第234話 ユウキの新しい仲間
「アンリ様!」
ユウキが慌ててアンリが埋もれた場所に駆け寄り、木箱や道具類を取り除くと、ぐったりと倒れているアンリがいた。手には丸い金属製らしき道具を持っている。
「アンリ王子!」
ドゥルグがアンリを抱き起すと「うう~ん…」と唸って気がついた。幸いどこにも怪我はないようで、その場の全員がホッとする。
『うぬ! 小僧の持っている物は…「賢者の鏡」か! 儂、そんな大層なものも持ち出していたのか…』
「エロモン、賢者の鏡って?」
『儂はエドモンズじゃ! どっかのモンスターみたいに言うな! このデカ乳は』
『賢者の鏡とはな、この世の理、全ての真理を教示すると言われる伝説の魔道具じゃ。遥かな大昔、魔法文明が最盛期を迎えていた頃の遺物らしい。ただ…』
「ただ、何よ」
『その鏡は、自身が認めた者にしか答えないと聞いたことがある。使いこなすのは至難の業であるとな』
「……それでもいいです。これを僕に下さい。お願いします」
『うむ、いいぞ。約束だからな。そもそも、この鏡は王家の宝。王族の小僧なら所持する権利がある』
「あ、ありがとう(これで、母上の病の正体がわかれば、助ける手立てが…)」
アンリはしっかりと賢者の鏡を抱き締めた。自分の願いが叶うよう期待しながら…。
「みんな、宝物は手に入れたよね。じゃあ、戻ろうか。長時間の探索や戦闘で疲れたし、ゆっくり休みたい…」
ユウキが戻ろうと提案すると皆が賛成し、アンリとドゥルグ、ラビィが下に降りていく。ステラが戻ろうと縄梯子に手をかけた時、ユウキがステラに声をかけた。
「ステラ、エドモンズ三世を宝珠に隠して」
「あっ、そうでした。では…」
ステラがネックレスを握り締め、エドモンズ三世を収容しようと願うが、宝珠は全く反応しない。
「あれ? どうしてかな…。エロモンが入らないです」
『エロモンが定着してきたな…。残念ながらステラちゃんには魔力がないから、宝珠を使いこなせないし、儂を眷属にすることは不可能なようじゃな』
「よかった! 残念ですがよかった! エドモンズさんごめんなさいでよかった!」
「ステラ、そんなに嫌だったの…。仕方ないなあ、エロモン、わたしに従属しなさい。それでいい?」
『喜んで! 儂は思春期の青い果実も好きじゃが、巨乳美少女も大好きなんじゃ!』
「最低最悪だね。どうして私の周りにはこんなのしか寄って来ないのか…。あ、そのネックレスはステラにあげるよ。大切にしてね」
「ハイ、ありがとうございますユウキさん! じゃあ、先に行きますね」
ステラはネックレスを服の内側に入れ、縄梯子をゆっくりと降りて行った。ユウキも降りようと縄梯子に手をかけたが、エドモンズ三世に呼び止められる。
『待てユウキ』
「ん、なに?」
『お主は、この部屋にある魔道具とかはいらんのか? 皆の様子をずっと見ていただけの様であったが』
「うん…。わたしにはこの鋼の剣と魔槍ゲイボルグがあるから。どちらも、わたしを大切に育ててくれた人の形見…。大切な宝物だから、他はいらないの」
『そうか…』
エドモンズ三世は、部屋の中にある戸棚に近付くと、ひとつの引き出しを開けて中から2つのアイテムを取り出し、ユウキに見せて来た。ひとつはハートのペンダントが着いた黒いリボンの可愛いチョーカー、もうひとつは様々な宝珠で飾られた黄金のブレスレット。
「これは?」
『うむ、これは「親愛のチョーカー」といってな、どのような効果があるか分らんが、ユウキに似合うと思うてな…。ブレスレットは「魔法返しの腕輪」じゃ。これも賢者の鏡と同じく古代の遺物でな、あらゆる魔術を無効にするというマジックアイテムじゃ。ただ、自身への防御魔法や治癒魔法も無効化してしまうため使いどころが難しいが、持っていて損はない』
「ふふ、ありがたくいただくね。わあ、このチョーカーすごく可愛い。気に入ったよ」
『それは何よりじゃ』
早速チョーカーを首に巻いて喜ぶユウキを見て、エドモンズは思う。
(ステちゃんのついでにワイト・サーチでこの娘を見たが、何という過酷な運命を背負った娘じゃ。異世界転移に生体交換、迫害からの魔女裁判、暗黒の魔女としての覚醒…。あまりにも重すぎる。そして、悲しみに満ちた心を癒すため、姉との約束を果たすために幸せを求める旅を続ける…か。でも、それを面に出さず頑張っておる。健気なものじゃ…)
(今はいいが、一歩間違えばまた悲劇を繰り返す可能性がある。その道を歩ませる訳にはいかぬ。この娘には幸せになってもらいたい…。ステちゃんでは無理だ。あの子の気持ちはユウキよりあの小僧に向いておる。この儂が最後まで付き添って導いてやらねば…。その意味では、ステちゃんに魔力が無かったのは僥倖だったのう…)
「ん、どうしたの? わたしのことじっと見て」
『いや…、お主はほんに美人だと思うてな…。エリザベートも美しかったが、お主の足元にも及ばん』
「ど、どうしたの急に…。エロモンはそんなキャラじゃないでしょう」
エドモンズ三世は照れ笑いを浮かべるユウキを見て思う。
(ユウキにはエリスの加護が付いておるな。だからか分らんが、この娘の姿は女神エリスそのものが具現化した様じゃ。美しいのも頷けるのう。だが、男運がわるいのは何故じゃ? まあ、ユウキには黙っていたが、あのチョーカーには異性運上昇効果がある。男運の悪さを相殺してくれるじゃろうて)
「ね、ねえ、もう下にいかない?」
『おお、そうじゃったの。じゃが、儂はどうすれば良いのだ?』
「このイヤリングの黒真珠の中に入れるわ。ここなら、念話でわたしと会話も出来るしね。いいでしょう」
『うむ。任せる』
ユウキは暗黒魔法でイヤリングに魔力を込めると、黒いゲートのようなものが空間に開いた。エドモンズ三世はその中に入るとゲートが閉じて黒真珠の中に吸い込まれて行った。
(エロモン、聞こえる?)
『聞こえるぞ、女子と秘密の会話か…。いや~ん、胸のハートがドキドキしちゃう!』
(キモイ!)
エドモンズ三世を黒真珠に入れたユウキは、縄梯子を伝って元の部屋に戻った。下ではアンリやラビィたちが待っていてくれたが、アンリとステラは仲良く手を繋ぎ、キャッキャウフフと楽しそうに話をしている。ラヴィとドゥルグはお互い手に入れた武器や道具を見せ合っていた。
「あ、ユウキさん。あれ、そのチョーカーすごく可愛いですね。宝物庫で見つけて来たんですか。だから遅かったんですね」
「うん。待たせてゴメンね、ステラ」
「ユウキさん、塔の攻略を手伝ってくれてありがとう。願いを叶える宝具は見つからなかったけど、代わりになりそうな宝具が手に入りました。依頼任務完了です。本当にありがとう」
アンリがユウキとステラに感謝し、任務成功と認めてくれた。ユウキはホッとするとともに、ただの塔探索だったはずなのに、色々な事があって大変だったなと思う。
しかし、まだ下に降りるまでアンリの護衛任務が残っている。ユウキはもう少し頑張ろうと気合を入れ、階下に向かう階段を下りていくのであった




