第271話 変身! ビューティファイター!
「体中が固まって痛い…。なんで帝国皇族のわたくしが固い床で、使用人がベッドで寝なきゃいけないんだろ。おまけにずーっと骸骨に見つめられてる夢を見てたし…怖かった…」
宿場となった村を連絡馬車は定時に出発した。豪華馬車の中でラピスが自分で肩を揉みながらぶつぶつ言っている。ユウキはぼやきを聞きながら苦笑いするしかなかった。そのうち、疲れが出て来たのか、馬車の揺れに気持ちが良くなったのか、ラピスはガクリと項垂れると、ぐうぐうと眠ってしまった。
馬車の列は順調に朝の街道を進む。街道脇に植えられている街路樹や街道脇に広がる畑が日の光に照らされ、美しく輝いている。
「綺麗な景色だね」
ユウキはそっと黒真珠のイヤリングに手を触れた。イヤリングの中から今では家族同様の存在となったアンデッドの波動が感じられる。
『ホッホッホ。昨夜のユウキは乙女じゃったのう。あの顔だけでお腹いっぱいじゃわい。おまけに女子3人の心の内もバッチリ覗き見出来たし。うむ! 満足満足』
(恥ずかしいなあ、もう…。でも、あの時は本当に焦ったよ)
景色を見ながらエドモンズ三世と念話で話をしていると、不意に声をかけられた。
「やあ、お嬢ちゃん」
「え…、あ、護衛の冒険者さん。昨日は起こしてくれてありがとうございました」
「ははは。いいってこった。1人旅か?」
「はい。この大陸を旅しています。スクルドからイザヴェルを見て回ってきたので、これから帝国に行ってみようと考えてます」
「そうか、旅はいいもんだ。だが、女1人でよく無事でいられるもんだな」
「ふふ。こう見えてもわたし、Cクラス冒険者なんですよ」
「ほう…。人は見かけによらんもんだな」
「それ、褒めてます?」
豪華馬車護衛の冒険者の名はロダンといった。ロダンは気さくな男で聞いてもいないのに色々話してくれた。この国が優秀な傭兵団を有していた時代は既に過去。平和な時代には不要なものとして縮小・廃止されている。このため、兵士の職業転換訓練を経て転職させたり、開拓団として農業振興を図り、今では農林水産業や製造業が国の基幹産業となっているとの事だった。
「へー。国に歴史ありですね」
「だよな。ただ、知っての通りこの国にはダンジョンがある。この探索には優秀な冒険者が大勢必要だからな。だから兵士から冒険者に転職した者も沢山いてね、その子孫もまた冒険者になる場合が多いんだ。俺もそうさ。ひいじい様の代から冒険者稼業なんだ」
「ほうほう…」
以外にもロダンの話は面白く、色々な情報があって参考になるのだった。
ロダンとの話がひと段落し、再び景色を眺め始めたユウキ。前席ではラピスが口を開けて爆眠している。そのだらしない顔が妙にお姫様らしくなく、思わず笑ってしまうのだったが、急に馬が嘶いて馬車はガクンと大きく揺れて急停車した。その衝撃でラピスは前席の背もたれに頭をぶつけて呻いている。
「うわわ! どうしたの一体。あ、ラピス大丈夫!?」
「イタタタ…。何があったの…? ヤダ、鼻の頭を擦りむいちゃったみたい。ヒリヒリするぅ~」
馬車の乗客が何事かと騒ぎ始め、確認のためロダンが飛び出していき、ユウキがラピスの鼻に傷薬を塗っているとバタバタと2人のメイドが馬車に乗り込んで来た。
「駄嬢様! 大丈夫でしたか!? ああ、大丈夫そうですね。残念です」
「よかったですぅ~。チッ…」
「何よスズネ、その残念そうな表情は。ところでイメルダ、何があったの?」
「アメリアです。誰ですかイメルダって。えーとですね、何者かが街道を封鎖して、通行税を寄越せと騒いでいるようなのです」
「どうも、冒険者崩れの野盗っぽいわねぇ」
「わたし、ちょっと見て来る」
「あ、ユウキ。わたくしたちも行くわよ! 続け、ダメイドたち!」
「アラホラサッサー!」
ユウキたちが先頭の馬車付近まで来ると、馬車の乗務員と護衛の冒険者が20人ほどの武装した男たちと対峙していた。両者の間にはかなり険悪な空気が流れている。
「ですから、ここは国が整備した公共の街道であって、誰もが支障なく通れる道のはずです。あなた方は何の権利があって妨害しようとするのですか!」
「だからよう…、権利とか関係ねえんだよ。通りたいなら金払え。それだけだ」
「払うつもりはありません! 1人当たり銀貨10枚なんて!」
「ほーん、じゃあ殺して金目の物をいただくとするか…」
武装集団がニヤニヤ笑いながら武器を構えて集まって来る。乗務員は怯えて後ろに下がり、5人の護衛が武器を構えて前に出る。他の乗客は馬車の中から様子を伺っている。
「あれは完全に野党の類だね、厄介だな」
「ですね。触らぬ神に祟りなし、ここは撤退が最善の策と提案します」
「賛成、賛成~。駄嬢様を囮にして逃げましょうよぉ」
ユウキとメイドたちがこそこそと話しているのを横目に、ラピスがダダダッと武装集団の前まで走って行き、首領と思わしき男の前まで出て行ってビシッと指差す。
「あなた方、黙って聞いていれば何なのよ! ここは天下の公道よ。誰もが自由に通る権利があるんだから、さっさと退きなさい!」
「なんだぁ、この小娘」
「聞こえなかったの? もう一度言ってあげるわ。さっさと退きなさい!」
「へえ…、いい度胸してるじゃねえか」
「ヒャーッハァ! オヤビン、この女は背はチッコいが楽しめそうな体をしてるぜ。たっぷり可愛がってやろうぜぇ」
モヒカンヘッドで肩アーマー、上半身裸の男がラピスの腕を掴んで捻り上げる。
「きゃあっ! い、痛いっ。離しなさい!」
「お前たち止めろ!」
ロダンを始め護衛の冒険者が抜剣し、武装集団もめいめいに武器を構える。
「あちゃー、こりゃヤバい。流石に見過ごせませんね。スズネ」
「だね。ご主人の帝国皇女を見捨てたとなりゃ、わたしたち打ち首獄門確実だし。ここはやるっきゃないねぇ」
「となりゃ、そこの巨乳も巻き込みますか」
「え?」
「おっ、いいねぇ! ユウキちゃんもこっち来て」
「え? え?」
『くっくっく…。大丈夫じゃユウキ。こ奴らの言うとおりにするのじゃ。こりゃあ面白くなってきたわい』
「ハーハッハッハァ! お前ら5人ぼっちの冒険者でオレたちに勝てると思ってんのか? こう見えてもオレは元Aクラス冒険者だぜ」
「くそ、こいつら冒険者崩れか…」
「うう…放しなさい、汚い手で触るな…」
「ヒャハハハハァ、嬢ちゃんはどんな色の乳首をしてるのかなぁ。黒だったらがっかりだなあ。ヒャーッハハハ!」
モヒカンがラピスを羽交い絞めにすると、別のとさか頭がナイフを手に近付いて来て、服にナイフを当て、縦に斬り裂いた。可愛いブラに包まれた大きめのおっぱいがプルンと露になり、男たちがギャハハハと大笑いする。とさか頭がブラのカップとカップの間にナイフを当てる。
「く…、離せ…わたくしに触れるな下郎!」
ラピスが恐怖と羞恥心で涙ぐみながらも精一杯帝国皇女としての矜持を見せる。護衛が何とか助けようとするが、周りを囲まれて動きが取れない。ナイフがブラを切り離そうとしたその時!
「お止めなさい! ケダモノども!」
と女性の大きな声が辺りに響き渡った。
「だ、誰だ!」
武装集団や護衛の冒険者たちが辺りを見回す。
「どこを見ている!」
全員が声のした方を見る。そこは3号馬車の屋根の上。現れたのは…。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ! 悪を倒せと私呼ぶ! 聞け、悪人ども。私は正義の戦士、ウルトラビューティーファイター「バトルメイド・アメリア」只今推参!!」
現れたのは白にゴールドのラインが入ったハイレグカットのワンピース水着にレスリングシューズを履いた美女。腰に手を当て悪者たちを見下ろした後、ビシィと白鳥のポーズで決める!
「今度はこっちよ!」
全員が声のした方を見る。そこは4号馬車の屋根の上。現れたのは…。
「女の墓標に名はいらぬ、死すならば戦いの荒野で。死して屍拾う者なし…。愛の調教師! サディスティック・クイーン「エロリアン・スズネ」登場! おーほほほ!」
真っ赤なバタフライマスクに胸元が大きく空いた黒のハイレグレオタードと黒のハイヒール。右手に鞭、左手にロウソク。手首に手錠を下げた女王様スタイルの変態だった。
イロモノ2人の登場にその場が静まり返る。もしかして3人目もいるのか? その期待は裏切られなかった。
「待ちに待ってた出番が来たわ! この世に巣食うスケベな輩は全て敵! とってもエッチな体を持った魅惑の体の狂戦士「エロボディバーサーカー・ユウキ」さ、参上です!(めちゃくちゃ恥ずかしい~)」
胸元が大きく開いて谷間がくっきり見える、超絶ミニスカートの魔法少女ドレスに可愛いショートブーツとヒラヒラマント。大きなリボンが付いたヘアバンドと親愛のチョーカーを装備した「痛い姿」のユウキが、腕を胸の下に持ってきて、やや前傾姿勢のポーズをとって5号馬車の屋根に現れた。
殊更強調される巨乳とミニスカートの下から覗く黒のセクシーパンツに男たちは歓声を上げる。
『3人揃ってビューティファイター! さあ、悪党ども! 覚悟なさい、月に代わってオシオキよ!』
(わたし、いったい何やってるのぉ~! え~ん)




