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第236話 賢者の鏡

「メイド服…。うっ、属性が、ドジっ子メイドが…」

「ユウキさん、早く着替えて下さい」


 ステラとラビィは既に着替え終えている。2人とも白のブラウスの上に紺色の長袖、ロングスカート、白のロングエプロン、白の靴下と黒のエナメル靴といった正統派メイドスタイルだ。一方、着替えを終えたユウキはというと…。


「こ、これは…。なぜ、わたしだけこんな…」


 ユウキのメイド服は胸の所がやや大きく開いた、ちょっとエッチなゴスロリ風萌えメイド服。胴回りの帯で胸が持ち上げられ、おっぱいの谷間がこれでもかと強調され、スカートは短くふわりと広がって、中からユウキの足がスラリと伸びている。頭には可愛いメイドカチューシャ。


「ユウキちゃん、凄くエッチ…」

「さすが、エロの化身。半端ない破壊力です…」


『うっひょう! 上から覗き見る巨乳の迫力は素晴らしい。これほどの美乳の持ち主はそうはおらんぞ! 学園のサッキュバスの異名は伊達ではないのう』


 ラビィとステラが小声でひそひそと話し、エドモンズ三世の興奮が念話で伝わって来る。ユウキはがっくりと項垂れ、エロの運命から逃れられないのかと心の中で嘆く。


 腰にマジックポーチを着けて準備を整えたユウキたちは廊下に出ると、ドゥルグが待っていた。出て来たユウキの姿にドゥルグは驚き、胸の谷間から視線を外せなくなってしまった。ユウキは顔を赤らめ、両手で胸の谷間を隠し「さっさと行きましょう」とドゥルグを促した。


 宮殿の長い廊下を、ドゥルグ、ステラ、ラビィ、ユウキの順に並んで進む。途中、何人ものメイドや執事と出会うが、頭を下げて礼をした後にユウキの姿を見ると、メイドたちはひそひそと小声で話しながら顔を顰め、執事たちは首を伸ばして谷間を覗き込んで来る。


(来るんじゃなかった。逃げ出したい…)


 宮殿の本館の最上階の中央、豪華な装飾がされた大きな扉の前に来た。扉の前には2人の騎士が立っており、ドゥルグが合図すると騎士が扉を開いた。ユウキ達が中に入ると、部屋の中に大きなベッドが設置されていて1人の人物が横になっている。その枕元に数人の男女が立っていて、ユウキたちを見ていた。その中から1人の男性と1人の少年が進み出てきた。


「お待ちしていました。ユウキさん」

「アンリ様。お招きに預かり光栄です」


「よく来てくれたね、ステラ。待ってたよ!」

「ハイ! 私も会いたかったです。アンリ様!」


 手を繋いで再会を喜ぶアンリとステラを見て、ユウキは心の中で舌打ちをすると『醜いのう…』とエドモンズ三世の声が聞こえた。

 アンリの隣にいた男性はピシッとしたスーツに身を包んだ白髪の紳士で執事長のバートと名乗った。


「あ、あの、ユウキ・タカシナです…」

「ステラです!」

「ラビィ・カーンです」


 バートに促され、3人はアンリと一緒にベッドの側まで来る。ベッドの中では40歳後半と思われる女性が眠りについている。よく見ると顔色は土気色で生気がなく、瘦せ細っていて今にも命の灯が消えそうな感じがする。


「女王グレイス・ティル・ヴァルーナ。僕の母上です…」

 アンリが苦しそうに、母親を紹介する。俯くアンリにステラがそっと寄り添う。


「君たちがアンリと一緒に秘宝を探索したという冒険者か。しかし、君は凄いカッコだな」

「それはどうも…。この衣装はお城が用意したものなんですけど…」


「おう…、それは済まなかった。私はリシャール。第1王子だ。こちらは…」

「ジョゼット。第1王女ですわ」

「シ、シェリーです。第2王女です…。あの、凄くエッチな格好ですね」

「ジャン。第2王子」


「お兄様、早速使ってみます。賢者の鏡を。これでお母様を助けられれば…」


 アンリはベッド脇の箱の中から鏡を取り出すと、グレイスの枕元に立てかける。鏡は直径40cmほどの円形の銀色の金属板で、周囲は青銅による複雑な装飾がされている。鏡の円盤にグレイスの顔が弱々しく写っていた。アンリは鏡に向かって語りかけ始めた。


「賢者の鏡よ、僕の願いを聞いて。僕の…、僕の母上を助けて欲しい。この病気は何が原因なの? 治すためにはどうしたらよいの? お願いです。母上を助けて…」


 アンリが必死に鏡に訴える。いつの間にかジョゼットとシェリーもアンリの側に来て鏡に向かって、母親を助けてくれるよう懇願している。しかし、鏡は沈黙したままだ。


(エロモン、あの鏡は本物なの?)

『それは間違いない。ただ、賢者の鏡は自身が認めた者のみに応えるという。小僧が認められれば答えてくれるはずじゃが…』


「お願い、賢者の鏡…、僕は母上が大好きなんです。母上がいなくなったら僕は…。母上を助けたい。僕に応えて、お願いだ賢者の鏡!」

「私からもお願いします。賢者の鏡、もう貴方に縋るしかありませんの!」

「あ、あの…シェリーからもお願いします。お母様を助けて下さい…」


 ユウキが見ると、リシャールもジャンも両手を顔の前で握りしめ、目をギュッと瞑って願いを込めている。賢者の鏡なんて、普通の人が聞いたら眉唾物の品だ。しかし、兄弟姉妹5人は、アンリが危険を冒して持ってきた鏡を本物と信じて願いを訴えている。それほどまでに、母親を助けたいのだろう。もう、これが最後の手段と分かっているから。


 アンリが願いを伝えてからどのくらい時間が経ったろう。アンリは鏡を両手で押さえて、しくしくと泣いている。答えてくれない鏡を見て、母親の最後を悟ったのだろうか。ジョゼットもシェリーも抱き合って泣いている。ステラもラビィも俯いて涙ぐむ。その時…。


『願いは聞き届けられた。アンリよ、お前の想い、確かに受け取った。我は賢者の鏡…、さあ、良く聞くがよい。お前の母親について教えよう…』


「け、賢者の鏡…! 賢者の鏡が答えてくれた! 賢者の鏡、母上、母上はどうなんですか! 助かるのですか!」


(か、鏡が喋った!)ユウキはびっくりだ。


『お前の母は蟲毒による呪いを受けておる。蟲毒とは壺に入れた百の毒虫を互いに争わせ、最後に残った一匹の毒を使い料理や飲料物に混ぜ人に危害を加えるという極めて危険な呪いだ。蟲毒を受けた者は一定の期間後に全身が腐り、死を迎えるという』


「そ、そんな…、そんな恐ろしい毒が母上に…」

 ジョゼットとシェリーが顔を青ざめさせ、ペタリと床に座り込んでしまった。


「助ける方法は…、助ける方法はないんですか!」

 アンリが必死になって、鏡に向かって問いかける。


『蟲毒の毒は特殊で強力だ。どんな薬草も毒消しも効かぬ』


「そんな…、他には方法がないんですか!」


『治癒魔法なら可能性がある』


「治癒魔法?」

 初めて聞く魔法に、兄弟姉妹が鏡に向かって聞き返す。


『そうだ。治癒魔法は四肢や内臓の欠損以外の傷、病気、状態異常を完全に治すことができる魔法だ。しかし、この世界で使われる火、水、風、土の四元魔術とは対極に位置する闇に属する魔術系統ゆえ、使う者も限られる上に数百年以上も前に失われた魔法なのだ。しかし、もし治癒魔法の使い手が見つかれば、お前の母は助けられるであろう』


「賢者の鏡! 教えてくれませんか、治癒魔法の使い手を。お願いします!」

『我が知っている治癒魔法の使い手はこの世界に1人だけだ…』


(…………)


『その者の名前は「バルコム」。北の大陸のどこかに住まうと言われる究極のアンデッド「リッチー」の「バルコム」だ…』


(おじさん…)


「リ、リッチー…。アンデッドの頂点にして、神に匹敵する力を持つと言われる伝説の魔物…。深き迷宮の奥に隠棲し、その姿は誰も見たことがないという。その、リッチーですか…?」

 ジョゼットが鏡に向かって問う。その顔は青ざめ、体は小刻みに震えている。


『そうだ…』


「どうしてリッチーが治癒魔法を使えるんですか?」

『闇魔法は暗黒魔法ともいう。暗黒魔法は死と再生を司り、光とは対極に位置する魔術体系に属する。死を司る故にアンデッドしか使用できないのだ』


「そんな…、絶対に無理だ…。お願いできる訳がない。それに、探し出す事さえ困難だ…」

 リシャールが絶望に沈んだ表情で唸る。執事長もメイド長も、悲痛な顔をして項垂れていた。


(……………)


『ユウキ、助けるのか?』


(…うん。自分の幸せを見つけるのも大切だけど、目の前で助けられる人がいるのに手を差し伸べないのは、わたしには絶対に出来ない。わたしの信念に反することだから)


『自分が奇異の目で見られ、迫害を受ける可能性があってもか』

(うん。目の前で困っている人を見捨てたら、わたしはかつて愛した男と同じ卑怯者になってしまう。それだけはイヤなの)


『そうか、そこまでの覚悟があるのなら、もう何も言うまい。儂は全力でお前を助けるぞ』

(ふふ、ありがとう。エロモン)


『エドモンズじゃ! ワザとじゃろ』



「みなさん、聞いてください」


 ユウキは覚悟を決め、その場にいる全員に向かって言った。


「わたしは暗黒魔法を…、治癒魔法を使えます」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔道具からバルコムの名が出るとは驚き!それにしてもユウキの服をチョイスしたのは誰?見てみたいけど。 [一言] 全力でユウキを止めたくなってきました。ユウキ真直ぐ過ぎです。
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