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第208話 首都トゥルーズでの依頼

「おはようエヴァ」

「おはようございますユウキさん」


「流石に帝国大使館の宿泊所だよね。ベッドは豪華でふかふかのお布団は寝心地最高だったし、ホントぐっすり眠れて疲れも取れたよ」


 ユウキとエヴァはマッサリアを出て、スクルド共和国の首都トゥルーズに来ていた。この国最大のお祭り開催期間と言うこともあって、市内には国中や外国からの観光客で溢れていて、朝から街中が騒がしい。2人の目的のパレードはお祭り最終日の3日後だ。


「ユウキさん、今日はどうします?」

「そうだね…。午前中は無愛想なオヤジに紹介された斡旋所に顔を出して、午後から出店を見て回ろうか。可愛いアクセサリーとかあったら買いたいな」

「わっ、楽しそう。じゃあ、早速朝食を頂いて準備しましょう!」


 トゥルーズの冒険者斡旋所は2ヶ所あって、1つは大通りに面した3階建ての大きな建物。訓練場のような建物も併設されているようだ。沢山の冒険者や依頼人と思わしき人たちが出入りしている。だが、ユウキたちの目的地はここではない。大きな斡旋所の前を通り、さらに大通りを30分ほど歩いて、裏通りに入ると目指す建物が見えて来た。木造一部2階建ての斡旋所は、大通りの建物に比べると大分小さいが、それでもマッサリアの斡旋所よりは大きい。


 ユウキが戸を開け、エヴァリーナと一緒に入る。中は奥にカウンターがあり、壁掛けの掲示板が3枚。掲示板の反対側は6人掛けのテーブルが10台ほどあって、いくつかは冒険者が飲食したり、打ち合わせをしたりで埋まっている。


 2人がカウンターの女性に冒険者登録証を渡すと、奥に置いてある器械でガシャンガシャンと音を立てて動かし、トゥルーズでの登録を行ってくれた。


(どんな原理何だろ?)


 登録証を受け取る際、マッサリアで預かったメモを渡すと奥にいた男性を呼んで来た。現れた男性を見てユウキとエヴァリーナはびっくりする。


「マッサリアのむっつりオヤジさん! いつここに来たの!?」

「ははは、マッサリアにいるのは俺の双子の兄貴だ。俺は弟のロダンだ、ここの管理をしている。ユウキとエヴァか、よろしくな」

「た、確かにあのオヤジさん、こんなにこやかに話すタイプじゃない…」

「本当に瓜二つですわね」


「兄貴のメモには2人に仕事を与えるように書いてあるが…」

「え、わたしたち、トゥルーズにはお祭り観光に来たんです。仕事は受けませんよ!」


「ははは、心配するな。無理に受けさせるようなことはしない。俺は兄貴と違うんでな。まあ、折角来たんだ、空いてるテーブルで飯でも食ってけ。ここは兄貴のトコと違って美味いぞ」


 2人は開いている席に座って、適当に食事と飲み物を注文する。料理を待っている間、掲示板を覗いていたエヴァリーナが戻って来た。主な仕事は商隊の護衛とか、魔物退治、屋敷の警護といったものが多く、その外には特定の動物の捕獲や薬草の採取、庭の草むしり、家庭教師なんてものもあったとのことだった。


「結構色々あるね。でも私は平穏に生きたいから、物騒なのはイヤだな」

「そうですね。私も攻撃魔法は使えますけど、武器戦闘はからっきしなので…。薬草採取とか家庭教師位は出来るかな? あ、料理来ましたよ」


 可愛いウェイトレスが料理を運んできた。ユウキは大盛パスタにエヴァリーナはパンと果物、ソーセージのセット。飲み物は2人ともこの国特産のオレンジを使ったジュース。


「お、結構美味しいね。マッサリアのオヤジのトコは微妙だったから、ここの美味しさが際立つよ」

「ふふっ、ユウキさんほどの美少女が大盛ですか。面白いですわ」

「てへへ…」


 2人が話をしながら食事していると、ユウキの隣にカチャンとサンドイッチの並んだお皿が置かれ、神官服を着た1人の少女が座った。


「こんには、ユウキさん」

「ん…んぐぐ…ごくん。フェ、フェリシア。偶然だね、トゥルーズに来てたんだ」

「ユウキさん、この方は?」


「私はフェリシアと申します。マッサリアでユウキさんが冒険者たちと乱闘騒ぎを起こした際に巻き込まれまして、盛大に転ばされた挙句、貴重な本をダメにされた縁で知り合いました」

 エヴァリーナの問いにフェリシアが答える。


「ユウキさん、貴女って人は…。どの口が平穏に生きたいって言うんです?」

「………はは、ごめんなさい」

「あっと、私の自己紹介がまだでしたね。私はエヴァリーナ。エヴァと呼んでくださいね」


 3人で食事しながら、ユウキはフェリシアに何故ここで会ったのか聞いてみた。フェリシアが言うには、フェリシアはトゥルーズ出身で、教会前に捨てられた孤児だったこと。教会の運営する孤児院で育ち、優しくしてくれたシスターに憧れ、シスターになろうとしたが、魔法の才があることから、神官の道を進められて現在修行中なこと。その一環で冒険者登録し、時折、パーティに参加して魔法の腕を磨くとともに、得た報酬の一部を孤児院に寄付している事を話してくれた。


「うん、その心意気ご立派ですわ。ところで魔法は何をお使いになるの?」

「私は四元魔法のうち、水が使えます。主に防御系ですが。あと死霊浄化の魔法ですね」

「わあ、私は風と水が使えますのよ。お仲間ですね」


 エヴァとフェリシアは息が合いそうだなとユウキが見ていると、テーブルの周りをうろうろしている14~15歳位の制服を着た女の子が目に入った。女の子は焦った顔で、冒険者に声を掛けていくが、断られたのか悲しそうな顔をして離れていく。ユウキは何となくイヤな予感がし、顔を背けようとした瞬間、女の子と目が合ってしまった。


 女の子がばたばたと走って来る。ユウキは「あ、ヤバ…」と思ったが後の祭り、女の子がユウキが座っているテーブルに来ると、必死の形相でお願いして来た。


「お姉さんたち、私を助けて。お願い!」


「えと、わたしたち、冒険者登録はしてるけど、トゥルーズには観光に来たの。3日後のダンスパレードを見たくて」

「だから、依頼は受けない予定なの。ごめんなさいね」


 ユウキがそう言うと、女の子は沈んだ表情で話を聞いて欲しいと言ってきた。


「あの…、お願いです。話だけでも聞いてくれませんか?」

(えー、聞いたら断りづらくなるじゃないの…)


 ユウキの思いとは裏腹に、女の子はユウキたちのテーブルの椅子に腰かけると、名前はアリス。トゥルーズ第1高等学校の1年生と自己紹介して来た。


「3日後にパレードがありますよね。同じ日に祭りに出店している屋台でどこが一番人気だったかをお客さんの投票で競う「グルメグランプリ」が開催されるんです」


「ほうほう、なんか楽しそうなイベントだね」

「そうですわね。屋台巡り楽しそうです」


 ユウキとエヴァリーナは、美味しそうな屋台料理を想像して涎を垂らしそうになる。


「実はあたし、学校の料理クラブに所属していて、この間授業中寝ていたら天啓を受けて、新しい料理がひらめいたんです!」


「授業は真面目に受けなさいよ…」(フェリシア)


「その料理のコンセプトをクラブの友達に話したら、バカにされ、笑われ、こき下ろされてしまって…。あたし、悔しくて悔しくて、その晩、枕を涙で濡らしました…」


「どう、リアクションしたらいいのかわからないよ…」(ユウキ)


「それでですね。このお祭りで屋台を出して、あたしの新メニューで革命を起こし、グルメグランプリで入賞して、友達を見返そうと考えたんです! でも、材料のひとつがどうしても手に入らなくて…。じゃあ手に入らないなら取りに行けばいいじゃないって思って、冒険者の協力を得ようとお願いしまくってたんです!」


「そう…、大変だね。頑張ってね」

「人事みたいに言わないでください。おっぱいが大きい癖に薄情ですね。お姉さんは!」

「お、おっぱいは関係ないでしょ!」

「まあまあ。ところで、その料理ってなんですの? 興味がありますわ」

 エヴァリーナが話の流れを変え、フェリシアが心の中で(ナイスです!)と称賛する。


「はい、その名も『プルプ焼き』です!」

「ふーん、面白い名前だね。プルンプルンなんて」

「それはお姉さんのおっぱいでしょ! プルプ焼きです!」


「げー、プルプってアレですよね。海に棲む8本足のにゅるにゅるした気持ち悪い生き物ですよね? 捕まえると黒い液体を吐くっていう…。あんなの食べるんですか? てか、食べられるんですかプルプって」

 フェリシアが気持ち悪そうに言う。


(……にゃんですと? 8本足のにゅるにゅる…ですと?)


「流石に帝国でもプルプを食べる事は無いですね。あの見た目から「悪魔の使い」と言われて忌み嫌われている存在です」


「えー、あたし、エリス島のおじいちゃんの家で茹でたの食べたことあるけど、歯ごたえが良くて甘みがあっておいしかったけどなー。だからきっと、このプルプ焼き受けると思うんですよね」


「ねえ、アリスの考えているプルプ焼きってどんなの?」


「どうしたんですか? おっぱいのお姉さん。えっとですね。小麦粉の生地の中に、茹でたプルプを小さく切ったものと、薬味を入れて5cmほどの球形に焼き上げたものにしようと思ってますです」


(間違いない! アリスの考案した創作料理は「たこ焼き」だ!)


 ユウキは急に立ち上がり、椅子に片足を載せてガッツポーズを取って叫ぶ。


「よっしゃー! たこ焼きキター! もう二度と会えないと思ってた!」


 ユウキの声に周りの冒険者たちが何事かと見て来る。また、ユウキの突然の豹変にエヴァリーナとフェリシアはぽかんとする。


「アリス! プルプ獲り協力するよ。その代わり美味しいプルプ焼き食べさせてね!」

「やた! ありがとうございます。おっぱいのお姉さん! パンツ見えてますよ」

「わたし、おっぱいじゃなくてユウキって名前だよ。ユウキって呼んで」

「はい、ユウキさん! パンツ隠した方がいいですよ」


「じゃあ、私たちはこれで…」

 さりげなく去ろうとしたエヴァリーナとフェリシアの肩をユウキがガッシリと掴んだ。


「絶対に逃がさないよ2人とも。みんなでプルプを捕まえに行くよ! そうだ、銅貨5枚あげるから手伝って」


「なんですか、そのお駄賃あげるからみたいなノリは! 私たちを巻き込まないでください! 離して!」


 逃げようと暴れるエヴァリーナとフェリシア。しかし、ユウキの馬鹿力でがっしり押さえられ、逃げ出すことが出来ない。


「一蓮托生、死なば諸共、旅は道連れ世は情け。さあ、いざ逝かんわが友よ!」

「逃げたらフェリシアのパンツはお子様パンツだって事ばらすよ」

「もうばらしているじゃないですか! な、何なのよ貴女はー!」


「ありがとうお姉さんたち。やったー! 万歳三唱、ばんざーい、ばんざーい、ばんざーい!」

「よーし皆の者、いざ出陣じゃああ! 敵は本能寺にあり!」


 ユウキとアリスの異常なノリにエヴァリーナとフェリシアが恐怖する。しかし、真の恐怖はこれからだった。そのことを4人はまだ知らない…。



「ところで、本能寺ってなんですか?」(アリス)

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