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第280話 オーウェンとの再会

 夕食の時間、席に着いたユウキに、ヴィルヘルムがすまなそうに話しかけて来た。


「すまんね、ユウキさん。フォルトゥーナの我儘に付き合ってもらうことになって。でも、私も彼女に不自由をかけさせてしまっているからね。少しは自分の自由にさせてあげたいのだ。それと、セラフィーナ様の事は…、まあ、何とかするよ」


「宮殿にはヴァルターに説明に行ってもらうか…」

「へっ!? わ、私がですか!?」


「うむ、頼むぞ」

「よろしくねっ! ヴァルちゃん!」

「はい…」


 にっこり笑顔のセラフィーナに言われては、頷くしかできないヴァルターだった。


(きっと怒られるに決まってるよね。ヴァルター様、ご愁傷様です…)


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 翌日、朝食後に部屋に集まったフォルトゥーナとセラフィーナを前に、ユウキは今後の予定を説明していた。


「今日は私の知り合いがマスターをしている冒険者ギルドに行こうと思ってます。そこで、フォルトゥーナ様とセラフィーナ様の冒険者登録もする予定です。その後は依頼を確認し、我々のレベルにあった内容があったら受けてみたいと思います。質問は?」


「はい!」

「どうぞ、セラフィーナ様」


「私たち、もう仲間同士なので様付けは止めましょう。お互い呼び捨てで行きたいと思います!」


「はい!」

「どうぞ、フォルトゥーナ様」


「どうせならニックネームで呼び合いたいと思います。お友達感覚で行きたいでーす」

「賛成賛成!」


「では、どのように呼んで欲しいか言ってみて下さい」

「私はフォルティ」

「私はセラフィ」


「へえ…いいね。前の名前のイメージが残ってて、呼びやすいね。じゃあ、わたしは…」

「エロボディバーサーカー!」

「おっぱいお化け!」

「却下却下! 酷いよ2人とも。わたしエロじゃないもん! ユウキでいいです。ユウキで」


「え~、ユウキちゃんにはエロが似合うんだけどな~」

「どういう目で見てるんですか。わたしは純情乙女の清純派で通してるんですからね!」


 ぷんすか怒るユウキを見て大笑いするフォルトゥーナとセラフィーナ。そんな2人を見て、いつしかユウキも笑顔になるのであった。



 宰相家で馬車を出してもらい、ヴァルターが調べてくれた場所に向かう。帝都に存在する冒険者ギルドは全部で4ヶ所、それぞれ帝都の東西南北各区画に1ヶ所ずつ存在する。この中でオーウェンがいるギルドは西区画にある「荒鷲」だった。

 屋敷を出て40分ほど馬車に揺られ、西区画に入る。この辺りは住宅街が建ち並ぶ区域の様で、高台には比較的大きな屋敷が建ち並び、平地には一軒家や低~中層アパートが建ち並んでいて、帝都の中心や商店街を結ぶ辻馬車の停留所が一定の間隔で並んでいた。


 さらに通りを進むと大きな西門が見えて来た。目的のギルドは西門近くにあるとヴァルターのメモに書いてあったので、窓から覗いてそれらしい建物を探すと、大きな3階建ての建物が見えた。


(あれがギルドかな。オーウェンさんやリサさん、いるかな…)


 目的の建物の前で馬車が止まり、3人は降りて建物を見た。入り口には帝都ギルドのマークと「荒鷲」と書いた看板が掲げられている。フォルトゥーナは御者にお礼を言い、屋敷に戻るように話す。ユウキは2人に中に入ろうと告げると、ギルドの扉を開いた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ギルドの造りは他国の施設と同様で依頼票を貼り付けた掲示板と、休憩・打ち合わせ用のテーブル、受付カウンターがあって、奥には飲食店と売店が併設されていた。

 何人もの冒険者が個人で、あるいはパーティで掲示板を見たり、テーブルで打ち合わせをしている様子に、生まれて初めてギルドを訪れたフォルトゥーナとセラフィーナは感心したように眺めている。


「はああ~、これこれ! 憧れていたのよね~」

「これが冒険者ギルド…。世界が違いますね」

「あはは…」


 ユウキは受付カウンターの空いている窓口に進むと、受付嬢に向かって、リサと言う事務員がいたら呼び出して貰いたいとお願いした。10代後半くらいの受付嬢は訝し気にユウキを見る。


「事務長に? んん~、初めて見る顔ですね。貴女どなたです? 事務長に何の用です?」

「えと、わたしはユウキと言います。リサさんとは以前からの知り合いで、このギルドにいると伺ったので会いに来たんです」


「んん~、怪しいですね。アポイントも無しに急に現れて事務長に合わせろとは…。でもまあ、そのアホ面は悪い人ではなさそうですね。少し待ってなさいな」

「アホ面…って、酷い」


 受付嬢はウンターの奥にある執務室に行って、事務作業をしていたリサの側に寄って声をかけた。


「リサ事務長、お客様ですよぉ~」

「お客様…? どなたですか」

「ユウキという人です。事務長の知り合いとか言ってましたけど」

「えっ!!」


 リサはその名を聞いて、ガタンと椅子から立ち上がり、バタバタと駆け出した。リサのあまりの勢いに呼びに来た受付嬢はびっくりして、リサの背中を目で追うので精一杯だった。


「ユウキさん!!」


 リサは受付カウンターの前に立っていたユウキを見つけ、パタパタと駆け寄ってくるとユウキの前でパタッと止まり、ユウキをじっと見つめた後、目をウルウルさせて大粒の涙を流し始めたと思ったら、ガバッと抱き着いてわんわん泣き出した。


「ユウキさん! ユウキさんだー! わあああん。ふぇええええんん」

「り、リサさん…。ぐす…お久しぶりです」


 ユウキもリサをギュッと抱き締める。突然の出来事に先ほどの受付嬢を始めギルド職員や冒険者、フォルトゥーナとセラフィーナもびっくり驚いて、2人の周囲に集まって来た。リサが落ち着いたのを見計らって、ユウキはオーウェンがいるかどうか聞いてみた。


「組合長ですか? います。いますとも! さあ、ご案内します!」

「わあ、ちょっと待って!」

「はい?」


 ユウキの手を掴んだリサが走り出そうとしたのを止めて、連れの2人を紹介する。


「リサさん。この2人はわたしの仲間でフォルティとセラフィっていうの」

 2人はペコリと頭を下げてリサに挨拶した。


「おお、ユウキさんのお友達ですか、うふふ、ユウキさんにお友達…嬉しいですね。あっと、私はリサ。ここの事務長をしています。お2人もご一緒にどうぞ、さあ、ユウキさん、早く行きましょう。組合長、ビックリしますよ!!」


 ギルドマスターの執務室ではオーウェンが書類の山を前にして、苦い顔をしながら内容の確認とサインを延々と行っていた。いい加減疲れて一服しようかと考えた矢先、扉をノックもせず「バン!」と大きな音を鳴り響かせて開け、リサが中に飛び込んで来た。


「組合長! 組合長! 組合ちょおおおー!」

「なんだ、うるせえぞリサ。それにオレはマスターだって言ってるだろーが」

「そんな事どーでもいいです! ほら、こっち見て!」

「なんだってーんだよ、こっちは疲れているん…だ…ぞ」


 リサの声に部屋の出入口を見ると、そこにはリサに背中を押されて、はにかんだような笑顔を浮かべたユウキが立っていた。


「ユ…、ユウキ…か。ユウキじゃねーか! いつ帝都に来たんだよ!」

「えへへ…、お久しぶりですオーウェンさん」


「わはは! 元気そうじゃねえか。この野郎!」

 オーウェンは笑いながらユウキの背中をバンバンと叩き、頭をぐりぐりと撫でまわした。


「い、いたっ! 痛いですよ。ひゃあああ、髪の毛がぐしゃぐしゃぁ~」

「わはは、悪ぃ悪ぃ。まあ、座れ。ところでそちらのお嬢さん方は誰だ」


「2人はわたしと一緒に冒険者活動をする仲間でフォルトゥーナ様とセラフィーナ様です」

「様??」

「はい、フォルトゥーナ様は宰相閣下の御令室で、セラフィーナ様は…その、この国の皇女様です…」


 コーヒーを淹れて来たリサと、対面に座ったオーウェンは2人を驚いた顔で見る。


「驚いた…としか、言いようがないな。どういう経緯でこうなったんだ」

「く…組合長~、どうしましょう~。安物のコーヒー淹れてきちゃいましたですよぉ~」

「安物って何だ! そいつぁ、オレが吟味して買って来たやつだぞ。特売日に…」

「吟味って、値段の事でしょ。やっぱり安物じゃないですかぁ~」


「ぷっ…くくく、相変わらずですねえ、お2人は。見てて安心しちゃいます」

「オホン…。オレはオーウェン。以前はロディニアの冒険者組合でマスターをしていた。今はここのマスターをしている。ユウキはオレの親友が大切に育てていた娘でな。オレも色々と目をかけていたんだ」


「あの、その親友の方は…」

「死んだよ。ロディニアの戦乱でな」


 フォルトゥーナの問いにオーエンが寂しそうに答え、ユウキが俯いて目を伏せる。瞼の裏にダスティンが最後に見せた笑顔が浮かび、思わず涙で目が潤んでしまい、慌てて手で目を擦った。それを見たリサがユウキの隣に座って頭を抱き寄せ、明るく自己紹介をする。


「私はリサと言います。ロディニアの組合で事務職をしてまして、組合長と一緒に帝都に来ました。胸はないですが包容力はある28歳独身で、結婚相手募集中です! お二方、独身のいい男がいたら必ず紹介してください。必ずですよ。私、もう後がないんです! あと、ユウキさんとは仲の良い友達です」


「リサさん。わたしとの関係、何だか後付けみたいじゃない?」

「そんなことないですよ。だって私とユウキさんは「モテない同盟」で固く結ばれた仲じゃないですか」


「わ、わたしはリサさんと違ってモテますよ! ただ、近寄って来るのが盗賊とか、体目当てのスケベなやつとか、二股かけて裏切ったやつとか、碌でもない男だってだけで…」


 口を尖らせてリサに反論したユウキだったが、その場の全員に大笑いされた。


「セラフィ笑い過ぎ! もう…」


「ははは。まあ、何だ。リーズリットで別れてからの事、聞かせろよ。お前の顔を見ると、結構いい体験して来たんだろうな。表情が明るくなった」

「はい!!」


 ユウキはリーズリットでサザンクロス号に乗船し、スクルドで親友となった女の子との出会いやその子の依頼で大陸最強戦士決定戦に出場して優勝した話から、サヴォアコロネでのグレイトグリズリー討伐、イザヴェルでの冒険と王位簒奪を防いだ事、各地の美しい自然に感動した事、ビフレストでの出来事を経て、先日帝都に到着て今に至ることを話して聞かせた。

 オーウェンとリサは時に笑い、時に感心しながらユウキの話を聞き、この大陸で様々な経験をしながら旅をしているユウキを見て、ロディニアでの悲劇から立ち直りつつあるのだと感じ、心から安心するのであった。


「それでお前、これからどうするんだ」

「はい、しばらくこのギルドを拠点にして帝都を中心に冒険者活動をしながら、帝国内を色々と回るつもりです。その後はスバルーバル連合諸王国からラファールまで見て回ろうかと…」


「そうか…ふむ、そうだな…。ユウキ、各地で得た情報は些細な事でも全てオレに上げろ。直接でも手紙でも構わん」

「はい。それは構いませんが、どうしてです?」


「なに、オレはこの国に来て日が浅いからな。国内外の情報は色々と得ておきたいんだ。ギルドの運営に必要だからな(それに、二度とお前にあんな思いをさせたくないんだ。怪しい情報は全て把握しておく事に越したことはない。ダスティンの献身を無駄にしたくないからな…)」


 フォルトゥーナはユウキを見るオーウェンの瞳の奥に浮かんだ決意にも似た光を見て「おやっ」と思った。


(セラフィちゃん、ユウキちゃんとこの方々、ロディニアで何か色々あったみたいね…。あの国の戦乱に関係あるのかしら)

(うーん。私もそんな感じがします…が、多分話してはくれないと思います)

(そうねぇ…)


「よしリサ、奥方様とお姫様の冒険者登録の手続きをしてやれ。ユウキの登録証更新もな」

「りょーかいです!」

「ああ、リサ。ちょっと来い」


 オーウェンがリサを手招きして何かを耳打ちする。リサはニヤッと笑って「はいはーい」と言って手続きのため出て行った。しばらく、セラフィーナの宮廷での生活や皇子皇女の派閥と継承争いにうんざりしているといった話を聞かされた。オーウェンはメモを取りながら頻りに頷いている。


「そう言えば、ラピス様はご無事ですか? 成績が悪いことを母上様に叱責されるとかなり怯えていましたが」

「ラピスですか? 風の噂ではお付きのメイド共々逆さ磔の刑に処された上、強制労働に駆り出されるそうですよ。労働の内容は誰も教えてくれないです」


(あちゃー)


「ユウキさんラピスを知ってるんですね。私、皇女の中で唯一ラピスと仲がいいんですよ。あのバカさ加減が私とマッチするんです。後の姉妹どもはクソですよクソ! うんこ」


(ぷくく…確かに気が合いそう。しかし、帝国のお姫様がうんこって…)


 オーウェンからこの冒険者ギルドの話を聞いているとリサが戻って来て、フォルトゥーナとセラフィーナに冒険者証を手渡した。2人は初めての登録証を得てとても嬉しそうだ。


「そしてユウキさんにはコレです!」


 リサがユウキに手渡したのは今までと異なる金色のプレート。不思議そうな顔をして見ているユウキにオーウェンがニヤッと笑う。


「お前は今日からAクラス冒険者だ。ギルドの権限で与えられるクラスとしては最高位だぞ。ははは、そう驚いた顔をするな。お前はそれだけの実力がある。何せお前はアレだからな。それに、何かトラブルがあってもそのプレートがあれば大概の者は黙る。お前を守る心強い味方になるはずだ」


「ユウキちゃん、すっごーい!」

「オーウェンさん…、ありがとうございます」


「何、いいって事だ。それよりも久しぶりにお前に会えたんだ。お祝い会しようぜ。リサ、今日のオレとお前の業務は終了だ。今から飲み屋に繰り出すぞ! オレの驕りだ!」

「ヤッター! いいですねいいですね! 行きますよユウキさん。皆さんも!」

「あははは、ありがとうございます」


 懐かしい人と楽しい時間を過ごす。ユウキは今、幸せだった。

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