第260話 アークデーモン戦
迷宮の奥ではグレーターデーモンと暗黒騎士たちが激しく戦っている。その間の空間ではユウキとアークデーモンがお互いの武器を構えて対峙していた。
「どうしてアンタみたいな悪魔がこんな場所に出て来たの…?」
『さてね。ダンジョンコアの暴走じゃねえか? たまにあるらしいぜ。だが、オレにとっちゃそんな事どうでもいい。ここで人間どもをぶち殺せればなァ!』
『うりゃああ!』
「たあああっ!」
アークデーモンが振り下ろして来た魔剣の一撃をゲイボルグで受け止めるユウキ。魔剣と魔槍が激突した瞬間「ガキィイイン!」と物凄い音がして火花が飛び散る。
『ファイアブラスト!』
「くっ…!」
両者が離れた瞬間、アークデーモンから炎の爆風が打ち出されるが、ユウキはゲイボルグを横薙ぎして炎を斬り裂いて躱し、暗黒魔法で攻撃する。
「ダークネス・ランスッ!」
ユウキの放った漆黒の槍が高速で飛び、アークデーモンにまともに命中し、小爆発が起こるが、アークデーモンは何事もなかったようにニヤリと笑うと、瞬時に間合いを詰め、飛び上がってマンイーターを力任せに叩きつけて来る。ユウキはゲイボルグで剣の軌道を変えて下から突き上げる。しかし、アークデーモンは強引に体を捻って躱し、マンイーターの斬撃を加えて来た。ユウキはゲイボルグの柄で受け止める。
『ギャハハハ! 意外とやるねェ! それにお前の使った魔法、暗黒魔法だな。まさか人間に使い手がいるとはなァ。おもしれェ、おもしれェじゃねーか!』
『これはどうだ! ファイアアロー!』
1本の炎の矢が何十本にも分裂してユウキに襲い掛かってきた。ユウキは目の前に魔法障壁を展開して矢を防ぐと同時に、障壁で身を隠して相手から見えないようにすると、転移魔法を発動させた。
ユウキの姿が見えないことに一瞬気を取られたアークデーモンの背後にユウキが現れ、ゲイボルグの一撃を見舞う。
「どこ見てるの! パワースラッシュ!」
『ぬう! いつの間にッ!』
再び金属のぶつかる音が部屋に響く。ユウキの必殺の一撃はマンイーターに防がれてしまったが、突き、薙ぎ、切り上げとゲイボルグを自在に操り、アークデーモンを攻撃する。一方のアークデーモンもマンイーターでゲイボルグの攻撃を弾き返し、ユウキの急所を狙って一撃を加えるが、紙一重で躱す。
『ちッ! 体捌きと技量はテメエの方が上か…』
「アークデーモン、死にたくなかったら魔界へ帰れ!」
『るっせェ! 死ぬのはテメエだ! ファイアブラスト、ファイアストーム、フレイムウェーブ!』
「うわあっ! あちちっ!」
炎系魔法の連続攻撃に慌てて逃げるユウキ。物凄い熱で体が焼けそうになるが、治癒魔法を巡らせて軽い火傷を負った部分を治していく。
炎の攻撃を避けたユウキは、アークデーモンがいた場所を見たが…。
「い、いない。アークデーモンがいない。どこに…」
『どこを見ている! オレ様はここだ!』
その声に反応したユウキは上を見ると、直上から剣を構えて急降下して来たアークデーモンがいた。
『うりゃあああァ! 砕けろ、剣技:紅蓮爆砕撃!』
「!」
マンイーターの魔力がアークデーモンの魔力と共鳴して強大なパワーと殺傷力を生み出す。そして、上空からの落下速度と腕の筋力による速度を加算した高速もってユウキを攻撃した!
「ズガアアアーン!」とマンイーターが叩きつけられた場所を中心に半径10mの範囲が完全破壊され、土煙がもうもうと上がる。
『殺ったか!』
「そうはイカの塩辛よ!」
その声にアークデーモンが顔を上げると、土煙を斬り裂いて黒の衣装に身を包んだ美女が、漆黒の槍を突き出して飛び込んで来た。
「烈風槍!」
ゲイボルグによる高速の連続突きがアークデーモンを襲う。上下、正面から飛んで来る槍の攻撃をマンイーターで跳ね返すが、何発かは被弾して傷を負う。
『ふん、この程度はかすり傷だ。うっ、なんだ…、うごおッ。うおおおおおッ!』
「ゲイボルグの傷を受けた者は表面だけじゃなく、体の内部にも大きなダメージを受ける! お前は、今、ゲイボルグの魔力によって内部から切り刻まれているんだ!」
「止めだ! ダーク・カース・バーニング!」
ユウキが右手をサッと前に出すと、地獄から呼び出された超高温の猛烈な火炎が巻き上がり、アークデーモンを中心とした一帯が灼熱火炎地獄と化した。炎の中でアークデーモンは大きな雄叫びを上げる。
『グオオオオオーッ!』
灼熱の炎が膨らみ「ボハアッ!」と音を立てて飛び散って消滅した。そして、その中から皮膚の一部が少し焼け焦げただけのアークデーモンが腕組みをして笑みを浮かべ、仁王立ちしている。
「な…、なんで…。あの炎に耐えたっていうの…?」
怯むユウキに、アークデーモンはクックックと笑う。
『オレに炎の魔法は悪手だなァ。オレらアークデーモンは、それぞれの持つ魔術系統の耐性が物凄く強いんだぜ。オレは炎系と風系魔術を使う。炎や風はオレには通用しない。さァ、どうする姉ちゃんよォ』
ユウキはゲイボルグを構えてじりじりと距離を取る。それを見たアークデーモンは背中の翼を大きく広げて飛び上がると急降下してマンイーターを振り下ろして来た。
『うらあ!』
「くうっ!」
力任せに振り下ろしてきたマンイーターをゲイボルグで受け止めるユウキ。アークデーモンはマンイーターが止められる度に上空に飛んで降下しながら攻撃を加えて来る。落下の勢いそのままに打ち付けて来る体重の乗った重い攻撃にユウキの体力は削られ、反撃しようとすると上空に逃げられて、効果的な反撃が出来ず、次第に防戦一方となってきた。
(うぐ…、このままではやられる。この魔法で叩き落してやる!)
「ダークネス・ランスッ!」
頭上から襲う攻撃を横っ飛びで躱し、魔術で形成した多数の暗黒の槍をアークデーモン目掛けて発射した。アークデーモンは顔前で腕をクロスさせ、ロケット弾のように飛んで来る槍の攻撃を防ぐが、連続して襲ってくるダメージに耐えられなくなり地面に叩きつけられた。ユウキはその隙を逃さず、助走をつけるとゲイボルグを立てて地面を蹴り、棒高跳びの要領で飛び上がって体を倒立回転させ、アークデーモンの後ろを取った!
「今だ! たあああっ!」
『ぐはあッ』
ユウキはゲイボルグを一閃させ、アークデーモンの翼の1枚を根元から斬り飛ばした。さらに体を半回転させて、遠心力の勢いをつけた横薙ぎによって、アークデーモンの脇腹をザックリと斬り裂いた。
『ガアッ…。やってくれたな。ぐう…、くそ、傷が治らねェ』
『このアマァ…。ぶっ殺してやる…』
「凄い表情。髪の毛が逆立ってる。正に怒髪・天を衝くって感じだね」
『すかした顔しやがって、この世から消してやるぜ!』
アークデーモンの魔力が急激に増大してくる。強力な魔法を使うつもりだ。ユウキは防壁魔法を使おうとして、ある事に気が付いた。
(デーモンの魔力が恐ろしい程増大している。わたしの防壁では防げないかもしれない。どうすれば…。そうだ! イザヴェルで手に入れたあれがあった!)
ユウキは全身に治癒魔法を巡らせ、戦闘で受けた細かな傷を治し、完全回復するとマジックポーチから「腕輪」を取り出して左腕に装着し、ゲイボルグを構えた。対するアークデーモンは全身に風の魔力を帯びて緑色のオーラを滾らせている。
『うらァ! 砕け散れェ! ヴォルテック・ブラストォ!』
アークデーモンから猛烈な爆風が渦を巻いて発射された。地面を削り石や土を巻き上げ、轟音を響かせながら迫る爆風にユウキが飲み込まれる。
『ウワハハハハ! ザマァ!』
ヴォルテック・ブラストがユウキを巻き込んだまま洞窟の壁にぶち当たり、強力な圧力波を生じて爆発し、凄まじい土煙が辺りを覆った。
『クククッ! バラバラになって吹き飛んだか』
勝ち誇るアークデーモンであったが、周囲を見て何かおかしい事に気づいた。
『………おかしい。スケルトン共が消えていない。それになんだァ。グレーターが倒されているじゃねえか。んなバカな!』
グレーターデーモンを倒した暗黒騎士たちが近づいて来る。アークデーモンはギリッと奥歯を嚙み締めたその時、土煙を斬り裂いて黒い影が飛び出して来た!
「デーモン! どこ見てる!」
『なんだッ!』
アークデーモンが魔法が爆発した方を振り向くと、ゲイボルグを構えたユウキが目前に迫っていた。迎撃しようと魔法を発動するための姿勢を取ったが遅すぎた。
「たああっ!」
『ヌオオオオオ!』
「ズドォオオオン!」と凄まじい音がしてゲイボルグの鋭い刃がアークデーモンの胸板から背中まで貫き、大穴を開けた
『ば…、馬鹿な…、魔力が、オレの魔力が抜け…る。カ…、カハハ…。くそ…』
「ズズン…」と地響きを立ててアークデーモンが倒れた。勝ったユウキは体力を使い果たし、その場にへたり込む。
「はあ、はあ、はあ、や、やった…」
『……な、何故だ…、暴風魔法喰らって、おめえ…、なんで無事なんだよォ…』
アークデーモンの疑問にユウキは左腕に装着した腕輪を見せる。
「これは「魔術返しの腕輪」。あらゆる魔法を跳ね返すマジックアイテム。これでお前の魔法を無効化したんだ」
『………そんなんアリかよ…。反則……だぜ…』
「はあ、はあ…、ふう…」
『終わったようじゃの』
「エロモン…。うん、何とか勝てた。あの子たちは無事?」
『うむ無事じゃ。あやつらは中々見所があるぞ。合力してデーモン1体を倒しおったわ』
「そうなんだ…。よかった」
ユウキの周りに死霊兵たちが三々五々集まって来た。見ると3体ほど欠けている。こちらも激戦だったようだ。いちごパンツを被った暗黒騎士の姿も見える。
「ありがとう。君たちのお陰で戦いに集中できたよ。本当にありがとう」
エドモンズ三世がユウキの手を取って立たせる。ユウキは倒れているアークデーモンを一瞥して、洞窟の奥に進むと紫色に光るダンジョンコアがあった。コアは球体をしており、正方形の台座の上に浮かんでいる。コアからは何本もの管が出ており、洞窟と繋がっていた。
「これがダンジョンコア…。なんて禍々しい色してるの。放って置いたら、またとんでもないものが召喚されるかも。エロモン、戻し方ってわかる?」
『さてな…。古代の魔法文明の遺物じゃし、全く分らん。とりあえず、壊さない程度にヒビでも入れて機能不全にでもしたらどうじゃ』
「そんな適当な…。でも、わたしもいいアイデア思いつかないし、それしかないか…」
ユウキはゲイボルグでコツンと叩いてみた。その瞬間、コアが眩しく光り輝いた。ユウキはびっくりして固まってしまった。光は禍々しい紫から徐々に赤紫、黄と変化し、最後に金色になってパアッと閃光を放った。光の洪水が収まり、視界が戻ったユウキが見ると、コアは柔らかく金色に輝き、台座の上に浮遊している。
「一体何が…」
ユウキが呟いた後「ギョアアアア」と叫び声を上げて、ホブゴブリンが1体現れた。すぐさま、暗黒騎士が一刀両断に斬捨てる。
「あ~あ、可哀そう」
『うむ…。どうやらダンジョンコアは正常に戻ったようじゃな。お主の魔槍の魔力とコアが干渉して狂ったコアの魔力が正常にもどったんじゃろう。儂の読みが当たったな』
「何が「儂の読み」よ。偶然じゃない。は~あ、どっと疲れたよ。もう戻らない?」
『そうじゃな。そのアークデーモンの死体は証拠品として持ち帰るがよかろう』
「げ…やだなぁ。でも仕方ないか…」
アークデーモンの側には魔剣マンイーターが無傷で転がっていた。ユウキは拾って確かめると、かなりの力を持つ剣であることがわかったので貰っていくことにした。それからアークデーモンに触れ、マンイーターともどもマジックポーチに収容した。
全ての作業を終えたユウキは、暗黒騎士たちにお礼を言って送還し、一旦エドモンズ三世を黒真珠に、ゲイボルグを虚空に戻した。そして、室内を見回してホブゴブリンの魔石を拾うと、魔術返しの腕輪を外してマジックポーチにしまい、転移魔法を使って1階層のダンジョン出口付近に転移したのだった。




