第238話 ユウキ油断する
「そう…、そうだったの。私、死ぬ寸前の所をあの方に助けられたのですね…」
グレイスはそう言って、部屋の隅で休んでいるユウキとその側に控えているワイトキングを見て感慨深げに言う。
「それに、私を助けるため、アンリはドゥルグ兵曹長やその子と一緒に一緒に危険なことまでして「賢者の鏡」を手に入れてくれたのね。ありがとうアンリ。母はとても嬉しいです」
「皆にも心配をかけましたね。本当にごめんなさいね」
『女王よ、体力が戻るには時間がかかる。特に内臓は回復したばかり、まずは薬粥でも食して体力を回復させるがよい』
「ありがとう賢者の鏡さん。本当に鏡が話してくれるのですね」
「あの、女王様! 失礼を承知でお願いがあります」
ステラが顔を紅潮させて女王に向かって、あるお願いをした。
「私、ステラといいます。もし、よろしければ薬粥を私に作らせていただけないでしょうか。実は、私が体調を崩した時、母がいつも薬粥を作ってくれたんです。それを食べると本当に元気になるんです。作り方は母に教わりました。いつか大切な人が出来たら作ってあげなさいって…。材料はあります。お願いです、私もアンリ様と女王様のお役に立ちたいんです!」
(キタ! ステラの無意識男心掌握スキルの発動が)
ユウキとエドモンズ三世が目を合わせて感心する。
「うふふ…。もしかしてあなた、アンリの事が好きなの? いいでしょう、お願いしたいわ。ジェーン、ステラさんを厨房にご案内して」
ステラがメイド長に連れられて部屋から出て行った。アンリもパタパタとその後を追う。その光景を見たグレイス女王はニコニコと笑う。そして、ユウキを手招きして側に来るように言ってきた。
ユウキは疲労していた体を起こすと、エドモンズ三世とともに女王の側に来る。グレイス女王はユウキの神秘的な黒い瞳をじっと見つめる。
「ユウキさん、私を助けて下さってありがとう。本当に感謝しています。貴女は私の命の恩人です。本当にありがとう」
女王はユウキの手を握って感謝の言葉を述べる。ユウキは照れ笑いを浮かべながら、助けられて本当に良かったと思うのであった。
「貴女の眷属、エドモンズ三世とおっしゃったわね。本当に王家の御先祖様のエドモンズ様なのですか?」
『ふむ…。疑うのも仕方ないが、儂は正真正銘、エドモンズ三世じゃ。今は偉大なるアンデッド「ワイトキング」として存在しておる』
「まあ…。こんな事ってあるのでしょうか…。私、ご先祖様にも助けていただいたのですね。エドモンズ様、ありがとうございます」
『い、いや…、血統が異なるとはいえ、子孫の幸せを願うのも先祖の役目。気にするな』
(ぷくく…、エロモンが照れてる。いつもの調子はどうしたのよ)
ユウキがエドモンズ三世を小突いてからかっていると、ステラが薬粥を持って部屋に入って来た。ゆっくりとグレイス女王に近付くと、粥の乗ったお盆を差し出した。
「あの…、お口に合うか分かりませんが、薬粥を作ってきました」
「母上、僕、味見したのですけど、とても美味しい粥です。料理長も褒めていました。母上、食べてみて下さい!」
「あらあら、アンリったら。ステラさんいただくわね。まあ、本当に美味しい。お腹から体全体に温かさが広がって行くようだわ。何杯でも食べられそう…」
食事を済ませたグレイス王女が疲れを見せたので、後はメイド長に任せて、全員退室することにした。外を見るとすっかり日が落ちて真っ暗だった。そこでリシャールがユウキとステラに今晩は王宮に泊まって行くように言い、自ら食堂に案内するとともに、メイドに命じて部屋を用意させた。
使用人の食堂で、リシャールと一緒に食事をするユウキとステラ。
「あの、リシャール様も使用人の食堂で食事をなさるんですか?」とユウキが聞く。
「ああ、私は堅苦しいのが嫌いでね。良くここで食事をしながら、皆と話をするんだよ。その方が楽しいからね」
「君、ステラと言ったね。アンリと仲良くしてくれてありがとう。あいつは友人を作るのが下手なんだ。学校でも1人でいることが多いって教師から手紙が来た事もある。これからもアンリと友達になってくれると嬉しいな」
「ハイ! 私、アンリ様大好きです!」
「ははは、そうか。ありがとう」
「ねえ、ステラ、ラビィは?」
「えっと、ドゥルグさんにどっか連れて行かれました。訓練とか何とか言ってたような…」
(ラビィ、ご愁傷様…)
「ユウキ、母上を救ってくれて本当にありがとう。約束どおり、治癒魔法の事は絶対に他には漏らさないようにするから安心してくれ」
「すみません。お願いします」
「しかし、ワイトキングには驚いたな。そう言えば彼はどこに?」
「あはは、ここです」
ユウキはイヤリングを指さして、リシャールに教えてあげた。その後、3人でエドモンズ三世と出会った経緯などを話して別れ、当てがわれた部屋に入って、ベッドに大の字になった。
「疲れたな…。お風呂付個室はありがたい。さっさとお風呂入って寝よう」
ユウキはベッドから起き上がって浴室に行くと、備え付けの魔道具で浴槽にお湯を張り、丁度いい湯加減にすると、エッチなメイド服と下着をポンポンと脱いで、まず、体と髪の毛を丁寧に洗い、ゆっくりと湯船に浸かった。
「ああ~気持ちいい…。1人で個室風呂に入るなんてホント久しぶり…」
うう~んと背伸びをして、力を抜いて、首まで湯に浸かってぷかぷかした。十分に体を暖めたユウキは、風呂場で体と髪の毛を拭いて下着を着けようとしたが、部屋に忘れてきたようで、何もない。
「失敗したな。まあいいか。誰もいないし、このまま部屋に取りに行こう」
スッポンポンのまま部屋に戻り、下着を取ろうとカバンに手を伸ばそうとした時、不意に部屋がノックされ、ガチャリと戸が開いた。
「ユウキ、起きてるか? 明日の事で話があるのだ…が…」
入って来たのはリシャール王子。王子の目の前には全裸のユウキ。完全に油断していたため、胸も股も隠していない。
「きゃああああああ! 見ないで見ないで! 出て行ってぇー!」
「ごっ、ごごご、ごめん!」
ユウキが大きな悲鳴を上げ、胸を隠してしゃがみ込み、涙目であわあわしながら出ていくように指さす。リシャールも一瞬の出来事から意識を戻すと、慌てて廊下に出て戸を閉め、ばたばたと自室に戻って行った。戻りながらリシャールはユウキの裸を思い出す。
「す、凄いおっぱいだった…。それに女神のように美しい裸体。いいもの見たな。うん」
「うう、グス…。しっかり見られた…。油断した…。恥ずかしいよう。ふええん」
ベッドの中でグズグズ泣くユウキであった。
翌朝、普段着に着替えたユウキとメイド服のステラが使用人の食堂で朝食を摂っている。ユウキはどんよりして元気がない。ステラが何があったのか聞いても、首を振るだけで答えない。そのうち、グレイス女王の朝食の時間が近づいたので、ステラは薬粥を作るため、厨房に入って行った。
『ユウキよ、元気出せ。お主がエッチな目に遭うのは運命じゃ。諦めい』
「うるさい…。おっぱいだけならまだしも、お股まで見られた。死にたい…」
『別に、お股の秘部を見られた訳ではなかろう。気にするな』
「気にするなって言っても無理…。どんな顔してリシャール様に会えばいいのよ。恥ずかしすぎる…。わたしは貝になりたい…」
『ダメだこりゃ』