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第261話 帰還

 第1ダンジョンの前には、ダンジョンから逃げて来た大勢の生徒のほかに、悪魔の出現の連絡を受けたアルムダート中・高等学園の教師や冒険者ギルド所属の冒険者、アルムダート駐留ビフレスト軍の兵士合わせて数百人が集結していた。


「それで状況はどうなっているんだ! 説明できる者はいないのか! プリムヴェール様の消息を知っている者はいないのか!」


 駐留軍の指揮官が大声で生徒に呼び掛けるが、誰も名乗り出る者がいない。生徒の多くは疲労でへとへとになっており、怪我をした者も少なくなく、教師や看護師による手当を受けている。


 指揮官はギリッと歯を噛み締ると、麾下の兵に突入準備を命令した。それを見て、ギルド職員の指示でA級冒険者がリーダーとなって冒険者たちを整列させる。いよいよ突入となった時、ダンジョンの入り口から全身ボロボロのプリムたちが走り出て来た。


「はあ、はあ、あう…、はあ、く、苦し…」

「プリムしっかりしろ! 外に出たぞ!」

「ぜえ、ぜえ、ぜえ…。プリムヴェール、外に出た。お、重かった…」

「ありがとうございます。ダンテ様。重くてごめんなさい…」


「ジョンさん、ロイさん、エレンさん! やった! 外に出ました!」

「はあ、はあ、はあ、助かった…」


 ダンジョンから出て来た8人は、入り口に集まった教師や冒険者、兵士を見て安心して腰から崩れ落ち、その場に座り込んでしまった。


「プリムヴェール様!」

「君たち、無事だったんだな!」

 駐留軍の隊長と教師が走り寄って来た。


 中の様子を聞きたいという要請に頷いた8人は軍のテントに案内され、出された熱いお茶を飲んで人心地つくと、始めにプリムヴェールが最下層のダンジョンコアがある部屋に入った状況を話し始めた。


「3階層までは普通でした。でも4階層に入った頃からおかしくなってきたんです。1度に数体しか出ないハズの魔物が何十体と現れ、ダンジョンボスのホブゴブリンまで出て来たんです。でも私たちはメンバーも多く、冒険者の護衛もいましたので何とか4階層を抜けて、最下層まで行ったんです。でも最奥のダンジョンコアのある部屋に入ったら…」


「入ってどうした?」


「青黒い肌をして真っ赤な剣を持った悪魔がいたんです。その悪魔は自分の事をアークデーモンと名乗ってました。その悪魔は恐ろしい笑みを浮かべると、あっという間に冒険者のお二人を斬り殺して、私たちも1人ずつ殺すと…」


「私の同級生たちはパニックになって、私だけを残して逃げだしたんです。そうしているうちに、プリムさんたちが来てくれて…」


「ア、アークデーモンだと…。上級悪魔が何故?」

 駐留兵と冒険者が騒めく。


「プリム君だったね。君たちの話を聞こう」


 指揮官がプリムに向かって話すよう促した。プリムたちはユウキという名の冒険者と一緒にダンジョン試験を受けていた事。プリムヴェール同様3階層までは問題なかったが、4階層で多くの魔物に襲われたことやロイたちとホブゴブリンと戦った事を代わる代わる話した。そして最下層での出来事に話が及ぶ…。


「最下層でプリムヴェール様を見つけたあたしたちの前にアークデーモンが現れて、7体のグレーターデーモンを呼び寄せたんです。ユウキさんがアークデーモンを足止めするから逃げろって…。ユウキさんを置いて逃げたくなかったけど、足手まといになるからって…。ですから、あたしたち全員でコアの部屋から逃げたんですけど、グレーターデーモンが追いかけてきて戦闘になったんです」


「何だと! グレーターデーモンと戦ったというのか! 君たちが!?」

「まさか…、我々正規兵でも1個小隊がかりで倒せるかどうかっていうバケモノだぞ」


 プリムたちは密かに目配せをした。エドモンズ三世の事は秘密にしなければユウキに迷惑がかかる。ダンジョンからの脱出の際に全員で話し合っていた。だから、グレーターデーモンとは隙を見て逃げて来たということにしている。冒険者のリーダーや指揮官は不審な視線を向けるがプリムたちが何も言わないので、とりあえず納得することにした。


「お願いです! ユウキさんを、ユウキさんを助けて下さい!」

 プリムやソニアが必死に懇願する。しかし、反応は鈍い。


「うむ…。しかし、アークデーモンやグレーターデーモンが相手だと我々だけでは…。それに、アークデーモン相手ではユウキとやらはもう…」

「それに、プリムヴェール様が戻られた今、無理に突入する必要性もない」


「そんな…。ユウキさんは簡単にはやられません! きっとまだ生きてます。だから助けて! ユウキさんはプリムヴェール様の命も救ったんですよ。だからお願い! 助けて下さい!」


 プリム、ソニア、エレンが冒険者リーダーにお願いし、プリムヴェールも駐留軍指揮官にユウキを助けるようお願いするが、どちらも首を縦に振らない。それを見た女の子たちは大声で泣き出した。そして、ダンジョンの入り口まで走って行き、ユウキの名を呼び続ける。


「うわああああん! ユウキさん! 返事して…、ユウキさああん!」

 プリム、ソニア、エレンだけでなく、プリムヴェールもアドルたち男子も声を限りに呼びかける。しかし、いつまでたっても反応はなく、絶望感に打ちひしがれそうになる。


 どのくらいそうしていただろうか。冒険者リーダーがプリムたちにもう諦めるよう声をかけようと近づいた時、不意にソニアが立ち上がって耳をぴくぴくと動かした。


「プ、プリムちゃん…、聞こえない?」

「え…」


 プリムも立ち上がって耳を澄ます。すると確かに音がする。ダンジョンの通路を歩く足音だ。そしてこの音は聞き覚えがある…。


「き、聞こえるよソニアちゃん。足音が聞こえる」

「うん! 帰って来たんだ。ユウキさんが帰って来たんだ!」


 プリムとソニアの声にその場にいた全員がダンジョンの入り口を見る。やがて、通路の奥から全身黒の衣装を着た1人の女性が現れた。その姿は酷く、服もマントも所々破れており、焼け焦げている部分もある。また、表情は精魂尽き果てたように疲れ果てていた。女性は外に出て来ると、がっくりと両膝両手を地面について四つん這いの格好になった。


「はあ、はあ、はあ…。も、戻って来れた…」

「ユウキさん! ユウキさんユウキさんユウキさーん! うわああああ!」


 プリムとソニア、エレンがユウキに抱き着いて、わんわん泣き出した。ユウキもホッとして「はああ~」と大きなため息をつく。マントをお尻に敷いてぺたんと地面に座ったユウキにプリムたちはしがみ付いたまま、グスグス泣いている。


「あはは、プリム、みんな、もう泣かないで。でもホント、みんなが無事でよかった」

 ユウキがホッとした様子でプリムたちを見ていると、軍服を着た精悍な男性が近づいてきた。


「君がユウキ君か?」

「そうですが…。貴方は?」


「ビフレスト軍アルムダート駐留部隊隊長のアスターだ。お疲れのところ申し訳ないが、ダンジョンでの出来事を話して聞かせてくれないか。どうやってアークデーモンから逃げてこられたのだ?」


 ユウキは、仕方ないと思いながら立ち上がったが、プリムやソニアがまだしがみ付いており、立った勢いで2人がべたんと地面に倒れ伏し、2人が掴んでいたスカートも一緒にズルっと下がってしまい、ピンクのエロい勝負パンツが露になってしまった。周囲の男性陣の視線がユウキの股間に集中する。


「うわ! うわわ! 見ないで、見ないでぇ~! ちょっとプリム!」


 ユウキは慌ててスカートを上げようとするが、プリムとソニアが離さないのでスカートが上げられない。屈んで悪戦苦闘するユウキのお尻がフリフリして男たちは前屈みになる。そうこうしているうちに、戦闘で傷んだブラウスのボタンが弾けて、これまたピンクのブラに包まれたおっきな胸がプルンとこんにちはするのであった。


「ひぇええええ~。み、見るなぁああああ!」


 ダンジョン前にユウキの絶叫が響き渡り、男たちの大きな歓声が沸き上がったのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「うう…、酷い目にあった…。恥ずかし過ぎる…」


 何とかスカートを上げ、ブラウスのボタンを付け直したユウキは、軍のテントに案内されていた。目の前には冒険者ギルドの職員や学園の教師たちも揃っていて、話を聞こうと待ち構えている。


「いや、中々にいいものを見せていただいた。ところで、ダンジョンで何があったか教えてもらえるか」


 アスター隊長が話をするよう促す。ユウキはプリムたちを逃がした後、アークデーモンと戦い、苦戦したが何とか勝利した事を説明した。


「な、なに! アークデーモンと戦って勝っただと!?」

「これが証拠です」


 ユウキはマジックポーチからアークデーモンの死体を取り出して床に置いた。それを見た一同は驚いた。


「間違いない。悪魔族デーモン…。アークデーモンだ…」

「信じられん。これを君が1人で倒したというのか。熟練したAクラス冒険者のパーティでも厳しいと言うのに…」


「運が良かったと思います。ただ、何故アークデーモンが出現したかですが、ダンジョンコアの暴走ではないかとコイツが言ってました。戦闘後、試しにコアに魔力を流して見たら正常に戻ったようです。理由はわかりませんが…。後できちんと調べてみてください。あと、このアークデーモンの死体は処分してもらえませんか?」


「ああ、ダンジョンはギルドが責任をもって調査するよ。アークデーモンは素材として使える部分もありそうなので、査定して買い取ることになると思う」


 冒険者ギルド職員の答えに頷いたユウキは、立ち上がると一礼してその場を辞し、プリムたちが集まっている場所を見つけて声をかけて近寄った。ユウキの姿を見たみんなが一斉に集まって来て、無事な帰還を喜び合う。


「わーい。ユウキさん無事で本当に良かった。ユウキさんに何かあったら、あたし…」

「プリム…。ありがとう。みんなも無事でよかった」


「ジョン君、ロイ君も…。エロモンから聞いたよ。危なかったんだってね」

「ああ、もうあんな体験こりごりだぜ。なあ、ロイ」

「全くだ。腹をぶち抜かれた時はもうダメかと思ったよ」


「ユウキ様…。助けて下さってありがとうございます。そして今まで意地悪な態度を取って申し訳ありませんでした…」


「プ、プリムヴェール? どうしたの一体。貴女らしくない」

「はい。私、愛に目覚めましたの…」

 そう言ったプリムヴェールは頬を赤らめ、ぴとっとダンテにくっついた。


「ダンテ様…。あの、私を助けて下さってありがとうございます。ずっと私を抱きかかえて守って下さって…嬉しかった。プリムヴェールはダンテ様を好きになりました。心からお慕いしております。どうか、どうかプリムヴェールと結婚してください」

「嫌だ」

「そう言わないで。プリムヴェールはもうダンテ様しか見えません!」

「えー、困るよ」

「ダ・メ・です。ダンテ様はプリムヴェールのモ・ノ。うふっ」


「え、なに…これ。何があったの…?」


 いつの間にかアルムとプリム、ジョンとソニア、ロイとエレンが腕を組み、抱き合って仲良さそうに話している。女の子たちは恋する少女の目になっていた。

 困難を乗り越え、愛が芽生えたカップルたち。ユウキの身を心配し、涙を流していたのはつい先ほどだったはずだ。あれは一体何だったのだろうか。公衆の面前でユウキを下着姿にして辱めたことも忘れ、イチャイチャラブラブする少年少女の姿にユウキのガラスのハートは木端微塵に砕け散るのであった。


『あーあ、いつものオチになってしまったのう』


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 リア充に心を打ち砕かれたユウキの嘆きを余所に、アスターを始めとする駐屯軍の兵士たちや冒険者たちは悪魔の死体を見分している。アークデーモンの胸は大きくぶち抜かれて空洞になっていた。


「一体どうやったらこんな傷ができるんだ…」

「それに、生徒の話ではグレーターデーモンが複数体いたはずだ。そいつらは一体どうなったんだ」


「あの娘はダンジョンは正常に戻ったと言った。まさか、1人で全て倒したというのか…?」

「信じられん…」

「とにかく調査隊を編成して調べる必要がある」

 アスターたちは腕を目に当てて号泣しているユウキを呆然と見つめるのであった。

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