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第283話 レオンハルトの決意

 一方、居酒屋のテーブルでお酒やジュースを飲みながら、料理を頬張る3人組。明日の洞窟探索よりユウキと男の事が気になって仕方がない。


「ユウキさん、大丈夫かな…」

「んん~、どうにも曰くありげな感じよね~。ユウキちゃんの事見て驚いてたし。お姉さん、もう一杯!」

「もう…、フォルティは飲み過ぎよ。ユウキに怒られても知らないよ」


「いいのいいの。怒られるときは皆一緒」

「全く、このオバさんは…」

「何か言った?」

「いえ、何も…」


「しかし、聞いても教えてくれないような気がしますね」

「そうねぇー。エヴァがユウキちゃんは過去に何かあったようだと、何か秘密を抱えているようだと言ってたけど、きっと関係があるのかもね。そうだと自分から言ってくれるまで待つしかないわね」


 3人は、顔を見合わせため息をつくと気持ちを切り替え、料理を食べ始めた。そこに、先ほど男を殴り飛ばしたパーティが近づいて来て、近くからテーブルを持ってきて並べて座った。見ると、男性4人、女性2人の6人パーティの様だ。


「よう!」


「あら、何か?」

 フォルトゥーナが代表して答える。


「そう警戒しないでくれ。俺たちの分も支払ってもらって悪かったな。一言お礼を言いたくてな。俺たちは帝都北地区のギルド「白頭鷲」から来た冒険者で「烈火の剣」。オレはリーダーのアレンだ。あんたらも廃坑の魔物討伐に来たんだろ?」


「そうよ。私はフォルティ、こっちの子はセラフィにラピスよー」


『よろしく』

 2人は声を合わせて挨拶をする。


「リーダーはユウキちゃん。あの個室に入った子よ。ちなみにパーティ名は「戦乙女ヴァルキュリア」よ」


「セラフィ、パーティ名ってあったの?」

「そうです。たった今決まりました。フォルティの独断で」

「えー、いいのかな。しかし、乙女って…あのオバさん、いい度胸してるわ。ぷくくく」


「聞こえてるわよ。マーガレットに言いつけてやるから」

「ひぇ! フォルトゥーナ様、私の失言、大変申し訳ありませんでしたー! お許しをー」


 ジャンピング土下座をするラピスを見て、セラフィーナは(皇女の威厳はどこに…)と思うのであった。


「ワハハハハ! あんたら面白れーな。良かったら魔物退治は一緒に組んでやらねーか。どうにも今回は嫌な予感がしてならねえ。人数は多い方がいいと思うんだが、どうだ」


「そうねぇ、確かに見たこともない大型魔物。どんな能力を持ってるか分からないし、私はいいと思うけど…」

「一応、リーダーに確認しないといけませんよね」


 フォルトゥーナたちと烈火の剣の面々が一緒に料理を食べ、飲み物を飲みながらお互いの情報交換(皇女や宰相の令夫人であることは伏せて)や洞窟探索について話をしているうちに、段々打ち解けて話が弾んできた。フォルトゥーナとアレンは肩を組んで酒をがぶ飲みし、男どもが囃し立てる。セラフィーナたちは烈火の剣の女の子、戦士のレイラと魔術師のエマと仲良くなって女子トークに花を咲かせて盛り上がる。


 そこに、個室からユウキとレオンハルトが出て来て、テーブルの惨状を見て驚いた。


「これは一体…。なんなの? どうなっているの?」


「あーっ! ユウキちゃんだぁ、ひっぐ。でへへへ、この人たちねー、面白いんだよぉ、ひゃひゃひゃ!」

「おおー! ネーちゃんがリーダのユウキか! げっぷ…。おう! 話し通りでけえおっぱいだな! おじさん、大きなおっぱい大好きだぞー。ぎゃははは!」


「フォルティ! 飲みすぎちゃダメだって言ったのに! 明日は任務だって分かってるの!? もう、お前ら全員そこに直れ!!」


 本気で怒りだしたユウキに恐れをなしたフォルトゥーナたちは、ユウキの前に並んで正座し、それを見た烈火の剣の連中もあわあわと並んで正座を始めた。ユウキの剣幕にレオンハルトもビビっている。しかし、それを見てこうも思うのであった。


(ユウキちゃん、よかったな。この大陸で楽しくやっているみたいだ…。それに比べオレは一体何をやってたんだ? 自棄になって酒に溺れて、どのギルドでも相手にされず、死んでも問題ないと危険な場所に送り込まれて、そんでまた自棄になって…。何て情けない男だオレは…。そうだ、オレも彼女みたいに1歩前に踏み出さなければな…)


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ぜーはー、ぜーはー。分かったか!! このスカポンタンども!」

『はいっ! ユウキの姉御、スミマセンでした!』


「もう…、誰が姉御よ。17歳の女の子捕まえて…」

「あのね、烈火の剣と共闘するのは賛成だよ。それと、わたしたちのパーティに彼を参加させるから。これは決定事項だよ。異論は認めない」


「ユウキさんがそう言うなら、私たちは従いますけど…。彼、大丈夫なんですか?」


「セラフィの疑問は最もだね。こう見えてもレオンハルトさんは元々ロディニアの冒険者で、魔物との戦争で大活躍した人なの。ゴブリンキングやミノタウロスも倒した実力者なんだよ」


 ユウキの説明にその場の全員が驚いた目でレオンハルトを見る。当の本人は「よろしく頼む」と言って、ツイと目を逸らした。


「あの、わたくしたちのパーティ名、フォルティが勝手に「戦乙女」に決めたんだけど、いいの? その男の人、恥ずかしい思いしないかな?」

 ラピスが困った様にユウキに言って来た。


「えっ、いつの間に…。全くあの奥様は…」

「オレは気にしないぞ」

「ゴメンね、レオンハルトさん」


 話がまとまったところで、いい時間となり、明日もある事もあって、この場は解散することにした。ユウキは烈火の剣も含めて代金を支払うと、べろべろのアレンに代わってレイラとエマにお礼を言われた。当のアレンは他の男性陣に抱えられ、引きずられて店を出て行った。


「じゃあ、わたしたちも出ようか。レオンハルトさんも行こう!」

「待ってユウキさん。アレはどうします?」


 セラフィーナが指さした先には、酔っぱらって大の字になり、ぐうぐう寝息を立てているフォルトゥーナ。


(ホントにこの奥様は自由なんだから…。宰相様が見たら卒倒するよ)


「レオンハルトさん、お願い…」

「あ、ああ…」


 ユウキたちのパーティも店を出た。ユウキとセラフィーナ、ラピスが手を繋いで楽しそうに歩くのを見てレオンハルトは嬉しくなった。


(あのユウキちゃんの笑顔、今度こそ守って見せる。しかし、重いなこのネーちゃん。それに首筋にヨダレが垂れて冷てえ…)


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 翌日、いつまでも寝ているフォルトゥーナを叩き起こし、全員で朝食を食べ、朝風呂に入って身支度を整えた。

 ユウキはこの大陸に来て初めてダスティンの作ってくれたハーフプレートの軽装鎧をマジックポーチから取り出し、身に着けた。金属製のショルダーパッドに大きな胸を守る真紅に輝く金属製の胸当て。その真ん中にはララが作った魔法石が埋め込まれ、防御力を高めている。腰回りには皮のベルトが2本クロスして巻かれマジックポーチと魔法剣、ミスリルダガーを装備し、プリーツスカートの上半分に下半身の防御を担う魔法石を埋め込んだスケイルを巻いている。膝下までのブーツは胸のプレートと同じ素材の金属でできているが、通気性にも配慮されている優れものだ。髪の毛には大きな黄色いリボンを着けた。黒い髪に明るい黄色が映えて、とても可愛い。


「ユウキちゃんカッコいいわねー」

「フォルティは二日酔い直ったの?」


「お陰様で…。エドモンズさんには感謝だわ。治癒魔法って素晴らしいわー」

「エドモンズさん、『これだけのために呼ばれたのかー、悲しい』って、本当に悲しそうな表情をして戻って行ったよ。最近扱いが軽いって嘆いてた」


 ラピスがエドモンズ三世の口真似をしてみんなを笑わせる。その口調が絶妙でユウキはツボに入ってしまい、しばらく笑いが止まらなかった。


(あはは…。ゴメンね、エロモン)

『全くじゃぞ。ただでさえ、最近出番が少ないというに…』


 準備を終え、玄関でレオンハルトを待とうとしたら、保養所の職員からメモを渡された。そこには用事があるので、後で依頼主の元で合流したいとの伝言が記されていた。


「レオンハルトさんは後から来る見たい。先に行ってよう」


 依頼主の会社から差し回された馬車に乗って、集合場所に向かう。御者からは会社ではなく、現場近くの工事事務所で説明を行うこととなったと伝えられた。烈火の剣のメンバーはもう先に向かったという。


(レオンハルトさん大丈夫かな。この事知ってればいいけど…)


 馬車はノスアップ山地に向かう整備された街道をトコトコ進む。いつの間にか人家はなくなり、鉱山から出荷された鉄材を積んだ大型の荷馬車とすれ違うことが多くなった。保養所を出て1時間ほど街道を進むと、大きな鉱山と工場が見えて来た。


「あれが鉄鉱山だね。凄い規模だね」


 全員で感心しながら見ていると、馬車は街道から外れた脇道に入った。脇道は比較的整備されているものの、馬車がやっと通れるほどの幅しかなく、周りは背丈の高い草が鬱蒼と繁り、一行は少々不安になる。脇道を山に向かってさらに進むと、開けた台地に出て1棟の建物が見えて来た。


 馬車は建物の前に停車し、降車したユウキたちは御者の誘導で中に入ると、そこには既に保安係長のハンスと烈火の剣の面々が揃っていて、ユウキを見つけたアレンが挨拶して来た。


「よう、昨夜は世話になったな。ん…、あの兄ちゃんはどうした? 姿が見えねえようだが」


「うん、よろしく。レオンハルトさんは後から合流するよ」

「ビビッて、逃げたんじゃねえだろうなあ。あのアル中野郎よぉ。ハハハハ!」


 烈火の剣のメンバーからそんな声がかかり、何人かの冒険者から笑い声が上がる。ユウキはキッと睨みつけ、


「レオンハルトさんはそんな人じゃない! 必ず来るから!」


 と大声で叫んだ。その剣幕に烈火の剣のメンバーは黙り込み、アレンが「すまなかったな」と詫びを入れるのであった。


 ハンスが「ゴホン」と咳払いをして、改めて依頼の内容である、廃坑道に巣食った魔物の排除と原因の調査であることを説明した。そして、坑道地図をユウキとアレンに手渡しながら、もう一つお願いしたい事があると言って来た。


「実は、数日前にも帝都から来た3組の冒険者パーティが中に入ったのですけれど、戻って来ず、音信不通になってしまったのです。できれば、彼らの捜索もお願いします」


「それはいいが、最初の依頼内容には入ってねぇから、割増を貰うぞ」


 そうアレンが言うと、さらに金貨5枚を追加すると言って来たので、アレンもユウキも了承し、ハンスはホッとした表情をするのであった。


「それと、この現場事務所を自由に使って下さい。炊事場と浴場完備ですし、2階には寝具も用意してあります。食料も運び入れていますので当面は大丈夫のはずです。用事があるときはそこの魔道通信機をお使いください」


「至れり尽くせりねぇ」


 フォルトゥーナが感心したように言うと、ハンスは魔物の出現は鉱山経営全体に影響する危険がある事から、社としても全力で取り組む必要があるからと説明するのであった。その後、いくつかの注意事項を聞いた後、ハンスの案内で現場に向かう事となったが、レオンハルトは姿を現さない。


「レオンハルトちゃん、来ないわねぇ…」

「…必ず来るよ」


「ユウキ、信じよ」

「そうですよ、ユウキさん」


 ラピスとセラフィーナがユウキの背中をポンと叩く。ユウキは2人にニコッと笑顔を返すと、前を向いて、胸を張って歩き出した。 


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 現場事務所から山道を10分ほど歩くと廃坑のひとつが見えて来た。入り口は3m四方の大きさがあり、その周囲は申し訳程度の鉄柵で囲われている。


「ここからでも、何かこう…、禍々しい波動を感じるわね…」

 フォルトゥーナが珍しく真面目な顔をして呟く。


「恐ろしいほどに澱んだ瘴気…。こんなもの、今まで感じたことがありません」


 烈火の剣の魔術師、エマが怯えたように話す。同じように入り口を見ていたアレンは全員に振り向くと、全員に聞こえるように言った。


「ここで入り口を眺めていてもしょうがねえ。この話を聞いた時から危険は承知だったハズだ。全員覚悟を決めろ。行くぞ!」


 アレンの激に烈火の剣全員が「オオーッ!」と気勢を上げて隊列を組み、柵の前に整列する。それを見てセラフィーナがユウキに声をかける。


「ユウキさん、私たちも…」

「うん…(レオンハルトさん、必ず来るよね…)」


 烈火の剣に並び、戦乙女もフォルトゥーナを先頭に整列する。ユウキが列の最後尾に並んだ時、背後から声が聞こえた気がした。振り向いたユウキの目に入ったのは、山道を駆けて来る1人の男性。


「レオンハルトさん!!」

 その声に、その場の全員が振り向く。


「ぜえはあ、ぜえはあ…。すまねぇ、遅くなった。買い物をしてた上に、集合場所が変更になった事を知らなくてな。間に合って良かったぜ」

「いいんだよ。来てくれるって信じてたもん!」

「ユウキちゃん…。ハハ、面目ねぇ」


 現れたレオンハルトは、使い込まれた愛用のハーフプレートにハルバードを装備し、腰にはショートソードを帯剣している。背には大きめのナップザックを背負い、何より驚いたのはボサボサの髪を綺麗に短髪にし、無精ひげを剃った精悍な顔をしていたことで、やや痩せている感じはするものの、ユウキが知る、冒険者の顔をした男の姿だった。


「レオンハルトさん、期待しているからね!」

「おお! 任せとけリーダー! みんなもよろしくな!」

 ニッカリと笑うレオンハルトに、セラフィーナとラピスは笑顔の拍手で迎え、レイラとエマはポーッと頬を染めるのであった。


「さあ! わたしたちも行くよー」

 ユウキの声に、戦乙女の全員も大声で気勢を上げて、気合を入れるのだった。

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