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第279話 ユウキの新しい仲間

 宰相一家が帰った後、ユウキはバッタリと大の字になってベッドに倒れ込んだ。


「疲れた…」

『ユウキよ、はしたないぞ。寝るなら風呂に入って寝間着に着替えんか』


「……………」

『どうした?』


「ねえ、エロモン。さっきね、宰相様に言った言葉だけどね…」


「わたしは娘みたいなもので、エロモンは父親代わりだと。父親が娘を助けるのは当たり前で、ずっとわたしの事を守るって言ったよね」


「信じて、いいんだよね…」


『当たり前じゃよ。 何じゃ急に改まって』


「ううん、ちょっと確認しただけ。へへ…あの言葉、嬉しかったなってね。あはは、恥ずかしいなあ、もう…」


『……………』

「さ、さ~て、お風呂入って寝ようっと。エロモンはイヤリングに戻ってね」


 エドモンズ三世を戻したイヤリングをそっとテーブルの上に置く。そしてベランダに出て夜空を見上げた。他の都市に比べて魔導灯で明るく輝く帝都であるが、それでも星空はこの世界に平等に輝いている。遠くの山々の向こうには大きなルナと一回り小さなアリカが見える。


 ユウキは幻想的で美しい星空を見ながら、姉を始めとする亡き人々や、もう会うこともないであろう、ロディニアにいる友人たちを想う。


(わたし、ここまで来たよ…)


「うふふ、何かカロリーナに会いたくなっちゃった。きっとエロモンがあんな事言うからだよね…。元気かなカロリーナ、後でお手紙書こうっと」


(でも、返事は貰えないんだよね…。寂しいけど、仕方ないか…)


 星空を見るユウキの頬に一筋の涙が光る。ロディニアの戦乱の事は忘れたことがない。自分がどれほど罪深い事をしたのかも…。街を破壊し、大勢の人を殺し、王国の敵となって戦った。その結果、父と慕ったダスティン、姉のような存在だったマヤ、楽しい仲間だった助さんと格さん。何よりも大切に想っていた親友のララ…。全てを失ってラミディア大陸に来た。だからこそ、エドモンズ三世の言葉は嬉しかった。


(エロモンが言ってくれた言葉…嬉しかった。わたしが一番欲しかった言葉…)


(エリス様、わたし、自分の幸せを探します。ここで出会った人々と一緒に。そして、わたしの全てを受け入れてくれる人を見つけたい。だからずっと見守っていてくださいね…)


「そして今度こそ、わたしを大切にしてくれる人を、わたしが大切に想う人を守る。必ず守る。命に代えても。わたしを守って死んでいった人たちの想いは、この胸の中に生きているから…」


 夜空を見上げるユウキの瞳に、幾筋もの流れ星が長い光の尾を引いて降り注ぐ様子が映っていた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 翌朝、ゆっくり起きたユウキはルームサービスで運ばれて来た朝食を食べ、朝風呂に入って体を綺麗にして身支度を整える。今日は昼過ぎに宰相様の御自宅訪問なのだが「普段着で来てねー」とフォルトゥーナにあっさり言われたので、グランドリューで買った白い生地に小さな花柄模様がたくさん刺繍されたワンピースと青い生地の裾に可愛い刺繍がしてある膝丈までのスカート。腰の部分を鮮やかな糸で織り込まれた織紐で結んで止めている。髪には赤いリボンで飾ったヘアバンド。腰ひもにマジックポーチを括り付け、ララの形見のリュックを持って部屋を出た。


 フロントで昨日の貸衣装代の銀貨30枚を支払い、ホルツバウアーにお礼を言ってラウンジで飲み物を注文し、迎えが来るのを待つ。

 1人飲み物を飲む美少女を見かけて身なりの良い男性が何人も声をかけて来るが、それを適当にあしらっていると、ホルツバウアーが迎えが来た事を告げた。


 迎えの豪華な馬車にビビりながら乗り込んだ。燕尾服を着た執事の男性がドアを閉め、御者席に乗り込んで合図を出すと、ゆっくりと馬車が走り出した。


(な…、なんだかお姫様みたい)

『見た目は美姫だからな。中身はポンコツじゃが』

(うるさいわい!)


 1時間ほどトコトコと揺られていると、周囲の景色が変わって、大きなお屋敷が立ち並ぶ高級住宅街の区画に入ったようだった。


(ここは、貴族のお屋敷が建ち並ぶ区画なのかな…)


 平坦な道から坂道を少し登ると立派な門と石塀に囲まれた大きなお屋敷が見えて来た。警備兵が門を開け、中に入った馬車が玄関の前で停まると、先ほどの男性がドアを開けてくれたので外に出て、お屋敷の大きさに驚いた。


「ほあああ…。大きい…」


 ユウキがポカンとした顔で屋敷を見上げていると「ユウキちゃーん!」といってフォルトゥーナが抱き着いてきた。


「ぐえっ!」

 思わずカエルを踏み潰したような声を上げたユウキ。


「わっ、こめんねー、ユウキちゃん。あっ、昨夜はお世話様。楽しかったわ!」

「うふふ、いらっしゃい。ユウキさん」


「ぜーはーぜーはー。苦しかった…。こんにちは、イレーネ様、フォルトゥーナ様。こちらこそ、お世話になります。あと、昨夜はお世話になりました!」


「さ、堅苦しい挨拶はなしなし。当分はユウキちゃんもこの家の住人よ。お部屋に案内するわね。ユウキちゃん荷物は?」

「はい、このマジックポーチに全て入ってます」


「まあ、収納の魔道具ですか!?」

「ユウキちゃん凄い物持ってるわね…。希少品よ。大商人以外で使っている人初めて見た」


(そ、そうなんだ。あまり意識したことなかったな…)


 フォルトゥーナとイレーネに案内されたのは、2階の一角の広く大きな窓と、ベッド、机と椅子が備え付けられた明るい部屋だった。


「わあ、キレイな部屋ですね。本当に使わせてもらっていいんですか?」

「モチロンよ。自分の家だと思って自由にしてね。それと、用事があったらそこのベルを鳴らすと使用人が来るから言いつけてね」


「ありがとうございます!」


 ユウキが部屋の内装に感動して、ベッドに腰掛けて感触を楽しんでいると「こんにちは」と言って、1人の美少女が入って来た。



 現れたのは身長155~160cm位で、肩甲骨辺りまで伸びたふわふわの金髪をハーフテールにして、結び目に紫色のリボンを結び付けた美少女。両袖とスカートの裾が白いレースとなった赤いワンピースを着ている。どこから見ても貴族のお姫様だ。


「え…、えっと」

「紹介するわね。この方はこの国の第1皇女セラフィーナ様よ」


 フォルトゥーナは美少女の肩に手を置いてにこやかに紹介して来た。


「え…、い、今なんて…?」

「セラフィーナです。こんにちはユウキ様。セラフィって呼んでくださいね」

「ええ! う、うそ…、ええええ~!」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ごめんね~驚かせて。セラフィーナ様は時々お忍びで遊びに来ててね。今日たまたま朝から来てたのよ。でね、ユウキちゃんの話をしたら是非会いたいって事になってね」


「はい! ユウキ様の話、よくミュラー兄様から聞いてましたので。まさか、本物に会えるなんて…。セラフィ感激です! お話し通り美人さんでおっぱいも大きい。お兄様が夢中になるのも分かります!」


「は…はあ」


「ユウキ様はお兄様の事、どう思います」

「えーと、特に何も…。強いて上げれば超絶セクハラ野郎ってとこですかね」


「……ぷっ、あはははは! お兄様可哀そう。あはははは!」

「え? 今のどこに笑う要素が?」


 ユウキが首を傾げて、笑い転げるセラフィーナを見ていると、おもむろにフォルトゥーナがユウキにお願いして来た。


「ユウキちゃん。ユウキちゃんはしばらくの間、帝都の冒険者ギルドで仕事を受けながら見聞を広げるって言ってたわよね。よかったら、私も一緒に連れて行ってくれない? ぜひお願いしたいの」


「ええー、何故ですか。理由は?」

「うん…、実は夢だったの。冒険者になって世界を旅することが。でも、私、ラファールの上級貴族の娘で当然そんな事許される訳がない。結局、家の言いなりで帝国との友好を図るため、政略結婚のためここに来たってわけ。ヴィルヘルムはいい人よ。愛しているし、私の夫は彼以外に考えられない。エヴァリーナという愛娘も出来たしね。でも、子育ても終わって何もなくなったのよ。そこで、昨日の件があって…」


「昨日の件…?」


「ええ、エドモンズ様が自分の想いを実行せよ。一歩踏み出せって言ってくれたでしょ。でね、今朝ヴィルヘルムに相談したの。そしたら、夢を叶えろって了解してくれたの!」

「だから、ね。いいでしょ」


「で…でも、ヴィルヘルム様はどうするんですか?」

「あらぁ~。イレーネがいるから大丈夫よ。彼女ね、帝国の伯爵家の長女なんだけど、子供の頃ヴィルヘルムに会って、一目惚れしてね。親にせがんで婚約・結婚した強者よ。彼女、ヴィルヘルムが大好きだから、私が留守の間は嬉々としてお世話するに決まってるわ」


「へえー」とイレーネを見ると顔を真っ赤にして俯いている。何かその仕草がとっても可愛くて思わず笑ったユウキであった。


「わかりました。でも、依頼はわたしが選びますし、わたしの言うことを聞くのが条件です。これが守られない場合は連れて行けません」


「やったー! ありがとうエロボディバーサーカーのユウキちゃん!」

「それ、やめてー!」



「……………」

 セラフィーナは難しい顔をしてユウキとフォルトゥーナを見ていた。しばらく考え込んだ後、ユウキに向かって自分も冒険者になりたいと言い出した。



「ええ~、そんな無理ですよ!」

「どうしてですか。現にミュラー兄様は冒険者になっています!」

「でも…どうしよう」


 セラフィーナはユウキの顔をじっと見て、意を決したように話し出した。父親である皇帝陛下は帝国だけでなく、この大陸全土の平和と安定を目指し、国内では善政を、対外的にも武力に寄らず対話による外交を執り行っている。しかし、後継者たる皇子皇女はどうか、それぞれが有力貴族を味方につけ、宮廷内での派閥づくりと闘争に明け暮れていて、皇帝陛下はそのような状況を憂いているのだという。


「私、思うんです。ミュラー兄様はそんな兄弟姉妹を見たくなく、自分の目で世界を見て回るために宮殿を飛び出したんじゃないかって…」


「そうかな? アイツ、そんな事これっぽっちも考えてないと思うけどな。わたしの胸をガン見してただけだったし…」


「…だーかーら、私も見聞を広めたいんです。私のすぐ上のミハイル兄は、頭脳明晰、剣技優秀、人柄最高おまけに美形だから凄い人気で、多くの貴族や兄弟姉妹にも支持されて次の皇帝候補筆頭なのですが、私はどうにも好きになれないんです。碌に世の中も見てないし、知らないくせに、知ったような口を利くのがどうにも…。でも、それは私も同じ。世の中の事何も知らないんです。だからミュラー兄様みたいに世の中を知りたいんです。市井の方々が何を考え、どういう思いで生きているのか…。この世界の平和のために必要だと思うんです。それに…」


「それに?」


「宮殿生活は退屈で退屈で、日々の生活に刺激が欲しいな~って。てへ」


(ええ~)


「でも、セラフィーナ様が急にいなくなって冒険者稼業をするとなったら、大騒ぎになるんじゃ…」


「あ、それは大丈夫です。先ほど魔道通信で、当面こちらにお世話になるからって伝えましたから。執事長には了解を貰いました。執事長は私の味方なんですよ」


「ユウキちゃん。ここまで決心が出来ていたら、もう何を言ってもダメよ。諦めて仲間にしましょう。何かあったらヴィルヘルムが何とかしてくれるわ」


「わかりました…。セラフィーナ様。よろしくお願いします…」


「やった! ありがとうございます! ユウキ様、フォルトゥーナ様!」


(これって、いいのかしら…)

 この中で唯一の常識人のイレーネは少々不安になるが、彼女ではもう止められない。



「そうと決まればユウキちゃん。あれあれ、あの方出して。セラフィーナ様にも紹介しましょうよ!」


「ええ~、セラフィーナ様には刺激が強すぎるのではないですかぁ」


「ん、なになに、何ですか!? 私だけ除け者は嫌ですよ」

「もう…、仕方ないなあ」


「それ! 出てこい、ド変態アンデッド!」


『ご要望により只今参上! げっへっへ…、こりゃまた可愛ええ思春期少女じゃのう、秘密の暴露のし甲斐があるわい』

「きゃああああ! お、お化け~!!」


 ゆっくりと近づいてきたアンデッドの恐ろしい姿に、セラフィーナは腰を抜かしてしまった。お姫様に髑髏しゃれこうべを近づけて涙目にさせて満足すると、ワイト・サーチを発動し、セラフィーナのスリーサイズ(B80、W58、H82)と乙女の秘密を全て白日の元に晒したのであった。


「ひえええー、何なのよぉ、もおー」

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