第201話 大陸最強戦士決定戦(前編②)
大陸最強を決める熱き戦いが始まった。勝負は出場者32名のトーナメント方式で、試合時間は10分。相手をダウンさせるか、敗北を認めさせれば勝ち。10分で勝負がつかなければ、5分の延長戦が認められるルールとなっている。日程は2日間、1日目は2回戦まで行われる予定だ。ユウキは選手待機所に張られた対戦表を確認する。
(わたしはAグループ、フランはBグループ。対戦するには決勝まで行かないとだめだね…。私の試合は3番目か、相手は…んん、痴漢者トム? 恐ろしくイヤな予感しかしないよ。ナニコレ?)
「とりあえず武器を準備して、身体を暖めておこう」
ユウキはスピアを両手に持って、軽い屈伸運動を始めた。しかし、屈むとパンツが丸見えになってしまう事に気が付き、上半身のみの運動に切り替えた。
(ヤダもう、動きが制限されちゃう。でも、試合が始まったら気にしてられないし…。エヴァリーナ様、ユウキは恥ずかしいですよぅ、いつかお返ししますからね…)
「エヴァリーナ様、いよいよ次ですよ。ユウキさんの試合!」
「ええ! ソフィー、ティラ、精一杯応援しましょうね!」
司会者とレフェリーが円形の試合場の上に上がり、3試合目のコールを行う。
「第3試合、魅惑の巨乳戦士、エロボディバーサーカーユウキぃいいいー! 対するは世界の女の敵、痴漢者トムぅうううー!」
ユウキと対戦相手が試合場に上がる。訓練を手伝ってくれた帝国兵は手を振り上げてユウキコールを繰り返し叫んでいる。
(くう~、やっぱりこのカッコは恥ずかしすぎる。純情が売りのわたしなのに…。い、いけない、いけない、勝負に集中しなきゃ。相手は…うん、一見ただの中年男ね。強そうには見えないけど、油断はできない。しかし、痴漢者って…、性癖が容易に想像できるね)
審判の合図で両者が試合場の中央で対峙する。ユウキはスピアを構え、痴漢者は嘗め回すような、イヤらしい目つきでユウキを見て、舌なめずりをしている。
「試合開始!」
「たああああっ!」
審判の合図とともに裂帛の気合を込めて、スピアを繰り出したユウキだったが、痴漢者は一瞬でスピアの突きを躱し、ユウキの背後を取るとユウキのおっぱいを鷲掴みにした!
「ふぎゃああああ! いやああああ!」
「ぬうっ! 柔らかさといい、張りといい、最高品質である! 今まで何百という女性の胸を揉んできたが、これほどの乳は初めてだ!」
痴漢者トムの叫びに、会場の漢たちは「うおおおお!」と雄叫びを上げる。一方で、ユウキファンクラブを自称する帝国兵の面々からは「貴様殺す!」「月夜の晩だけと思うな!」との殺意の籠った声が飛ぶ。
「な、何すんのよ! このドスケベ!」
ユウキは痴漢者の脇腹に力いっぱい肘打ちを入れ、ハイヒールで足を踏みつける。痴漢者は「うごお!」と悲鳴を上げてユウキから離れた。
「こ、このぉ~、よくも乙女の柔肌にその汚い手で触ったなあ…。その罪、万死に値するよ!」
「フフフ…、次は貴女の股間を堪能させていただくとしよう。さぞ、いい匂いがするのであろうな…」
「ひいっ! こ、この変態! 女の敵! とりゃあああっ!」
ユウキは両の手をわきわきとさせながら近づいて来る痴漢者トムの脇をすり抜け、背後に回るとスピアを支えにして、棒高跳びのように高く飛び上がり、くるっと回転して、痴漢者の背中に強烈なキックを放った。
背中に強烈な打撃を喰らった痴漢者は「ぐぁらば!」と悲鳴を上げて、うつ伏せに床に叩きつけられる。ユウキは痴漢者を足蹴りで仰向けにすると、再びジャンプして自身の片肘を振り下ろしながら倒れ込み、全体重をかけて相手の胸板に叩きつけた!
「ジャンピング・美少女エルボードロップ!」
痴漢者は怒涛のユウキの肉弾技になすすべなく倒れ、泡を吹いてピクリとも動かない。ユウキは、痴漢者の胸をハイヒールで踏みつけると、右手の人差し指を高々と上げて、勝利の雄叫びを上げる。その姿は正にエロボディバーサーカーの呼び名に恥じないものであった。会場の漢たちやユウキファンクラブも大喜びで声援を送る。なぜなら、ユウキが激しく動く度に大きな胸が躍動し、エロいパンツが丸見えになったのだから。後でこの事を知ったユウキは、激しく身悶えすることになる。
「勝者、エロボディバーサーカーユウキィイイイ!」
「やったー、1回戦突破だあー! みんな、応援ありがとー!」
「やったあ、1回戦突破です! 美しくてエロくて強い。さすが完璧美少女!」
「でも、エヴァリーナ様。ユウキさんスピアを持って行った意味なかったですね。まさかあの恰好で肉弾戦を展開するとは…、常人には真似できないです」
ティラが感心したようにいい、ソフィーが同意とばかりに頷く。
各試合が順調に消化されていく。順当な試合もあれば番狂わせもある。その度に、会場は大いに盛り上がる。
(人気のあるイベントっていうの分かるな。これは中々楽しい。そういえば、学園祭の武術大会、結局出られなかったな…。出てれば、こんな楽しい気持ちになれたんだろうか…)
ユウキが試合場を臨める場所で、昔の事を思い出しながら試合の様子を見ている。そしていよいよ1回戦の最終試合にフランが登場する。
「さあ、1回戦最後の試合は2年連続チャンピオン「疾風フラン」の登場だー! 対するは驚異の肉体美「マッスルマスク」ぅうう!」
身長2mに達しようとするビキニパンツ一丁の筋肉の権化と、小柄なフランでは勝負は見えたも同然。しかし、フランは臆した様子もなく、表情の少ない顔でマッスルマスクを見ている。
審判が手を上げた「試合開始!」
(どんな戦い方をするのだろうか?)ユウキが見つめる中、フランの試合が始まった。
「ムッシュムラムラ!」マッスルマスクが謎の雄叫びを上げ、フランを捕まえようと両腕を突き出してきた。フランは、低く身を屈めると、一気に床を蹴り、一瞬で距離を縮める。
(は、疾い!)
マッスルマスクの直前まで飛び込んだフランは、今度は大きくジャンプしてマッスルマスクの後頭部を蹴り、バランスを崩させると、空中で2本の短剣を抜いて、落下の速度を利用し、マッスルマスクの肩の腱を斬り裂いた。
マッスルマスクは「ムッシュムラムラ~」と叫ぶが、両腕がだらんと下がり、戦闘不能に陥った。それでも最後の抵抗を諦めず、長身を生かした頭突きをお見舞いしようとする。
フランはその攻撃を読み、最小限の動きで頭突き躱すと、再びジャンプして後頭部に強烈なキックを入れ、マッスルマスクの意識を刈り取った。
「勝者、疾風フラン!」
審判がフランの片腕を高く掲げる。会場からは最初に驚きのため息が聞こえ、その後フランの勝利を讃える拍手とフランコールが響き渡る。だが、フランはさも当然とした顔のまま、会場に一礼すると控室の方へ歩いて行った。
(凄い…。技の見切り、スピード、これは強敵だ…)
ユウキは治療薬を飲まされ、傷を負った部分の治療を受けた後、担架で運ばれていくマッスルマスクを見てフランの強さを認識するのであった。
貴賓室ではヴァルターとエヴァリーナがフランの試合を見て異なる思いを抱いている。
「よくやったぞフラン。お前に敵はいない、俺のために戦え、そして優勝するんだ」
「やはり強い。でも、ユウキ様なら…。ユウキ様、お願いします。お兄様の目を覚まさせてあげたいんです。私の願いを叶えて下さい…」