第26話 ユウキvs筋肉バカ
今日は全員運動着に着替え、グラウンドに集合させられている。グラウンドの中央にはロープを張った10m四方のリングが幾つかと木剣や木槍などが入れられている箱があった。ユウキたち生徒がそれを見ていると、バルバネスがやってきた。
「よし、全員そろったな。今日はお前らの戦闘能力を確認するぞ。実際の戦闘じゃ、魔術師は後方から前衛の支援をするのが主だが、前衛が崩れた場合、魔術師も近接戦闘に巻き込まれる可能性がある。生き残るためには、戦闘訓練が欠かせないぞ。わかったか!」
「はい!」
「よし、まずは、体を温めるため、グラウンド10周!」
グラウンドの外周を走るCクラスの生徒たち。外周は1週1000mはある。
ほとんどの生徒は3~4週するとへとへとになってしまった。ララもフレッドも「も、もうダメです…」と言って脱落していった。
ユウキは、助さん格さんに厳しく体を鍛えられていたので、10km位は何ともない。そして、もう1人、元気いっぱいな者がいた。
「グハハハハハ! どうした皆の者、貧弱、貧弱ううう!」
筋肉バカことヘラクリッドは土煙を上げながら全力で走っている。
「なんだなんだお前ら。10周完走できたのは半分程度か。体力なさすぎだぞ。これは少し体力づくりをしなければならんな」
「それでは、各人の戦闘能力を見るぞ。名前を呼ばれたヤツは、箱から得物を持って戦ってもらう。それを見て、今後のメニューを考えていくぞ」
「では、名前を読み上げる」
バルバネスが名前を読み上げる。基本、力が拮抗している同士で組み合わせているようで、「ララとフレッド」と言った感じだ。そしてユウキの番が来た。
「ユウキ!」
「はい!」
「お前はヘラクレッドだ!」
「……ん?」
「何か聞き間違えたかもしれません。もう一度言っていただけませんか」
「ユウキ、お前はそこの筋肉お化け、ヘラクリッドとだ!」
「ええ~、そんなぁ。ボク、か弱い女の子だよ」
ユウキが木剣を持ってリングに入る。そこにはユウキより二回りは体が大きい、全身が筋肉でムチムチになっている男がユウキを見下ろしている。腕の太さだけでもユウキの胴よりあるだろう。
「フハハハハハ! よろしくお頼み申しますぞ! 正々堂々戦おうぞ!」
「よろしく、お、お願いします…」
見るとバルバネスだけでなく、クラス全員が集まってきて、事の成り行きを見ている。
「ユウキ! がんばってー」「ユウキちゃーん。ファイトォー」
ララや女生徒の声援が飛ぶ。
「筋肉ー、ひんむけー」「おっぱい見せろー」「おっぱい万歳!」
こっちは男子生徒。「バカ!」「スケベ!」女生徒から非難の声が上がる。
ヘラクレッドはおもむろに上着を脱ぎ棄て、上半身裸になり、胸や腕の筋肉をピクピクさせる。汗が蒸気となって立ち昇っていて、それを見たユウキは気持ち悪くなる。
「どうですかな、拙者の筋肉は。ユウキ殿も上半身裸になるがよかろう。筋肉を見せ合いましょうぞ!」
「な、なるか! バカ、エッチ!」
男子生徒からブーイングが飛ぶ。ユウキは男子を睨みつけるが、男どもはどこ吹く風。今か今かと対戦を楽しみにしている様子。
(こ、こいつら~。絶対に負けないからね、乙女の肌を晒してなるものか!)
「始め!」
バルバネス先生が試合開始を告げた。
ユウキは木剣を正眼に構えて様子を見る。ヘラクレッドは腕組みをして仁王立ちしているが、隙がなく迂闊には飛び込めない。
「来ないのなら、こちらから行きますぞ!」
言うが早いか、猛烈な勢いでパンチを繰り出してきた。ユウキは紙一重で躱すが、風圧がユウキの髪を巻き上げる。
「こ、怖い。あんなの食らったら、首から上がなくなってしまう」
「オラオラオラァ! ダブルパンチ! ウラララララララア!」
ヘラクレッドは高速のパンチを連続して繰り出してくる。ユウキは避けるので精一杯だ。
(こ、このままではじり貧だ。ここは思い切って懐に飛び込むんだ!)
ヘラクリッドは大きく振りかぶって、右ストレートを放つ。それを身を低くして躱したユウキは、ヘラクリッドの前に飛び込み、「砕けろ!」と叫んで木剣を横に薙いで力いっぱい脇腹に打ち込んだ。その瞬間、バキン!と音がして木剣が粉々になった。
「フハハハハハ、無駄無駄無駄無駄ああ!」
「わあっ、こっちが砕け散った!」
ユウキはショックで隙が出来る。その隙を捉えられてヘラクリッドに腕をつかまれ、思いっきりリングのロープに投げつけられた。
「うぐっ!」
ロープにぶつかった衝撃で、息が詰まり、頭がくらくらする。
「ふおおおおおおおお!」
ヘラクリッドは全身に気を纏わせ、右肩を前に出し、前傾姿勢をとる。
「我が全身全霊の技。受けてみよ! ショルダアアアアチャアアアジッ!」
ヘラクリッドが猛烈な勢いで突進してきた!
(女の子相手にここまでやる!? これを喰らったら確実に死ぬ!)
ユウキは、何とか隙が無いかと突進してくるヘラクリッドを見る。
「あった! あそこだ、足元!」
ユウキはロープ際から飛び出し、必殺技で歩幅が大きくなっているヘラクリッドの足元に向かってスライディングをした。そしてヘラクリッドの股の間を潜り抜ける瞬間、右足を十分膝にひき付け、急所を狙って思いっ切り蹴り上げた。ゴキン!という鈍い音と嫌な感触が伝わる。その時、ピリッという小さな音もしたがユウキは気づかなかった。
「ふおおおおおお! 我が生涯に一片の悔いなし!」
ユウキがヘラクリッドの急所を蹴り上げたと同時に、ヘラクリッドの動きが止まり、右腕を高々に上げると白目を剥いて、どうと倒れた。
「勝者、ユウキ! よくやったな」
バルバネスが高らかに宣言する。
「や、やった。勝ったー!」ユウキは興奮して立ち上がったが、周りの様子がおかしい。
「ん、みんなどうしたの?」
「ユ、ユウキー。ズボンのお尻の部分、大きく裂けてるよー」
ララの声でユウキが下を見ると、ズボンの股の部分が大きく裂けて、かわいいパンツが丸見えになっていた。
「うひょー」「ユウキ様サイコー!」「エロパンツごちそうさまでした~」男たちから歓喜の声が飛ぶ。
「男ども見るな!」「スケベ野郎!」「ユウキちゃんこれ!」女子がユウキの周りに集まってきて、タオルで隠してくれる。
「う、うわ~ん。は、恥ずかしい~」
へたり込み、顔を真っ赤にして涙目になるユウキに、男子も女子も萌えるのであった。