第30話 ユウキ、退寮を迫られる
ユウキを狙った事件の翌日、高等学園の会議室に学園長はじめ、教師の面々が揃って会議をしていた。
「それで、当事者たちはどうしているのだ?」
「はあ、学園長。男子生徒は今日から登校しておりますが、女生徒は2人とも体調を崩し、休んでおります」
「ユウキ・タカシナを狙った事件と憲兵隊より連絡があったそうだが」
「確定情報ではありませんが、ララを誘拐したスラムの連中がそう言っていたようです。ただ、首謀者はわかっておりません。どうやら情報屋を介した依頼だったようで」
「うむ。そのユウキという女生徒、1人でごろつきを5人も倒したそうだな」
「ユウキの実力なら当然でしょう。人質がいなければ1人で全員倒していたかもしれませんぜ」バルバネスが言う。
「それほどですか、それでユウキ・タカシナは寮に?」
「いや、懇意にしているドワーフが経営している武器屋にいるようです。しばらく、そこで休養すると連絡がありました。どうも精神的な面で体調を崩したようでして…」
「どうします。学園長」
「うむ、これは学園にとっても看過できない問題だ。在籍している女生徒が身の危険にさらされるなんて学園の信用にも関わる。もしかしたら、学園内に関係者がいるかもしれん」
「まさか! そんな…」
教員の中に動揺が広がるが、学園長は冷静に、
「いや、そもそも、ユウキとやらは王国の僻地から出てきたという。王都内に面識がある者がいるとは考えられん。恐らく、入学以降にユウキを見て、気に入り、手に入れようと考えた者の仕業に違いない。そうなると、学園内の貴族生徒の線もありうる」
「そうなると、このまま寮に入れているのは危険ではないですか」
「安全なところから通うのが一番か…。しかし、退寮するにしても彼女には身寄りがない。一度、話し合ってみたいと考えます」
「頼みますバルバネス先生」
「それと、学園内の生徒の動向に注意する必要がある。教員の皆には十分気を付けておくように。何かあったら些細な事でも報告してほしい」
「わかりました。学園長」
その日の夕方、バルバネスはユウキが世話になっている武器屋にやってきた。
「ユウキ、客だぞ」
「おう、体調はどうだ。少しは元気になったか」
「あ、バルバネス先生」
ユウキはベットから身を起こして、バルバネスに向き合った。オヤジもベットの脇に椅子を持ってきて座る。
「うん、無理すんな。今日は話があってきた」
「話? 何ですか」
「うむ、お前はあと1週間ほど休んでいいぞ。特別休学扱いにする。出席日数に影響せん」
「それからな、お前を退寮させろという話が出ている」
「ええっ!」
「驚くのも無理はないが、どうも学園内の貴族が関わっている可能性がある。寮にいると、いつ何時襲われるかわからん。危険ではないかと教員会議で話しが出てな。退寮して安全なところから通った方が良いのではとの結論になった」
「でも、ボク…。身寄りがないんで行くところがありません。寮に住むしかないんです」
「だから、最終的にはお前の判断とすることにしたんだ」
「体のいい、厄介払いんじゃないのか」
「オヤジさん……」
「あ、いや、そういう訳ではないんだが…。ユウキの身を案じた結果なんだ」
バルバネスが困ったように頭をかく。
「ユウキ、お前ここに住め。ここから学園に通うがいい。部屋はあるし、お前1人くらい食わせることは問題ない」
「でも、迷惑じゃ…」
「いい。既に迷惑しておる。これ以上迷惑が増えることもあるまい」
「こう見えてもオレはドワーフ。戦闘能力ならそこらの奴等には引けを取らん。お前を守るくらい何でもない」
「ありがとう、お世話になります」
ユウキは涙ぐんで、オヤジさんに感謝するのであった。
「お前はホントに泣き虫だのう」
オヤジさんは、優しくユウキの頭を撫でてあげるのだった。
せっかく学園寮に入寮したユウキでしたが、武器店に下宿させた方が、今後の話の流れ的に良くなりそうだったので、退寮させることにしました。ユウキと関わることによって、変化していくオヤジさんの心境も楽しみにしてください。