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第229話 監獄塔探索①

 8階から9階へ上る階段を歩くが、幸いにして罠はなかった。その事実にへっぽこスカウトのラビィは安堵する。パーティ全員無事に9階に到着した。灯りの効果が落ちて来たので、アンリは再度「トーチ」を唱え、周囲を明るくする。

 9階は最上階の管理を行う管理人室だったみたいで、大きなテーブルとイス、本棚や調理台などがある。物を入れる収容箱もいくつかあった。


「ほほう、これはお宝の臭いがプンプンしますね~」


 ラビィがスカウト魂を刺激されたのか、揉み手をしながら収容箱を開け始めた。ステラとアンリはシートを引いた上に座って、2人仲良くお菓子を食べていて、ドゥルグは王子の背後で警戒している。ユウキはリア充化しているステラを横目で羨ましそうに見ながら本棚を調べていた。


「うむむ…古くてかび臭い。触ったら病気になりそうだよ…」


「ん…、これ、日記かな。誰のだろう?」

「えと、消えかかっていて読みづらいな…。う~んと…、ア…、アベル・イシューカ・エ、見づらいな…。エドモンズ三世? どっかの大泥棒みたいな名前だね。誰よこの人?」


「エドモンズ三世だって! ユウキさん、その人が最上階に幽閉された王様の名前なんだ。その日記見せてくれませんか!」

「いいけど、中のインクほとんど消えてて読めないよ」

「それでもいいんだ。見せて」


 アンリは日記の中をパラパラとめくり始めた。ステラも一緒に覗き込んでいる。テーブルの上ではラビィが収納箱から取り出した戦利品を並べていたが、ほとんどが長い年月のうちにボロボロになっていた。それでも金の腕輪や、宝石で装飾された首飾りなど、値打ち物もいくつかあり、ほくほく顔で袋に詰め始めた。


 ユウキはガラクタの中から1本の鞘に納められた短剣を見つけた。皮の鞘はボロボロになっていたが、中の剣自体は錆びも刃こぼれもなく、トーチの光を反射して輝いている。


「ほう…、これは魔晶石を鍛えた剣だな。中々の技物だぞ」

「ドゥルグさん、知っているんですか?」


「ああ、魔晶石はオレの故郷、獣人国ウルでしか採掘されない希少石でな。これで鍛えた武器は強く、軽く、錆びないし、魔力を帯びて様々な効果を発揮するんだ。物凄く高価な代物だぞ。中々いいものを見つけたな」


「へえ…、魔晶石の剣か。じゃあ、ドゥルグさんにあげますよ。ハイ!」

「ハイってお前、これはかなりの技物だぞ。使わなくても相当な金で売れる。それを簡単にあげるって…」


「いいんですよ。わたしもステラも武器はあるし、あんな我儘ボーイのお供は辛いでしょう。だからご褒美です!」


「そうか…、では有難く頂戴しよう。ありがとう、ユウキだったか」

「ふふ、ユウキです」



 9階では特に怪異な事は起こらず、少しの間休憩をとって、いよいよ10階に上がることにした。時間はもう深夜。不気味な気配に階段の手前に立ったユウキは、昨日感じたような不思議な思念を感じ始めていた。


「うう…ん、何か強い思念を感じるよ。10階には何かいると思う。気をつけて進もう。先人たちのように死んだり気が触れたんでは元も子もないからね」

「ユ、ユウキさん、おどかないで下さいよ…」


「ステラはアンリ様と手を繋いでれば怖くないでしょう。何よ、すっかり仲良くなっちゃって。つん!」

「あーあ、また始まった。妬み女の恨み節」


「ユウキちゃん、やっぱ行かなきゃダメ? なんか罠の臭いがプンプンするんだけど。おしっこちびりそう…」

「スカウトが行かなきゃ誰が行くってのよ! 小便漏らしてもすぐ乾く。さっさと行け!」


(ユウキさんが段々下品になって行く…、清純派美少女とは一体…)

 ステラが心の中で嘆く。


 ラビィはゆっくりと階段を1歩ずつ上がる10段ほど進んだところで、腕を横に伸ばして全員を止めた。そして、慎重に壁を調べると、何かの絡繰からくりがされているのを見つけた。


「ここに何かある。解除するから少し待ってて…、あっ!」


「あっ」の声と同時に、ユウキの顔すれすれを何かが猛烈な速度で横切って、バイン!と音を立てて壁に突き刺さった。ユウキが「ギギギ」とぎこちなく顔を回して横を見ると、太くて大きくて硬そうな矢が壁に突き刺さっている。


「あっ、あぶなっ…」

「ゴメン! 失敗しちゃった。てへ…」

「てへ、じゃないよ! あと5cm前に出ていたら首から上がなくなっていたよ!」


「はああ…、まだ心臓がドキドキしているよ」

「どれどれ、えっ、ユウキさん鼓動が感じられません、心臓が止まってます!」

「ステラ…、そこ心臓じゃない。おっぱい…」

 ユウキのおっぱいを触るステラをアンリとドゥルグは羨ましそうに見るのだった。



 中間の踊り場から上に向かう階段を少し進むと、ラビィが壁に何かを発見した。解除作業に入る彼女を見てユウキは不安いっぱい。しきりに「大丈夫?」と声をかける。


「もう心配性だなあ、ユウキちゃんは。まあ見てて…、あれっ!」


「あれっ」の声と同時に、ユウキの大きな胸を掠めて、上からギロチンのような鉄の刃が高速で落ちてきて「ズガン!」と大きな音を立て、階段に深々と食い込んだ。


「ひっ、ひえっ…」

「ゴメンねユウキちゃん、失敗しちゃった、てへへ」

「てへへじゃないよ! もう少し前にいたら自慢のおっぱいがなくなっていたよ!」

「そしたら、あたしと同じ貧乳仲間だねっ!」

「うっさい! この、へっぽこウサギ!」


「どれどれ、ユウキさんの心臓はドキドキしてますかね…。えっ、動いてない!」

「ステラ…。だから、そこはおっぱいだって…」



 気を取り直して階段を上り、最後の1段に来た。ラビィが最後の罠を感知する。ユウキは危険を察知し、数段下がった。ステラたちも同様に下がる。


「もう、やだなあ、ユウキちゃんたら。今度は大丈夫だって。あたしを信じて、ねっ」

「絶対信じない!」


「では解除するよ…。これならいけるかも…、ありゃ?」


「ありゃ」の声と同時に、天井から太くて大きくて硬く逞しい槍が、ユウキの前後をXの形に挟み込むように降って来ると「ドガン!」と物凄い音を立てて床に突き刺さった!


「…………」

「ユ、ユウキちゃん…。あの…、その…、ゴメンね」


「ラビィさん、ユウキさん気を失ってますよ。器用に立ったまま…」

「うさぎのお姉さん、本当にスカウト? 転職を考えた方がいいと思うけど」

「王子の言う通りだ、向いてねえぞ。お前」


「散々な言われよう…。でも、反論できない。精一杯頑張ってるんだけどな」

「結果を出さなきゃ意味ないですけどね」

「うう、ステラちゃんが何気に厳しい…」



「う、うう…ん、ここはどこ。わたしは誰…」

「ユウキさん、しっかりしてください!」

 ステラはユウキの頬をぺしぺし叩き、しっかりするように声をかける。


「はっ! ラビィ~、危うく死ぬところだったじゃない! このっ、このっ!」

 気が付いたユウキは、へっぽこスカウトのラビィの首根っこを掴み、ガクガク揺さぶる。


「ぐ、ぐるじい…。ユウキちゃん…ぐるじいよ…。イっちゃう、イっちゃうよぉ…」

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