第210話 決着! ゴールデン・テンタクルズ
ユウキが触手の付け根をよく観察すると、海中に2つの赤い目を見てとれた。両手に鋼の剣を持って構えると、エヴァリーナに声をかける。
「こっちはいつでもいいよ!」
「わかりました。ユウキさんが飛び込んだら水流の魔法で押しますね」
「しゅわっち!」
ドボンとユウキは海に飛び込んだ。
「ウォーターフロー、最大威力!」
エヴァリーナが水流を起こす魔法を最大威力で放った。水の流れに押されたユウキは急加速する。
「グボッ…、ガボッ…(エヴァのバカ! 水流が激しすぎて、水圧がきついよぉ、首の骨が折れるぅうう! ぐるじい…)」
それでも何とか剣を前に出して、足をバタバタさせて方向を定める。大ダコは水流に押され、酸素魚雷のように高速で突進してくるユウキに向かって触手を薙いで来るが、ユウキの速度に追い付かず空ぶった。今度は目を光らせて水流を起こしたが、それすらも躱され「ズドオン!」と水中衝撃波を発生させて飛び込んで来たユウキの持つ剣で、両目の間を深々と貫かれた。
ユウキの剣が大ダコに致命傷を負わせると同時に水上に出ていた触手が苦しそうに蠢き、フェリシアやアリスを捕まえていた触手が緩んで離れ、2人を海中に落とした。さらに、周囲に漂っていた男たちの頭上にバタン、バタンと倒れていく。
「おわああおお!」
「わあっ、あぶねえ!」
「あべしっ!」
男たちの悲鳴と直撃による叫びが響き渡る。
「ぷはあっ! あっ、フェリシア、アリスっ!」
海面に浮かび上がったユウキは、幸せそうな顔をして気を失って浮かんでいる2人の所まで泳ぎ、何とか両脇に抱えて岸に戻ろうとするが、その後ろに大ダコの巨大な胴体が浮かび上がった。
「うわあああ! まだ生きてたぁー!」
「やっと本体が現れましたね! 先ほど私に行った恥辱の仕打ち、許しません! 危うく新しい世界の扉を開くところだったではありませんか! 風魔法は効かなかったけど、この魔法はどうかしら!」
エヴァリーナが仁王立ちして魔力を体内に巡らし、魔法を放つ準備をしている。ユウキはその姿を見て青ざめた。エヴァリーナは両腕に電気を纏っている。電撃の魔法を放つつもりだ。
「エッ、エヴァ…、ダメ! その魔法はダメ、ゼッタイ! お願い、電気系はやめてー!」
「喰らいなさい! ライトニングボルトォー!」
エヴァリーナの両腕から放たれた青白い電気の奔流が大ダコの胴体を貫いて行く。流石の大ダコの柔軟性も電撃には無効で、大きなダメージを受け、大きな水しぶきを上げて倒れた。さらに電流は大ダコの全身を巡った後、海水を通じて周囲に拡散していった。
「ぎゃあああああ! じ、じびれるぅうう~、あばばばば……」
「ぶげええ~」
「ぼへぇ!」
「へで~~! ブッ、ぐあああぶ!!」
大ダコだけでなく、ユウキもフェリシアもアリスも男たちも巻き添えで感電し、奇声を上げて失神してしまい、1人、2人とぷかぷか、ぷか~と浮かび漂い始めた。
「やったああ! ざまあ見なさいって…、あ、あれ…。みんなどうしたの…?」
「わああ、大変だわあ! 誰か、誰か助けてええ!」
その後、海岸の騒ぎとエヴァリーナの救援を求める声を聞きつけた地元の漁師さんが集まってきて、浮かんでいる大ダコに驚くとともに、海面を漂っているユウキたちを海から引き揚げてくれて事なきを得たのだった。
「う、うう~ん。ここはどこ。わたしは誰…?」
「しっかりしてください、ユウキさん。ここはプルプを取りに来た海岸ですわ。私たち巨大な黄金プルプに襲われたのですわ」
「はっ! そうだった! プルプは? フェリシアとアリスはどうなったの?」
「黄金プルプはどこかに流れて行ってしまいました。フェリシアさんとアリスさんは、まだ気を失ったままです」
ユウキがエヴァリーナの指さした方を見ると、2人が横に寝かされていた。怪我はなく、呼吸もしているようで安心したが、その恰好は酷かった。触手に蹂躙されたため、フェリシアは水着が破れて下半身が丸見えになっており、アリスはブラがなくなって、おっぱいが丸出しだった。
「助けてくれた漁師さんたち、いいものを見せてもらったって、喜んで帰って行きました…」
「そ、そう…。2人には黙っていようね。特にフェリシアには……」
「はい、それと私たちに絡んで来た男たちは、この辺では札付きのチンピラだったようで、漁師さんが矯正すると言って回収していきました」
「真面目になるといいけど…」
2人が目を覚ます間、ユウキは黄金プルプが潜んでいた入り江に近付き、何か残ってないかと海中を覗き込むと、白銀に光る物と金色に光る物を見つけた。ユウキがドボンと海に入って拾い上げると、ユウキの鋼の剣と斬り落とした黄金プルプの足(触手)だった。
斬り落としたといってもユウキの身長くらいの長さがある。
「やった! 黄金プルプげっと! 鋼の剣も回収できてよかった。オヤジさんの形見だから失くしたら泣くところだったよ。錆びないうちにマジックポーチに入れて、首都の鍛冶屋さんに手入れを頼まなきゃ…」
ユウキが鋼の剣を抱き締めていると、背後から大きな悲鳴が聞こえた。見るとフェリシアとアリスが触手に襲われたことを思い出し、また、自分の格好を見て大泣きしている。
「よかった。2人とも大丈夫? 大変な目に遭ったね。さあ、着替えよう」
「ふええええん、全然良くない~。嫁入り前の綺麗な体が触手に蹂躙されたよお~」
泣きわめく2人の肩をエヴァリーナがポンポンと叩き、心の中で(実はもっと恥ずかしい目に遭っているんですけどね。黙っててあげます…)と呟くのであった。
4人で岩場の陰に入り、エヴァリーナの水魔法で体の塩分を洗い流して着替えを済ます。体がすっきりしたらフェリシアとアリスの機嫌も何とか元通りになった。
「はあ、本当にひどい目に遭った…」(ユウキ)
「全くです。プルプ獲りでこんな恐怖を味わうなんて…」(エヴァ)
「ホントですよ。でも、いいプルプが手に入りましたし、黄金プルプの足まで手に入れることが出来ました。これで美味しいプルプ焼きが作れます!」
「よかったねアリス」
「でもユウキさん、どうやって首都まで帰ります? もう薄暗くなってしまったし、乗合馬車もありませんよ。この辺じゃ宿屋もないですし…」
フェリシアが不安そうに言う。エヴァリーナは野宿は嫌だと言ってくるし、アリスは早く帰って下ごしらえしたいという。
(もう、みんな我儘だなあ。でも、わたしも野宿はしたくないし…、仕方ない、この位の距離ならなんとか行けるかな…)
「はいはい、みんな荷物を持ってわたしに捕まって」
3人の少女達は、言われた通りにユウキの手や肩に触れる。ユウキはそれを確認すると、魔力を集中させ、首都の門をイメージする…。
(よし、行ける!)
3人が不思議そうにユウキ見ていると、ユウキを中心に魔法陣が形成され、それが青白く輝いたと思ったら首都の門に到着していた。
「え…、い、今、何が起こったんです…?」
「転移魔法だよ。失われた古代魔法の一つ。何故使えるかは乙女の秘密。教えられない」
エヴァリーナとフェリシアは色々聞きたかったが、ユウキはアリスを連れてさっさと門の中に入って行ったので、2人は顔を見合わせると、「はあ」とため息をついてユウキの後を追った。
(魔槍ゲイボルグといい、今の転移魔法といい、ユウキさんは色々秘密を持っていそうですね。いつか話してくれればいいのですけど…)
ユウキの後姿を追いながら、エヴァリーナは思うのであった。




