 しかし、何者をも貫く暗黒の槍も防御壁に阻まれ、マンティコアに届かない。そこに、レオンハルトたちが武器を振り上げて飛び込んで来た。


「おっさん! 魔法はダメだ。オレたちが出る! アレン、レイブン、ミルズ、行くぞ!」

「おおっ!! おっさんは援護を頼む!」


 レオンハルトがマンティコアの顔を狙ってハルバードを横に薙ぐが、顔に当たる寸前、前足で柄を押さえて直撃を防ぐ。その隙にアレンやミルズが剣を胴体に突き立てるため、剣を振り上げたが、長く強靭な尾の一撃で壁まで跳ね飛ばされる。しかし、反対側からレイブンが飛び込んで、バトルアックスを叩き込んで来た。


「よっしゃ! 決まった!」

『甘いわ』


 バトルアックスの斬撃が決まったかとレイブンが確信したのも束の間、口から風のブレスを吐いてレイブンを吹き飛ばした。


『大丈夫か。今治す』


 風で切り刻まれ、床に叩きつけられて酷いダメージを負ったレイブンを治癒魔法で治しながら、マンティコアと戦うレオンハルトたちを見て、エドモンズ三世は自分の大切な主人を想う。


『さすが魔界の魔物、強敵じゃのう。ユウキがいてくれたら…。こんな時こそ、ユウキの召喚魔法が必要なのじゃが…』



 一方、デルピュネに向かった女性陣。フォルトゥーナが指揮を取って怪物に対峙している。セラフィーナとラピス、レイラが剣を抜いて前衛に立ち、フォルトゥーナとエマが後衛というポジションだ。


『なーんだわえ、わっしに来たのは男じゃないのか。つまらんのう。しゃーない、さっさと殺して、マンティに喰わせるかえ』


「あらぁ、そんな余裕をかましてて大丈夫かしらぁ。私たちを舐めると痛い目に遭うわよ!」

『ホーホホホ。人間ごとき、わっしに何ができると? アハハハハ、片腹痛いわえ』


「強がりもここまでよ! アースランス!」


 デルピュネの真下の床が粉々に破壊されたと同時に、床の破片で作られた鋭い槍が何本も飛び出て胴体を捉えた…が、土の槍は胴体に当たると外皮を破ることが出来ず、粉々に砕け散った。


「な…、なんですって!」

「フォルティさん、今度は私が! ファイアストーム!」


 エマが掲げた杖の先から炎が渦を巻いて飛び出し、女性体に向かうがデルピュネはニヤリと笑うと口から氷のブレスを吐き出した。炎と氷がぶつかり合いせめぎ合う。


「ぐ…、ぐぬぬ…」

 エマは魔力を最大限に高めてファイアストームを撃つが、デルピュネの魔力はエマを上回り、炎は氷のブレスに押し戻され、ついに完全に撃ち負けてブレスに跳ね飛ばされてしまった。


「きゃあっ!」

「エマちゃん!」


 フォルトゥーナが駆け寄って、エマに治療薬を与える。その様子を見たセラフィーナとラピスは頷き合うと、レイラに声をかけた。


「レイラさん、少しの間デルピュネの気を引いてください! その間に私とラピスが突っ込みます!」

「わ、分かったわ。無理しないでね」


「ラピス、行きますよ! 剣に魔力を込めて!」

「うん! あんなヤツ、お母様に比べたら全然怖くない!」


 セラフィーナが目で合図し、レイラが横に移動する。フォルトゥーナはエマを壁際に移動させると、レイラと呼応してデルピュネの気を引くため鞭を構えた。セラフィーナは幻蒼石の魔剣、ラピスはミスリルソードを持ってレイラと反対側に駆け出した。


「怪物め、こっちよ!」


 囮となったレイラがデルピュネに向かってロングソードを振りかぶった。デルピュネはニヤリと笑うと、氷のブレスをレイラ目掛けて放った。

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