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第248話 イザヴェル王国途中下車の旅(サンエリル後編)

 美少女コンテスト第2ラウンド「尻相撲」が始まった。美女たちはスカートを捲って尻を出すが、皆へそ下まである「おばさんパンツ」を穿いている。色気はないが事故もない。

 必死の形相で女同士が尻をぶつけ合い、会場にはパンパンと景気のいい音が鳴り響く。尻で戦う女の姿は壮絶で美しい(どこが?)。体が大きいから有利と言う訳でもなく、小柄な美少女に大柄な美女が吹き飛ばされるという場面もあるし、美女たちが必死の形相で汗を飛び散らせながら尻を激しくぶつけ合う場面もある。その姿に観客や応援団の大きな声援が飛び、女たちは益々ヒートアップする。正にステージ上は女の戦場だ。


(一体誰がこんなイベント考えたのよぉ~。絶対に女の子のお尻を見たいだけでしょう~)


「最終戦は29番エミリーさんと30番ユウキさん。サークルの中央にどうぞ!」


 エミリーとユウキはサークルの中央に進み、背中合わせに立つ。エミリーがスカートを捲るとおばさんパンツに包まれた大きな尻が露になる。しかし、ユウキはもじもじしてスカートの裾を持ったままだ。


「ちょっとぉ、早くしなさいよ。お尻が冷えちゃうでしょ」

「う、うん…、ゴメンね…」


 覚悟を決めたユウキが顔を真っ赤にしながらスカートを捲る。スカートの中から現れたのはエッチな紐パンで大事な部分のみが包まれた形の良いお尻。会場の観客や応援団はモロ出しのお尻に大興奮。お尻コールが響き渡る。


「アンタって凄いわね。私には真似できない」

「ありがとう。褒めてくれて嬉しい…」


「ユウキ選手の度胸に女性の私もビックリしましたが、先に進めます! 尻相撲スタートッ!」


 レイラの号令でエミリーがグイとお尻を突き出してぶつけて来た。重量感のある尻をユウキは下腹に力を入れて迎え撃つ! パーンといい音がして尻がはじけ合い、2人はサークルの外側に向かってたたらを踏んだ。


(うわお! 結構きついよこれ。お尻が痛いけど負けられない!)


「えーいっ!」

「やあっ!」


 ユウキとエミリーは再び尻をぶつけ合う。パーンと音がしてエミリーがよろけた。ユウキは間髪を入れず尻を突き出して体勢が整わないエミリーに向かってエビのように後ろに飛んだが、百戦錬磨のエミリーは下半身に力を入れ、ユウキの尻を迎撃してきた。ユウキとエミリーの尻が再び激突し、パアーン!といい音がして今度はユウキが弾き飛ばされる。


「うわっとと…」

「さあ、これで終わりよ!」


体勢を崩したユウキにエミリーの巨大な尻が迫って来る。その迫力は凄まじい。


(正面から迎え撃ったら力負けする! ここは受け流して相手の体勢を崩す!)


 ユウキはエミリーの尻がぶつかる寸前、自分の尻を斜めにして滑らす様に受け流したが、尻と尻が擦れた摩擦力でパンツの紐も緩んでしまった。しかし、ユウキは気づかない。斜めに受け流されたエミリーは大きくよろけてお尻から力が抜けた。ユウキはすかさずエミリーのお尻に自分のお尻を当てて、ケツ圧でサークル外に押し出した。


「勝者ユウキ選手! 所属冒険者ギルド」

「やったあ!」


 ユウキが両手を上げて大きな声で勝利を喜ぶ。手を離したことでスカートがはらりと落ち、続けて紐が解けたパンツも足元に落ちた。会場からは「落ちるタイミングが遅すぎる!」と漢たちの嘆きが聞こえる。


「ひゃああああ! あぶ…、あぶなっ。危うくお股を公衆の面前に晒すとこだった!」

『相変わらずエロいハプニングが付いて回るのう。さすがエロの女王。ワハハハハ!』

(うっさい!)


「よくやった! ノーパンユウキ。第3ラウンドは30分後だ。どうする? パンツ無しで行くか?」

 ギルド長がニヤニヤしながら聞いてきた。ユウキは恥ずかしくて死にそうになる。


「このセクハラオヤジ! ユウキちゃん、あっち行って着替えよう」

 女子職員に連れられて更衣室に向かうユウキ。ギルド長は見事第2ラウンドを勝ち抜いたユウキを見て満足そうに頷くのであった。



 第3ラウンドは大盛パスタ早食い競争。山盛りのパスタを制限時間内にどれだけ食べられるかを競うもので、ここでさらに半数が脱落することになる。

 女たちは勝利に向け、なりふり構わずパスタを口に運ぶ。ユウキも必死でパスタを口に運び、リスのように頬を膨らませてモグモグする。

 女たちは口の周りが汚れようが構わずとにかく食べる。途中、咽た少女が鼻と口からパスタを盛大に吹き出して倒れ、胃袋の限界に達した美女が真っ青な顔で口を押さえながら無言で仰向けに倒れる。ステージの上は地獄の様相を呈していた。


 勝負終了のゴングが鳴り、結果8人の戦乙女が勝ち残り、ユウキも何とかその中に入ることができた。


(ぐっ…。何とか勝ち残ったけど…、苦しい…、気持ち悪い…。肉体的な強さって、これの事なの? 何か想像していたものと違う…。これホントに美人コンテスト? おええ…)


 事務員のお姉さんから消化を促進させる胃腸薬をもらって一息ついたユウキに、お姉さんが最終ラウンドの中身を教えてくれた。


「ユウキちゃん勝利おめでとう! ギルドのみんなも大喜びだよ。それでね、最終ラウンドは2時間休憩のあと、水着審査になるからね。水着はギルドで用意しているから。頑張って優勝だよ!」


「え…、水着審査…? ウソでしょ」

『やっぱりお約束じゃったな』


「どこが民族衣装美人コンテストなのよおー! そんな要素最初だけだったじゃんかー」


 にこやかに笑う事務員のお姉さんたちにがっしりと両腕を掴まれ、更衣室に連れて行かれるユウキ。がんばれユウキ、幸せへの道はまだまだ遠い。


「もう逃げだしたいよぉ~。ふぇえええん」


 休憩によっていったん解散していた観客が再びステージ周りに集まって来た。当然冒険者ギルドを始め勝ち残った女の子が所属する企業や団体の応援団も来て、一種異様な雰囲気を醸し出している。

 ステージ上には大きなカーテンが設置されていて、勝ち残った美女が登録順に1人ずつこの中から出てきて、自慢の肉体を披露する仕組みになっているとの事だ。もう既に民族衣装美人コンテストの影も形もない。


「これ絶対におかしいよ!」

 ユウキは嘆くがイベントは着実に進行する。


「ギルド長、いよいよ最終戦です。ユウキちゃんならきっと…」

「うむ。今までは最初の民族衣装の段階で終わっていたからな。もう冒険者ギルドを猿人動物園とか言わせんぞ。ユウキがこの町に来てくれたことを神に感謝しなければ…」


「ギルド長、始まりますよ」

「よし、お前たち全力でユウキを応援するぞ!」

『おーーーー!』


「はーい、司会のレイラでーす。さあ、美人コンテストもいよいよ大詰め。水着審査でーす。今年の美女は誰かなぁー。皆さん、水着の着こなし、スタイルの美しさをよく見て採点して投票してくださいねー。ではでは始まりまーす。最初は木材加工組合推薦のエレンさんでーす」


 カーテンが開けられ1人目の美女が出て来る。エレンは18歳。おっとりして優し気な顔をした美人だ。Dカップの胸は形が良く張っていて、お尻もキュッと締まった中々のスタイルをしている。水着は白のワンピースでお腹の右寄りに大きな花が描かれていて、良く似合っている。


「1人目からレベルが高いですね。ユウキちゃん大丈夫ですかねギルド長。ギルド長?」

「お、おお…。何か言ったか?」

(このドスケベ。女の子の肢体に夢中になっていたなー。後で奥さんに告げ口しよう)


 5人、6人と女の子が紹介されて行く。さすが激戦を勝ち抜いた美女たち。レベルが高くスタイルがいい。そして、いよいよユウキの番となった。ユウキは大きく深呼吸してドキドキを抑え、カーテンが開くのを待つ。


(とんでもない水着を着させられると思ったけど、オーソドックスなビキニでよかった。ここまで来たら優勝目指して目一杯可愛く振舞わなくちゃ。超絶美少女ユウキの名にかけて! っと、そう言えばわたし、8年前までは男の子だったんだよね。すっかり忘れてた。アハハ…)


「さあ最後は冒険者ギルド期待の新星、ユウキさんでーす。どうぞー」


 カーテンが開いてユウキがステージ上に現れた。ユウキの水着は薄い水色をベースに可愛い花柄模様があしらわれたビキニ。パンツはやや布面積が少なく、紐で結ぶタイプだが、模様の可愛らしさがエロを相殺し、とってもキュートだ。また、ユウキのメリハリがあるボディラインが水着の可愛さに映え、天上から降臨した女神の様に美しい。


 ユウキの美しさに会場からは大きな声援とため息が同時に沸き起こった。ステージの上を胸とお尻が目立つように歩き、両腕で胸を下から支え、観客に向かって少し前傾姿勢になり、胸の谷間を強調して見せつけたり、会場に向かって投げキッスなどをして漢たちのハートを鷲掴みにする。


『開き直ったか。さすがはロディニアのサッキュバスと言われただけはあるのう。こりゃ、圧倒的大勝利間違いなしじゃ』

(ロディニアのサッキュバスって…。そこまで言われてないよ。もう)


「きゃああ! ユウキちゃんかっわいいー!」

「ギルド長、ユウキちゃん可愛いですよ。これは優勝も夢じゃありませんよ!」

「お、おう。服の上からでも凄かったが、水着姿の破壊力は凄まじいな…」


 ギルド長はつい女子職員の体と見比べ、悲しそうにため息をついてしまい、女子職員の逆鱗に触れ、ボッコボコにされるのであった。


「ユウキさん可愛かったですねー。さあ、これで全てのイベントが終了でーす。今年の優勝者は誰だ。皆さん、この娘と思った方に投票をお願いしまーす!」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「いやったー!」

「ユウキちゃんありがとう。ありがとう。うぇえええーん」

「ユウキ、優勝おめでとう!」


 大会が終了し、投票の結果ダントツ1位の得票数でユウキが優勝した。冒険者ギルドはユウキという最高の美少女によって見事最底辺の地位から脱したのであった。そして今、ギルドの酒場を会場にして盛大に祝勝会が行われている。

 喜びを全身で表す者、泣きわめく者、絶叫しながら浴びるように酒を飲む者。集まったギルドの職員や冒険者たちがユウキの健闘を讃え、尻相撲で見せたお尻の美しさとおっぱいの大きさを褒め讃える。ユウキは全然嬉しくない。そのユウキに声をかけ、ズシン!と地響きを立てて抱き着いてきた冒険者がいた。


「ぐえっ!」

「ユウキさん優勝おめでとう。昨年の大会、第1ラウンドで敗退したあたしの無念を晴らしてくれてとっても嬉しい!」


 ギリギリと胴を締め付けられ、死にそうになりながら相手を見ると、ユウキの1.5倍はありそうな巨躯に筋肉質な体。全身が短い剛毛で覆われ、猿人のような顔をした獣人。胸が大きく膨らんでいるので女性であることがわかる。


「ぐ…、ぐるじい…。離して…、死ぬ…」

「あ…、ゴ、ゴメン」


「ぜーはーぜーはー、し、死ぬかと思った…。なんて力なのよ。もう…」

「ところでアナタは?」


「あたしはエリザベート。冒険者で昨年の美少女コンテスト出場者よ」

「……今なんて?」


「聞こえなかった? 昨年の美少女コンテスト出場者なの。あたし」

「……………」


(どういう基準でこの子を出したのよ…。まんま猿人じゃないのさ。声、めちゃ可愛いし)

『うむむ…。さすがの儂も食指が動かんのう。しかも名前…』


「どうしたの?」

「あ、ううん。何でもない」


「さあ、今日はお祝いよ! 今夜はとことん飲み明かそう!」

 エリザベートはバッシーンとユウキの背中を叩いて、がっしりと捕まえ、自分のテーブルに引き摺って行った。


「いったーい! あっ、ちょっと待って。わあああ、助けてええ!」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「あ~、酷い目に遭った…。頭痛い。気持ち悪い…」

「ワハハハハ、許せ許せ。みんな嬉しくてしょうがなかったんだ」


 結局エリザベートに捕まったユウキは、自身の限界を超えるほど酒を飲まされ、酔いつぶれてしまい、女子職員たちに抱えられて宿に運ばれたのであった。ちなみにその辺りの記憶は完全に飛んでいる。

 目覚めたユウキは、トイレで盛大に嘔吐した後、宿の風呂に入って何とか意識を回復させるとよろめく体に鞭打って再びギルドを訪れた。酒場では未だ男女構わず大勢の冒険者が床に倒れ伏していて、室内全体に酒と料理と嘔吐の臭いが充満していた。


「ほら、依頼達成の証書だ。報酬の金貨1枚と優勝賞金の金貨10枚だ」

「うん…、確かに…」

「ワハハハハ。元気出せ。俺たちは本当にお前に感謝しているんだ。どうだ、このままこのギルドの所属にならねえか」

「ううん、申し出はありがたいけど、わたし、ある理由があってこの大陸を旅したいの。だから受けられません。ごめんなさい」


「まあ、本人が希望しないなら仕方がないな、残念だが。何か助けが必要になったら連絡を寄越せ。サンエリル冒険者ギルドは全面的に協力するぞ」

「うん! ありがとう」


「そうだ、来年の新緑祭にはまたサンエリルに来てくれよ。コンテスト2連覇を目指すからな」

「絶対にイヤです」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 尻相撲に水着、どこか懐かしい感が漂う祭ですね。次回から参加者は紐パン着用ルール化すればいいのに。 [気になる点] エドモンズ殿、ご愁傷さまです [一言] ユウキが後々まで語り草になりそうな…
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