表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

299/620

第288話 ユウキ、行方不明になる(廃坑探索③)

「ラピス、まだ凍結魔法を撃てる?」

「うん…、あと1回だけなら。それ以上は無理。魔力が足りないわ」


 ユウキはその言葉に頷くと、今度は自分が高熱魔法を放つから、その後に凍結魔法を放つようにお願いした。

 接近して来たマザースコルピウスは、粉々にされたサソリたちを感じ、怒りに目を真っ赤に燃え上がらせ、大きな鋏を振り上げて襲い掛かって来た。


「ユウキちゃん危ない!」


 レオンハルトがユウキとラピスに向かって振り下ろされた鋏をハルバードで受け止めるが、強力なパワーに押し込まれ、弾き飛ばされてしまったが、その間にユウキたちは逃げることに成功。その隙にフォルトゥーナとエマが魔法を放とうとしたが、余りにも接近していて、タイミングを見計らっているうちに、鋏の横払いで倒されてしまった。しかし、鋏が当たる直前、エドモンズ三世の暗黒防壁が間に合って、直撃を避けることができ、擦り傷程度で済んだのは幸いだった。


「ありがとう、エドモンズさん」

『なんの、傷は後で直してやるわい』


(こう接近していては、魔法が使えない。ある程度ダメージを与えて、間を取らないと…)


 マザースコルピウスが両の鋏を振り上げて攻撃の体制に入った。ユウキはがら空きになった顔面に向かって飛び込み、触覚と触角の間にある中眼目掛けて、魔法剣を突き刺した。その瞬間マザーはビクンと震え、動きが止まった!


『ユウキ、退くのじゃ!』


 その声にユウキは魔法剣を引き抜くと、前に出て来たエドモンズ三世の背後に走り込む。目の前に誰もいないことを確認したエドモンズ三世は宝杖を掲げて、自身最強の暗黒魔法を放った。


『バイオ・クラッシュ!』


 杖の宝珠が輝き、マザースコルピウスがその光を浴びる。再びビクンと震えたマザーは口器から緑色の液体を吐き出し、仰向けに倒れると苦しそうに8つの脚をバタバタと動かしたが、やがてそれも止まって動かなくなった。


「し、死んだのか…?」

 アレンたちが恐る恐るマザースコルピウスに近付いて、武器で突いてみるが全く動く気配はない。


『フハハハハハ! 死霊王の最強魔法バイオ・クラッシュを受けて無事で済むはずがない。これぞワイトキングの力。称えよ、崇めよ、ひれ伏すのじゃあ! フハハハハハ! しかし、本当に効くとは思わなんだわ。うむ、重畳重畳』


「何が重畳よ、行き当たりばったりなの? このエロ骸骨は、もう」

『そうは言うがユウキよ。粉々にしてしまうより良いではないか。ラピスちゃんの魔力も温存できたしの。それにこれは証拠品として持ちかるがよい』


「え~、ヤダな。入るかなコレ…」


 ユウキはマジックポーチを腰から外して口を開いてマザースコルピウスに向けてみた。すると、巨大サソリはパアッと光に包まれ、シュポンと吸い込まれた。


「わあ! 凄いわね、そのアイテム」

「ホントですね。私もこの類の魔道具は見たことありますが、これほどの物は初めてです」


 全員が感心してポーチを見つめるので、ユウキは少し恥ずかしくなった。テレを隠す様にえへんと咳払いすると、先に進もうとアレンに言い、アレンはエマにトーチを唱えるよう指示して全員の隊列を整え、先に進み始めるよう号令をかけた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 巨大サソリ「マザースコルピウス」を倒した後、坑道を奥に向かう戦乙女と烈火の剣の一行。坑道は奥に進むにつれ狭くなってきたが、何とか2列縦列で進むことが出来ている。時々生き残りのサソリが襲ってきたが、せいぜい1~2匹といったところであり、難なく排除することが出来た。しかし、坑道に入ってから既に6時間は経っていて、空腹になるとともに、疲労もかなり蓄積して来た。


「疲れて来たし、お腹すいてきたわね。少し休憩しない?」

「だが、休憩できる場所がねえぞ」


 フォルトゥーナが休憩しようと提案し、女の子たちがうんうんと頷くが、アレンが場所がないと言う。思わずため息が出てしまいそうになるが、レブが「シッ!」と言って皆を黙らせた。


「どうした、レブ」

「音が聞こえる…。間違いねえ、水が流れる音だ」


「ホントだ…。地下水が流れているのかも…」

 ユウキも耳を澄ませると、確かに水が流れる音が聞こえる。音は坑道の先から聞こえる。とにかく全員で向かうことにした。


 音が聞こえた場所から10分ほど進むと急に開けた場所に出た。そこは直径50m、高さ20mほどのほぼ円形の空間になっていて、真ん中に幅10mほどの川が流れている。先ほどから聞こえていた水の音は、この川の音だった。また、川の両側は平坦な河川敷となっていて、休憩も出来そうだ。


 しかし、ユウキたち一行が立っているのは河川敷から高さ5mほどの崖の上。対岸の坑道に向かって古びた木造の橋が掛かっているものの、降りる足場がない。


「これじゃ降りられねえな…」

「ふっふっふ~。だぁいじょうぶよぉ。私に任せて。それ、アースウォール!」


 下を覗き込んだレイブンやミルズがボソッと呟くが、フォルトゥーナが自信満々に任せろと言い、土の壁を作る魔法を応用して階段をこしらえた。


「おお! すげえなフォルティの姉さん」

「ほーお…。土系魔法ってのは便利だな」


 烈火の面々が感嘆の声を上げてフォルトゥーナを褒める。当の本人は腰に手を当てて胸を張り、得意顔だ。


「土系って便利なのよ。色々応用が利くしね。ただ、使い手が少ないのが残念なのよね~」


(へえ…、そうなんだ。そう言えば、フレッド君にも色々助けてもらったな…)


 みんなと楽しそうに話しているフォルトゥーナを見ながら、土系魔法を使っていた友人の事を思い出していたユウキを、先に河川敷に降りたセラフィやラピスが呼んでいる。


「あっ、ゴメン。今行くよ」


 魔法で作られた階段を下りてみんなの元に行く。河川敷は岩場であったが、ここもフォルトゥーナの魔法で平らにして休憩場所を確保した。ユウキがマジックポーチからコンロの魔道具を出して寸動鍋を置く。そこにラピスが魔法で水を出して満たし、エマとレイラがバッグから干し肉や乾燥野菜取り出し、適当な大きさに切って鍋に入れ、スープを作り始めた。


「ラピス、お水頂戴」

「あ、俺にもくれ」

「いいけど…。何でわたくしがこんな事を」


 一行の中で唯一水系魔法の使い手であるラピスは、みんなのカップや水筒に魔法で作りだした水を注いで回る。ユウキの隣でその様子を見ていたセラフィーナが、ぼそりと「人間水道」と呟いたのを聞いて、口に含んでいた水をブハッと吹き出してしまい、対面にいたレオンハルトの顔がべしょ濡れになってしまった。


「わあっ! 酷いぜユウキちゃん!」

「ゲホッ、ゴホッ…。ご、ゴメン。セラフィが可笑しなことを言うから、つい…」

「ユウキさん、人のせいにしないでください。それに、レオンハルトさんにとってはご褒美だと思います。ユウキさんの唾液水は」

「なにそれ、イヤな言い方しないでよ。セラフィ」


 しれっとするセラフィーナに文句を言いながら、ふとエマとレイラを見ると、じいっとユウキを見ていて、思わず目を逸らしてしまった。


(こ…、怖いよ~)


 そんなちょっとしたハプニングもあったが、魔物が接近する様子もないことから、全員リラックスして休んでいた。そのうち、鍋の中が煮えたのを確認したエマとレイラは、塩で味を調えるとユウキに預けていたお椀を受け取って、全員にスープを配り始めた。スープは塩のみで味付けしただけだが、疲れた体にはとても美味しく、暖かさが体中に染み渡るようだった。


 レイブンとミルズが寸動鍋とお椀を川で洗っている間、フォルトゥーナが下流側に向かい、土系魔法で小さな穴を掘った後、三方を高い土壁で覆った。それを見たユウキを始めとする女子たちはピンときて、男たちに「絶対に来るな!」と釘を刺し、列を作って並び始めた。


「小便か…」

「だな、女たちが終わったら俺たちも使わせてもらおうぜ。俺、うんこしてえ」

「お前な…」


 女子たちの列を見ながら、レオンハルトとアレンがデリカシーのない話をしている。スッキリした顔の女子たちが戻って来ると、交代で男たちが仮設トイレを使わせてもらうことにした。


 ユウキたちが元の場所でお茶を沸かして飲んでいると、トイレの方から「アレンのヤツ、クソしやがった! 臭えぞ、何喰ってんだ!」といった声が聞こえてきて、全員お茶を吹き出してしまうのであった。


 食事込みで2時間ほど休んでいると、橋の向こうを調べに行っていたエドモンズ三世が戻って来た。


「エロモン、どうだった?」

『うむ、坑道はさらに続いておる。奥は深そうじゃが、一本道なので迷うことはなさそうじゃ。魔物の姿も見えぬが…』


「何かあるの?」

『奥から、魔の波動が感じられた。何かいるのは間違いない。心して行かねばならぬぞ。それと…』


「まだ何かあるの?」

『この川に架かっている橋はかなり傷んでおる。慎重に1人ずつわたる必要がある。特に最近体重が増えたユウキとフォルトゥーナは気を付けねばな。クックック…』


「あらやだ」

「ふ、太ってないもん!」

 男たちの視線が2人に集まる。ユウキは顔が赤くなってしまった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 いよいよ奥に進むため、橋を渡ることにした。まず烈火の剣のリーダー、アレンが橋の欄干代わりのロープに手を掛け、板を繋いだ桁に足を掛ける。一歩一歩進むたびに「ギイッ、ギイッ」と耳障りな音がするが、アレンは慎重に渡り、向こう岸に着いた。アレンは周囲の安全を確認すると、渡って来るよう手で合図する。


 次いでエマが渡り、向こう岸をトーチで明るくする。それを見てレイラ、レイブン、ミルズ、最後にレブが渡り、無事に向こう岸に到達した。


「次はオレたちだな。最初はオレが行く」


 そう言ってレオンハルトが橋を渡り出した。重い武装と荷物を持った、大柄なレオンハルトが乗っても橋は何とか耐えている。


(何とか耐えられそうだな…)


 レオンハルトが渡り終え、手招きするとセラフィーナ、ラピスと続いて渡る。ラピスが渡り終えた後、フォルトゥーナがユウキに声をかけて橋に足を掛けた。その瞬間「ギギィイ~」と桁が軋むイヤな音がした。


「もう失礼しちゃうわね。ユウキちゃん、お先に行くわね」


 フォルトゥーナが慎重に歩を進め橋を渡って行く。ユウキはアレンが渡った時より桁の軋み音が大きくなったことに違和感を持ったが、橋は重量に耐えているように見える。


「ふう…、怖かったわね。さあ、最後はユウキちゃんよー」


 対岸から声がかかったので、ユウキも欄干代わりのロープに手をかけて橋を渡り始めた。一歩踏み出すごとに桁板が軋む。一歩ずつゆっくりと渡って行く。中間地点に差し掛かったところで、ふと下を覗いてみた。5m下は地下川が急流となって流れている。落ちて飲み込まれたら助からないだろう。ユウキはごくっと唾を飲み込んだ。


(うう、怖いな…。早く渡ってしまおう…)


 前を向いて一歩踏み出した瞬間、桁板が「バキン!」と音を立てて割れ、バランスを崩したユウキがロープに寄りかかると「ブチン!」と音がしてロープも切れてしまい、橋が真っ二つに割れてしまった。足場を失ったユウキが川に向かって落下する。


「きゃあああっ!」

 悲鳴とともに地下川に落ちたユウキは、今度は急流に飲まれ流されて行く。


「わ、わぷっ! わ、わ…、助けて…、がぼっ…」

「ユウキちゃん! ユウキちゃーん!!」


 ユウキは広い空間の先、岩の壁の亀裂に水の流れと一緒に飲み込まれてしまった。仲間たちは茫然として、ユウキが流れて行った先を見ている事しかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ