第21話 合格発表とお祝い会
発表までの間、優季は図書館に行って本を読んだり、ララと買い物したり、紅水亭の部屋で美容に勤しんだりして過ごし、いよいよ、合格発表の日となった。
「いよいよ合格発表だね。私今からドキドキだよ」
「ボクも。昨日なんか色んなこと考えすぎて、お風呂で溺れそうになった」
「あはは、何やってんの」
優季とララが合格発表の場所である正門の前に到着すると、すでに大勢の受験生が集まっていて発表を待っていた。しばらくすると、学園の職員らしき人が出てきて、合格者の受験番号が書いてある大きな木板を張り出し始めた。
「いよいよだね…」
ララが緊張を隠せない様子で呟く。優季もごくりとつばを飲み込んで、木版を見た。
「あ、あった。私の番号あったよ!」
「俺もだ」
ララとアルは合格したようだ。
「ユウキは?」
優季は自分の番号を探す。
「…あ、」
「あ?」
「ありました~~~!」
「わあ、おめでとう!これで、3人一緒に入学できるね!」
「いいえ、4人ですよ」
「フィーア!」
「これから3年間、よろしくお願いしますね」
3人の後ろからニコニコとしたフィーアが近づいてきた。
「じゃあ、4人で入学手続きしに行こう!」
入学手続きを無事終え、学園敷地内のベンチで休んでいると、ララがお祝い会の提案をしてきた。
「せっかくだから、みんなでお祝い会しない?」
「お祝い会! いいですね。私お友達とそんなことしたことないから、お祝い会したいです」
フィーアがキラキラした目で賛同し、優季もパッと顔を輝かせて同意した。
「いいね! ボクもお祝い会したい。そうだね…、ボクの泊まっている紅水亭でやろうか。あそこ料理美味しいよ」
「アルもいいでしょ」
「俺はいい。3人でやれよ」
「あら、どうしてですの?」
「女3人の中に男1人入れるかよ。俺はいやだね」
「何カッコつけてんのよ。恥ずかしいの。だったら、男の子2人連れてきなさいよ」
「あ、それいいですね。私もお友達もっと増やしたいです」
「アル、ボクも楽しくお祝いしたいな」
「わ、わかったよ」
「もう、ユウキの言うことは素直に聞くんだから!」
ぷんすか怒るララを横目で見ながら、優季は早くも友人たちとの学園生活を思い浮かべ、楽しい気持ちになるのだった。
合格発表当日の夜。優季は部屋で、バルコムからもらった指輪を取り出した。
そして、深呼吸をひとつして指輪に向かって語りかける。
「バルコムおじさん、久しぶり。元気にしてる? ボク、王国高等学園に入学できたよ。友達もできた」
「これから、ボクどうなるのかわからないけど、一生懸命頑張るね。だから見守ってて」
指輪からの反応はない。
「聞こえてればいいな…」
しばらくたって、指輪から声が聞こえた。
『ユウキか』
「おじさん!」
優季がバルコムと別れてから3か月しか経っていないのに、その声はとても懐かしく感じた。
『息災のようだの』
「おじさん…、ううっ…」
思わず涙を零した優季が言葉に詰まる。
『相変わらず、泣き虫は治ってないようだな』
「だって、でも、おじさんと話ができてうれしくて…」
その晩、優季は遅くまでバルコムにこれまでの出来事を話し続けるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
合格発表の翌日、今日は昼から皆で紅水亭の個室を借りて合格のお祝い会をする約束になっている。優季は精一杯おめかしして、会場の個室に入り、皆の来るのを待った。
「やっほ~、ユウキ、お待たせ」元気いっぱいのララが会場に入ってに来た。
「まあ~、ユウキは今日もフリフリでかわいいね」
「ララもワンピースかわいいよ」
ララはいつもと違って、薄紫のワンピースを着ている。胸のリボンがかわいい。
「お待たせしました~」
「フィーア!こんにちは。わあ、凄いドレスだね。きれいだな~」
「美人は何着ても似合う典型だね」
「ふふふ、褒めても何も出ませんよ。ユウキさんもララさんも素敵です」
そうこうしているうちに、男共が入ってきた。アルと2人。初めて見る男の子を3人が見つめていると、2人は自己紹介してきた。
「僕はフレッド・デュークス。みんなと一緒の学園に入ることになりました。土の魔術使いです。あの、よろしくお願いします」
フレッドは身長155cm位で色白の華奢な感じのする少年だ。顔を真っ赤にしながら挨拶してきた。もう一人は身長180cm以上ありそうな男子で、腕も、胸板も筋肉で盛り上がっっているボディビルダーだ。日焼けした肌にニカッと笑った口元から覗く白い歯がまぶしい。
「わしは、ヘラクレッド。ムスクルス男爵家の次男だ。フレッドとは昔からの付き合いである。今日はアルに誘われてきた。こんな美人とお祝いできるなんて、最高じゃのう。ガハハハッ。今日はとことん筋肉について話し合おうぞ」
「あ、あはは。ぼ、ボクはユウキ。よろしくね」
「私はフィーア・オプティムスです。お見知りおきを」
「私はララ。アルとはご近所さんなの。筋肉の話はアルとしてね」
「では、乾杯の音頭をとらせていただきます。みんな合格おめでとう!これから仲良くやって行こうね!」
ジュースのコップを持ったララの乾杯で、お祝い会が始まった。
美味しい料理を食べながら、会話を楽しんでいると、自然にそれぞれの話題になってくる。
「フレッドさんはおとなしいですね。私は風系魔術師なんですけど、土系の方に会うのは初めてで…。どんな系統の魔法を使うんですの」とフィーア。
「僕は支援や防御系の魔法が使える魔術師です。攻撃魔法は使えないんだ。だから、戦いは苦手かな。あまり体力もないし」
フレッドは小さな声で話すと、だんまりしてしまった。
「フレッドくんって大人しいんだね!」
ララが元気いっぱいに言う。それを聞いたヘラクレッドが、ガッハッハと笑いながらブレッドの背中をバンバンと叩いた。
「こいつは肝っ玉が小さいのが玉にキズでな。でも金玉はわしよりでかいぞ、ガッハッハ」
「ぐふっ!」
優季が思いっきりむせる。フィーアは「まあ」と言いながらまじまじフレッドを見つめ、ララは顔を赤くして黙り込んでしまった。
やっと落ち着いた優季は、ちらとフレッドとガハガハと笑うヘラクレッドを見て、男の子の時の気持ちが蘇ったのか(チンチンか、懐かしいな…)と思ってしまうのであった。
「わしはな。筋肉を鍛えるのが大好きなのだ! ムスクルス家は代々この筋肉をもって王家に仕えてきたのだ! 女にはわからんだろう!」
頼んでもないのにヘラクレッドが語りだした。
「好きなものは筋肉! 筋肉Love! 嫌いなものは貧弱な坊やじゃ!」
「へえ…、でもフレッドくんとは仲がいいんでしょ。なんで?」
ララが疑問を呈す。優季とフィーアは(ちゃんと話を合わせるなんて、ララはやさしいんだな)と感心している。
「うむ、よくぞ聞いてくれた!」
「あるとき、フレッドと連れションする機会があってな」
「ブフォッ!」ジュースを飲んでいた優季が再びむせる。
「その時見たのだ。フレッドの類まれなるイチモツを。そのデカさにわしは恐怖した。そして畏怖した! 後にも先にも戦わずして敗北したのはあれが初めてであった…」
「それから、わしとフレッドは友となったのだ! 金友だ!」
「ブブーッ、だめ、もうだめ…。あははははっ」
今まで、黙って話を聞いていたフィーアが我慢できず、噴き出した。
「よし、次はアルだな!」
ヘラクレッドが仕切りだした。
「急に来たな。まあいいか、俺はアル。ララと同じラナンの出身だ。ハルバードを使った戦闘が得意だ。そんなところだ、よろしくな」
「うむ、剣術試験での戦いぶりは見事であった。貴様とはいいライバルになそうじゃ」
「あ、そういえば以前、アルさんを不思議な場所で見かけましたよ」
フレッドが思い出したように話し出した。
「ええと、あれは、そうそう、衣料品街の女性用の服屋さんです! あんなキラキラしたお店に、ごつい男の人がいたので珍しいなと思って」
「うぐっ」
アルは焦る。(見られていた)背中に冷たい汗が流れる。
「確かにアルさんでした。んん~、そうそう、店の奥にいた女性を見てはつらそうに前かがみになってました!」
「お、おまっ…、そんな風になってない!勃ってなんかないぞ! あ…」
「やだ…」
「最低…」
女性陣の冷たい視線がアルに突き刺さる。
「あ、あれは、ユウキの買い物に付き合ってて、ユウキがエロいパンツを手に持って見てたから…」
「思わず想像したってことね」
ララがひんやりした声でアルを責める。
「まあ、アルも健康な男の子ってことだよ、許してあげてよ。しっかし、アルは女の子に興味なさそうにして、実はむっつりスケベなんだね」
優季にとどめを刺され小さくなるしかないアルであった。
「じゃあ私ね、私はララ。そこのドスケベ野郎と同じラナン出身の14歳です」
「容赦ないねララ」
「好きなことは料理と魔具作り。お父さんがラナンで魔具師をしているの。だから、学園で魔術を学んで立派な魔具師になりたいです!」
「ララさん、魔具師になりたいんですか。僕もなんですよ」
「お、フレッド君。これはどちらが優秀な魔具師になるか競争だね」
「負けませんよ」
いい流れになってきたと優季が思った次の瞬間、この男がぶち壊す。
「ララ殿はかなりおっぱいの成長が悪いみたいじゃな。どうだ、わしと一緒に訓練して筋肉をつけてみんか? 脂肪がダメなら筋肉じゃ!」
「やかましい、死ね」
「フィーア殿は王国財務大臣オプティムス侯爵家のゆかりのものか」
ヘラクリッドがいきなり話題を変える。
「ええ、父ですわ」
「へえ~。大貴族様じゃない。侯爵家の令嬢がこんなところに来てもいいの?」
「いいんです。私、お父様が「悪い虫が付くといけないから」と言って、ずっと家から出してもらえませんでした。たまに外出してもたくさんの護衛がついて窮屈で、友達もできませんでしたの」
「家から出ないから、家臣の間では「ひきこもり姫」とか「ボッチ嬢」とか言われて」
「学園に入ったらたくさん友達を作って、自由にしたいって思ってましたの」
「ですから、今日は本当に楽しいですわ。よかったらあだ名なんてつけてもらえると嬉しいです。あだ名って友達同士っぽくていいですよね」
「よし、いいよ。今日からフィーアのあだ名は「ニート姫」ね!」
「やめて、お願いだから。あだ名いりません」
今日は優季にとって、本当に楽しい日となった。こんなに同年代の少年少女と楽しく語り合うのは初めてで、これほど楽しいものだとは思わなかった。学園生活が始まったら、もっともっと楽しいことがあるのだろうか。日本の小学校にいた頃は友達も少なく、イジメもあってあまり楽しい思い出はなかった。だから、常に望にくっついていた記憶しかない。
優季は日本とは異なる、この世界での新しい生活に自然と期待が高まるのであった。
物語の導入部分となる第1章はこれで終わりです。第2章からは学園に舞台を移し、物語が本格的に始まります。