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第243話 そして別れの時

 ユウキは今、王宮の中庭にいた。中庭には大勢の国民が集まっていて、今か今かとある人物が出て来るのを待っている。しばらく待っていると、盛大なファンファーレと共に宮殿のベランダにイザヴェル王国の女王グレイスが現れた。グレイスの後ろには4人の王子王女が整列し、さらにその背後には護衛騎士や執事長バート、メイド長が控えている。そして、メイド長の隣には1人のハーフオーガの少女、ステラの姿もあった。


「女王様、すっかりお元気になられたね」


 今、王宮ではグレイス女王の即位20周年記念式典が盛大に挙行されている。音楽隊の演奏に次いで、女王や王子王女たちは集まった民衆に向かって笑顔で手を振り、病気から回復した女王の姿に集まった民衆は国旗が描かれた小旗を振って喜びを表している。

 アンリに呼ばれたステラも王子たちの列に加わり、アンリと手を繋いではにかみながら民衆に小さく手を振っていた。


『これで良かったのか』

「うん…」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 マルドゥーク公爵の一件が片付いた数日後、再び王宮を訪れたユウキは謁見室でグレイス女王から感謝の言葉をいただいていた。


「本当に貴女には感謝しています。奇跡の魔法で私を治しただけでなく、この国の政治的危機を未然に防いで下さった。あのまま私が死に、弟…、マルドゥーク公が政権を掌握していたらこの国は大混乱に陥ったでしょう。本当にありがとうございました」


「もったいないお言葉です。わたしはわたしが出来ることをしたまでです」

「それに、アンリ王子の想いが無ければ、わたしがこの件に関わる事は無かった。本当の功労者はアンリ王子だと思います」


「そうですね。私のために恐ろしい思いをしてまで魔道具を探してくれたアンリには感謝してもしきれません。そしてアンリに付き合ってくれたドゥルグ兵曹長やラビィさんにもお礼を言わなければなりませんね」


 謁見室の端に控えるドゥルグと王宮への就職を果たしたラビィが女王の謝意に恐縮している。


「ラビィは褒めなくていいです。へっぽこなんで」

「ユウキちゃんひどい!」


 女王はうふふと笑いながら、ユウキと並んで立っているステラを見た。


「私が元気になったのもステラさんの薬粥のお陰でもあります。あの薬粥は本当に美味しかった。昔、病気になった時、母に作っていただいた粥を思い出して懐かしくもありました」

「い、いえ…、そんな…」


 照れて、恥ずかし気に俯くステラを見て女王は優しく笑う。そして、ある提案をしてきた。その提案とはステラを王宮に迎え入れたいというものであり、ステラは女王の厚意を喜んで受け入れたのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ステラ、アンリ様の事を好きみたいだし、アンリ様もステラの事を気に入っている。一緒の学校にも行かせてもらえるとの事だし、女王様、ゆくゆくはアンリ様のお嫁さんにすることも考えているって言ってたもんね。わたしとふらふら旅するよりよっぽど良いよ」


『お主がそう言うのならもう何も言うまい。ただ、お主もステラの事気に入ってたから、寂しいんじゃなかろうかと思っての…』

「いいの! その事は!」


『そう言えば、お主、リシャールの小僧に求婚されたのではなかったか? 何故、断ったのじゃ? 優良物件と思うがのう』

「うん…。リシャール様は素敵な方だけど、わたし、まだまだこの大陸を見て回りたいと思ったし、以前の事を思い出すとどうも一歩が踏み出せないの…」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 女王との謁見が終わり、廊下でお別れの挨拶をしたユウキとステラ。


「ステラ、一緒にいた時間は短かったけど、わたし本当に楽しかった。これから、新しい生活が待っているけど、ステラなら頑張っていけるよ。それに、将来はアンリ様のお嫁さんという目標も出来たことだしね。にひひ」


「ユウキさん…。私はユウキさんと出会って本当に良かった。まさか私が王宮で生活する事になるなんて…。世界を見て回るという旅は出来なくなったけど、私は私の新しい世界を見つけます。ですからユウキさんも頑張って幸せ、探してくださいね。でも、私の方が一足先にお嫁さんになっちゃうかも。えへへ」


 ユウキとステラはしっかりと抱き合って別れを済ませた。しかし、これが最後の別れではない。生きていればまた会うこともあるだろう。ユウキは、ステラの顔を瞼の奥にしっかりと焼き付けると、王宮を後にした。


 王宮の門を出た所で、ユウキはリシャールに呼び止められた。2人は、庭園の一角にあるベンチに場所を移した。


「あの…、何かわたしにお話が…?」

「あ、ああ、ユウキには恋人とか、将来を誓い合った男性とかはいるのか」


「え、いいえ。いません…」

 一瞬、マクシミリアンの事が頭に過ぎるユウキ。しかし、頭を振って思い出を消した。


「そうか、いないのか…。なあ、ユウキ。私の妻になる気はないか?」

「へ…?」


「私の妻になってくれないかと言っている」

「え、ええ~! ど、どどどどどどうして…」

『落ち着け』

(す~は~、す~は~。アイツの頭はあいうえお…。よし、落ち着いた)


「どうして私を?」

「あ、ああ、君は優しく美しいだけではない。人の絆を大切にし、大切な人を守るためにはどんな困難にも立ち向かう強い意志を持っている。そして何より純情可憐なその姿が私の心を捉えたのだ。どうか私の妻になってくれないか。一生大切にすると誓おう」


「……あの、その話、今はお受けすることが出来ません」

「何故だ? 理由を聞かせてくれ」


「はい、わたしは亡き姉との約束で自分がこの世界で何を成すべきか、自分の本当の幸せとは何かということを探す旅をしているんです。何より、わたしに幸せになる権利があるのかどうかも怪しい…。ですから、もう少し旅を続けて見極めたいんです。自分自身のために」


「ごめんなさい。理由が曖昧で上手く言えなくて…」

「……………」


「ですから、今のお話はお受けできません。ですが、もし、私の幸せがこの国で得られると思った時には、また訪れるかもしれません。その時、リシャール様が心変わりしていなければ、声をかけて下さい」


「わかった…。だが、私はあまり悠長ではないぞ。私が心変わりする前に、またこの国を訪れてもらいたいものだ」

「うふふ、心変わりされても恨みはしません。でも、ひとつだけ言わせて。女性を裏切る真似だけはしないで下さいね」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


『まあ、前にも言ったが、お主にはいつか必ず良縁が訪れる。心配するな。おおそうじゃ、儂はちゃぶ台返しの練習をしなくてはいかんな』

「あははは、ほどほどにね」


 大勢の民衆で賑わう王宮の中庭を後にして、ユウキは中心街の連絡馬車乗り場に向かう。行先は決めていない。適当に乗り込んで見知らぬ土地を訪れようと思っている。


「風の吹くまま、気の向くままってね」

「おっぱいもバーンと張って絶好調! う~ん、頑張るぞ!」

『巨乳美少女ならではの台詞じゃな! その意気じゃ。儂も頑張ろうぞ!』

「よろしくね、エロモン!」


「ねえママ、あのお姉ちゃん、さっきからひとりでぶつぶつ言ってるよ。おっぱいがどうとか」

「しっ! 目を合わせちゃいけません」


 親子の会話が聞こえたユウキが微妙な表情で見ると、母親はさっと目を逸らして子供の手を引いて足早に去って行った。反対側を見ると、皆ササッと目線を逸らす。


『ぶわっはははは! 危ない奴に思われとる』

「笑うな!」


 ぷんすかしながらユウキは空を見上げた。青空の上に様々な形の雲がゆっくりと同じ方向に流れている。ユウキは雲の流れを見て旅の道標になっているように感じ、新しい出会いに期待感を膨らませるのであった。ユウキの旅はまだまだ続く。


「ナレーションっぽい終わり方、久し振りだよね」

「そう言えば、暗殺者の2人はリシャール様の密偵に雇われたそうだよ」

『お主、誰に向かって話しているのじゃ?』



「お姉ちゃん、あぶない病気? かわいそうな人?」

 いつの間にかさっき母親に連れて行かれた女の子が寄ってきて、独り言を呟いているユウキをジッと見つめている。


「え…、ち、違うよ。お姉ちゃん可哀そうな人じゃないよ」

「だって、ひとりでぶつぶつ何か言ってた。お母さん、心が病んだ人かもしれないって言ってたよ。そうなの?」


 女の子は捨てられた小動物を見るような憐れんだ目で見て来る。


「あはは、違うよ。自分に自分で気合を入れただけだよ。元気で行くぞって」

「ふ~ん、励ましてくれるお友達いないんだ…。かわいそう。はい、かわいそうだからアメあげるね! 元気出してね」


 女の子はユウキの手をとると小さな飴玉を乗せた。やがて母親があせあせと走ってきて、子供の手を取り去っていく。2人を見送ったユウキの手には小さな赤い飴玉。そっと口に入れるとイチゴの味がした。


「おいしい…」

 空を見上げたユウキの頬をイザヴェルの優しい風が撫でていった…。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 勧善懲悪ものみたいな賑やかな話になりましたね。ワイトキングも結構楽しんでるし、ユウキのたわわな○○○○が印籠代わりに見えてきました。 [一言] 変人扱いされかけたけど、このラストいいですね…
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