第24話 野望
王家一家の住む宮殿は、王都ロディニアの中心にある。周囲は高く厚い塀に囲まれ、さらに宮殿まで広い庭園になっている。また、所々に警備兵の詰め所があるため、容易に近づけない構造となっている。その宮殿の一室にこの国の象徴となる人物、国王マグナスが執事長ギルバートに会っていた。
「入学式の様子はどうであった」
「はっ。マクシミリアン様はつつがなく、代表生徒として歓迎の言葉を述べられました。学園内の評判も良く、将来が期待される人物に育っているかと。ただ…」
「ただ、何だ。申してみよ」
「ただ、目的のためなら何が何でも…。という気構えが少し足りないように感じられます。生来のお優しい性格故、仕方のないこととは思いますが」
「今年入学したマルムトはどうだ」
「マルムト様は、入学生の中でも別格の存在感を放っておられます」
「さらに言わせていただければ、目的のためならどんな非情な事でも成しうる意志の強さを感じます。欲望の障害になると思えば自分の身内すら容赦なく排除するでしょう。本日も敵意を持った恐ろしい目でマクシミリアン様を睨みつけておりました」
「うむ、マルムトはレウルスやマクシミリアン、このわたしでさえ排斥し、この王国を大昔のような独裁国家にすることを夢見ている。なぜ、そういう思想になったのか分らんが…」
「だからこそ、学園で多くの同年代に触れあって、意識改革が図れればよいと考えているのだ」
「わたしは、できればこの国の平和を長く維持できるよう努めたい。だから、次の王はマクシミリアンがよいと考えている。長男のレウルスは政治家としては優秀だが、人を引き付けるほどの器量がない。それはレウルス本人も一番よく知っている」
「しかし、学園に入れたことが裏目に出なければよいのですが。逆にマルムト様のシンパを増やすことになりませんか。昨今、王国内でも軍事力強化と大陸平定を目指す王権復古派が力をつけつつあり、その様な者どもの子弟がマルムト様に付いたら、危険な行動に出るやも知れません。背後には怪しげな宗教団体もいるとの噂もあります」
「民衆を不安にし、それに乗じて勢力を拡大しようというのだろう。ゆくゆくは王家を裏から操るつもりなのか? まったくバカなことだ」
「今、何もできることはない。ギルバート、申し訳ないが、学園内の情報は常にわたしの耳に入れるようにしてくれ」
「はっ、幸いに、私の娘が学園に入学しました。娘に学園の様子を探らせましょう」
「うむ、よろしく頼む」
寮にはユウキ達一般生徒が入る寮とは別に、貴族ための寮がある。部屋も大きく、バストイレ付。使用人の部屋まである。その一室にマルムトはいた。使用人たちは下がらせている。
「ふん、マクシミリアン奴。にやけ付きやがって。虫唾が走る」
「まあ、今のうちだけだ。いずれこの学園で俺の考えに同調する仲間を増やし、勢力を増強し、今の腑抜けた王家を倒す。その時に奴の首を城門に晒してやる。国王やフェーリスともどもな。フェーリスめ。露骨に俺を嫌いやがって。妹でも容赦はしないからな」
「その時が楽しみだ。アハ、アハハハハハ」
部屋の中にマルムスの高笑いが響く。
「なに、時間は十分にある」
ユウキについて(その2)
ユウキは男の子から、ぼっきゅんぼんな美少女になってしまいました。最初は戸惑うことも多かった女の子の体ですが、学園に入る頃にはすっかり慣れて、女の子としての気持ちが強くなっています(たまに男の子としての感性がよみがえりますが、稀です)。
むしろ、同級生より女の子らしいかもしれません。恋もします。ただ、男の子時代の名残として「ボクっ子」にしています。