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第273話 美女たちの休日

「ようやっと着いたぁ~」


 マレダに到着したのはもう深夜となった時刻だった。乗客たちは皆一様に疲れた表情で宿を探しに市中に散っていく。ユウキもとにかく宿を探そうと歩き出した。気づくとラピス様御一行もユウキの後に着いて来る。


「ここまで来たら、帝国まで一緒に行きましょう。わたくしとユウキはマブダチだからね!」

「マブダチって…。まあ、いいか」


 何とか宿も見つけ、1部屋だけ空いていた3人部屋を取り、部屋に入って身体を拭いて(夜遅くなので風呂は諦めた)、就寝することにした。ビューティーファイターの3人はとにかく疲れていたのでベッドを使い、帝国皇女様はまたしても床で寝る羽目になった。


「まあ、今回は仕方ないわね。助けてもらったし…。うう…今夜も骸骨が出てきたらどうしよう…」


(ミュラーやラピスを見てると、帝国の皇子皇女って気さくなイメージがするね。まあ、この2人が特別なのかも知れないけど。そういえば、エヴァは元気かな? エヴァに会いたいなあ。ミュラーは…うん、別にいいや)


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 


 翌日、マレダ港の乗船券販売所に到着した一行。早速、帝国行きの船を探し、乗船券を購入する。船は大型の貨客帆船で、出発は明日の昼。行程は3泊4日、料金は食事付き1人銀貨30枚だったが、ここは女子だけの旅ということもあって、割増料金を払い、2人部屋の個室を2つ取ることにした。


「さて…、駄目駄目駄嬢様、まだお昼にも時間がありますし、本日はどう過ごされますか」

「そうね…。この近くに海水浴場があったわね。お天気もいいし、少し泳いで体を動かしたいわね」

「あら~ん、駄嬢様もたまにはいいこと言いますわねぇ。賛成賛成!」


「じゃあ、わたしは宿で留守番してるから」

「ダメよ、ユウキも一緒に行きましょう。ほら、早く!」

「えー」


 マレダ港から市内巡回の辻馬車で30分ほど移動した先に海水浴場があった。海岸線は約2kmの弓型で、白砂の砂浜は幅約50m位ある。波は小さく静かに打ち寄せていてとても美しい海岸だ。砂浜には多くの家族連れや男女のグループが沢山来て遊んでおり、それ目当ての屋台も数多く出店していて、いい匂いを立ち昇らせている。


「うわあ、キレイな海岸。それにみんな楽しそう」

「そうよね。来てよかったわよね。早速着替えに行きましょう!」

 ラピスがユウキの手を取って更衣室目掛けて走り出し、お付きのメイドたちもやれやれと言った表情で着いて来るのであった。



 先に着替えたアメリアとスズネがレンタルしてきたパラソルを立ててシートを広げていると、ユウキとラピスが小走りでやって来るのが見えた。


「見て下さいよスズネ。あの2人の胸を。ブルンブルン震えてますよ」

「駄嬢様はロリ巨乳。ユウキちゃんは正統派巨乳。一方のわたしたちはぁ、まあ普通」

「私たちも無いわけではありませんが、あの2人に比べると見劣りしてしまいます」

「ホント、妬ましいわねぇ~」


「ハアハア…お…、お待たせ…」


 ユウキは、サンエリルのコンテストで着用した薄い水色をベースに花柄模様があしらわれたビキニで、ラピスは白地に色とりどりの水玉模様が描かれたビキニ。2人とも良く似合っててとても可愛い。アメリアは肩から胸にかけてフリルの付いたストライプワンピース。一方のスズネは黒の極小ビキニ。さすがのユウキも着るのを躊躇うほどのセクシー水着だ。


「おふたりとも、凄く似合ってますね。特にスズネさん、凄いです。周囲の男性の目が凄いです」

「うふっ。ありがと、ユウキちゃん」


 4人は日焼け止めに効果のある薬草のクリームをたっぷり塗り合うと、ユウキとスズネは海に向かった。アメリアは屋台に買い物に出かけ、スズネが荷物番をしている。


 ユウキとラピスは腰までの深さのところで水をかけあって遊ぶことにした。遠浅の海は透明度が高く、透き通っていて海底に沈む貝殻や小さな魚が泳いでいる様子が見える。


「きゃはははっ! ユウキ、えいえいっ! それっ!」

「わあっ! やったなー、えいっ! あはははは」


(あはははっ! 楽しいっ。臨海学校でカロリーナたちと遊んだ思い出が蘇るよ。ラピスも明るくて可愛いし、ホント楽しい!)


「よう、おふたりさん」


 2人が楽しく遊んでいると、不意に声をかけられた。声のした方を見ると3人の男性と2人の女性が近づいてきた。


「ん…? あ、ロダンさん」

「ユウキちゃんも海水浴かい。俺たちもなんだ。護衛の仕事は明日だし、野党退治では全くいい所が無かったからな。気分転換さ」


「何かスミマセン…」

「あんたたち! 護衛だったらもっと毅然と対応しなさいよね! わたくし、危うく野盗の餌食になるところだったわよ!」


「こら、ラピス!」

「いいんだ。冒険者稼業は結果が全てだからな。結果を残さなきゃ非難されても反論できん。あの時はすまんかったな、お嬢さん」

「わ…、わかればいいのよ」


「ユウキちゃん、せっかくだ。この2人と遊んでやってくれ」

「いいですけど、ロダンさんたちは?」


「あそこに見える沖の島まで、ひと泳ぎしてくる。あの島の海岸はヌーディストビーチで有名でな。見目麗しくナイスな体を開放している女性が沢山いるって話だ。どうだ、開放感を味わいにユウキちゃんも行くか?」


「行きません!」


「残念! 行くぞお前ら! じゃあなユウキちゃん」

「うおおう! 天国へ向けて出発だぁあああ!」

「待ってろよ天使ちゃんたち! 命の洗濯じゃああ!」


「最低…。死ねばいいのに…」

 盛大に水しぶきを上げながら沖合に向かって突き進むロダンたちを、虫けらを見るような目で見ながらユウキがぼそりと呟いた。


「ごめんね。みんな根はいい人なんだよ。あっ、私はショコラ。職業はスカウトだよ。この子は…」

「ルシア…。風の魔術師」


「えっと、わたしはユウキ。この大陸を旅して回ってます」

「わたくしはラピスよ。よろしくね!」


 ショコラはユウキと同じくらいの背丈のスレンダー体形の美少女。キツネ耳とモフモフの尻尾を持った亜人で、長く伸ばした金髪がキラキラ輝いている。ルシアは茶色の前髪を目の前で切り揃えた少し陰のある感じの子だが、胸のふくらみはユウキには及ばないもののラピスと同等の巨乳だ。ショコラはビキニ、ルシアはワンピースの水着が良く似合っている。


「私たち、3ヶ月前に冒険者になったばかりなんだ」


 ショコラとルシアは同じ学校の同級生で、冒険者稼業に憧れ、中学卒業後に2人して家を飛び出し、アルムダートで冒険者登録したとのこと。新人に大きな仕事が回る訳はなく、主に薬草採集や農作業補助などをしていて生計を立てていたが、3日前にロダンに声をかけられ、今回の護衛任務に就いたとのことだった。


「初めてなんだ。こんな冒険者らしい仕事」

「でも野盗に囲まれた時、怖かった…」

「だね。おしっこちびるかと思ったよ」

 ショコラがニシシと笑う。その屈託のない笑顔にユウキは好感を持った。


 波打ち際に移動し、ラピスが持ってきたボールで遊んでいると、アメリアがお昼にしようと声をかけて来たので、ショコラたちを紹介し、一緒に食べようとパラソルまで移動したらスズネがいない。


「あら、ダメリア。スズネは?」

「アメリアです。実は先ほど、頭の中は交尾しか考えてないような5人の男たちがナンパしてきまして、私は断ったんですが、スズネは嬉々として着いて行きました。多分、海岸の端の岩場にでも行ったと思います」


(え、ええ、えええ~。ヤダ、と言うことは5人を相手に…。エッチを…)

 ユウキは、岩場で行われていることを想像し、茹でダコのように真っ赤になって俯く。


「はああ!? ったく、あのバカネはどうしようもないわね。ほっときましょう。アメリア、食事の用意して」

「アメリアです。はい、駄嬢様…。あれ、名前合ってた?」


「ねえユウキ。ラピスってお嬢様なの?」

「うん、実は帝国第8皇女様」

「げ、天上の人じゃん。全然そうは見えない」

「び…びっくり。様つけなきゃいけないのかな」


「大丈夫だよ。ラピスは選民思想とは皆無の人だし、何より究極のおバカだから」


 アメリアが屋台で買って来た焼き鳥やイカや貝の焼き物、果物の詰め合わせ、飲み物などを並べ、ラピスが「さあ、食べましょう」と号令してみんなで食べ始めた。


(天気のいい海岸で大勢で食べる…。なんて楽しいの。ここに彼女たちもいたら…ララ、カロリーナ、フィーア、ユーリカ…。ずっと、ずっと一緒だと思っていたのにな…)


 急に静かになったユウキを不審に思ったラピスがギョッとして声をかける。


「ユウキ、ユウキ。どうしたの? 泣いてるの?」

「うう…ぐす…。ご、ごめんなさい。少し昔を思い出して…。大丈夫、もう大丈夫だから」


 アメリアが水を差しだしてくれ、受け取ってごくごく飲むと少し落ち着いた。ショコラとルシアが背中をさすってくれている。ユウキは急に恥ずかしくなって、えへへと照れ笑いを浮かべ、


「ゴメンね、ビックリさせて」と謝るのだった。


 再びわいわいと食事を摂り始めた一行の脇を2人の女性が話をしながら歩いて来た。何ともなしに全員聞き耳を立ててみる。


「ねえ聞いて」

「なに?」

「あの西の端の岩場で貝を探していたらね、凄い喘ぎ声が聞こえて来たの」

「おう! 青空エッチか!」

「でね、そーっと声のする方を覗いて見たらね」

「ほうほう、それでそれで」


「全裸の女の人が1人、5人の男の人を相手にエ、エッチしてたのよ!」

「なんと!」

「凄かったよ。後ろから犯されながら、前でアレを咥えて、両手でアレをしごいて、1人の男の人は下からおっぱいにむしゃぶりついてた…」

「わお!」

「女の人の声も凄かったけど、男の人も獣のような声を上げて果ててた」

「なにそれこわいって、あんた…最後まで見てたの!?」

「うん!」


 大きな声で話をする2人の女性の背中を見送りながら、ラピスとアメリア、ユウキは神妙な表情をして俯き、無言になる。


「……………」


 長い沈黙に耐えられなくなったショコラが、周りを見回して口を開いた。


「す…、凄い話だったね…。その女の人の顔、見てみたいね…」

「……………」

「え…、えっと…」


「あはっ! みんなぁ、ごめんねえ。ちょっと男の人たちと遊んできちゃったぁ」


 そこに、満面の笑みを湛えたスズネが帰って来る。見るとビキニのブラは少しズレているし、パンツはぐしょぐしょになっている。明らかにまともではない。


「ヤダ…、何か変な臭いがする」とユウキ。

「クンクン…。うん、チェスナの花のような臭いがする」とショコラ。


「あらヤダ~。お股から漏れ出て来たかなぁ」

 くねくねとスズネが体を捩り、テレテレと顔を赤らめる。


「こ…、このバカネ! ケダモノ! 色情狂! さっさと海に行って体を洗って来い!」

「きゃああん。怖いぃ~ん」


 ラピスの怒号に、スズネは海に走って行くとザブンと飛び込んで体を洗い始めた。時折こっちを見てウインクするのがウザい。


「ショコラさん、ルシアさん。あれが岩場で喘いでいた性獣です。顔を見たいって言ってましたよね。アレがそうです」


 アメリアが冷たい視線と声で2人に教える。ショコラとルシアは引きつった笑いを浮かべるしかできなかった。


「わたし、今日はもう海はいいや…」

 ぼそりと呟いたユウキの言葉にその場の全員が頷くのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「あーあ、せっかく楽しい海水浴だったのに、スズネさんのお陰で台無しだよ。もう…」


 宿の大浴場でお湯に浸かっているユウキ。ラピスと2人のメイドはさっさと上がってしまい、今は1人だ。温かいお湯に浸かっていると疲れが少しずつ溶け出していく気がする。そこにカラカラと戸が開く音がしてショコラとルシアが入って来た。2人はユウキを見つけると軽く手を振って挨拶すると、かけ湯をして湯船に入り、ユウキの側に寄って来た。


「ご一緒してもいいですかー」

「いいよ。2人もここに泊まってたんだ」


「はい! でもロダンさんたち、沖の島から帰って来ないんですよね。明日、大丈夫なのかな…」

「やつらも…性獣…」


 お風呂に浸かりながら、2人の普段の生活や、ユウキの旅で経験、昨日の野盗との戦いでの活躍(?)、ラピスや2人のメイドの関係など、話題は尽きず、楽しい時間が過ぎて行くのであった。話題が落ち着いたところで、ショコラが急にあの話題を振って来た。


「ところで…、アムルダートの冒険者ギルドで話題になっていたんですけど、ユウキさんて、アークデーモンを倒したそうですね! 凄いです。その時のお話を聞かせてもらえませんか!」

「うん…、わたしも聞きたい…」


「えっと…、あの…、その話は余所でするなってボールスさんに言われてるの。だから、ごめんね。さ、さあ、もう上がろうかな。お先にね」

「…ざ、残念…」


 ルシアが残念そうに言い、。ショコラもユウキの後姿を見送るが、冒険者登録をする際に父親から密かに言い渡されたことを思い出していた。


(本国から各国の「草」に指示があった件について。「暗黒の魔女の消息または、それらしき人物の情報収集と報告」だったっけ。確か魔女の特徴は…)


「ショコラ…?」

「えっ…、あはは、ぼーっとしちゃった。一緒に体洗おう」

「う、うん…(ショコラ、何か隠してる…?)」

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