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第285話 地底の激闘(vsアラクネー)

 巨大な蜘蛛の怪物アラクネーは、眼下に散らばる人間を見てニヤリと笑うと、尻から多数の子蜘蛛を生み出した。子蜘蛛といっても人の大きさ位はあり、組み伏せられたら肉を骨を食い千切られる運命が待ち受けている。


「さーて、どうするか…」


 どう対処するか迷ったように呟くアレン。レオンハルトはアラクネーから目を離さず、少しの間思案する。心の中はゴブリンキングやミノタウロスと戦った時のように高揚しており、忘れかけていた冒険者としての矜持が蘇ってくる気分に思わず笑みが浮かぶ。それに気づいたアレンたちは戸惑いを覚える。


「まさかこんな奴がいたとはな、さて、どうするか…。フォルティさん、あんたは魔術師を指揮してアラクネーを攻撃してくれ。オレと烈火の剣は子蜘蛛退治だ。絶対に魔術師に近づけるな! いくぞぉ!!」


 レオンハルトは雄叫びをあげ、ハルバードを振りかざして子蜘蛛に飛びかかると1体を真っ二つに叩き割り、返す刀でもう一体の胴と頭を両断する。仲間を殺された怒りで何体もの子蜘蛛がレオンハルトに飛びかかるが、ハルバードを薙いで一度に何体もの子蜘蛛を斬り裂いた。その姿はかつて魔物戦争で獅子奮迅の活躍を見せた姿そのものであった。


「やるじゃねぇか…。オレたちも負けてらんねぇぞ! かかれぇえええ!」

「おおう!! 俺らに敗北の二文字はねえ!」

「ヒャッハー! 汚物は消毒だぁああ!」

「たわばっ!」


 レオンハルトの戦い振りを見たアレンたち「烈火の剣」の面々も声を上げて子蜘蛛に向かって戦いを挑んで行った。その様子を広場と通路の境界で見ていたフォルトゥーナは、側にいたセラフィーナとエマを見て、はたと気が付いた。


「あら? うちのリーダーとラピスちゃんは?」

「え…、いませんね」


 フォルトゥーナが辺りを見回すと、大分離れた所で坑道の奥を見ているユウキたちに気付いた。


(どうしたのかしら? エドモンズさんも出てるわね…。まさか、向こうからも? 結構やばい感じかもね。ということは蜘蛛のお化けは私たちで退治しなければならないって事よね。う~ん、どっしようか…)


「セラフィ、エマちゃん。どうもアラクネーは私たちだけで倒さなければならないみたい。覚悟を決めてかかりましょう。エマちゃん、後方のユウキちゃんたちに灯りの魔法を。セラフィは私と魔法でアラクネーを攻撃よ。いいわね!」


『はいっ!』


 フォルトゥーナとセラフィーナは魔法攻撃を行うため、アラクネーの前に出た。アラクネーはレオンハルトたちに向かってさらに子蜘蛛を生み出していたが、2人の姿に気付くと巨大な前脚を振り上げ、鋭い爪で攻撃して来た。


「危ないっ!」


 振り下ろされた前脚は飛び避けた2人の間に「ドガン!」と音を立てて突き刺さる。横滑りした体を停止させたフォルトゥーナは、アースランスを放とうとしたが…、


(アラクネーの周囲にレオンハルトたちがいて巻き込んでしまう! 土系は使えないわ。なら!)


「ファイアストーム!」


 フォルトゥーナの指先から炎が渦を巻きながら蜘蛛の胴体に向かって飛ぶ。しかし、直撃する寸前、頭部の8個の赤い目が同時に輝くと、炎の渦は搔き消えてしまった。


「えっ…、なに魔眼!? くっ、もう一度! ファイアストームっ!」


 2発目の炎の嵐も魔眼によって直撃の寸前に掻き消されてしまった。魔法を撃ち終わったフォルトゥーナに向かって前脚が振り下ろされるが、真横に飛びのいて間一髪で躱す。


「フォルティ避けて! 今度は私です!」


 セラフィーナが全身に魔力を纏って両手を頭の上に伸ばしてクロスさせる。魔力の高まりで体が黄金色にうっすらと光っている。


「喰らいなさい! ライトニングボルトォオオオ!」


 アラクネーの直上に魔法陣が形成され、その魔法陣から何十本もの雷光が降り注いだ。アラクネーの魔眼が輝くが、強力な雷光は威力を減衰させながらもそれを打ち破り、太い胴体に直撃し、電撃の衝撃が体内を駆け巡り、ダメージに魔物は叫び声を上げる。


『ギャアアアア!』


「やった!?」


 前脚の攻撃から逃れたフォルトゥーナが聞いて来るが、セラフィーナは首を振る。ブスブスと皮が焼ける臭いと煙を立てているアラクネーは、自分の体を傷つけた相手に怒りに満ちた目を向け、毒の牙を振り立て巨体を震わし、猛然と襲い掛かって来た。セラフィーナは風の魔法で迎撃するが魔眼によって防がれ、巨大な牙が華奢な体を食い破ろうと迫って来る。


 アラクネーの前脚が牙がセラフィーナの左右に突き立てられ逃げ道を閉ざし、巨大な毒牙からは毒液がしたたり落ちている。セラフィーナは上を見上げると、アラクネーの人形ひとがたが悠然と見下ろしていた。その醜い顔にニヤ~ッと不気味な笑みを浮かべると両手を前に出し、指先から糸を吐き出してセラフィーナを絡めとる。体を締め付ける痛みにセラフィーナは悲鳴を上げた。


「きゃああああっ!」

「セラフィーナ!!」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「うりゃあああっ!」


 レオンハルトとアレンたちは子蜘蛛と激闘を繰り広げている。アラクネーから生み出された数十匹。その約半数を倒したが、まだ20~30匹は残って、ガサガサと音を立てて迫って来る。


「きゃあっ!」

「レイラッ!」


 烈火の剣の女剣士レイラが悲鳴を上げて倒れた。仲間が駆け寄ろうとするが、子蜘蛛が切れ目なく襲い掛かって来るので、その対処で手一杯になり、助けに入ることが出来ない。レオンハルトが目の前の子蜘蛛を斬り倒し、レイラに駆け寄て抱き起すと、苦しそうに呻いている。見ると腕に負った傷から毒が入り込んだようだ。傷口が青黒くなり、顔も青ざめている。様子を伺いにレブもやって来た。


「こりゃマズイ…。こりゃ猛毒だ。このままじゃ10分と持たねえぞ」

 レブがレイラの状態を見て顔を顰める。


「うう…、く、苦しいよ…。助けて…」


 レオンハルトはレブにレイラを任せると、広場の隅に置いておいたナップザックに向かった。見ると、フォルトゥーナたちも苦戦しているのが目に入った。


(あっちもマズイな…)


 ナップザックから液体の入った瓶を何本か取り出すと、再びレイラの元に駆け寄る。レイラの息は小さく荒くなり、今にも危険な状態だ。


「レイラ、これを飲め」


 レオンハルトはそう言って瓶の蓋を開け、レイラの口に当てて液体を流し込む。2/3程飲ませると、残りを傷口に振りかけた。


「解毒薬だ。実はこれを買いに行って遅れたんだ」

 少しするとレイラの呼吸が安定して来た。


「レブと言ったな。この回復薬をレイラに飲ませてくれ。あと、解毒薬を何本か置いて行く。毒を受けたら使っていい。頼むぞ。オレはあのデカいのを退治に行く。子蜘蛛はアンタらに任せたぞ」

「お、おい!」


 レブが声をかけた時には、既にレオンハルトはアラクネーに向かって駆け出していた。


 レオンハルトは飛びかかって来た子蜘蛛をハルバードで斬り裂きながら、アラクネーの背後に接近した。アラクネーはセラフィーナを糸で拘束しており、自分には気づいていない。慎重に近づくと隙を見て胴体に飛び乗り背中を前方向けて走り出した。そして、大きくジャンプしてハルバードを振り上げた!


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「むぐぐ…。こ、この…」


 セラフィーナが何とか糸の拘束から逃れようと藻掻くが、蜘蛛の糸は益々体に絡み、大きな口に引き寄せられていく。毒牙の射程に捕らえられたセラフィーナに向かって牙が閉じる!「終わった…」と思ってギュッと目を瞑ったが、いつまでたっても体が切り裂かれた感触が無い。瞼を開くとそこには鞭で動きを抑えられた1本の牙。フォルトゥーナが咄嗟に鞭を放って絡めとったのだ。一方、反対側は…。

 何とエマがセラフィーナの脇に立って魔術師の杖で牙を防いでいた。


「フォルティ! エマ!」

「ぐぬぬ…、お姉さんパワーを甘く見ないでよね…。でもキツイ~」

「こ…こっちもです。だけど、こんな虫ごときに負けやしません!」


「エマちゃん、蜘蛛は虫じゃなくて節足動物よー!」

「ええ~! そうなんですかぁ~」


 脱力しそうなやり取りをしながら毒牙を抑えているものの、アラクネーのパワーに負けそうになって来る。全身の力を込めて鞭を引き、杖を支えるが、力の限界に達しようとしていた。「もうダメ~!」と観念しかかった時、それは起こった。


「おらぁあああ!」


 裂帛の掛け声とともにアラクネーの背後から1人の戦士が飛び出し、人形ひとがたに向かってハルバードを振り下ろした。咄嗟の出来事に前方に集中していたアラクネーの人形は驚愕の顔で背後を見る。しかし、すでに遅くハルバードの鋭い刃が肩口から腕を斬り下ろした。アラクネーは苦痛に物凄い叫びを上げる。戦士はその勢いを持ってエマが抑えていた牙を叩き折り、そのまま蜘蛛の頭に飛び乗ると、魔眼を潰し始めた。


「レオンハルト君!」

「魔眼を潰す! その間にセラフィちゃんを!」

「了解よ!」


 フォルトゥーナは鞭を牙から解いて引き寄せると、残ったもう1本の手を狙って鞭を打ち放った。その間にエマはセラフィーナを抱いて、地面に伏せる。


「それっ! 女王様の鞭(クイーンズウィップ)!」


 鋭い鞭の一撃が人形ひとがたの手を打ち抜き、5本の指をバラバラに吹き飛ばした。


『グオオオオ!』


 アラクネーが苦痛に悶える。その隙にエマは糸の拘束を脱したセラフィーナに絡まっている糸を、炎の魔法で少しずつ焼き消していった。


「あち…あちちっ。熱いですよエマさん。あっちっち!」

「もう少しです。我慢してください…。っと、終わりました」


 セラフィーナとエマは立ち上がって、フォルトゥーナの元に集まる。


「セラフィ。大丈夫だった?」

「かなりヤバかったですが、何とか…。2人ともありがとうございます。褒めて遣わしますです」


「見て。魔眼の半数はレオンハルト君が潰してくれたわ。後は私たちが魔法攻撃で一気に片を付けるわよ」

『了解です!』


「レオンハルト君、魔法を放つわ! 下がって!」


 その声にレオンハルトは魔眼攻撃を止め、胴体を駆け抜けてアレンたちの方に向かう。それを見てフォルトゥーナは強力な土系魔法を放つため、魔力を練り始めた。また、セラフィーナとエマは2人で何か確認をしている。


「(全員アラクネーから大分離れたわね。よし、これなら)大地の精霊、我に仇成す敵を撃て! アースランス!」


 フォルトゥーナが魔法を唱えると、アラクネーを中心として半径10m程の円を描いて巨大な岩の槍が多数轟音を立てて突き上がり、そのうち何本かがアラウネーの胴体を捉えて突き刺さった。衝撃で脚が何本か吹き飛ぶ。また、破れた外骨格から腸のようなものが飛び出した。苦痛にアラウネーは大きな咆哮を上げ、破れかぶれの前脚攻撃を放ってくるが、フォルトゥーナは防壁魔法を展開して防ぐ。


「ふっふっふ~。私のアースウォールは簡単には破壊できないわよ~」


「チャンスです! エマさん、打ち合わせ通り私の作り出した風に炎を載せて下さい。炎と風の合体魔法「ファイアブラスト」で止めを刺します!」

「はいっ! いつでもどうぞっ」


「行きますよ、トルネード!」

「ファイアストーム!」

『合体魔法 ファイアブラスト!!』


 セラフィーナとエマの放った魔法は2人の前で合体し、超高温の猛烈な炎の竜巻となってアラクネーに襲い掛かった。岩の槍で串刺しにされているアラウネーは避けることが出来ず、炎の竜巻の直撃を受け、激しく燃え上がる!


『グギャアアアアー…アアア…アア…ア…』


 巨大蜘蛛の魔物アラウネーは全身を炎に包まれ、断末魔の悲鳴を上げる。その声は徐々に小さくなり、やがて止まった。それと同時に炎も消え、後には消し炭となった残骸が残っただけであった。


「よっし、やったわ! 私たち勝ったのよー!」

「わ…、私、ホントに…や、やった、やったぁー!」


 死闘を潜り抜けた3人は、ぴょんぴょん飛び跳ねてハイタッチをして喜びを分かち合う。そこで、はたと子蜘蛛の事を思い出し、アレンたちが戦っている広場の奥に向かった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 アレンたち「烈火の剣」の奮戦で、子蜘蛛との戦闘もほぼ終焉に向かっていた。残す個体は数体まで減っており、それらに向かってアレンとレイブン、ミルズの3人の戦士が猛然と襲い掛かって、次々に胴体を斬り裂き、頭を跳ね飛ばした。子蜘蛛は腹から腸を撒き散らし、飛ばされた体節から体液をぶち撒けて絶命して行った。


「こっちも終わったようだな」

「おお、レオンハルトか。あんたレイラを助けてくれたんだってな。ありがとうよ」

「一緒に戦う仲間だ。当たり前のことだ」


「しかし、アンタすげえな。酒場でべろんべろんに酔っぱらって、女の子の胸で大泣きしていた奴と同一人物とは思えねえぜ」


「それは言わないでくれ…」


 レイブンとミルズは笑いながらそう言って、握手を求めて来た。レオンハルトはやや照れながら2人と握手をする。握られた手を見て、かつてロディニアで仲間たちと活動した時の事を懐かしく思い出すのであった。


「あ…あの、ありがとう。た、助けてくれて…」


 レイラがもじもじしてお礼を言って来た。レオンハルトが「体は問題ないか」というと、小さくこくんと頷いて、恥ずかしそうに俯いてしまった。それを見てアレンはニヤリと笑う。


 そこに、フォルトゥーナのたちがやって来てお互いの無事を確認するが、レオンハルトはユウキとラピスの姿が無いことに気が付いた。


「そう言えば、ユウキちゃんはどうしたんだ?」


 その時、坑道の方から「ズガァアアアン!!」と物凄い音がした。

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