第20話 入学試験
学園試験日初日、優季はララとアルとの待ち合わせ場所に向かった。
「お~い」ララが背伸びして手を振っている。
「おはよ~、ララ、アル」
「おはよう!」「おう!」
3人は並んで学園に向かう。
「今日は筆記試験か。準備はしてきたつもりだけど、ドキドキするな~。ユウキはどう?」
「いや~、歴史が心配です。ほぼ一夜漬け。たはは」
「そうなんだ、私は算術がちょっと苦手かな。でもまあ、がんばろ!ね!」
「うん!」
ララに励まされてちょっと元気が出た優季であった。
学園に到着すると、大勢の受験者が会場に向かっている。優季たちも門に入ると警備兵が声をかけてきたので、優季とララも元気よく返事を返す。
「試験がんばれよ。入学待ってるぜ!」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「アル? どうしたの」
アルが門の方向を見て厳しい顔をしているのにララが気付いて声をかけた。
「どうしたの? アルくん」
優季も気になって声をかける。
「あいつだ」
優季が門の方を見ると、そこには街中でしつこく言い寄っていた男がこちらを見ていた。優季は絡まれた時の事を思い出し、嫌な気分になる。
「チッ、いやな奴を見てしまったな」
「どうしたの?」
ララに、アルが優季と出かけた時のことを話す。
「やだね、関わって来なきゃいいけど…。大丈夫だよユウキ、私たちが守ってあげる」
「うん、ありがとう」
気を取り直して、受験会場に向かう。すると、
「ユウキさん!」と声を上げて、フィーアが小走りで駆け寄ってきた。
「フィーアさん! わあ、会えてよかった!」
「私もです。試験、頑張りましょうね」
「ユウキ、この方は?」とララ。
「この方はフィーアさん。ボクの歴史の、一夜漬けの先生です…。えと、フィーアさん。この2人はララとアルくん。ボクの友達」
「まあ、ユウキさんのお友達ですの? では、私のお友達でもあるということですね。フィーア・オプティムスです。よろしくお願いしますわ」
「わあ、凄くきれいな人だねえ。アル」
「ん、ああ」
3人の女の子は楽しそうに会場に向かう。アルはその後ろをついて行く。
筆記試験会場は中央棟のいくつかの会議室に分かれて行われるようになっていた。優季はララとフィーアと同じ会場だ。受験票と筆記用具を出して準備する。
(しかし、受験番号が893か…。何の冗談よ)などとどうでもいいことを考えていると、問題用紙が配られてきた。最初の試験は文学だ。
「では、試験開始!時間は70分」と試験官が告げる。優季は心を無にして問題を解き始めた。
文学、算術と連続して筆記試験が行われ、昼食をはさんでいよいよ歴史となった。
(きた…。一夜漬けの成果、今ここに!)気合を入れて問題に向き合う。
筆記試験が終わって、ララやアル、フィーアと帰途に就く。
「ユウキ、ユウキ。どうだった試験。私は算術が少し心配だな~」
「私は全教科ばっちりです!」「俺もまあまあだ」とフィーアとアル。
「…歴史が少しどころではなく、とても心配です」と優季は沈んだ顔。
「ま、まあ、試験は2日間の総合評価だから、明日挽回すればいいよ」
(ララ、ありがとう。ホント、君はボクのオアシスだよ)
ララの励ましが心に響く優季であった。
翌日、日の出と同時に目覚めた優季は、心のスイッチを切り替えて、気合を入れた。
(今日は得意の剣術実技。昨日の分も頑張らねば!)
朝食後、歯磨と洗顔をして準備をする。今日は激しく動くことが予想されるため、髪は赤いリボンで結んだポニーテールにし、服は動きやすい長そでシャツにキュロットスカート。そして、腰に剣とマジックポーチを装着して準備は完了した。
受付で「頑張ってきてね。はい、頼まれていたお弁当!」とお姉さんから励ましと弁当を受け取り、ララ達との待ち合わせ場所に向かった。
「ララ~、アル~、おはよ~」
「あっ、ユウキ。おはよう!」
「おっ、ユウキ、気合入っているね~。かっこいいよ」
「ララも魔導士のローブ似合ってるよ」
「ありがとう~。じゃ、行こう!」
昨日と同じように3人で仲良く学園に向かうのであった。
「えと、試験会場はと、ボクはグラウンドだね。剣術と魔術は別の場所みたい」
「おはようございます」
「あ、フィーアさん。おはよう」
「ユウキさんとアルさんは南側みたいですね。ララさんと私は北側が会場のようです」
「そか、よし、アルくん行こう! ララ、フィーアさんも頑張ってね」
剣術試験会場に着くと、既に大勢の受験生が集まっていた。
「女の子は少ないな…」周りを見回した優季がぼそりと呟く。7:3くらいで男の子の方が多い。魔術試験会場の方を見ると、向こうは女の子の方が多いようだ。
「よーし、集まったな!」
優季を始め、受験者全員が声がした方を向くと、プロレスラーのように体格の良い、スキンヘッドのいかつい顔をした男性が立っていた。身長は180cm以上ありそうだ。歳は30代半ばだろうか。
「俺は剣術試験の主任教官を務めるバルバネスだ」
「剣術試験は、10グループに分かれて行う。それぞれのグループは担当する教官と模擬戦を行う。勝ち負けではなく、各人の技術を確認し、評点するからな」
「あと、試験は各自の持つ剣で行う。ケガしないよう、魔術師が防御魔法をかけるから、心置きなくかかってこい! ケガしても治療薬は十分用意しているぞ。安心しろ」
「それでは、グループ分けを発表するぞ!」
優季は主任教官のバルバネスのグループだった。試験が始まり、呼ばれた順番に教官と戦うが、大体が1分も持たずに叩きのめされている。そして優季の順番が来た。
「次、893番! ユウキ・タカシナ!」
「は、はいっ」
優季は深呼吸して心を落ち着かせ、ゆっくりと腰から剣を抜き、両手で構えて、バルバネスの前に立った。
(ほう。基本ができてるじゃねえか)
バルバネスは今までの受験生とは異なる雰囲気を纏う優季をまじまじと見つめる中、優季は剣を振り上げて飛び掛かった。
「たああっ!」
優季は上段に振りかぶった剣を袈裟懸けに振り下ろす。バルバネスは一歩下がって躱すが、優季は振り下ろした剣を素早く横薙ぎにしてバルバネスの胴を狙う。
「おっ!」バルバネスは剣を盾にして横薙ぎを防ぎ、その勢いで優季の首元を狙う。しかし、優季は身を低くしてバルバネスの突きを躱すと、すぐさま下から切り上げ、振り下ろしから小手、胴への連続攻撃を放つ。
「おいおい、すげえぞあの子」
剣戟の音が鳴り響く中、他の受験生も、バルバネスに一歩も引かず、戦っている優季を見てざわめき始めた。
「剣を振るたびに揺れる胸も素晴らしい」
別なところに見とれている者もいた。
剣の打ち合いはほぼ互角に見えたが、やはり体力的に劣る優季は次第に押し込まれ、劣勢になって行く。ついに体勢を崩されて、剣を叩き落されてしまった。
「よし、ここまで!中々楽しめたぞ」
「え、あ、ありがとうございました(あ~あ、もう少しいけると思ったんだけどな…)」
半分ほどの人数が試験を終えた時点で昼食の時間となった。優季はアルを見つけて一緒にお昼を食べようと誘って、ララたちと合流した。
「アルはどうだったの」
「まあまあだな。引き分けだった」
「凄いね~、私は負けちゃった。試験官の先生、ものすごく強くて結局押し切られたよ」
「バルバネス先生? あの方はもとAクラス冒険者だったと聞いていますわよ」
「そうなの!? どうりで強いと思ったよ~」
「ところで、ララとフィーアさんはどうだったの?」
「フィーアでいいですよ」
「じゃあ、ボクのこともユウキで」
「フィーアって凄いんだよ。風系魔導士で、風の防御壁を造ったり、風を高速で飛ばして切り刻んだり。試験官の先生も感心してた」
「私は炎系なんだけど、攻撃や防御魔法は苦手なんだ。だから、魔法石を造って見せた」
「魔法石?」
「うん。魔法石は魔具に使用したり、相手に投げつけて攻撃したりできるんだ。だから、魔法石に込める魔力が大きいほど貴重なの。私は魔具師を目指しているから、こっちの方が得意なの」
「話は変わるけど、ボクの試験中に見学していた受験生たちが「おっぱいが揺れてる~」って叫んでて気が散って困ったよ。まったくも~」
(それはしょうがないだろ)とアルが心の中でツッコミを入れる。
「ふ~ん、いいよねユウキはおっぱいが大きくて。どうせ私はないですよ」
思いがけずララに変なスイッチが入って反応してきた。優季は焦る。
「あ、い、いや、男はどうして胸ばかり気にするのかなって話で…」
「ユウキのおっぱい大きくていいよね、柔らかそうだし。ふん!」
「いや、ララあのね、大きくても困るときあるよ。肩こるし」
「へえ~、ド貧乳の私には困らない悩みですね」
(うわ~、どうしよう)ユウキが困っていると、そこにフィーアの助け船が入った。
「ララさん、貧乳もステータスです! 自慢すべきです! 私はユウキさんほどではありませんが、ララさんより大きいのでうらやましいです!」
(何がうらやましいのよ、フィーアのバカ! さらに事態を深刻にしてるよ~)
「ララ!」
「大丈夫だよララ。ララは成長期だし、これから大きくなるよ。それに、アルは胸の大きさなんか気にしないと思うよ。きっと小さいのが好きだよ」
「アル、ホント?」
(なぜ、ここで俺に振る)
「アルがそういうんなら、まあ、このままでもいいかな。へへ」
(俺はなにも言ってないだろ。そして、成長期なのはお前も同じだユウキ)
優季が精神的に疲れただけの昼休みが終わり、午後の部が始まった。試験は順調に進み、最後にバルバネスから結果に向けての説明があった。
「よーし、試験は終了だ。昨日の結果と今日の結果を総合的に判断して合否を決定する。合格発表は10日後に学園の門前に張り出すから、必ず確認に来るように。合格者は直ぐ入学手続きとなるぞ。皆2日間ご苦労だった」