第216話 サヴォアコロネ村
乗合馬車は2頭引き10人乗りが6台、このうち1台は護衛の冒険者用だ。この他に荷物を満載した荷馬車が5台が出発を待っている。
ユウキとエヴァリーナは、受付でポーティアまでの料金(1人銀貨3枚)を支払うと、6号車に乗るように指示された。
「よっこらしょ」
「ユウキさん年寄りくさいです」
「あはは、自然と口に出ちゃった」
馬車に乗り込み空いている席に座る。2人が座ると満席となった。間もなく出発の合図が出され、ゴトゴトと馬車は進み始める。沿岸街道は舗装されているため、揺れはあるものの、轍に車輪が嵌まることもなく順調に進む。
途中の村に設置されている中継所で1泊し、翌日の昼前にポーティアに到着した。ユウキとエヴァリーナは下車すると、観光案内所に行ってサヴォアコロネ行きの乗合馬車乗り場を教えてもらおうとしたが、辺鄙過ぎて乗合馬車は出ていないという。
「うーん。今は昼前だから歩いて行けば夕方には着くと思うよ。ただ、狭い山道だから結構大変だよ。行くなら早い方がいいよ。薄暗くなったら野盗や魔物が出る可能性があるからね」
観光案内所のお兄さんに道を教えてもらい、サヴォアコロネに続く街道を歩き始める。ホテル街から住宅街を抜けると人家がなくなり、緩やかな上り坂が続く道になった。道の左右は林から森になり、鬱蒼としていて、鳥たちの鳴き声が煩い。時折、茂みの中でガサッと音がして、その度にユウキはドキッとする。
歩き始めて3時間ほど経ったろうか…、ここまで誰ともすれ違わず、段々不安になって来る。崖から湧き水の流れる少し開けた場所があったので、とりあえず一旦休憩することにした。
「ふひぃ~、疲れたぁ~。エヴァは大丈夫…?」
「ぜえ、ぜえ、だ、大丈夫…ではないです…。死にそう…。はあ、はあ…」
ユウキは靴を脱いで湧き水に足を当てる。湧き水はとても冷たくて、火照った足の熱を取ってくれ、とても気持ちいい。
「エヴァもやってごらんよ。気持ちいいよ」
30分ほど足を冷やすと、少し疲れが取れた気がした。2人は靴を履き直して、再びサヴォアコロネに向かって歩き始めた時、後方、ポーティアの方から登って来る馬車の音が聞こえて来た。
「エヴァ、馬車の音だ。きっとサヴォアコロネに行く人だよ。お願いして乗せてもらおう!」
「ええ! 何が何でも乗せてもらいましょう。嫌がったら、剣で脅しましょう。なんならざっくりと…」
「エヴァ、怖いよ!」
馬車の音がだんだん大きくなり、ユウキの視界にも入って来た。見ると1頭引きの荷馬車。手綱を握っているのはおじいさん1人。
ユウキとエヴァリーナは荷馬車の前に飛び出し、オーイオーイと手を振る。
「お願い! 止まって! わたしたちサヴォアコロネに行きたいの。乗せて行ってくれませんか! お礼はします!」
「私たちもう足がパンパンで…、歩くのも大変なんですの」
飛び出して来た女の子にびっくりして、おじいさんが手綱を引いて馬を止める。
「おおお! 危ないじゃないか! なんじゃお前さん方は? サヴォアコロネに何の用じゃ? あそこは若い娘が行っても面白い所なんかないぞ」
「え、いやー、サヴォアコロネに美肌と美容にいい温泉が湧いていると聞いてですね、行ってみようかなと…」
「温泉か…、あそこには大した宿はないぞ。それでも良いのか?」
「はい、大丈夫です! 美肌・美容の湯に浸かれるならオーケーです!」
「仕方ないのう…、荷台に乗りなさい」
「あ、ありがとう~。感謝感激雨あられですよう!」
「はああ…、地獄にエリスとはこの事ですわぁ~」
「お主ら、面白いお嬢さんたちだのう」
おじいさんに笑われながら荷台に乗り込むと、おじいさんが馬車を出した。道が悪い上、荷台に直接座っているので、振動のダメージが直接お尻に来る。あまりの辛さに、中腰になることにした。サヴォアコロネに向かう間、おじいさんが温泉の事を教えてくれる。
村には3つの温泉宿と1つの共同浴場があるとのことで、村人は共同浴場を利用することだった。3つの宿の泉質は異なり、美肌・美容の他、皮膚病や慢性疾患に効くのだという。ちなみに、共同浴場の湯は打ち身、肩こり、腰痛によく効くそうだ。
おじいさんの話を聞いているうちに街道の下、谷あいに沿って広がる家々と畑が見えて来た。また、放牧されている家畜の姿も見える。夕方に近いとあって、家の煙突から煙が立ち上っている。きっと夕飯の準備をしているのだろう。夕日に照らされた景色は牧歌的で美しい。
「わあ、綺麗な風景…。ここが、サヴォアコロネ村?」
「そうじゃ。ついでじゃ、宿まで案内してやろう」
「ありがとうございます。おじい様」
「上品な娘さんじゃのう。だが、おじい様は止めてくれんか。こそばゆいわい」
(夕方…、峠道…、谷あいに広がる集落。優季の頃見た探偵映画にあったね。殺人犯がお婆さんに扮して、ぼさぼさ頭の探偵さんとすれ違うシーン…。景色そっくりだよ)
ユウキがそんなアホなことを考えているうちに、荷馬車は1軒の宿屋に着いた。見ると、木造2階建ての質素な建物で、浴室と思われる場所から湯気が立ち昇っている。
「そら、お前さん方が言っていた美肌・美容の湯の温泉宿じゃ」
「ここ? ありがとう、おじいさん。大変助かりました。これお礼です」
ユウキは財布から銀貨を1枚出して渡そうとしたが、おじいさんは固辞して受け取らない。それでもユウキが渡そうとするが…。
「いいんじゃよ、気にするな。旅は道連れ世は情けじゃよ。じゃあな、温泉で美人になるんじゃぞ」
お礼を言って荷馬車を見送ると2人は宿屋に入る。中は食事ができるスペースにテーブルが4つあるだけの質素な宿だ。奥のカウンターまで進み「ごめんくださーい」と声をかけると、30代前半くらいの女性が出て来た。
「いらっしゃいませ。何か御用でしょうか?」
「えっと、ここが美肌・美容の温泉の宿って聞きまして、何日か泊まりたいと思って来たんですけど…」
「えっ…」
「えっ…」
女性が驚いたように返事をしたもんだから、ユウキとエヴァリーナも思わず同じように返してしまった。
「ご、ごめんなさい。お客さんなんて久しぶりだから驚いちゃって。えーと、2人ですね、お部屋はご一緒でよろしいですか?」
「はい。2食付きで、とりあえず1週間くらいお願いできますか?」
「はい、いいですよ。どうせ他にお客さんもいませんしね。1泊2食でおひとり様大銅貨6枚です。前金で3日分頂いてよろしいですか」
ユウキは宿泊名簿に自分とエヴァリーナの名前を書き、銀貨3枚と大銅貨6枚を支払う。
「お部屋は2階の朝日の間です。温泉はいつでも入れます。男女別なので安心してください。夕飯はこれから仕込みますので、申し訳ないですが少しお時間を下さい。ではごゆっくり」
女性は鍵を渡しながらそう言うと、パタパタと奥に引っ込んで行った。
「……部屋に行こうか」
「はい、ですわ…」
朝日の間は8畳ほどの広い部屋で、清潔な2つのベッドと1つの机が備え付けてあった。窓を開けると村と村の中央を流れる川の流れが一望できる、とても眺めの良い部屋であった。
「いい部屋じゃない。エヴァ、早速お温泉に行こう!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ユウキとエヴァリーナは宿の浴場に入ると、並んで体と髪を洗い始めた。お風呂の大きさは4~5人が入ればいっぱいになる程度で、洗い場も狭かったが、客が他にいないのでのんびりと使うことができている。
「ユウキさんって、綺麗な体をしていますわね…。お胸は大きくて張りがある美乳だし、腰もキュッと括れていて、お尻も丸くて形もいい。それに、アソコがつるつるって凄い…」
「あの、エヴァ…。あんまりじろじろ見られると恥ずかしいよ」
「だって…、女の私でも見とれるほど美しいんですもの。羨ましいですよ、私ももう少し胸が大きかったらな…。お尻は大きいのに胸が小さいなんて…悲しい」
「そうかな? スレンダー体形も中々可愛いと思うけどな…。はい、この話は終わり。お湯に浸かろうよ」
2人はゆっくりと湯船に浸かる。温泉成分がじんわりと体を包んでいき、体の芯から温まって来る。ユウキが腕を湯船から出すと、心なしか肌が艶々しているように見える。
「ふああ~、体の芯から蕩けそう~」
「はいぃ、ホントですね。私も帝国の温泉地に行ったことがありますけど、これほどのお湯には出会ったことがありませんわぁ…」
さすがに美肌・美容の湯らしく、肌の余計な脂分が取れてしっとりと美しく輝いているのを見て2人は感激し、来てよかったと感動した。十分にお湯を堪能した2人は脱衣場で部屋着に着替えている。エヴァリーナはユウキの布面積が少ない際どいパンツを見て、
「ユウキさんの下着って結構攻めてますわよね。だからアソコをつるつるにしているのですか?」
「う、うん…。小さい頃からこの手の下着を着けていたから…。毛が邪魔なの…」
「貴女は真にエロの女なんですね…。その開き直り、尊敬します。実は私もつるつるに憧れていまして…、ユウキさんのお仲間になっちゃおうかな…」
「お、いいね。つるつる女2人旅ってか!」
「その言い方、嫌です…」
2人が風呂から上がると10歳前後の女の子がテテテと寄ってきて、夕飯が出来たと言ってきた。
「お姉さんたちがお客さんですか? あたしリーナっていいます。この宿の娘です。お夕飯出来てますけど、どうしますか?」
ユウキはエヴァリーナと顔を見合わせ頷くと、リーナに向かって「うん、お腹が空いたから直ぐ食べたいな」と言った。
リーナは満面の笑みを浮かべると、2人の手を引っ張ってテーブルに案内し、奥の厨房から受付をしてくれた女性と一緒に料理を運んできた。
「あの、わたしまだお名前言ってませんでしたわね。この宿「新緑亭」の女将、ルシアです。今晩のお料理は川魚の焼き物と地鶏の香味焼き、地元野菜のスープに手作りパンです。急いで作ったので大したものは出来なくてすみません」
「すみません!」
リーナまで一緒に謝ってきて、2人は思わずプフッと吹き出してしまった。
「いいんですよ、どれも美味しそうです。早速頂きますね」
ユウキが両手を合わせて「いただきます」と言い、エヴァリーナはエリス様に祈りを捧げてから食事を始めた。
「んっ、川魚は塩が効いててほくほくしてるし、鶏肉も凄く美味しい!」
「このスープも野菜の味が染み出てて、コクがあって美味しいですわ」
「えっへっへー、あたしのお母さんの料理は最高なんだよぉ。いっぱい食べてね」
ユウキもエヴァリーナも、今更ながらに昼食抜きだったことを思い出し、リーナに言われる間もなく、バクバク食べるのであった。
「ふわあ~、お腹いっぱい。最初はどうなるかと思ったけど、温泉は最高だし、食事は美味しいし、悪いけど他のお客がいないから静かだし、絡んで来る男もいない。いいわ~、ここ。しばらく滞在しちゃおうかな」
「本当ですね。特にユウキさんは男を引き寄せる誘蛾灯みたいな女ですから、こういう秘湯の宿はいいと思いますね」
「まあ…」ルシアがお茶を出しながらユウキの顔をまじまじと見る。
「あのね…、風評被害をまき散らすのやめてよ。わたしは清純派美少女なんですからね」
「うふふ、ごめんなさい。でも、清純派は街中で極小ビキニ姿で男たちと乱闘はしないと思いますよ」
「ぐっ…、またその話を持ってくるか…」
「あはははっ! お姉ちゃんたち、面白ーい!」
「リーナちゃん。ここ、笑うとこじゃない…」
食事を終えたユウキとエヴァリーナは部屋に戻り、ベッドに腰かけてまったりする。
「ホントに静かですね…。ポーティアみたいな温泉観光地もよいですけど、この秘湯の雰囲気は最高です。村の人も親切でしたし…」
「あら、ユウキさんなにをゴソゴソしているんですか?」
「にひひ…」ユウキは美容の魔道具をバーンとエヴァリーナの目の前に突き出した。
「あの…。ユウキさん、それは?」
「美容の魔道具だよん。これでエヴァのアソコをつるつるにしてあげる。さあ、パンツを脱いで、股を開きなさい!」
「えっ、ヤ、ヤダ…。心の準備が…、ひっ、きゃあああー!」
ユウキはエヴァリーナをベッドに押し倒し、強引にパンツを脱がせると、がばっとお股を開いてアソコに美容魔具を当てて、キレイにしはじめた。
「さあ、これでエヴァもつるつる仲間に…って、エヴァ様って意外と毛が濃いですわね。これは気合を入れねば!」
「ば、ばかぁ~~! 恥ずかしい~! あっ、ああん、くすぐったい~。あはん…あん…」
サヴォアコロネ村の夜空に、エヴァリーナの色っぽい声が響き渡る。




