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第226話 イザヴェルの冒険者ギルド

 翌日、他の宿泊客と一緒にサラダとハムエッグ、パンの朝食を食べ、リリーナに冒険者ギルドの場所を聞いた後に部屋に戻って身支度をする。歯を磨いて顔を洗い、軽くメイクをして白いブラウスの上に黒いミニ丈のワンピースを着て、ブラウスの襟に黒い紐リボンを結ぶ。髪には金の細工物の髪飾り。エンジのローヒールを履き、肩掛け紐をつけたマジックポーチを持って準備完了。

 ステラは、薄茶のチェック柄の膝丈までの半袖ワンピースにした。服と同じ柄の紐リボンを腰に回して前で結び、護身用のダガ―を帯剣する。ララの形見のリュックを背負い、可愛い黒のパンプスを履いて準備を終えた。


「ステラの服、可愛いね。良く似合っているよ」

「ユウキさんもバッチリ似合ってます。じゃあ行きます?」


 メアリーとリリーナに出かけることを告げて、繁華街の停留所からウールブルーン市の中心街に向かう辻馬車に乗る。コトコトと揺られて20分ほどで中心街に着いた。目指す冒険者ギルドは、辻馬車の停留所からさほど遠くない場所にあり、朝というのに大勢の冒険者や依頼主と思われる人が行きかっている。

 ユウキとステラは中に入って、受付カウンターに進む列に並ぶ。周囲を見ると大勢の冒険者が掲示板を見たり、酒場のテーブルに座って食事したりしている。そのうち、ユウキの番が来た。2人の登録票をカウンターに置いて、受付のお姉さんに更新依頼をする。


「スクルドからイザヴェルに来たので登録更新をお願いします」

「はい、承りました。更新料は2名で銀貨1枚です」


 ユウキが銀貨1枚をカウンターに置くが、受付嬢が訝しげに見て来るのに気づいた。


「あの…、なにか?」

「あ、いえ、あまりにも冒険者らしくない格好なので…。スミマセン」


(まあ、仕方ないよね。わたしとステラの服装、どう見ても市井の女の子の装いだから場違い感半端ないもん)


「ハイ終わりました」


 受付嬢から登録票を受け取り、何の気なしに掲示板を覗いてみる。


「えーと、商品運搬馬車の護衛、街道や川に出没する魔物の駆除。へえ、湖に出現する魔龍の退治ってのもある。怖いよねブルブル…。これ以外では…逃げた猫探し、ベビーシッター、ドブさらい、農場でのレーチ摘み、薬草探しに喫茶店のウェイトレス…」


「よし! ステラ、王宮観光に行こう!」

 相変わらず見切りが早いユウキであった。


 ユウキとステラがギルドを出ようと掲示板前から移動しようとしたら、数人のゴツイ冒険者たちが目の前に立ち塞がった。ステラがユウキの腕をギュッと掴む。


(ナニコレ、まったテンプレなの。もおー)


「よお、美人な姉ちゃん、俺らのパーティに入んねえか。なに、依頼は俺たちに任せとけ、姉ちゃんはメシとシモの世話さえしてくれればいいからよ」


「お断りなんですけど…」

「そう言うなって、気持ちいいことして金も貰える。最高じゃねえか。ただし、妊娠したら契約は終わりだがな」


 ギャハハハ! と冒険者たちが下品な笑いを上げる。ユウキが心の中で男運の悪さを嘆きながら、全力で断ろうと口を開きかけた時「いい加減にしなさいよ!」と背後から女の子の声がした。

 ユウキとステラ、冒険者が声がした方向に視線を向けると、うさ耳をした獣人の女の子が腰に両手を当てて男たちを睨んでいる。


「てめえはラビィ。お前にゃ用はねえぞ、ひっこめへっぽこ! それともこの姉ちゃんたちと一緒に俺らの下の世話をしてくれるってなら歓迎するぜ」

「うっさい! その子から離れろ。さっさとどっか行け!」

「なんだとテメエ…、痛めつけられてえのか」


「やめて下さい! ギルド内の暴力沙汰はご法度ですよ!」


 ユウキの受付をしてくれたお姉さんが、あわあわしながらやって来るが、男たちはお姉さんの腕を掴み、突き飛ばした。「きゃあっ!」と悲鳴を上げてお姉さんが床に転がり、ステラが慌ててお姉さんを助け起こす。お姉さんを立たせながらユウキを見ると、顔から表情が消え、冷たい目をして冒険者を見ているのに気づき、エヴァリーナの話を思い出してサッと顔を青ざめさせた。


(ヤ、ヤバいです…。ここで何とかしないと血の雨が降る。間違いなく!)


「お、おじさんたち、この人を怒らせない方がいいですよ。この人の名は「ユウキ」、今年の大陸最強戦士決定戦で2年連続チャンピオンのフランさんを一蹴した女傑です。全然そうは見えませんけど! 早くここから立ち去って下さい。でないととんでもないことになりますよ!」

 ステラがユウキの前に出て、男ら向かって叫んだ。


「な、なんだと。ユウキだと?」

「それじゃコイツが…可愛い顔して超ド級の変態と噂の…。マジかよ…」

「ウソだろ…。子供連れの母親達が教育に悪いって、大会本部に抗議のため押しかけたっていうあの女か…」


「ちょ、ちょっと! どういう噂が広がっているか聞きたくないけど、その噂の半分は間違っているからね! わたし変態じゃないし、清純派の乙女だからね!」


(半分は当たってるんだ…)

 ステラとラビィは顔を見合わせる。


 冒険者たちはユウキとお姉さんに「悪かったな、許してくれ」と謝り、ギルドを出て行った。出ていく冒険者の目には怯えの色が浮かんでいるのをユウキは見逃さなかった。


 冒険者ギルドの酒場に戻ったユウキとステラ。ユウキはテーブルに突っ伏してめそめそ泣いている。


「なんで、どうして、わたし変態じゃないのに…。あんな怯えた目しなくても…、ふぇえええん。ステラが余計なこと言うから…ガラスのハートが壊れちゃった…。グスグス」


「もう、めんどくさい女ですね。それにしても先ほどはありがとうございました」

「え、あははは。あんま役に立たなかったけどね、あたしはラビィ。見ての通りウサギの亜人だよ」


「はい! 私の名はステラ。実は私、オーガのお父さんと人のお母さんとの間に生まれたハーフオーガなんですよ。そして、この泣きべそ女はユウキさん」

「何気に厳しいねステラちゃん。でも、ハーフのオーガかあ、全然魔物っぽくないね」

「私、お母さんの血が濃いんです」


「そうなんだ。それにしても2人とも全然冒険者らしくないね。所謂冒険者登録目的の人なの?」

「実はそうなんです。ユウキさんはこの大陸世界を見て回るって言うので、私もご一緒させてもらっているんです」


(この人たちなら…。一か八かお願いしてみようかな)

 ラビィが泣きべそをかいているユウキの頭をぺしぺししているステラを見る。


「ユウキさん、いつまでめそめそしてるんですか。立派なおっぱいが泣きますよ! 王宮見学に行くんでしょ。ほら、泣き止んで」

「うう…、そうだね。折角イザヴェルに来たんだ。イヤな事は忘れて楽しもう…。あと、おっぱい関係ないから…」


 めそめそするユウキをステラが立ち上がらせ、ギルドを出ようとした所でラビィが2人に声をかけた。


「ね、ねえ! 良かったらあたしを雇わない? あたし、王都の町詳しいよ。案内役にピッタリだと思うんだけど。どうかな? 1日銀貨3枚…、ううん2枚でいいよ」


 ユウキはじっとラビィを見る。ラビィはせわしなく視線を動かし、落ち着かない様子だ。ステラも訝し気に視線を向ける。


「何か理由があるの?」

「い、言わなきゃダメ?」

「言ってくれないと判断できない」


「じ、実はね…。あたし、スカウト (盗賊系技能者)なんだけど、いざ事に当たろうとすると緊張してヘマが多くて失敗ばっかりしてしまうんだ。だから、一緒に行動してくれるパーティがいなくなっちゃって。でね…、依頼を受けられなくてお金が底をついてしまって…アハハ」


「ふうん…。どうするステラ」

「雇ってあげてもいいと思います。悪い人じゃないようですし」

「うん、ステラが言うなら間違いないか…。わかった、いいよ」


「やった! ありがとう。ハア…、これで少しの間生き延びられるぅ~」

「大袈裟ですねえ」


 ユウキは先ほどの受付のお姉さんの所に行き、指名依頼を出した。条件はウールブルーン市内の観光案内。報酬は1日銀貨2枚。期間は3日間で延長ありとした。


「うふふ、ラビィさんを雇ってくれてありがとうございます。いい子なんですけどおっちょこちょいなんですよね彼女。そこがいいところなんですけど、他の冒険者には評判が良くなくて…。彼女の事よろしくお願いしますね。あ、私はサラっていいます。何かあったら遠慮なく申し付けて下さいね」


「はい、ありがとうございます(サラさんって、リサさんに雰囲気が似ているな。いい人みたいでよかった…)」


 手続きを済ませたユウキは、ステラとラビィの元に行き、早速王宮観光に行くので案内してとお願いした。ラビィはありったけの笑顔を見せると、


「うん、任せて!」と胸を張るのであった。

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