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第254話 ダンジョン試験①

 慣らし探索で第2階層まで進み、2日間ダンジョンに潜って戦い方の訓練と内部での生活に慣れたプリムたちは試験日までそれぞれ休養することにした。

 ダンジョンから戻った翌日、プリムたちの指導ですっかり疲れたユウキは、宿のすぐそばにある洗濯屋に汚れた服や下着を出して洗濯とアイロンがけをお願いし、その足で共同浴場に来て、のんびりと湯船に浸かっている。


「うあ~、いい気持ち…。やっぱり1日1回はお風呂入りたいな。日本人の宿命…」


 ユウキが「ふわ~」と大きなあくびをしたら「ユウキさん!」と声をかけられ、ビックリしてお尻が滑ってしまい、危うく溺れそうになった。


「うわわ、誰?」

「あたしですプリムでーす」

「ソニアです…」


 湯船をじゃぶじゃぶ波立てて歩いてきた2人はユウキと並んで体を沈め、にひひと笑う。


「ヒマワリ亭に行ったらここだって聞いて。ユウキさんと少しお話ししたくって」

「それでここまで来たの?」

「はい。ご迷惑でした?」

「ううん、そんなことないよ。それしても…」


 ユウキはプリムとソニアの体を見比べる。背丈は2人とも同じくらいだが、胸の大きさには開きがあった。プリムは見事な貧乳系だがソニアは巨乳。ユウキほどではないが中々立派なものを持っている。

 ユウキとソニアの間に挟まれているプリムの肩にそっと手を置いたユウキは「強く生きるのよ」と優しく声をかけた。


「どういう意味ですか、もう! あのですね、貧乳は可愛いんです。希少価値です。ステータスなんです。あたしは貧乳に誇りを持っているんです!」


(カロリーナと同じこと言ってる)


「それはそうと、ユウキさん凄いですね。指示は的確だし、咄嗟の判断にも優れている。なにより一瞬でゴブリン何体も始末する強さ。とても、尻相撲でCクラスになったとは思えないです。ユウキさんと出会えて本当に良かった」

「あのね…。こう見えても結構修羅場をくぐっているんだから。仲間と一緒にゴブリンキングを倒したこともあるんだよ」


「わっ、凄い! ユウキさん、そのお話聞かせて下さい。ねっ、ソニアちゃんも聞きたいよね」

「うん!」


 ユウキは「仕方ないなあ」と言いながらも、アルカ山の麓で遭遇したゴブリンキング率いる群れを仲間たちと力を合わせて撃退した話をしてあげるのであった。


 翌週になり、いよいよプリムたち中等部3年生の進級に必須の科目であるダンジョン試験が始まった。期間は1ヶ月間で、期間中都合のいい時間に合わせてダンジョンに入り、最下層のボスであるホブゴブリンを倒して魔石を持ち帰るのが試験の目標となっている。


 プリムたちは試験開始早々にダンジョンに向かうこととし、第1ダンジョンの管理事務所で入洞手続きをして入り口に向かった。入り口では既に何組ものパーティが順番待ちをしていて、その中にはプリムヴェールのパーティもあった。プリムヴェールは目ざとくプリムたちを見つけるとつかつかと近づいてきて、バカにしたような目を向ける。


「あら、アナタたちも入るんですの。へえ、犬娘も仲間に加えたんですのね。クズにクズを足してもクズにしかならないというのにね。まあ、せいぜい頑張ることですのね。達成一番乗りはBクラス冒険者もいる私たちのパーティで決まりですけど。うふふふ」


 プリムヴェールのバカにした言い方にプリムやアドルたちが言い返そうと口を開きかけた時、ユウキがサッと前に出て、落ち着いた声で返した。


「ダンジョンはなにが起こるかわからない。ベテランだって足元をすくわれることだってある。初心者用だと油断していると痛い目に遭うよ」


 全身黒の装束で身を包んだ美女の迫力にプリムヴェールは怯むが、ユウキを睨み返すとフンと鼻を鳴らして列に戻って行った。


「何よあれ…」

「プリム、気にしない。さあ、今のうちに装備をチェックしておこう」


 ユウキの指示で全員装備を再確認する。プリムは前回同様、厚手の木綿のシャツにプリーツスカート。皮の胸当てをして皮のショートブーツを履いている。腰には皮のベルトを巻き、ショートソードとサブの短剣を帯剣している。アルムは魔術師のローブに魔術師の杖。ダンテは皮の鎧に皮のブーツにハルバードを持っていた。背中には野宿用の食料や必需品が入ったリュックにテントを背負っている。ソニアもプリムと同じ軽装備をし、手に短弓を持ち、背に矢筒を背負って腰には水筒を下げている。


 ユウキはいつもの黒の半袖ブラウスに黒のプリーツフレアのミニスカート。黒の編み上げブーツに黒のマントを羽織っている。今日はいつもと異なり、つばの広い三角帽子を被っていて見た目は「魔女」そのもの。何故帽子を被るのか。ユウキ曰く「日焼けは嫌だから」とのこと。


 そうこうしていると、入り口にダンジョンの管理人と学園の教諭が来て説明を始めた。内容は概ね事前に教えられたものであったが、ダンジョンに潜っていられる期間は7日間に延長されている。7日を過ぎると捜索隊が送り込まれ、失格となるとのことであった。

 教諭の説明の後、ダンジョンの扉が開かれ、いよいよ試験の開始となった。手続き順に間隔を開けながらパーティが入って行く。そしてついに「夢の追跡者」の番となった。


「行くよ、みんな」

 プリムの合図で全員がダンジョン内部に侵入する。


 1階層の草原地帯、2階層の樹林地帯は以前入った時にマッピングし、出て来る魔物も把握していることから難なく突破した。先に入ったパーティも順調に進んでいるようで、怪我などで停滞している様子もない。そしてついに3階層の入り口に到着した。


「ごくり…。いよいよ未知の世界だね…」

「ああ、気をつけて行こうぜ」

「うむ」「が…、がんばる」


 プリムたちは長い階段を降り、3階層に足を踏み入れた。そこは広々とした湿地帯で遊歩道らしい通路がいくつも走り、その間は水辺に生える背の高い野草がが生い茂り、大小多数の池や沼地が点在している。空は高く青く、雲が風に乗って流れていて幻想的な風景となっている。


「凄い景色…。ここに出て来るのはスライムだね。歩ける場所が限定されているし、どこから現れるかわからない。最大限に注意していこう」

 ユウキの注意に全員が頷く。


「アルム、スライムの特徴は?」

「えーとですね…。水辺に生息するモンスターで雑食性。獲物が歩く振動を感知して接近し、獲物に張り付いて溶解液で何でも溶かして栄養として吸収するそうです。弱点は体の真ん中にある核ですね」


「うーん、服なんか溶かされたら目も当てられないね。特に女の子は。十分に気をつけて行こう。隊列は今まで通りで」


 パーティは比較的広めの通路を選び、周囲を警戒しながら歩き始めた。3階層は平坦なので別の通路を歩く他パーティの姿も見えるが、時折女子生徒の声で「ひゃああー」とか「エッチ、見るな!」といった声が聞こえ、ユウキはお約束の展開にならないよう身構えるのであった。


 歩き始めて30分ほど経った頃、一行は大きな池の前に差し掛かった。通路は池の上を通る橋になっていて、いかにも魔物が獲物を狙いそうな場所だ。


「うーん…。どうしたって振動で気づかれる。ここは思い切って…」

「思い切って? どうしますユウキさん」

「走り抜ける! 全員、全速前進、駆け抜けろー!」


 ユウキの合図で全員「わー!」と叫びながら池の上に架かる橋を走り抜ける。走る振動が支柱を通じて水中に伝わり、それを感知したスライムがしゅわしゅわと集まってきて、水中から橋上にぴょんぴょんと飛び乗ってきた。


「き、きたー、スライムだー逃げろー!」


 一行はひたすら逃げる。その振動でスライムは益々集まって来る。もう数えられないくらい集まって来る。スライムの移動速度は速く、じりじりと距離が詰まる。


(や、やばいよコレ…。追い付かれたらすっぽんぽんにされて溶かされちゃう)

『ユウキよ、スライムは火に弱いぞ。チャンスを見て焼き払うがよい』

(わ、わかった)


「ぜえぜえぜえ…、苦しい…、も、もうダメだ…」

「頑張れダンテ、足を止めたらやられちゃう。がんばれ! 息を2回吸って1回で吐く!」

「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー…」

「ダンテさん、それ違います! それ赤ちゃん生むときの!」

「ソニア、ナイスツッコミ!」


「あっ、陸地、陸地だー!」


 プリムが指さした先に丈の短い草に覆われた陸地が見えた。全員、最後の力を振り絞り全力で橋を駆け抜けた。最後に陸地に走り込んだユウキはズザザーと足を滑らせてブレーキをかけ、池の方を向くと暗黒の炎をスライムの集団目がけて投げつけた!


「ダークネス・ヘルフレイム!」


 ユウキが魔法を発動させると、スライムの大集団を地獄から噴き出してきたような漆黒の轟炎が包み込んだ。超高温の炎によってスライムの体を構成する水分はあっという間に蒸発し、核もろとも燃え尽きて行く。炎が消えた時には、橋もろともスライムは消え去っていた。


「ぜーはーぜーはー、や、やった…。助かった…」

「凄いですユウキさん! 攻撃魔法も使えるなんて! あっ…」


 スライムを焼き尽くし、放心状態で立っているユウキに、大喜びで駆け寄って来たプリムだったが急にショートソードを抜いてユウキ目掛けて振り下ろした!


「プリム! 何をするんだ!」


 アルムが叫んでプリムを止めにかかったが、プリムはお構いなしにユウキを掠めてショートソードを振り抜いた。ビックリしたユウキが下を見ると、スライムが1体スカートに張り付いていていて、それに気づいたプリムがショートソードで核を貫いたのだった。


「べしょん」と音がしてスライムが地面に落ちる。ユウキはプリムに「ありがとう」とお礼を言うが、プリムはユウキの前に立ちはだかって通せんぼしている。


「プリム?」

「ユウキさん、下、下見て」


 ユウキが首を傾げながら下を見ると、スライムが張り付いていた部分の布が溶け、スカートの前の部分とパンツがなくなっていた。


「きゃああああ! パンツが、パンツが溶けてお股が露にー! やだあーー!」


 3階層の草原にユウキの絶叫が響き渡った。

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