第251話 幼馴染の友情
「あの…、ありがとうございました」
3人がユウキに向かって頭を下げる。
「とにかく乱闘にならなくて良かったね。一体何があったの?」
話を聞こうと3人に向き直った時、始業のチャイムが鳴った。
「あ、もう行かなくちゃ。お姉さんヒマワリ亭に泊まっているお客でしょ。学園が終わったらヒマワリ亭に行きますからお話を聞いてください。じゃあ!」
そう言うと3人はパタパタと校舎に戻って行った。1人残されるユウキ。仕方なく、見学は止めて帰ることにして、正門の警備兵詰所で入館証を返し、預けていたミスリルダガーを受け取ると、気分を変え大通りの商店街まで出て、夕方までショッピングを楽しんだのであった。
(ナンパしてくる男が多かったのには閉口したけど、買い物は楽しかったな)
宿に戻ると昼間の3人が待っていて、ユウキの側にやって来た。ユウキは宿の女将さんにお茶をお願いし、ポットと茶碗を受け取ると3人を部屋に案内した。
部屋に入り男子は椅子、ユウキと女の子はベッドに腰かける。しかし、話のきっかけがないので、自己紹介から始めることにした。
「えっと、私の名前はユウキ。年齢は17歳で見ての通り美人女子。このラミディア大陸をスクルド、イザヴェルと旅して回っていて、ビフレストには来たばかりなの」
「あたしはプリム。見ての通り猫の亜人です。アムルダート中・高等学園の中等部3年生で14歳。家は首都のアルディアにあって、寮生活を送りながら学園に通っています」
「僕はアルム、こいつはダンテ。プリムと一緒のクラスなんだ。3人とも家が近所同士で幼馴染ってとこ」
「へえ、幼馴染か。青春だね~、甘酸っぱい感じ」
「それと教えて欲しいんだけど、獣人と亜人って違うの?」
「えーとですね、獣人が獣の血が濃くて姿もその種族に近い人、亜人は種族の特徴は少ししか現れなくて、人間とほとんど変わらない姿している人たちだよ」
「そうなんだ。ありがとう教えてくれて(ということはキャティやラビィは亜人なのか。気を付けねば失礼に当たっちゃう)」
「あと、君たちに絡んでいた、あのクソ生意気そうな女たちは何者なの?」
「ユウキさん、何気に口が悪いですね。美人なのにもったいない。あの子はプリムヴェール。レブナント伯爵家の次女で同じクラスなんです。取り巻き連中も貴族の男爵や子爵の子弟で、何かと平民のあたしたちを敵視しているの」
「特に、名前が似ているからってプリムを目の敵にしてイジメているんだよ。テストの点数もプリムの方がいいから余計にね」
「そうそう、教科書の挿絵の肖像画に落書きしたり、人物画の股の部分にオチンコ書いたり、辞書の性的な部分に赤線引いたり。酷いよな」
「び、微妙だね…。想像したイジメとちょっと違うな…」
『思春期全開の悪戯だのう。ワイト・サーチで確認せねばなるまい!』
(やめなさい! 思春期少女の秘密を暴くのは!)
「でもまあ、イジメは良くないね。友人同士は仲良くしなきゃ。でないと悲しいよ…」
「ユウキさん?」
「あ、いや、そう言えばダンジョン試験がどうとか言ってたね。ダンジョン試験てなに?」
アルムが説明するにはアルムダート周辺には古代文明の遺跡が点在していて、複数の地下ダンジョンがあって、その数は確認されているもので9つある。また、ダンジョンの規模も様々で深く強力な魔物が出るため、未踏破のダンジョンがある一方、ゴブリンやコボルドといった弱い魔物が単体でしか出ないダンジョンもあるという。
「未踏破や難易度の高いダンジョンがあるから、名誉とお宝を求めて、この町には冒険者も多く集まって来るんだ。だから冒険者ギルドの規模も国で一番大きいし、冒険者相手の宿や酒場も多いんだ」
「へー」
このダンジョンはすべて国の管理下にあり、冒険者ギルドが指定管理者として管理しているが、低難易度の2つを国直轄とし、学園生徒の武術強化訓練のため使っているとのことだった。
「2つのダンジョンのうち、最も低難易度の第1ダンジョンの最下層まで進み、「主」と呼ばれる魔物を倒すのがダンジョン試験なの」
「ほうほう。第1ダンジョンってどのくらいの規模なの?」
「えーと、全5層で出現モンスターはゴブリン、コボルド、スライムの3種。ほとんど1匹~5匹程度で出て来るって。最下層の主はホブゴブリン1匹です」
(ふむ…、ある程度実力があれば中等生でもなんとかなるか…。そう言えばわたし、ゴブリンキングを倒したの14歳だった…。今考えるととんでもないな)
「期間は来週から1ヶ月間。その間に主を倒さないと高等部へ進級できないの」
「ダンジョン試験は1人でしなきゃいけないの?」
「1人でもいいけど、パーティを組んで行うのが普通かな。一応僕たち3人でパーティを組むつもり」
「後ね、冒険者を2名まで雇っていいことになっているんだ。だから、お金に余裕のある子は冒険者を連れて行っている。実力のある冒険者を連れて行けば、戦闘の指南も受けられるし、難易度も大きく下がるから」
「でも僕たちはお金ないし、アルバイトしているけど冒険者なんて、とてもとても…」
「学校の授業で訓練はしてるけど、魔物との戦闘なんて経験もないし、厳しいんだ」
「そう…」
『どうするのじゃ、ユウキ』
俯く3人を見てユウキは助けることに決めた。ユウキは困っている人を見捨てられない。それがユウキのいいところだ。そして面倒なトラブルに巻き込まれるのもお約束。
「みんな見て」
ユウキはマジックポーチから冒険者証を取り出す。
「こう見えてもわたしは冒険者。しかも意外と強いんだよ。どう、わたしを雇わない? 依頼料は今ある手持ちでいいよ」
「ホントですか! ホントにいいんですか!?」
「わーい、お願いします。やったよアルム、ダンテ! これで進級できるかも!」
3人は手を取り合って喜ぶ。プリムのおっきな目から涙が溢れている。その姿を見て「友達っていいな」とユウキは思うのであった。
その後、冒険者ギルドで正式に依頼を受ける必要があることから、明日、学園が終わったら冒険者ギルドに行くことにして正門前で待ち合わせることにした。
窓の外を見るともう暗くなっている。プリムはこのままアルバイトをするというので、アルムとダンテは先に帰って行った。
夕食が終わり、ユウキは共同浴場に行くことにした。するとプリムも着いて来るではないか。聞くと、今日は遅くなったので宿の従業員部屋に泊まるという。それならばと一緒にお風呂に行くことにした。
入浴料を支払って、脱衣場で服を脱ぐ。するとプリムがジーっと見ているのに気づいた。
「な、なんでせう…」
「ユウキさんて、あたしと3つしか違わないのに凄くスタイルがいいですね。下着も凄く大人っぽくてエッチだ。いつからそんなに胸が大きくなったんです?」
「え…、えっと、12歳頃から大きくなってきて、14歳には86cmになってた。今は94cmのFです」
「ウソ…。14で86って…。あ、あたし78しかない。しかもAだし」
プリムが絶望に打ちひしがれた顔をする。
「あはは、女の子の魅力は胸の大きさじゃないよ。ハートだよハート。それにプリム、とっても可愛い。中々の美少女だよ」
「ありがとうございます。ユウキさんに言われると自信が出る」
その後、一緒に並んで髪と体を洗い、背中を流しっこして湯船に浸かった。体を暖めながらプリムから学園生活の様子を聞いていると、楽しかったあの頃を思い出し、ユウキの心も暖かくなっていくのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日の午後、ユウキとプリムとアルム、ダンテは正門前で合流すると、早速冒険者ギルドに向かった。アルムダートの冒険者ギルドは市の南地区にあり、話に聞いていた通りとても大きな建物だった。今まで見て来た冒険者支援団体の建物の中では一番の大きさだろう。その迫力に圧倒されながら4人は中に入る。
ギルドの中は大勢の冒険者で溢れていた。その中には高等部の生徒と思われる学生もいて、冒険者に混じって話をしている。おそらく、訓練のためダンジョンに向かう冒険者のパーティに入れてもらっているのだろう。
ちなみにユウキは昨日と同じ花柄のブラウスとスカート姿。場違い感が半端ない。とりあえずユウキは受付カウンターに並び、冒険者登録証と手数料を渡して更新をお願いした。更新を終えた受付のスキンヘッドの強面オヤジが、登録証を渡しながら聞いてきた。
「お前、サンエリルでどんな活躍したんだ。サンエリルのギルドでクラスアップされているぞ。今のお前はCクラスだ。どんな強力な魔物を倒したんだ?」
「……………」
「ん、魔物討伐じゃないのか? 盗賊退治か?」
「し、尻相撲…」
「は?」
「ギルドの依頼で美少女コンテストに出て女尻相撲勝負に勝った」
「……そうか。がんばったんだな」
強面オヤジが憐れんだ目でユウキを見て、登録証を渡してくれた。振り向くとプリムたちが腹を抱えて笑っている。列に並んでいた他の冒険者や受付のお姉さんたちも爆笑していた。ユウキは恥ずかしさで真っ赤になりながら、プリムたちに自分に対する指名依頼をするようせっついた。
プリムが依頼票に必要事項を記入して、ユウキを指名して受付に依頼票を提出した。先ほどの強面オヤジが依頼票を見て難しい顔をする。
「ふむ、ダンジョン試験への同行か。書類上は問題ないが…、成功報酬が銀貨3枚。ギルドの手数料を引くと銀貨2枚と大銅貨4枚にしかならんぞ。いいのか?」
「うん。それでいい。手続きをお願い」
オヤジは何も言わず手続きをしてくれた。これで晴れてユウキはプリムたちの依頼を受けたことになる。喜ぶ3人にオヤジが声をかけて来た。
「せっかくだ、パーティ名を決めろ。それで依頼を登録しておく」
「パーティ名!」プリムたちの目が輝く
「そうだね…、尻相撲の女傑とか。ぷぷぷ」
「やめなさい。それにそれ、パーティ名じゃなくてわたしの二つ名…」
ひとしきり笑った3人はあーだこーだ言いながらパーティ名を考えて行き、最終的にアルムの意見で「夢の追跡者」に決まった。
「うん、いいんじゃない」
「わははははは! 未来あるお前らにピッタリだ。よし、それで登録しておこう。がんばれよ。尻相撲の姉ちゃんもな!」
「はい!」
「……ありがと」
『ぶわっははは。尻相撲の女傑って。うひゃひゃ、また二つ名が増えたのう』
(笑うな…。泣くよ)
ギルドを出てヒマワリ亭に戻り、今後の予定を相談することにした。プリムたちの話によると試験は来週の月曜日からだが、明日から土曜日までの4日間はダンジョンに入って慣らしをしても良いことになった。ただし入っていられる期間は2日間。希望者は準備の上、都合のいい日の午前10時までに1号ダンジョン前に集合するようにと学園から通知があったとのこと。
「どうする? 入ってみる?」
ユウキが3人の意思を確認すると、3人とも入ってみたいという。先生から話は聞いているが、実際には未知の世界だし、自分たちがどの程度戦えるかわからないので訓練もしてみたいとのことだった。
「わかった。では明日は各自準備をして、明後日の朝、学園の正門前に集合しよう。この紙に冒険の際に必要なものを書いておいたから参考にして。それとみんなの得意を教えて」
「あたしは弓矢による間接支援が得意。短剣による近接戦闘もできるよ。魔法は使えない」
「僕は魔法が使える。土系の防御・支援系だけど」
「ボクは打撃武器が得意だよ」
「うーん、バランスは悪くないけど決め手に欠ける感じかな。どうしようかな…」
「アルムは弓は使える?」
「うん、人並みには」
「じゃあ前列はダンテとプリム。ダンテはハルバードかバトルアックスを装備して。プリムはショートソード。防具は動きやすい皮の鎧かな。後衛はアルム。アルムは短弓をメインにサブとして魔術師の杖。それで一回試してみよう。いい?」
「はい! わかりました」
ユウキが依頼を受けた翌々日、いよいよプリムたちがダンジョンに入る日が来た。慣らし体験とはいえ、十分に気をつけ油断しないようにしなければいけない。何しろ相手はゴブリンなのだ。ユウキも気合を入れて準備をする。必要なものは昨日のうちに買ってマジックポーチに入れてある。
「よし! 準備完了。かっこいいよわたし!」
『お主は黒が似合うのう。お胸がピッチピチも高得点じゃ』
「どこ見てんのよ! もう…」
ユウキは自分の姿をチェックした。黒の半袖ブラウスに黒のプリーツフレアのミニスカート。足は黒の編み上げブーツを履いて黒のマントを羽織った。また、銀色のカチューシャを頭に飾り、そのカチューシャにララとお揃いだった黄色で縁取りされた緑色の大きなリボンを結んだいつものバトルコスチューム。武器は魔法剣を帯剣し、右太ももにミスリルダガーを装着する。
「さて、待ち合わせ場所に行きますか」
『うむ、出発進行じゃ!』
学園の正門前ではプリムたちが待っていた。言いつけ通りに準備して来た3人は意気揚々とユウキの到着を待つ。
プリムは厚手の木綿のシャツにプリーツスカート。皮の胸当てをして皮のショートブーツを履いている。腰には皮のベルトを巻き、ショートソードとサブの短剣を帯剣している。アルムは魔術師のローブに魔術師の杖。背中に短弓と矢筒を背負っている。3人の中で最も大柄なダンテは皮の鎧と腰巻。皮のブーツにハルバードを持っていた。背中には野宿用の食料や必需品が入ったリュックにテントを背負っている。
3人が戦い方の連携について話していると、背後から声がかかった。
「ユウキさ…、あ、プリムヴェール…」
振り向いた3人の前にはプリムヴェールと取り巻きがプリムたちを見て笑っていた。
「貴方たちもダンジョンに行くんですの? しかし、しょぼい恰好ですこと。笑ってしまいますわ。見て下さい私たちの装備を。貴方たちとは雲泥の差ですわ。それにほら、Bクラス冒険者を2人雇ったんですの。貴方たちには無理な事でしょうけどね。せいぜいクラスの恥とならない様にしてくださいな。おーっほほほほ」
「そんなことない、あたしたちは頑張る! バカにしないで!」
「うふふ、アルムさん、ダンテさん。そんな役立たずの猫女より私たちのパーティに来ませんこと。装備も揃えてあげてもよろしくてよ。進級したいならそうした方がよろしいと思いますわ」
「う~~~」
プリムは涙目になりながらプリムヴェールを睨むが、取り巻きたちはバカにしたような目をして笑い、プリムの目には益々涙が浮かんで来る。
アルムとダンテはプリムヴェールたちを一瞥すると、プリムの肩に手を置いて言った。
「バカにするなよ。誰がプリムを見捨てるかよ。僕たちは幼い頃から一緒だったんだ。この試験も3人で乗り越えて見せる。俺たちは金に飽かせて自分では何もしようとしないお前らとは違う。平民の底力を見せてやるぜ」
「そうだ。さっさと行け。目障りだ」
「アルム、ダンテ…」
「な、なんですって…」
プリムは潤んだ目で2人を見る。思わぬ反撃にプリムヴェールが怯んだ。その時、背後から大きな声がした。
「よっし! よく言ったアルム、ダンテ! プリムも頑張ったね!」
全員がその声がした方を見る。そこに漆黒の衣装を身に纏った超絶美少女が1人、朝日を背に立っていた。
「ユウキさん!」
「プリムヴェールと言ったわね。悪いけどプリムたちにはこのわたし、Cクラス冒険者ユウキ・タカシナがついているの。この3人はわたしが必ず進級させて見せる。貴女こそ油断して足元をすくわれないようにね」
「さあ、プリム、アルム、ダンテ。行くよ!」
「はいっ!」
『クラスアップは尻相撲の結果だがな』
(だまらっしゃい!)
※ラミディア大陸でユウキに付いた称号(二つ名)
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