第235話 依頼の終わりとユウキの想い
ユウキたちが監獄塔の1階、資料館管理室の裏口から出ると既に日は高く昇っており、時刻を見ると昼を過ぎていた。
「もうこんな時間…。アンリ様、任務達成証はギルドに提出しておいてくれませんか? わたしもうへとへとなんで明日にでも取りに行きます。今日は帰って寝たい…」
「うん、わかったよ」
「じゃあここで。ステラ、宿に戻ろう」
「ハイ、ユウキさん。アンリ様、寂しいけどここで…」
「ステラ、ゆっくり休んで。それとユウキさん、明日、また王宮に来てくれませんか。母上に賢者の鏡を使ってみたいんです。エドモンズ三世の知識が必要かもしれないので…」
「はあ、そういう理由なら仕方ありませんね。わかりました」
ユウキはドゥルグと王宮に入る段取りを調整して確認すると、紙にメモにしてマジックポーチに仕舞った。そして自分の家に帰るラビィと別れ、ふらふらする足取りで「さざなみ亭」に戻った。
2人がさざなみ亭に戻ると、リリーナが「お疲れ様」といって迎えてくれた。一旦部屋に荷物を置いて、3件隣の共同浴場でお風呂に入り、とりあえず体を綺麗にすると、宿の部屋でぐっすり眠ってしまった。
ユウキとステラが目覚めたのは翌日の朝。日も大分高くなってからであった。時刻を見ると8時を過ぎている。
「あの後、ずっと寝てしまったのか…。ご飯食べてないからお腹すいたな。ステラ起きて、朝ごはん食べに行こうよ」
「おはようございます、ユウキさん。ふあ…、まだ疲れが取れません…」
宿の食堂でテーブルに座るとリリーナが朝食を運んできた。手作りパンとオレンジのジャム。温かいスープとソーセージに目玉焼き。素朴だけどとても美味しく、昨日の昼から何も食べていなかったユウキもステラもスープをお代わりした。
その間、リリーナが監獄塔探索の話を聞きたがったので、かいつまんで話してあげると、とても驚いていた。
「驚いた…。あの塔の最上階に行って戻って来たって、多分ユウキさんたちが初めてだよ。しかも、ゴーストやレイスと戦ったなんて…凄いの一言だよ。はあ、ビックリ」
食事を終えたユウキとステラは部屋で少し休憩した後に洗顔、歯磨きを済ませ、着替えると冒険者ギルドに向かった。ギルドに向かう途中、ユウキは気になっていたことをエドモンズ三世に聞いてみた。
(エロモン、聞こえる?)
『聞こえとるが、ユウキお主、儂の本名覚えとらんのか?』
(ちゃんとわかっているよ。エタノール三世でしょう。ドヤ!)
『エドモンズじゃ! 全然違うわ!』
(ねえ、聞きたいんだけど、塔の8階で牢獄の中にたくさんの白骨があったの。大人も子供もたくさん…。みんなスケルトンになってて、救いを求めていた。わたしが天に送ると、「ありがとう」って感謝してくれたの…。あの人たちは何故囚われていたの? あんな死に方を強要されるような罪を犯したの?)
『あの者どもか…。確か儂がワイトキングとしてよみがえった後だったな。儂が死んで100年後位に塔に幽閉されたのだ。あの頃のイザヴェルは権力欲と贅沢に溺れた女王の支配する時代でな。高額な税が課せられ、払えない者は容赦なく資産を国に取り上げられた。おそらく、税が払えず家などの資産を取り上げられた者どもだろう』
『塔に閉じ込められ、食事も与えられず死んだのだ。見せしめとしてな。可哀そうなことだ。ずっと救ってくれる者を待ち続けたのであろうなあ…。お主、良い事をしたな』
(そうなんだ…。魂を救えたのは良かったけど、あの人たち幸せだったのかな…)
『ユウキよ、過去の事は過去の事。お主はこれからの事を考えるのだ。他人の幸せだけでなく自分自身の幸せをな。儂は個人としての幸せは掴めなかったが、国王としての幸せは掴んだぞ。国を発展させ、国民が豊かな生活を享受し、喜ぶ姿を見れたのが儂の幸せであった』
『ワイトキングとなって、塔の中で長い年月を無為に過ごしたが、今の儂はお主の幸せの旅路を手助けしたいと思うとる。お主が幸せになればわしも幸せになる。ステちゃんだってそうじゃ。よいかユウキ、決して過去を振り返るではないぞ』
(エロモン、ありがとう。うん、わたし自分の幸せ、頑張って見つけるよ。でもワイト・サーチでわたしの事見たね、バカ…。暗黒の魔女の事はみんなには内緒だよ)
『わかっておる。女子と秘密の共有か。うひょひょ、恥骨が疼くのう』
(恥骨が疼くってなんなのよ!)
ユウキがエドモンズ三世と念話で会話しているうちに冒険者ギルドに到着した。入り口ではラビィが待っていた。
「おはようラビィ。乳毛は抜いた?」
「朝の挨拶が乳毛って…酷いよ。ちゃんと抜きました! そして、おはようです!」
「うふふ、ラビィさんってホント、面白いですね」
「ステちゃん、それ褒め言葉じゃないよう」
3人でギルドに入り、受付嬢のサラの窓口に並んだ。サラはユウキの姿を見て無事に帰ってきたことを喜んでくれた。
「無事のご帰還、おめでとうございます。アンリ様から任務達成確認証が届いてますよ。この書類にサインを…、ハイ! 確認できました。これが達成報酬です。王国金貨で10枚です。流石に王族の依頼は破格ですね」
ユウキは3枚ずつ均等に分け、残り1枚は監獄塔で死んだ人たちの供養に使おうと決めた。ラビィは白パンに干し肉が買えると喜んでいる。
次いで、ユウキのラビィに対する依頼の清算をした。契約日は1日残っていたが、達成として認定し、銀貨6枚をギルドに支払い、手数料を引かれた銀貨5枚がラビィに支払われた。ホントはボーナスも付けようかと思っていたユウキであったが、監獄塔で罠の解除に失敗し、危うく死にそうになったことで、精神的損害と認定して相殺した。
「さて、アンリ様との約束だし、王宮にいってみましょうか」
「やった! アンリ様と会えるね!」
王宮に行くことで、ステラが素直に喜んでいる。ユウキはその姿に微笑ましさと妬ましさを感じ、微妙な笑いになった。ラビィはユウキの微妙な顔つきに恐怖を感じる。
(こ、こわ…。あれ、妬みの笑いだ。どんだけリア充が憎いのですか…)
ギルドの外に出て待っていると1台の馬車がやってきて、3人の目の前で停車した。御者台からドゥルグが声をかけて来て馬車に乗るよう言い、馬車の乗り込むとドゥルグが御者に声をかけ、馬車が出発した。
ガラガラと車輪の音を立てて馬車は通りを進み、王宮の城壁前に来るとぐるりと周囲を囲む道路に入り、裏門の方に向かう。なにしろ大きなお城なので、裏に回るだけでも時間がかかる。ステラとラビィは、昨夜の疲れが抜けきっていないのか、居眠りをしている。
(しかし、白くて大きくて綺麗な壁だね~。汚れひとつないよ)
『そうじゃろう、そうじゃろう。儂の設計でな、自慢の白壁じゃ。もっと褒めてくれてもいいのよ』
(はいはい、凄い凄い)
『素直じゃないのう、このツンデレめ』
ユウキとエドモンズ三世が当時の宮殿について話をしているうちに、宮殿の裏門に到着した。ドゥルグが門番と二言三言話し、門の中に入って少し進み、宮殿の裏口を通り過ぎて使用人の通用口に到着した。
「ステラ、ラビィ、着いたよ。起きて」
「う、ううん…。あ、寝てしまいました…。ごめんなさい」
「王宮に着いたよ、降りるから準備して。ほら、起きろ、ドジウサギ!」
ユウキが涎をたらして寝ているラビィをゲシっと蹴って起こし、馬車から降りるとドゥルグが3人を見渡して注意してきた。
「お前たちは、女王陛下のお世話係として、新しく城で雇った使用人ということにしている。お前たちの事を知っているのは、各王子、王女と執事長、メイド長、そして俺だけだ。粗相のないように振舞ってくれよ」
通用口から入った直ぐの部屋に、ユウキたちを案内したドゥルグは、中にある衣装に着替えるよう言って部屋を出た。ユウキが衣装を手に取って見ると、それはメイド服であった。




