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番外編1 カロリーナの新しい友人

「うぐぐ…、体が動かない…。だけど…頑張らなきゃ…」


 私は毎日、朝から夕方まで起きる・立つ・座るといった基本動作のほか、歩くためのトレーニングを行っている。そのための専用の部屋まで作ってもらった。


「ふう、疲れた…。今まで普通に行っていた動きを取り戻すのが、こんなに大変だなんて全然思わなかったよ」

「ははは、お嬢様は赤ちゃんと同じ状態ですからね。じっくり時間を掛けて行きましょうや。汗かいたでしょう、飲み物を持ってきやすんで、少し待っててください」


「はあ、ガイアったら、人事ひとごとのように…」


 私はパタンと床に倒れ、天井を眺める。そして、目を閉じると親友の女の子の顔を思い浮かべ、あの日の事を思い出す。


 ララが死んで、ユウキは悲しみのあまり暗黒の魔女となってしまった。王国の連中はその原因が自分たちにあったにも関わらずユウキを討伐すると決めた。私はいても立ってもいられず、1人でアクーラ要塞を飛び出した。

 ララはユウキを守るため死んだ。私はララを助けることも、ユウキを守ることも出来なかった。大事な時に何もできなかった私。今でもそんな自分を許せない…。


「グスっ…」


 自分を許せなくて、心を失ったユウキの側に居てあげたくて、私はユウキに寄り添うことに決め、マヤさんたちやオヤジさんと一緒に王国の連中相手に戦った。

 結果、多くの知己と友人を失った。自分自身もこの通り不自由な体になってしまった。でも、後悔はしていない。だって、ユウキを助けることが出来たから。あの子の心を救うことが出来たから…。


「ユウキ、今頃何しているかなー。あーあ、一緒に旅したかったなあ。早く手紙来ないかなー、もしかして旅が楽しくて忘れてるとか…。くそー、そうだったら許せん!」


「お嬢様、何一人でぶつぶつ言っているんですか、危ないヤツみたいですよ。ほら、飲み物持ってきましたよ」


「何よ、危ないヤツって。乙女に向かって酷いじゃない…って、また煎じ薬ぅ、勘弁してよ。苦いのよこれ」

「我慢我慢、体を治すためです。一気にってください」


「ガイアの鬼!」


 一気に苦い煎じ薬を飲む。ガイアはずっと私の体を心配して、トレーニングに付き合ってくれてる。それが終わって暗くなってから自分の仕事もしている。本当は感謝してるんだ。でも、恥ずかしくて言えないよ。


「さあ、トレーニング再開しよっと。ガイア、手伝って」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 夕日が沈む頃にはトレーニングも終わり、ママと妹たちが私をお風呂に入れてくれる。


「ゴメンねママ。私を抱えてお風呂に入るの大変でしょ」


「何を言っているんですか。あなたが生きて私たちの前にいて、こうして一緒に温もりを感じられることがママは嬉しいのよ。だから、カロリーナは気にしないでママに甘えなさい。いいこと?」


「うん、ありがとうママ」

「おねーちゃん、体洗ってあげるぅ」「わたしもー」

「おおー、頼むよ妹たちよ。おねーちゃんのお肌はデリケートだから、優しくね」


「わかったー、バリケードだね。固そうだね!」

「バリケードじゃない! デリケートよデリケート。もう…」


 ママと妹たちは、こうして私の体と髪の毛を毎日洗ってくれる。でも、いつも思う疑問がひとつ。


「ねえ、ママ。ママのおっぱい、結構大きいよね。何故、私の胸は全然成長しないのかな…。ママが私と同じ年頃の時ってどうだったの?」


「え、そ、そうね…。私が10代の頃は今と同じくらいあったかな…。大丈夫よ、女の子の魅力は胸の大きさじゃないんだから。ハートよ、ハート。わかった?」


「おねーちゃんはねー、きっと、パパ似なんだよ。だからおっぱいないんだよ」

「…ありがとう。パパ似で嬉しい。でも、胸だけはママに似たかったよ」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「はあ…」


 ベッドに運ばれ、1人横になる。窓から見える夜空の星々を眺めていると寂しさが募る。


「ユウキに会いたいな…。今頃何をしてるのかな…。あ、そうだ!」

「ユウキに貰った指輪、寂しくなったら話しかけてみてって言ってた。何かいいことがあるかも知れないって…。もしかしたら、ユウキと話せるのかな? 試してみよう」


 私は布団から抜け出して、ベッド脇に寄せてもらった机の引き出しにしまっていた指輪を取り出した。指輪を見ると馬車の中でユウキが私の手を握って、指輪を嵌めてくれたことを思い出す。今はトレーニングの邪魔になるから外している。それに、無くしたら大変だし。


 指輪をジッと見て、思い切って声を掛けてみる。知らない人が見たらきっと頭がおかしくなったと思われるかもしれないけど、平気だもん。


「あの…、もしもし、聞こえますか…。聞こえたら返事して…」

「あの、あの…ユウキ? 聞こえてますか…。もしもし…」


 しばらく待ったけど、指輪からの返事はない。何回か指輪に呼び掛けてみたが、うんともすんともいってこない。


「はは、やっぱりダメか…。そうだよね…。う、グス…ううぅ…」


 悲しくて、寂しくて、自然と涙が零れてくる。


『誰だ…、指輪に語り掛けるのは…。ユウキか? ユウキなのか?』


 突然指輪から声が聞こえた。びっくり! しかも、この声、聞き覚えある! そう、あの人だ! え、いい事ってこのこと? えええ~!


『む…、幻聴か…。確かに声が聞こえたと思ったが…』


「ま、待って! 私です。カロリーナです。バルコムさん、待って!」


『む、カロリーナ…、カロリーナだと。どうしてお前がその指輪を持っている? ユウキは、ユウキはどうした?』


「はい、実は…」


 私はバルコムさんと別れてからの出来事を、できるだけ事実に沿って正確に話した。ユウキが魔女に仕立て上げられ、迫害されたこと。王国に仇成す魔女として処刑されることになったユウキを庇ってララが死んだ事。そのショックで暗黒の魔女と化したユウキが王都を破壊し、王国の敵となって騎士団と戦い、結果、マヤさんや助さん格さん、ダスティンさんがユウキを守るために犠牲になった事など…。


「え、えぐ…。ユウキは…ユウキは心に傷を負ったまま…、北の大地を離れ、南に行くと…。その際、この指輪を私に預けたんです。寂しくなったら話かけてみてって…」

「だから、私、ユウキの事を思い出して寂しくなったから、話しかけてみたんですぅ…。えっうえっ…、うぇえええん…」


『……何という事だ。そんな事態になっていたとは…。ユウキの行方は分らんのだな?』

「はい…」


『カロリーナ、お前には随分と辛い思いをさせてしまったな…。済まぬ』

「いいんです。私はユウキを助けることが出来た。それだけで十分です」


『カロリーナ。どうだ、儂の話し相手にならぬか? 時々でも毎晩でもよい。儂と話をしようではないか。お前の体を治す協力もさせてくれ』


「えええ~~、私とですか? 嬉しいけど、私じゃユウキの代わりにはなりませんよ」

『ユウキの代わりじゃない。お前と話がしたいのだ』


「は、はい…。ええ~~、びっくりしちゃうです。でも、何か面白くなってきました」


 17歳と1000歳以上、変わったお友達関係がここに誕生した瞬間だった。

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