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第227話 ラビィの観光案内

「早く、こっちだよ、こっち!」

 ラビィが手招きしてユウキとステラを呼んだ。2人はラビィの側に寄って目の前の建物を見上げる。そして、言葉も出ないほど感動していた。


 ユウキたち3人はイザヴェル王宮に来ている。ラビィに案内されて王宮の正門の前に立つとその大きさと荘厳さに圧倒された。観光案内の立て札によると、王宮は高さ10mほどの城壁で囲まれており、幅4km、長さ3kmもあり、総面積は12㎢にもなるという。

 また、正門は高さ20mほどの豪華な装飾がされた凸状の建物で、左右に高さ30mほどの円筒状の構造物が立っている。白い壁が日の光を反射して輝いていて非常に美しい。


「こんな美しい建物初めて見た(ロディニア王国の門も大きくて綺麗だったけど、イザヴェルに比べたら大人と子供との差くらいあるよ)」

「私、あまりの美麗さに感動しました…」


「あははは。門でこれだと王宮を見たらびっくりして心臓が止まっちゃうよ。それはそれは綺麗な建物なんだから。遠くから見ると白く輝いた鳥が飛び立つように見えることから、白鳥宮とも呼ばれるよ」


「へー、優雅な名前だね」

「うん、あたしたち国民の自慢なんだ! さあ、中に入ってみよう!」


 ラビィに案内されて、門をくぐり王宮内に入った。門から王宮までは幅100mほどの石畳の通路が伸びていて多くの観光客が歩いている。また、門から宮殿までの間は広大な庭園となっており、木々が整然と植えられ、絨毯のように様々な花が植えられた花畑では色とりどりの花が咲き乱れている。

 さらに、ほぼ中央に大きな泉が作られていて巨大な女神像が立っており、像の持つ水甕から噴水が高く噴きあがっていた。泉の周りにはベンチがあって誰でも休むことが出来る。


 3人はベンチに腰かけて、持参のお菓子を食べながら、壮大な景色を楽しんでいた。天気が良くて気温も上がっているはずだが、噴水によって発生する水のミストと泉を渡る風のお陰で、とても気持ちがいい。


「この女神像は?」ステラが像を見上げてラビィに質問した。

「ふっふー、この像は水の女神アクア様ですよー。この国は「水の国」だからね、アクア様を信仰しているんだよ」

「へー」


 ラビィの話によると庭園の中には遊歩道が張り巡らされ、誰でも季節の花々を楽しめるほか、大きな池もあってボート遊びもできるのだという。


「この池でボートに乗ったあと、アクア様の像の下で愛を誓うとそのカップルは永遠に幸せになるっていう言い伝えがあって、この庭園は定番のデートコースなんだよ」


「なんですと、それは聞き捨てならぬ。この世の幸せカップルは討伐すべき対象なのだ。ステラ、今からボートを全て沈めに行くよ!」

「何バカなこと言ってるんです。どこまでリア充が憎いんですか、この究極残念女は」

「ひど! 違うもん、残念女じゃないもん!」

「ぷっ、あははは。ユウキちゃんって面白いね」


 バカ話をして一頻り笑った3人は、泉から30分ほど歩いて宮殿の前に来ていた。近くで見る白亜の宮殿の大きさと美しさに圧倒される。凸型に作られた建物は中央部が5階建てで4階部分に大きなバルコニーがある。左右は3階建ての横に長い作りをしていて、中央の建物から先に進むにつれてやや斜め前にせり出すような造りになっていて、水鳥が羽ばたくようにも見える。


「わああ…、凄くキレイ。白鳥宮って呼ばれるのも解る気がするな」

「ホントですね。一度でいいからこんなお城で綺麗なドレスを着て生活してみたいな」

「そうだね…。でも、わたしたちには一生縁がないよね」


「どう、お2人さん。満足してる?」

「うん、ありがとうねラビィ。ホント楽しいよ」

「私もです! こんな素敵な体験、初めて…。来てよかったぁ!」

「あら、こっち側はお花畑になってるんだね。む、あれは…」


 ユウキの視線の先には、お花畑の中に佇む幸せそうなアベックがいた。


「ウフフ、見て、キレイなお花畑」

「そうだね。でも、君の方が綺麗だよ…」

「ヤダ、アランったら…」

「エレナ…」


「うりゃあああ! 妬みの垂直チョップ!」

「きゃあ!」「うわっ!」

「はあ、はあ、はあ…」


 今にもキスしようとしていた2人のアベックの間を垂直チョップが風を巻いて振り下された。仰け反ったアベックは驚いた目で振り向くと、1人の女が妬み全開の視線を向けて息を切らせて立っている。

 アベックが呆然としていると、タタタッと銀髪の少女が走ってきて、妬み全開女の後頭部をぺしっと叩き、腕を取ってずるずると引き摺って連れ去った。


「何だったんだ、あれは…」

「さあ…」



「もう、一体何してるんですか。アナタは!」

「だって、あんまり幸せそうで憎らしかったんだもん。どうしても破壊衝動が抑えられなくて…。ステラだってそう思うでしょう」

「思いませんよ。バカですか? バカですよね? このバカ女!」


「バカバカ言わないでよ。本当にバカみたいじゃないの。ステちゃん」

「ステちゃん…」


「うっ…、ぶは…、あはははっ! 面白い。ホント、ユウキちゃんたちって面白いね~」

「面白くも何ともありませんよ、全く…」

 ステラがぽそっと呟いたのが可笑しくて、ラビィはまた笑ってしまうのであった。


「はーはー、面白かった。ねえ、あれ見て」


 ラビィが指さした方向は宮殿を巡る城壁の一角。庭園の外れの目立たない場所に建っている10回建ての塔があった。


「へえ、あんな所に塔が…。ラビィ、あれは?」


「あれはね、監獄塔なんだよ。別名幽霊塔。今はもう使われていなくて、1階は資料館、5階は展望台になっているんだよ。でも、5階から上は立ち入り禁止なの。幽霊が出て危険だからって」


「ほ、本当に幽霊が出るんですか…?」

 ステラが顔を青ざめさせてラビィに聞いてきた。


「さあ、どうなのかな? 100年以上前に封鎖されたし、誰も見た人がいないからね。だから、怖がらなくて大丈夫だよ」

「そうなんだ、よかった」

「あはは、折角だし行ってみようか。展望台からの眺めは最高だよ」



 遊歩道を歩いて監獄塔に近付く。塔自体は石造りの頑丈そうな建物で、下部は30m四方の正方形をした2階建て。3階以上は一回り小さい20m四方のタワーとなって屹え立っている。3人は入口の受付で入館料(1人銅貨3枚)を支払い、中に入った。

 資料館には昔王宮で使われていた様々な調度品が展示され、ステラとラビィはガラスでできた装飾品を見ている。2人から離れた場所で文字が刻まれた石板や、国の歴史、紀行文などが書かれた木版を読んでいたユウキは、ある一角に目立たないように置かれている木版を見つけた。


(ん、何だろう…)


 ユウキは書かれている文を読んでみる。そこには、300年前この地を統治していた王がいた。王は40も半ばで独身だったが、世継ぎを心配した家臣の勧めで若く美しい娘を王妃に迎えた。王は美しい王妃を心から愛し、最初は大切に扱った。しかし、愛するあまり嫉妬深くなって謂れなき暴力を振るうようになった。しかし、王妃には結婚する前から付き合っている貴族の男性がいた。

 ある時、貴族の男性は王妃の協力を得て、王を捕らえて監獄塔の最上階に幽閉することに成功。王妃は恋人の貴族を新たな王に迎えて本当の愛を掴み幸せに暮らした。一方、幽閉された王は塔の最上階から2人の住まう王宮を眺め、激しく恨みを滾らせながら、寂しく死んだことが書かれていた。


(この話、本当なのかな? 上手く脚色されているようにも感じるけど…)


「お姉さん、その話に興味があるの?」

「えっ」


 その声にユウキが振り向くと10歳くらいの男の子が立っていた。男の子は身なりの良い服装をして興味深そうにユウキを見ている。しばらく見つめ合っていると、ラビィが声をかけて来た。


「ユウキちゃーん、展望台に行ってみよう!」

「あ、うん。今行く」


 階段下にいた2人と合流した際にユウキはもう一度木版の場所を見たが、声をかけて来た子供はもういなかった。


 5階まで一気に階段を上る。普段から鍛えているユウキは平気な顔だが、ステラとラビィは息も絶え絶えになっている。


「ぜーはーぜーはー、さすがユウキさん。おっぱいだけでなく体力もバケモノです…」

「ヒィ、ヒィ…、さ、酸素…下さい…」

「もう、だらしないなぁ2人とも。ほら、見てごらんよ。凄くいい景色だよ」


 窓辺に立って景色を眺める。遠くに見える宮殿は白く輝き、池の水は日の光でキラキラ反射している。庭園では色とりどりの花々が絨毯のように広がっている。その美しさに3人は言葉もなく、見とれていた。


 一通り景色を堪能したユウキは別の窓からも見ようと体を反対側に向けた時、立ち入り禁止の看板が掲げられた階段を見つけた。近くまで寄って上を覗いてみると、何だか得体の知れない感覚がある。


(何だろう? 強い力…、ううん、思念を感じる。しかも、生者じゃない…)


「気になる?」ユウキの様子を見たラビィが声をかけて来た。

「え、うん。ちょっとね…」

「さっきも言ったけど、最上階には幽霊が出るという噂があるんだよ。実際、見た人もいるんだって」


「幽霊…?」


「そう。何でも昔、いわれなき罪で幽閉された王様が無念の内に死んで、その怨念が漂っているらしいよ。何人かが噂の真偽を確かめようと最上階に泊って見たんだけど、恐怖に怯えて塔から飛び降りたり、正気を失って二度と元に戻らなかったりで、結局、ここから上は危険だということで立ち入り禁止にされたの」


「怖いですね…。もし、お化けに出会ったらユウキさんを囮にして逃げようっと…」

「ステラは何気に酷いね。そんな悪い子はお化けに食べさせちゃうぞぉ~」

「きゃあ~」


 ユウキとステラがふざけあっていると、背後から声がかかった。

「お姉さん、塔の秘密、知りたくない?」

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