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第277話 宰相一家との会食

 結局、衣装合わせをしてドレスを選び、そのままお化粧をしてもらって準備が終わったのは6時も近くなった頃だった。そのままホルツバウアーにレストランまで案内してもらうと、ウェイトレスに予約された個室に通されて少し待つように言われた。


「ふう…。ヴァルター様とは知り合いなのに、こう改まった場所で会うとなると、何かドキドキしちゃうな。もしかして、これってデートって言ってもいいのかな。わたしの格好、おかしくないよね…」


 ユウキは総レースの黒のセミロングワンピースに、お気に入りのチョーカー。金の髪飾りと黒真珠のイヤリングといった、シックでありながら可愛らしさも兼ね備えた装い。ワンピースの胸元がやや開いているので、胸の谷間が少し覗いているのが色っぽい。


 ドキドキしながら待っていると、個室の戸が開いて「やあ、お待たせ!」といってヴァルターが入って来た。ユウキはピョコンと立ち上がって礼をし、顔を上げて固まってしまった。


「え…え、あの…」


 そこにはヴァルターだけでなく、身長180cm位で髪をオールバックにし、口髭を生やした優し気な表情をした男性と清楚なドレスを着た2人の女性が立っていた。


「スマン、ユウキ君。君の事を父上に話をしたら是非会いたいという事になってね。そうしたら私の母上とエヴァの母上も同席したいと言うじゃないか。だから連れて来た」

「連れて来たって…。そんな、心の準備が…」


 とりあえず、テーブルを囲むように、ユウキの正面に宰相と2人の奥方、ユウキの左側にヴァルターが座り、自己紹介をすることになった。


「えっと、ユウキ・タカシナです。ロディニア王国出身の17歳で、この大陸の色々な国を巡って見ようと旅をしています。最初の国スクルド共和国で冒険者登録をした際に受けた依頼がきっかけでエヴァリーナ様とヴァルター様に出会いました。エヴァリーナ様はこの大陸で初めてできた、わたしの大切なお友達です」


 ユウキの言葉に、宰相と2人の奥方は笑顔になる。


「私はヴィルヘルム・クライス。この国で宰相をしている。ユウキさん、君の話はヴァルターやエヴァリーナから聞いているよ。そしてこちらの2人は私の妻だ」


「ヴァルターの母、イレーネです。初めまして。聞いていた通り、美しいお嬢様ね。ドレスも素敵で似合ってる。お会いできて嬉しいわ」


「えへへ、ありがとうございます」


 イレーネは年の頃40代前半の、ふわっとした金髪をセミロングにしたややたれ目の優しそうな笑顔が素敵な美人で、白のワンピースドレスが良く似合っている。胸もユウキに匹敵するくらい大きく、美しい曲線を描いている。


(胸が大きい…。わたしと同じくらいありそう。この人、きっといい人だ)

『なんじゃそりゃ。どういう理屈じゃ』


「うふふ、私はフォルトゥーナ。エヴァの母でーす。よろしくね、ユウキちゃん。ユウキちゃんの事、エヴァから嫌という程聞かされてるわ。本当に胸が大きいのね。イレーネちゃんと同じくらいありそう。羨ましいな」


 気さくに挨拶してきたフォルトゥーナは魔族の国出身ということで、銀髪と白い肌、紫色の瞳が特徴の美人。しかも、見た目が20代にしか見えない。ただ、エヴァリーナ同様、胸は控えめだった。


「若い…あっ! スミマセン。失礼な事を言って」

「うふふ、ありがとう。でも、私、これでも56歳でここにいる中では最年長なのよ」

「ご、ごじゅうろくさい! うそ、見えない…」

「魔族は人族の倍の寿命があるのよ。だから、若い時間が長いのね」


(羨ましい…。イレーネさんもそんな目をしてフォルトゥーナさん見てる)


「2人とも、食事と飲み物も運ばれて来たし、自己紹介はその位にして、食事しながらユウキさんの旅の話でも聞かせてもらおうじゃないか」


 ヴィルヘルムが言い、ワインで乾杯すると食事が始まった。ユウキはリーズリット港でミュラーと出会った所から、最初の国スクルド共和国で冒険者登録をした際に受けた依頼がエヴァリーナからの大陸最強戦士決定戦に出場してフランを倒し、優勝するまでを話した。


「初めてヴァルター様に会った時、凄く嫌な男だと思いました。わたしを見て、乳のデカいバカ女って言い放ってくれたし…」

「え、そこまで言ったかな…」

「まあ、ヴァルターさん。女性にそんなことまで言ったのですか!?」

「は、母上…スミマセン。ユウキ君もあの時はすまなかったな」


 エヴァリーナが何故そんな依頼をしたか、彼女の想いと理由を話すと全員が感動したようでヴィルヘルムは黙ってワインを飲み、フォルトゥーナはハンカチで目元を拭う。ヴァルターもエヴァリーナに平手打ちを貰って、涙ながらに想いを告げられて目が覚めたと話すのだった。


「そう言えば決定戦でのユウキさんのリングネームは何だったの? フランちゃんは「疾風フラン」だったわよね」

 フォルトゥーナがニコッと笑って聞いてきた。ヴァルターは下を向いて笑っている。


「……………カーです」

「んん、聞こえなーい」

「エロボディバーサーカーですっ! あなたの娘さんが付けてくれましたっ!」


 ユウキは真っ赤になって下を向く。ヴァルターを除くクライス家の全員は一瞬キョトンとした後、爆笑するのだった。


(言いたくなかったのに~。ふぇええん)


 ユウキはワインをグイッと呷ると、スクルドの首都トゥルーズで知り合ったアリス、フェリシアとエヴァリーナの4人でタコ焼きの屋台をやって大人気だった話や、そのための材料集めで巨大なゴールデンテンタクルズとバトルした事、サヴォアコロネ村を襲おうとしたグレイトグリズリーをエヴァリーナが討伐し、一躍村の有名人になった事などを話して聞かせた。特に、グレイトグリズリー戦はその経過を話して聞かせたところ、ヴィルヘルムは渋い顔をし、イレーネは驚き、フォルトゥーナは目をキラキラと輝かせて聞き入るのであった。


「で、今では村にエヴァリーナ様の石像が建っているのですよ。討伐したグレイトグリズリーを足で踏みつけ、天に向かって人差し指を高く掲げた勝利のポーズだそうです」


「まあっ! エヴァったら面白いことしてたじゃないの! 全然話してくれないんだから」


 ポーティアの町でエヴァリーナと別れた後に訪れた、イザヴェル王国では、第3王子のアンリと監獄塔を探検して魔道具の「賢者の鏡」を手に入れ、病気の女王様を助けた話やその背景には王弟による女王弑逆の陰謀があり、第1王子のリシャールと協力して陰謀を暴いて防いだことを話して聞かせた。


「ふむ…。イザヴェル王国の重病の女王が奇跡的に回復した事やマルドゥーク公オーギュストとその娘が急逝した事は聞いていたが、背景にそんな話があったとはな。宰相府としてもう少し情報を収集する必要があるな」


「マルドゥーク公爵は女王様に毒を使って御病気にした後は、私腹を肥やすために国庫からかなりの額を流用していたとの話です。リシャール様、随分怒ってました」


 興味深そうに話を聞いていたヴィルヘルムが頷くのを見たユウキは、ウールブルーン出た後、しばらくイザヴェル国内を旅して、ソラリス湖と湖畔の町グランドリューの美しい風景に感動し、サンエリル市の民族衣装美人コンテストに冒険者ギルド代表として無理やり出場させられたことを話して聞かせた。


「で、結果はどうだったんだ」

「ヴァルター様、当然優勝ですよ。美貌でわたしに敵う女はそうそういませんて」

「まあ、凄い自信ね。でもわかります。ユウキさん本当に美人ですもの」


 イレーネがほんわかとした話し方で褒めてきたので、ユウキは何故か恥ずかしくなって照れてしまった。


「でもですね、次に訪れたビフレスト国では大変な目に遭ったんですよ」

「アルムダートで知り合った中等部の生徒と初級ダンジョンに潜ったら、アークデーモンに遭遇したんです」


「アークデーモンと戦ったの!?」

「まさか! しっぽ巻いて逃げましたよ」

 フォルトゥーナが驚いた顔で聞いてきたが、ユウキは誤魔化すことにした。アークデーモンを倒したなんて言ったら、騒ぎになるに違いないと思ったからだ。


「そうよね~。流石にアークデーモンは無理よね~」

 フォルトゥーナがそう言ってワインを飲む隣で、ヴィルヘルムがニヤッと笑うのが見えた。


(あちゃー、ヴィルヘルム様は顛末を知ってるね。ははは…)


「で、その騒動が終わってマレダ港に移動して、帝国行きの船に乗ってやってきたという訳です。ああ、マレダでラピス様と一緒になりました。何でも留学先での試験結果があまりにも悪くて、お母様に呼び出しを喰らったとか…。殺される~って言ってましたね。あと、お付きの使用人の女性2人が余りにも強烈でしたね。特にスズネさんは…」


 その後も色々な話をし、ユウキの話だけではなく、ヴァルターとエヴァリーナの兄弟愛やフランの普段の生活、第1夫人のイレーネと第2夫人のフォルトゥーナは凄く仲がよくて、ヴィルヘルムが置き去りにされることが多々ある事など、楽しい話をいっぱい聞かされた。気づけば、もう3時間も経っている。


「もうこんな時間か…。ユウキさんはこれからどうするのかね」

「はい。わたし、帝都が気に入ったので、しばらくここで冒険者の仕事を受けてみようと思ってます。その後は、帝国の各地方を回ってみようかなって。魔族の国も行ってみたいですね」


「そうだ、ユウキ君。これ君が言ってたオーウェンと言う人がいるギルドだ。調べておいたよ」

「わあっ! ありがとうございます。ヴァルター様」


「ねえ、ユウキちゃん。提案があるんだけど」

「はい?」

「帝都で仕事するなら、私の所に来ない? エヴァもいないし寂しいのよ。いいでしょあなた」

「ああ、いいとも。是非そうしてくれないか。フォルトゥーナも喜ぶし、もしかしたら私も何かお願いすることがあるかもしれないからね」

「わーい、じゃあ決まりっ! 明日の昼頃、迎えの馬車を寄越すからね」

「は…はあ。いいのかなあ…?」


「さあ、お開きにしようか」

 そう言ってヴィルヘルムが立ち上がった時、フォルトゥーナがフフっと笑って、ユウキのイヤリングを指さした。


「待って、まだ帰るには早いわ。ユウキちゃん、そのイヤリング…、魔の波動を感じるわ。秘密があるわね。凄く興味がある。教えてもらいましょうか」


「……………えっ!!」


「ふふ~ん。魔族の目は誤魔化せないわよ。ユウキちゃん、そこに何か秘密を隠しているでしょう。さあ、教えなさい!」


『クックック…。来たか。久々の儂の出番が。ワーハハハハ!』

(この変態ド助平ワイトを見せなきゃなんないの。絶対ドン引きされるよ。はあああ~)


 全員の視線がユウキのイヤリングに集まる。これは誤魔化せないなと思ったユウキは諦めて正体を明かすことにした。


「わかりました…。でもここでは無理なので、私の泊まるお部屋に行きませんか」

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