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第214話 結果発表とアリスの幸せ

 グルメグランプリの結果発表の日、早い時間に帝国大使館の宿泊所を出たユウキは武器屋街に来て1軒の鍛冶屋に入った。


「こんにちわー」

「おう、いらっしゃい。頼まれモン、出来ているぞ」


 鍛冶屋の奥から出てきたのは筋肉隆々の熊の亜人のオヤジ。この鍛冶屋の主人だ。オヤジは店の奥から1本の剣を持って来る。


「海水を浴びたって言ってたからな。実際、錆が浮いていた所もあった。だから、一度全体を焼き叩き、研ぎ直したんだ。結構手間がかかったぞ」

「あはは、助かります。大事な剣なので」

「この剣、かなりいいモンだな。相当いい腕の職人が作ったと見たがどうだ」


「うん、当たり。この剣はロディニア王国一の職人が作った剣なんだ。わたしの宝物」

「ほう…。一度、その職人とやらに会ってみたいもんだな」

「……それは無理かな。もう亡くなったの」

「そうか…、残念だな。それなら尚更大事にしないとな。手入れに出すときは、俺の様な腕のいい職人に頼まなくてはいけないぞ。生半可なヤツに頼むとかえってダメにしちまう」


「あはは、わかりました」


 ユウキは店の中を見回すと、何本かの剣が壁に立てかけられているのが見えた。中には短剣の類もある。


(そうだ、エヴァ用の剣も買っておこうかな)


「ねえオヤジさん。女の子が持てる短剣ない? あれば1本欲しいんだけど…」

「ん、お前が持つのか?」

「ううん、わたしの仲間。魔術師なんだけど、護身用に持たせたいの」


「ふむ…。それなら、これならどうだ」


 オヤジはカウンターの下から1本の短剣を取り出した。刃渡り30cm程の片刃のナイフ。刀身は白銀に輝いているが見る角度によっては青っぽく見える。


「へえ、不思議な感じがする剣だね。でも、凄く切れ味がよさそう。格好もいいね」

「そうだろう? これはな、空から落ちて来た不思議な鉄の塊を加工したナイフなんだ。硬くて軽く、切れ味もいい。値段も高いがな」


「(隕石? 鉄隕石から作ったというの? これは凄いね…)いくらなの」

「金貨1枚。値引きはしないぞ。貴重な材料で作ったナイフだからな」


「わかった、貰うよ。ええと、剣の手入れ代と合わせて、金貨1枚と銀貨20枚だね。はい、代金」

 ユウキは小さな花柄のリュックサックから財布を取り出し、カウンターに代金を置いた。


「おお、確かに。このナイフの鞘はサービスだ」

「わあ、ありがとうオヤジさん。また、何かあったらよろしくね」

「ああ、毎度あり」


 ユウキは鋼の剣を帯剣し、ナイフをマジックポーチに入れて鍛冶屋を出た。日はそろそろ天頂に差し掛かろうとしている。


(いけない。早く待ち合わせ場所に行かなきゃ!)



 大通りの噴水前に到着したユウキをみんなが待っていた。アリスが大きく手を振りながら大きな声をかけて来る。


「おおーい、ユウキさーん。こっち、こっちー」

「ゴメンねみんな、待たせちゃったかな?」

「いいえ、私たちも今集まったところですわ。では、参りましょうか」


 全員揃った所で商工会に向かう。噴水から5分ほど歩くと商工会前に到着した。商工会はレンガ造りの大きな建物で、周囲には大勢の人が集まっている。ユウキの身長は167cmあり、エヴァリーナたちより背は高いが、それでも男性よりは低いので、全然前が見えない。前に進もうとしても人が密集している状態では、それもままならず、仕方なく後ろで様子を見ることにした。


「全然前が見えませんね…」

「仕方ないよ、この人だかりでは。あ、誰か出て来たみたい」


 商工会から若い男女が出て来て、男性が台の上に乗って巻紙を開き、掲示板に張り出した。その間、女性が良く通る声で、集まった出店者たちに向かって話し出した。


「お集りの皆さん!「謝肉祭カーニバル」最終日に開催されましたグルメグランプリの結果発表を掲示ますので、各自ご確認ください。今回の出店は127店舗です。上位入賞20店を記載していまーす!」

「なお、上位5店舗には、後日賞金と楯が送られます。あと、入賞店舗はお店で何位入賞って掲示してどんどんPRしてくださいねー!」


 出展者が掲示板を確認する度に大きなどよめき、歓声、落胆のため息が聞こえて来る。アリスはまだ掲示板を見ていないが、既に心臓はドキドキし、顔は赤くなったり青くなったりしている。


「アリス、掲示板の前が開いたよ。行ってみようよ」


 ユウキが声をかけるが、アリスは中々前に踏み出さない。エヴァリーナとフェリシアは、アリスの手を取ると、掲示板の前に連れて行った。掲示板の前に着いたアリスはごくりと唾を飲み込み、張り紙を見た。


「……あった」

「あった! ありましたよ、あたしの名前! 8位です! 入賞です! やったぁあああ! 嬉しいよー」

「わあ、よかったね。アリス!」


 ユウキがアリスの背中をバンバン叩き、エヴァリーナとフェリシアも握った手をぶんぶん振って喜びを露にする。アリスは嬉しさと叩かれた傷みで大泣きしている。


「あたしの創作料理がこんなに評価されたなんて、ホントに嬉しいです。授業中に居眠りしててよかったぁー。これも、プルプ使いたいって言うあたしをバカにしなくて、プルプ獲りまで一緒にしてくれた皆さんのお陰です。本当に感謝です!」

「ユウキさんとエヴァリーナ様とフェリシアさんに出会わなかったら、とてもできなかった! ホント、3人に出会えてよかった…。ううっ…、ふぐっ…」


「アリス…」


「そうだ! アリスのタコ焼き屋さん大成功のお祝い会しない? この喜びをみんなで分かち合いたいな」

「ユウキさん、ナイスアイデアです。私も大賛成ですわ!」


「あの、ひとつ提案があるのですが…。ユウキさんには申し訳ないですけど、お祝い会ではなく、フェリシアさんのお住まいの孤児院の子供たちにタコ焼きを振舞いたいと思うんです。フェリシアさんには大変お世話になりました。ですから、恩返しの意味も込めて子供たちにも食べてもらいたいなって。タコ焼きの美味しさを感じてもらいたいなって思ったんです。ダメですか?」


「ううん、わたし賛成。当然、エヴァも賛成だよね」

「もちろんです。孤児院の皆さんとでタコ焼きパーティーです。私の「焼き」の腕前、子供たちに堪能させてあげますわ!」


「アリスさん…、みなさん…、本当に良いんですか。あの、無理しなくても…」

「何言ってんのフェリシア。無理なんかじゃないよ、わたしたちがやりたいのよ!」


 大粒の涙を流して喜ぶフェリシアをみんなで温かく見守っていると、張り紙をした商工会の男性が声をかけて来た。


「君たちは「タコ焼き屋さん」ですね。アリスさんに挨拶したいのですが」

「は…、はい。あたしがアリスです」


「初めまして。私はトゥルーズ商工会地域振興担当のイオリと申します。実はアリスさんに折り入ってお話がありまして…」

「あたしに?」

「ええ、グランプリの日、私も各屋台を回っていたら、呼び込みをしていたそこのお嬢さんの水着姿に誘われてふらふらと近寄っていきましてね、いつの間にかタコ焼きを買っていました」


「やっぱり女郎蜘蛛…、雄を捕食する魔性のユウキ…」

「エヴァ、うるさい」


「ははは、冗談ですよ。本当は「タコ焼き」という食べ物がちょっとした噂になっていて、どんなものか興味があったんです」


「なーんだ」

「エヴァはわたしを何だと思ってるの?」

「エロ魔人」

「……………」


「それでどうでした? お味は…」

 アリスが恐る恐るイオリに尋ねる。


「素晴らしかったです。あの食感、あの味、すべてにおいて最高でした。新時代の食べ物です」

「そんな、大袈裟な…」

「いえいえ、大袈裟ではありません。もし材料切れを起こさなければ、1位も夢ではなかったと言い切れます。ところで、あの不思議な食感の食べ物はなんなのですか?」


「プルプです」

「え、プルプ? プルプって、あの8本足のですか?」

「はい、そのプルプです」


「信じられない…。あのプルプがこんなに美味しいなんて…、これはイケるぞ。未利用食品の新規開拓だ…。アリスさん、それでですね、ここからが相談なのですが…」


「このタコ焼き、全国展開してみませんか? トゥルーズ商工会が全面的にバックアップしますよ。どうです。マネされないように商品登録もしましょう」


「ホントにホントですか! あたしのタコ焼きが…。嬉しい、料理クラブの連中が悔しがる姿が目に浮かぶわ! イオリさん、よろしくお願いします!」


「はあ~、驚きの展開だね。でも、タコ焼きが認められて嬉しいな」

「本当ですね。この国で広がって、帝国でも食べられるようになれば嬉しいですね」


 イオリと手を取り合って喜ぶアリスを見て、ユウキたち3人は何とも嬉しい気分になった。



 その晩、ユウキは今までの出来事を手紙に書き終えると、窓辺に立ち、星空を見上げながら友人と恩人双方を想う。


「カロリーナとフォンス伯爵、元気かな? わたしは元気だよ…」

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