第28話 スラム街での戦闘①
次の休日、ユウキは武器店に防具を取りに来ていた。
「しばらくぶりだな、モノはできているぞ。早速着けてみるか」
「はい! お願いします!」
「胸を覆う部分は腕の動きを阻害しないように、やや固めに作っている。お前のでかい胸が揺れないように配慮したのさ。胸から胴を覆う部分の皮は1枚にして金属板をやや厚くしている。あとは腕当てとブーツだ」
「ブーツは通気性がいい素材で作り、脛の部分に魔物の皮を使っている。蒸れると水虫になるからな。ガハハハ」
「あはは、ありがとうございます。うん! ぴったりです!」
「そうか、合わなくなった部分があったら言え、直してやる。格安でな」
「ふふ、はい、残りの金貨2枚です」
「うむ、確かに」
ユウキは、腰にオヤジさんからもらった鋼の剣と短剣を帯剣し、店の姿見でチェックする。
「うん、おかしなところはないな」
ユウキと店のオヤジが雑談していると、1人の少年が慌てた様子で飛び込んできた。
「フレッドくん? どうしたの、そんなに慌てて」
「ユウキさん! ここに居たんですね! 探したんです。た、大変です。ララさんが、ララさんがスラムの連中に捕まって連れて行かれました!」
「ええっ! ラ、ララが? どこに…、どこに連れて行かれたの!」
ユウキはフレッドの両肩を掴み、がくがくと揺さぶる。
「ぐ、ユ、ユウキさん…。苦しい…」
「おいユウキ、落ち着け。ボウズが苦しそうだぞ」
「あ、ご、ごめん」
「はあ…、ララさんは王都北側のスラム街に連れて行かれたようです。スラムの中には教会跡があって、そこがならず者のアジトになっていると聞いてます。おそらく…」
「ユウキ、行くのか。ダメだ、スラムは危険だ。女が行くところではない。憲兵にまかせるんだ」
「オヤジさん。ララは…、ララは大切な友達なんです! ボクは、ボクを大切にしてくれた人を助けたい。大切な人を失いたくない!」
「だから行きます!」
「お、おい、待て! 行くんじゃない!」
ユウキは武器屋を飛び出し、スラムに向かって走り出した。その時、武器屋を飛び出したユウキを見つけた2人組がいたことをユウキは気づかなかった。
「ん、あれはユウキか。どうしたんだ、あんなに慌てて」
王都の北側の外れに貧民街がある。普通の市民は絶対に足を踏み入れない場所だ。入り口に着いたユウキは、周りを警戒しながらスラム街に足を踏み入れた。通りは薄暗く、寂れており、ドブ臭い。
人々も活気がなく、道端に座り込んだりしている。また、所々に客待ちをしている街娼の姿も見える。
(……)
スラムの住人たちの強い視線を感じながら、しばらく進むと教会跡が見えた。外側に人の気配はない。ユウキは慎重に近付くと、ゆっくりと扉を開いた。
中に踏み込むと、奥に座り込んだ男が1人。また、その周りに武装した男たちが10人程度。座り込んだ男がリーダーなのだろうか。そのそばにロープで縛られ、猿轡を噛まされたララが転がされていた。
「ララ!」
「よく来たな、お前がユウキか」
「そうだよ。ララを返して!」
「ん~ん~(ユウキ!逃げて!)」 ララが苦しそうに唸っている。
「その前に、武器を捨ててもらおうか。こいつは、お前と引き換えだ」
「何が目的なの……」
ユウキは武器を足元に投げ捨てて訊ねると、リーダーらしき男は、
「お前を連れてくるように、ある人物から頼まれてね。ま、おとなしくしてれば荒っぽいことはせんよ」
ユウキの側に2人の男が近づき、ユウキをリーダーの前に連れてくる。
「(誰がボクを…。ボクのせいでララが危険な目に…)ララを離して」
「おういいぜ。ちゃんと返してやるよ。ただ、貞操が無事かどうかわからんがな」
周りの男たちの卑下た笑いが教会内に響く。ララは恐怖で真っ青になっている。
「この卑怯者!」
「ははは、何とでも言いな。俺たちはお前さえ連れて行けば金をもらえるんだからな。こんな娘どうなろうが知ったこっちゃない。返す前にせいぜい味わってやるさ。貧相な体だが少しは楽しめるだろうよ」
「しかし、親分。このユウキっていう娘。なかなかいい体してますぜ。ちょっと味わうくらいできねえんですか」
「ダメだ。きれいな体ってのが条件だからな。お前ら、その小娘で我慢しろ」
「へえ、しょうがねえな」
男たちはユウキを捕まえたと思って完全に油断していた。ユウキは気づかれないようにそっとマジックポーチに手を伸ばし、ミスリルダガーを握りしめた。




